Posted on 2024/08/19
つづけて、アルバムを聴いてみましょう。
Track.
26. 眞人とヒミ
時空を超えた二人の触れ合いにそっと寄り添っている曲です。メロディの断片のような旋律は、ここではきれいに時間は進み流れることのない、ただ漂っているだけの空間、そんな異世界を暗示しているようにも聴こえてきます。ひとときの中で二人が感じる温かいぬくもりもまた伝わってきます。
Scene 01:26:05 / Track 26. 眞人とヒミ
Scene 01:26:25 / Track 26. 眞人とヒミ
Track.
30. 大伯父
33. 大伯父の思い
35. 大崩壊
この世界の天から地までを司るように高音域と低音域を同時に強く鳴り響かせるピアノが印象的です。そのハーモニーは神聖さや荘厳さをもって大伯父の大局観を見事に表現しています。弦楽と管楽の上から下へ連なる二音の連続は、トリルや特殊奏法を駆使しながら鋭く重層的に鳴っています。そこからは、稲妻や亀裂のような現象性から軋轢や歪みといった関係性までもを滲ませ現出させています。曲が進むごとにそのねじれは大きくなっていきます。
Scene 01:38:05 / Track 30. 大伯父
Track.
36. 最後のほほえみ
やさしく果てしなく広がっていく曲です。この曲もメロディの断片のようで、もしかしたら「眞人とヒミ」にアプローチや意図のつながりがあるのかもしれません。海のように大きく包み込むものを感じます。
Scene 01:49:55 / There is no music in this cut.
Scene 01:56:35 / Track 36. 最後のほほえみ
Track.
37. 地球儀 / 米津玄師
映画公開時から多くの活字や動画などで制作過程やエピソードは語られています。そちらにじっくり触れることをおすすめします。Disc.ページに関連リンクはまとめています。
この曲を初めて聴いたとき、言葉への比重が大きい曲だと思いました。曲は素朴でシンプルです。曲想も転調もリズムもアレンジもどこまでも凝ってドラマティックに仕立て上げられることは、これまでに発表された楽曲達から一目瞭然です。この曲はあえてそれをしなかった、削ぎ落としていって残ったものが結晶となって強く光っています。
Aメロは変拍子になっていますが、まるで手紙を読むようにセンテンスの間を感じます。込み上げてくる感情を抑えながらとつとつと読まれる手紙、駆け巡る走馬灯にひと呼吸おきながら一文一句読まれる大切な手紙。だから、リスナーもその行間をくみ取るようにいろいろなことが伝わってきます。静かにすっと心に入ってきます。
バグパイプを使用した理由は、エリザベス女王の国葬からきているとエピソードで語られています。昔からアイルランドによく旅行で訪れていた宮﨑監督にとってもケルティックなものへの馴染みは深いです。他方、『君たちはどう生きるか』で「影響を受けた本」としてクレジットされている「失われたものたちの本/ジョン・コナリー著」アイルランド作家です。とにもかくにも、宮﨑駿監督への生涯のリスペクトの意志が込められているようにバグパイプの音色は響いています。祝福の架け橋のようなピアノ・ブリッジも素敵です。
映画『海獣の子供』(2019)は音楽:久石譲、主題歌:米津玄師「海の幽霊」で共演しています。サウンドトラックと主題歌はそれぞれ独立してリリースされました。本作は、スタジオジブリ作品では恒例といえる主題歌までサウンドトラックに収録されています。
次回は、これからです。
映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説
(1)イントロダクション
(2)方法論
(3)方法論 継
(4)Ask me why
(5)白壁・聖域・祈りのうた
(6)青サギ・黄昏の羽根 ほか
(7)ワラワラ・炎の少女 ほか
(8)追憶・陽動 ほか
(9)眞人とヒミ・大伯父 ほか
(10)ネクストアップ
引用元:
- 久石譲「宮﨑さんが行こうと思っているんだったら僕もそこに行く。こんなの見たことないよねということを、一緒にやると決めたんです」スタジオジブリ『熱風2023年10月号』
- 久石譲「宮﨑さんのすべてがつまった映画」東宝『君たちはどう生きるか ガイドブック』
- 前島秀国 ライナーノーツ 徳間ジャパン『君たちはどう生きるか サウンドトラック』アナログ盤
- スタジオジブリ作品静止画『君たちはどう生きるか』場面写真 STUDIO GHIBLI
そのほかの引用については個々に注釈をつけています
映画『君たちはどう生きるか』
The Boy and the Heron
原作・脚本・監督:宮﨑駿
プロデューサー:鈴木敏夫
制作:スタジオジブリ ⋅ 星野康二 ⋅ 宮崎吾朗 ⋅ 中島清文
音楽:久石譲
主題歌:米津玄師
上映時間:約124分
配給:東宝
公開日:2023.7.14(金)
(関連リンクはこちらにまとめています)