Blog. 「Hundred ハンドレッド 1987年11月号」久石譲インタビュー内容

Posted on 2022/01/26

音楽雑誌「Hundred ハンドレッド 1987年11月号」に掲載された久石譲インタビューです。その次号から「連載 久石譲の今月の気になるアイツ」(全何回/不明)もスタートしていきます。

 

 

INTERVIEW

「映画音楽で一番気を使うのは、監督のテンポ感。それが僕にとっては生命です」
久石譲

あるときはキーボード・プレーヤー、またあるときは作曲家、編曲家。映画音楽、CM音楽、アーティストのアレンジと八面六臂の仕掛人。やがて、映画『となりのトトロ』で新しい世界を聴かせてくれる人。

 

ー久石さんのお仕事は大変多岐にわたっているわけですが、まず、映像に関係したお仕事についてお聞きしたいと思います。久石さんとラピュタの宮崎駿監督とは今や珠玉のコンビといわれていますが、宮崎さんと仕事をする醍醐味のようなものをお聞かせください。

久石:
実はアニメーションは宮崎さんの作品以外はあまりやっていないんです。というのは、やっぱり宮崎作品は単にアニメーションということでなく、映像として非常に優れていると思うわけなんです。実写ものでもなかなかあそこまでは表現しきれないんじゃないですか。ラピュタはいま香港で大ヒットしてるんですよ。空前のヒットらしいです。あの時の『君をのせて』という歌を中国語と英語で吹き込みたいというオファーが来てるんです。香港といえば「アチョー!」の映画ですけど、それを超えるヒットだそうで、ラピュタなんかはもう国際的な広がりの中で十分やっていける作品だと思うんです。単にアニメだとか映画だとかそういう区別を抜きにして、大変なもんですよね。

宮崎さんとのやり方というのはけっこう特殊で、映像にかかる前に必ずイメージアルバムっていうのをつくるんですよ。音楽の打ち合わせっていうのは、どうしても抽象的になっちゃうでしょ。ここでキレイなメロディーをとかいっても、こちらの考えてるキレイと監督さんの考えるキレイとは違ったりするでしょ。それを極力避けるということで、イメージアルバムがあれば、あのテーマをこの部分のテーマにしたらどう、とか、このシーンにはあのメロディーのアレンジでどうですか、とか、非常に具体的なやり方でつっ込んで話すんですよ。だから、ナウシカにしてもラピュタにしても、とってもレベル高くできたんじゃないかと思うんです。

 

ー映像に関係したお仕事で最も気を使うのはどういうところでしょうか。

久石:
監督のテンポ感です。カット割りとか、画面の演出のテンポ、編集のテンポですね。それが僕にとっては生命です。僕の場合、台本を読んだ段階で60~70%はできていて、あとラッシュを見に行くのは、監督のテンポをつかむため。

『ドン松五郎の大冒険』っていう正月映画なんですけど、その監督が後藤秀司さん。すごくコミュニケーションうまくとてまして、台本を読んでからラッシュ見に行って、ああ後藤監督のテンポってこんな感じだなあ、で、自分なりに曲を書き出す。そうしたら、ほとんどのシーンがピタリピタリと合っていっちゃうんですよ。おもしろいもんですよ。例えばここからどっかに歩いていくだけのシーンだって、監督によって演出が全然変わるでしょ。だけど、その監督の全体を見ていくと、だいたいここではこういうカット割りになるとかって読めてくるんですよ。

それは『漂流教室』の大林監督の時もそうだし『この愛の物語』の舛田監督の時もそうだし『Wの悲劇』『早春物語』の澤井監督の時もそうですね。みんなそれぞれのテンポ感が違うし、それをつかまえるのがコツというか、一番大変なところですね。

 

ー今度の『となりのトトロ』という映画は、どういうイメージなんでしょうか。

久石:
全体に日本の古きよき時代というか、空気が汚れてなくて、山があって川があって、子供たちは目いっぱい遊んでいる、というイメージでしょうね。ただ、時代考証的に何年頃とかいうんじゃなくて、もう宮崎ワールドですから、時代とかいうものには僕はあんまりこだわらないようにしてるんです。トトロの歌のアルバムはすごくいいと思いますよ。ものすごく時間もかけましたしね。本当に素直に大きな声で歌える歌をつくってくれっていう宮崎さんの注文ですから、だからすごく大変でしたよね。まず、そういう歌手がいないんですよ、基本的には。そういう人を捜すことから始めましたからね。でも、これは楽しみにしてください。

 

ー今度はもうひとつ別の仕事、アーティストのためのアレンジャーとしての意見をお聞かせください。

久石:
日本には優秀なアレンジャーって大勢いるんですよ。だから、わざわざそこで僕も頑張ることないなとか思ったりするんだけど、ただ、例えばちょっとマニアックな、ジェネシスっぽい音だとか、ああいったアプローチでアレンジできたらベストだなあ、と思いますね。あるいはホール&オーツのようなすごくスッキリしたアレンジだとか、あんまりゴチャゴチャしないでね、キッチリした仕事だったらやってもいいなと思ってますね。最近はだんだんそういう風にやれるようになってきたんで、それなりの成果が出せてるな、という気がちょっとしてます。ただ、自分でメロディー書いた時の方がいいものができますね。アレンジだけだと、そこで主張しちゃって、やりすぎるから、あまりよくない(笑)。

 

ー15秒の世界は、どうでしょう。

久石:
CMは瞬間瞬間を切りとっていく作業だから、メロディーで勝負ってことではないですよね。論理的に解釈するには時間が短かすぎるんです。映画ってある程度論理的に解釈できるんですね、このテーマはこう使ってとかね。CMは15秒、30秒ですからね。その短い時間に時代の先端の音を切りとって入れていかなければならない。そうすると、非常にサウンド主体にしていかなければいけなくなりますよね。切り売りですよね。

全体が15秒として、音楽を聞かせられるのは頭の7秒ですからね。7秒っていうと1小節か2小節しかないですからね。頭7秒で、エッ何これってふり返らせられるかどうかが勝負だと思ってるんですよ。おもしろいけど、大変ですね。

 

ーフェアライトという楽器について、お聞かせください。

久石:
とにかく民族音楽が死ぬほど好きなんですよ。フェアライトというのは、オーストラリア製のサンプリング・マシンなんですが、前だと民族楽器なんていうのはどこかまで行ってその楽器を手に入れてこないとその音は出せなかったわけですけど、これだとデジタルで記憶させて鍵盤でその音を弾けるわけです。機械合成音っていうのはあんまり好きじゃなくて、サンプリング・マシンというのを駆使していくことによって、新しいアコースティックな世界がつくれんじゃないかと思ってるわけです。音もすべて管理できているし、ニュアンスも出しやすいんですよね。意外と完全主義者でね、曖昧なものが入ってくるのは好きじゃなくて、そういう意味では今のスタイルが自分には一番あってると思ってます。

 

ーこれからの予定を聞かせてください。

久石:
去年から懸案のピアノのソロがありまして、去年の11月にロンドンで4曲録って来てそのままなんですよ。日本で残りを録ろうとしたら、音質が違いすぎてダメなんですよ。環境も違うし楽器の鳴りが違うし、しかたがないんで、11月か12月にまたあっちへ行って残りをやるつもりです。これは、僕がやってきた映画の音楽をできるだけシンプルに一人で弾くというやつなんですよ。もちろんナウシカも入ってるしラピュタも入ってるし『Wの悲劇』『早春物語』それから『漂流教室』まで全部入れて、久石譲メロディー集みたいなね、ものになると思うんですよ。どうしてもアレンジの仕事もしてますと、いろんな音を使って壮大なサウンドをつくるみたいなのが多いでしょ。それで、できるだけ原点に戻りたくて、ピアノ1本で、しかもメロディーをケバケバしく弾きまくらないで、サティのようにシンプルにしてアルバムをつくりたいということなんですね。そのためには、音質がね、飛びぬけて深い音のするところに行かないと。ロンドンのエアー・スタジオっていうところの1スタのピアノが世界で最高だと思うんですよ。どうしてもあそこで録りたいですね。

あと、藤原真理さんとう国際的なチェリストがいますが、この人と実は春先からLPつくってんです。これもすごいゼータクでね、ちょっと録っては2~3ヵ月おいてまた録って、で、ちょっと気に入らないから全部捨ててまた録り直ししてるというね、信じられないことしてんですけど、これはすごいですよ。ナウシカ組曲というチェロとピアノのためだけの作品をつくってる最中なんです。

やり始めるとね、すべて大変になっちゃいますね。

(「Hundred ハンドレッド 1987年11月号」より)

 

 

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