Posted on 2018/11/29
スポーツ×エンタメ業界誌「Invitation インビテーション 2006年11月号 No.45」に掲載された久石譲インタビューです。
アジアの香りに弾けた
久石譲のミニマリスト宣言
”美しく官能的でポップなアジア”──
そんなテーマが掲げられた作曲家の最新ソロアルバムには、アジアの中の自身を見つめ直す作業だけにとどまらず、彼の原点であるミニマル音楽への熱い思いも込められている。
文=賀来タクト
ピアノをフィーチャーしたアルバムとしては1年9ヵ月ぶりとなる久石譲の最新作『Asian X.T.C.』は、その題名から明らかなように、アジアを題材に選んでいる。10月28日より日本でも公開される韓国映画『トンマッコルへようこそ』をはじめ、最近何かとアジア圏の映画に携わることが多い彼にとっては、確かに無理のない一枚に映る。
「自分の中でアジアをもう一度見つめ直す必要が出てきたんですね。そこで改めて思ったのは、アジア人ってすごくかっこいいということ。女性は肌がきれいだし、男性も大地に根ざしているかのようなエネルギーがある。東洋思想のひとつとっても、善と悪の相反する二面性が共存していて、西洋みたいに悪はダメっていう発想がない。単純に1+1=2では終わらない世界がいっぱいあるんです。映画の仕事でもいい出会いが重なって、全てがいい感じでアジアに向いていったんですね」
時代の風に流されているだけではない。アルバムを紐解けば、そこにはメロディックな映画・CM曲に加えて、若き日々を彷彿とさせるミニマル技法に基づいた楽曲も鮮やかに並ぶ。アジアという主題の狭間に見え隠れする、作家としてのこだわりがまぶしい。
「例えばフィリップ・グラスは東洋思想に刺激を受けて作品を作っていましたが、その対象となったアジアから誰も育たないというのは変でしょ。アジア人のミニマリストが、ちゃんといるべきじゃないか。じゃ、それを誰が担うのかといえば、アジアがベースにあって、そのうえミニマルを原点に持っている僕しかいないだろうと」
原点回帰というよりも、新たな出発のための決意表明といえようか。
「ミニマルをベースにやってきた経験と、ポップスで培ったリズム感、単純に言えばノリ、グルーヴ。それが両方きちんと息づいたところでの、自分にしかできない曲。それを書いていこうと決心がついた最初のアルバムです」
(Invitation インビテーション 2006年11月号 No.45 より)