Score. 『久石譲 I am』

1991年3月30日 発行

久石譲監修によるピアノ曲集。編曲は他者によるもの。オリジナルアルバム『I am』のマッチング・ピアノ譜。

 

【補足】

当時は公式スコア[オリジナル・エディション]という位置づけがまだなかった。久石譲監修ではあるが他者の編曲による(当時はそれが主流だった)。ただし、CD作品のマッチングとして同時期に楽譜出版されたもの、また楽譜表紙(装丁)がCDジャケットデザインに準ずるもの、制作協力クレジットされ公式コンサートパンフレットや媒体でも紹介されていたもの、これらを監修・公認(準公式)楽譜として紹介している。

 

 

本楽譜「I am」に掲載収録されている久石譲インタビューや、久石譲自身による楽曲解説をご紹介します。

 

 

「Piano Solo 久石譲/アイ・アム (I am)」 監修:久石譲 ドレミ楽譜出版社

はじめに

今回のアルバム『I AM』は、とてもピアニスティックな仕上がりになっています。

”Piano”──自体にとても入り込んで作品を作り上げました。基本的には、例えば、メロディーをていねいに、綺麗に歌わせていくところや、モード的な音の組み合わせ方でかもしだす微妙なコード進行の変化、そしてその「響き」などを大切にして欲しいところです。

”Piano”から奏でられる「微細な音」を聴いて、微妙なタッチをつねに意識して演奏してみてください。

それから、一番重要なポイントは「Pianoと遊ぶ」ことです。

本当に音楽を楽しむ、趣がある、そういう「自分だけの時間」を持つ為に、そして「自分を再発見する」とか、あるいは「自分に戻りたい時」に作品を弾いてもらえれば、とても嬉しいですし、これほど作家としての幸せはありません。

より多くの方々に僕の作品を聴いていただけて、そして、みなさん御自身が弾いてくだされば、”Hisaishi Melody”はよりいっそう馴染み深いものになっていただけると信じています。両手で演奏するのが難しければメロディーだけを指1本でポンポンとなぞるだけでも作品を味わっていただけると思います。

久石譲

 

 

INTERVIEW

アーティストとしてだけではなく、コンポーザー、アレンジャー、パフォーマー、プロデューサー、映像[映画・CF等]や舞台音楽などの活動を通して、次々と”MUSIC”を創り上げ、世界的にも高い評価を得ている”Mr. Joe Hisaishi”。

そこで、”Mr. Joe Hisaishi”の魅力を解明するために、小さい頃のこと、学生時代、そして、今回の力のこもったアルバムのことなど、熱く語っていただきました。

 

Q.最初に音楽と出逢った頃のお話から教えていただけますか?

久石:
そうですね、ヴァイオリンを習い始めたのが最初で、4歳の時でした。レッスンは、クラシック・オンリーでしたが、それと別にラジオから流れるあらゆるジャンル、例えば、童謡、歌謡曲、ポップスなどいろいろと聴くことが好きでしたね。

 

Q.音楽とは別に、小さい頃に興味を持っていたものはなんですか?

久石:
映画がとても好きでしたね。父が好きで、小さい頃よく映画館に連れていってもらいましたよ。多少、大きくなってからは一人で見に行くようになりました。僕が住んでいた街には、映画館が2館あって、当時、上映作品が週変わりで3本立てだったんです。両方の映画館に行って週に6本、そうすると1ヵ月に合計24本。夏休みや特別上映期間になると、上映作品が増えて、平均して1ヵ月に30本近い作品を見て、そして年間を通しては360本ぐらい。このペースで幼稚園から小学校の時期に見てましたね。

 

Q.年間に360本の上映作品を見ると映画からの影響が強かったのではないですか?

久石:
これだけ見てくると1本1本の作品からの影響や印象は逆に薄くて、今、普通の人達が「テレビを見る」という感覚と同じで、ずっと映画館にいた、という感じですよね。映画館に座って見て……、小さい頃の「基礎体験」のような形で自分の中に残っています。だから「映画」という特別なものに対して、影響や印象が残るのではなくて、本当に日常生活の中でそれがなければならないもの、という感じで自分に染み付いてしまいました。それと当時、テレビの普及が過渡期にあった頃で、テレビが貴重だった時代でしょ、こんな話をすると古いと言われるけど(笑)。テレビが普及していても画面は小さいし、音も悪かった…。その点やっぱり一番良い音をしていたのは映画館だったんですよね。そういう意味では、当時、大きな画面で、しかも一番良い状態で「(映画)音楽」を含めて、見て、聴いていたということになりますね。

 

Q.「映画」や「音楽」から影響され、そこから「感受性の引き出し」が蓄積されていったわけですよね?

久石:
そういうこともあります。あるハズなんだけど、基本的に「引き出し」になるものは「技術」なんですよ。で、この当時はそんなこと考えていないから、むしろ、引き出しになるか? ならないかということよりは、「映画」を通して様々な人生を見せてもらったわけですよね。お話したように年間360本近い本数を見るっていうことは、作品を選んでないんですよ。例えば、アニメーション、西部劇、恋愛物語、怪談映画…とにかくなんでも見ました。つまりありとあらゆるものに対して、僕は素直に受け入れていたわけです。それは、もしかしたら、今の自分が「音楽のジャンルをこだわらない」っていうことに近いことなのかもしれませんね。

 

Q.当時、平行してどんな「音楽」に興味を持っていましたか?

久石:
中学に入学した頃は、ブラス・バンドに入部しました。最初はトランペット。入部したその日に音が出て、翌日からサード・トランペットを吹きました。半年たって、トップを吹いて、ソロをやったり…。翌年の2年生には、サキソフォンをやって、同時に指揮もしました。でも3年生になったらやめちゃったんですけどね(笑)。そういう状態だったら、むしろ、音楽的にはクラシックよりは、中学時代に出逢った「ビートルズ」の影響が強かったですね。高校時代には、ビートルズの他にもポップスやジャズをよく聴いていましたし、当時は聴く側から、ブラス・バンドのような「音の出せる側」の現場に、つまり自分で演奏することが、楽しかったことですね。

 

Q.数々の映画や音楽との出会いを経て、大学時代にはどのようなものに興味を持ち始めていましたか?

久石:
大学(国立音楽大学作曲科)の3年になる頃に出逢ったテリー・ライリーの『ア・レインボウ・イン・カーブド・ミュージック』にショックを受けましたね。それまでの「現代音楽」の語法とは違うなにかがあって、衝撃的でした。

 

Q.その頃は、「現代音楽」の語法に基づき作曲をしていたわけですか?

久石:
大学当時、「クラスター」や「12音技法」等のいわゆる現代音楽の語法の中で、いろいろと自分も考えに考え、悩みに悩んだあげく「ミニマル・ミュージック」のスタイルを取り入れながら作品を仕上げていましたね。このスタイルを自分なりに咀嚼し、把握して表現するのに2年間かかりました。

 

Q.大学卒業以後、プロとして活動を始めた頃のお話を教えていただけますか?

今にして思えば、大学時代に幸か不幸か、ロック関係の友達がいなかったんですね。もし、ドラマーやベーシストの友人がいたらおそらくガラッと変わった人生になっていたと思います。当然のごとくすぐに”バンド”を結成するだろうし……。今日まで「バンド経験ゼロ」っていう珍しい人ですからね(笑)。普通だったらバンドをやったり、セッションをしながら次第にスタジオ業界の仕事をこなして行くというパターンですよね。僕の場合、最初からスタジオ・ワークでしたね。学生時代の関係じゃなくて、友人関係や、音楽関係、特に現代音楽の関係が多くて、スコアを書く仕事や映像関係の仕事が先でした。

 

Q.プロとしての初期活動はアレンジや作曲が先だったわけですか?

久石:
そうですね。それと映像に関する仕事が一番最初でしたね。映像に関するアレンジが特別なわけじゃないけど……。だけど、今でも思うけどバンドを結成するような友人達に出逢っていたら人生はまったく違ったものになっていたような気がするね。そうすると「風の谷のナウシカ」の音楽等は生まれていなかったかな……。

 

Q.今回のアルバムに収録されている「Venus」や「Echoes」に聴かれる民族音楽との出逢いはいつ頃でしょうか?

久石:
民族音楽はもともと最初から好きだったんですね。エスニックな音楽が大好きで、そこから得る要素は自分の体験外のものなので……。と同時に、僕がやってきた「ミニマル・ミュージック」の音楽的な構造が民族音楽と近い要素を持っていますからね。ミニマル・ミュージックを始めた頃、アフリカ民族音楽のリズム構造を研究したり、中近東のインド音楽に聴ける16拍子の曲や複雑なリズム構成とか、同時にその音楽の時間の流れなど、特殊な時間の流れですよね。そうやって研究していくうちに民族音楽の魅力に魅せられて、気づいてみたらクラシックの勉強と同じかそれ以上ぐらい、自分の中にエスニック的な要素が色濃く染み付いていましたね。

民族音楽的な要素をシンセサイザーで表現する場合、比較的そのニュアンスは出しやすいんだけど、今回のような”ピアノ”と”ストリングス”という「西洋音楽の王者」みたいな楽器編成で演奏する場合、難しいことなんですね。当初は、エスニック的な要素を取り入れられなくて悩んでいたんです。悩んでいたというよりは、取り入れられないだろうなって思ってましたから……。作品を仕上げていく段階で、結果的に「Venus」や「Echoes」の中に、本来の自分らしさを出せたので、とても嬉しいですね。

 

Q.今回のアルバムのコンセプトを教えてください。

久石:
基本的には、現在の商業ベースで作られている音楽の典型的なことはいっさいやめようと……。例えば、誰が聴いてもみんな同じように聴こえるようなものは意味がないしね。全曲に共通していえることなんですけど、基本ラインとして”ピアノだけで表現する(音楽性を保たせる)”ことがポイントなんですね。そして、そこに弦楽のアレンジを入れると。つまり、弦楽を入れて曲を保たせるのではなく、あくまでも”ピアノ”がメインということですね。それに、ぜいたくに弦楽の音色を必要最小限に加えるというコンセプトです。

アルバムをピアノと弦楽だけで作り上げることは非常に難しいことです。なぜ難しいかというと、その編成に耐えうるだけの強力なメロディーを生み出せなければならないし……。そういう意味でいえば、自分には”Hisaishi Melody”とみなさんがおっしゃってくれてるものもあるし、チャレンジできるのではないかなって……。

作品を作り上げていく段階で、一歩間違えるとそれが単にイージ・リスニングになってしまう可能性があるし、イージ・リスニングにしない為には、自分を含めて共演者の持っている確固たるアーティスト性やパーソナリティーがなくてはいけないわけですよ。つまりとても危ういところで作りあげていて、山岳の崖っぷちを歩いているようなものですね。例えば、一歩間違ったらリチャード・クレイダーマンになってしまうし、その反対に踏み外してしまえば、非常に難解なものにもなってしまう。また、要素を剃り落としている分だけ、飽きてしまう可能性も出てきます。

そんな中で、生み出すメロディーを信じて、そして、余計なものをどこまで剃り落とすか? という作業をしながら、例えば、「エスニック的なものが好き」という自分の志向する要素を含めたところでの、削り採る作業といっていいのかな? 音楽的な無駄を排除し、必要最小限の音で作り上げる……これが今回のアルバムで一番重要なことでしたね。

 

Q.完成されたアルバムを客観的に聴きかえしてみてどのような感想をお持ちになりましたか?

久石:
そうですね。初めて完成されたソロ・アルバムを作ったなって印象を持ちましたね。レコーディング中に、何百回、何千回って聴いていますから、トラック・ダウンが終了した頃には、あまり聴きたくないんですよね。でも今回のアルバムに関しては、その後、何度も繰り返して聴いても飽きないんです。それは、「完成されているアルバム」で、僕が創造したという意識を超えて、聴いていられる。

なんていったらいいのかな、不思議なもんでね、アルバムの完成度が高ければ高いほど、その作った作家から作品は離れて行くんですよ。とても客観的な作品になってしまう。そういう意味でいうと、自分の作品であっても、もう僕の作品じゃないっていうような、自分でいうのも変だけど、すぐれた作品に仕上がったと思いますね。

作品を完成させる段階で、ものすごく苦しんだり、悩んだりしました。微妙なコード進行の変化や、1音を付け加えるか、加えないかによって、その曲の雰囲気が変わってしまう……そういう微妙なところで物凄く苦しんだわけです。端の人はどんなことで、どうして苦しんでいる理由が分からないような細かいことで悩んでいたわけでしょ、ところが、苦しんで苦しんだほど、そうやって生まれ出てきた作品にはその苦しんだあとかたもないんですよ。そうして完成した作品は素晴らしいわけです。つまり、作家が苦しんだ形跡が見えるような作品にはろくなものがない。苦しんだ形跡が分かる作品は、カッコが悪いわけで、そして完成度が低い。

完成した作品は、「おお、ここでこんなことをやってる、凄いことやってるな」、「何だこのコード進行は? 何だこのモードは?」ってなプロ志向的な聴き方もできるし、反対に音楽に詳しい方でなくとも、さり気なくBGMとして流したり、「まあ綺麗なメロディーね、楽しい!」というような音楽本来の楽しむ為の聴き方もできるんですね。そんな僕が考える音楽の理想的なことがこのアルバムでできたなって気がしますね。

 

Q.作家の手から離れて行った作品がスタンダードになっていくわけですね? そして聴き続けられると同時に、弾き続けられていくと……?

久石:
できたらね、そういうスタンダードになって欲しいという願いを込めて作ったアルバムですね。例えば、前作『Piano Stories』は、日々アルバムがみなさんの手元に送り出されているわけで、そして、その楽譜もみなさんの手元に届いて、僕の曲を復習(さら)っていてくれると、そうするとその曲は定着しますよね。そのことは、作家にとってとても幸せなことですよ。

今回のアルバムの一つ一つの作品を完成するにあたっても、例えば、とんがり過ぎちゃえば1回聴いて(弾いて)、「おもしろかったな」で終わっちゃう。そういうことのないように、何度も聴いて(弾いて)楽しめる、そう意図して作り上げました。そういう意味では、現代のスタンダードを目指したといってもいいかも知れませんね。

 

Q.それでは、最後に来年(1991年)の活動予定や今後、チャレンジして行きたいものを教えてください。

久石:
来年(1991年)は、いろいろと大変ですよ(笑)。その予定の為のパンフレットを作っているくらいですからね。まず、本アルバム『I AM』がリリースされます。そして『I AM』の楽譜集とパーソナル・ブックを出版します。そして、現在まで各方面からの要望が高かったフル・オーケストラとの共演が実現します。来年(1991年)の2月22日、アルバム・リリースと同時に、東京の池袋にある東京芸術劇場で行います。編曲した楽譜を準備するのも大変ですが、とても充実したコンサートになりますよ。それと、全国各地を弦楽カルテットとパーカッション程度の小編成でコンサート・ツアーを予定しています。

プロデューサーとしては、「サウンド・シアター・ライブラリー」という新しいレーベルをスタートさせます。NECアベニューにある、僕の”IXIA Label”の中に「サウンド・シアター・ライブラリー」というシリーズを作りまして、今日の日本の映画音楽が落ち欠けているものを復興させようという新しいレーベルです。プロデューサーとしてももちろん、一作家としても力をそそいでいきたいと思っています。当初は僕の作品をリリースしていきますが、他のアーティストの作品をもプロデュースしていく予定です。

それと”監督”をやるかもしれません。「環境ビデオ」の監督をやってみたいんですよ。来年中には実現させたいですね。

現在まで、わりと「音楽」というフィールドをメインにして活動してきましたが、少しずつそのフィールドを広げていきたいと思っています。自分が今までいろいろと関わってきた仕事を含めて、多種多様な形態で間口を広げ、より多角的に活動を展開しようと計画しています。

(「Piano Solo 久石譲/アイ・アム (I am)」楽譜 インタビュー より)

 

 

楽曲曲想
演奏解釈のための楽曲イメージ Commentary by 久石譲

Deer’s Wind
本楽曲は来年(1991年)のゴールデン・ウィークに東宝系全国一斉公開される映画『仔鹿物語』のメイン・テーマです。少年と仔鹿との「心の交流」をモチーフにした映画で、楽曲のテーマは、自然の中で繰り広げられる少年と仔鹿との「心の交流」を現す「優しさ」と、それを包む「大自然」を歌ったものです。優しさと同時に、大作映画の「おおらかさ」と「大自然」のスケール感を意識して仕上げてみました。

On The Sunny Shore
この曲は、前作『Piano Stories』に収録されている「Lady of Spring」とサウンド的にも、コード的にも同じ系列に入る曲です。曲のコンセプトとしては、隙間があって、その合間を縫うような淡々としたメロディーが奏でられる……。そして、モードを駆使したような響きと、その中に大人の優しさが出てくれば、と思って書き上げてみました。特に、弦楽のアレンジに関していえば”超スペシャル・アレンジ”で、トレモロや様々な要素を多様し、凝縮しています。アレンジの雰囲気は”空気感”。空気に漂っている”浮遊感”をものすごく意識してみました。今後アレンジャーを目指す方は、是非ともこのアレンジを研究してみてください。また、原曲では「ハーモニカ」が特徴的なフレーズを演奏していますので、メロディー・ラインを他の楽器で奏でてみるのもよいでしょう。いろいろな編成で演奏してみてください。

Venus
この楽曲は、8年ぐらい前に実は作った曲で、3~4回レコーディングをしています。どうも自分の中では形態がなかなか定まらなかったのですが、今回のアルバムでは”エスニック的”な要素を玩味した形態で成り立ち、やっと居場所を見つけ、完成しました。左手のオスティナートを続けながら、右手にロマンティックな割りには、とても器楽的なフレーズが続く不思議な曲です。本来の自分らしさの一部である”エスニック志向”がムクムクと出てきた1曲です。

Dream
本楽曲は、心の奥深い所での響きというか、その包みこむような優しさや味わい深さが出せればと思って書き上げました。Intro.やサビで使っている「Em」のメロディーのところを特に”ジャジー”なイメージにして、大人のけだるさというか、そのような感じを出してみたかったところです。原曲の弦楽のアレンジがかなり凝っていて、後半のピアノと弦楽が非常にダイナミックに絡むところは是非聴いて欲しいところですね。

Modern Strings
この曲は今回のアルバムに収録している曲の中で、もっとも”アヴァンギャルド”的な要素を多様した作品です。「単に驚かす為に」……というアヴァンギャルド的なものはカッコ悪いわけで、むしろ楽曲を聴いていくうちに「エッ?」と思う、本当の意味で深い味わいがあるアヴァンギャルドを打ち出した楽曲です。原曲の弦楽アレンジを具体的に言いますと、冒頭から弦楽が頭打してない点が特徴です。全部が裏拍になっていて、よく聴いていないと分からないかもしれませんね。そして、その「裏拍」がいったん分かると、この楽曲の変な魔力にひかれてしまいます。その魔力といい、スピード感といい、とてもたまらない曲になるんじゃないかと……。原曲の後半でピアノと弦楽が絡むところがとてもスリリングな響きになっています。楽曲のイメージやメロディーの雰囲気が「フランス映画」の感じで、その工夫として、レコーディングの時に、ピアノのタッチや音色を「鼻にかかる音色(鼻音的な音質)」に変えてみました。原曲でサックスを吹いているミュージシャンは”Mr.Steve Gregory”で、彼は「ワム!のケアレス・ウィスパー」で、あの印象的なサックスを吹いている方なのです。「泣ける、大人の味わい」をとても気持ちのいいサックスで演奏してくれていますので、じっくりと聴いてみてください。

Tasmania Story
本楽曲は今年(1990年)の夏に東宝系全国一斉公開された映画『タスマニア物語』のメイン・テーマです。サントラ盤では、ピアノとオーケストラでしたが、本ヴァージョンは、ピアノとストリングスをメインにして、スケールの大きなフレーズの中から、そのしっとりした優しさを引き出してみました。レコーディングでのストリングス・セクションは、ロンドンの精鋭達が一同に会して、そのストリングスは、演奏の随所で歌ってくれて、狙い通り以上の演奏が展開できて非常に満足した仕上がりになっています。また、ピアノ自体のアレンジもサントラ盤とは違うヴァージョンです。

伝言
この曲は数年前にオンエアされたTVドラマのメイン・テーマです。当時の僕、というか”Hisaishi Melody”とみなさんに言われていた、典型的なスタイルの楽曲で、伴奏形式やメロディーにそれが現れています。今回のレコーディングでは、ピアノをメインにし、ストリングス・アレンジを最小限におさえて仕上げてみました。また、原曲のハーモニカもじっくりと聴いてみてください。

Echoes
本楽曲は、僕自身は、今回のアルバムのメイン曲だと思っています。オリエント・ミュージック(僕が付けた呼称です)を現した「アジアの夜明け」、「アジアのこだま」というような意味で作り上げた曲で、とても大切にしている曲でもあります。原曲には民族楽器のタブラーと胡弓が入っています。ピアノの特徴としては、ベーゼンドルファーのピアノでしか出せない超低音を出しており、その深い響きの中で、胡弓がメロディーを奏でる箇所はとても印象的で、僕自身とても気に入っています。原曲で胡弓が奏でるメロディーが終わった後に出てくる、ストリングスの不思議なコード進行も味わってみてください。微妙に変化していくコードの響きが特徴です。

Silencio de Parc Güell
ピアノ・ソロ作品として、あたかもシューベルトの「楽興の時」を思わせるような、さりげない優しい小品をイメージして仕上げてみました。曲のタイトルの「パルク・グエル」は、スペインのバルセロナにある”グエル公園”からです。スペインの鬼才、建築家”アントニオ・ガウディ”が作った印象的な公園で、その「静けさ」にとても感動して、曲名を付けました。

White Island
本楽曲は、テレビ朝日開局30周年記念特別番組の、メイン・テーマ曲です。「南極」をテーマにしたスペシャル・ドキュメンタリーで、この特別番組の為に作曲したものなのですが、放映時からとてもみなさんにご好評いただいた曲だったので、今回のアルバムに収録することになりました。メロディーが持っている親しみやすさ、優しさと同時に、スケール感あふれる形態を兼ね備えている楽曲なので、本アルバムの最後を飾るのがふさわしいのではないかと……。じっくりと聴いてみてください。

(楽曲曲想 ~「Piano Solo 久石譲/I AM」楽譜より)

 

 

久石譲 I am 楽譜

Piano Solo
久石譲/I am

from Album 『I AM』
Deer’s Wind (映画「仔鹿物語」より)
On The Sunny Shore
Venus
Dream
Modern Strings
Tasmania Story (映画「タスマニア物語り」より)
伝言 (東芝日曜劇場「伝言」より)
Echoes
Silencio de Parc Güell
White Island (TV「南極大陸1万3000キロ」より)

 

監修:久石譲
協力:株式会社ワンダーシティ/東芝EMI株式会社/株式会社アサヒ・エディグラフィ
編曲・採譜・解説:青山しおり
定価:1,300円+税
発行:株式会社ドレミ楽譜出版社

 

Disc. 久石譲 『仔鹿物語 サウンド・シアター・ライブラリー』

久石譲 仔鹿物語

1991年3月21日 CD発売 NACL-1022

 

1991年公開 映画「仔鹿物語」
監督:澤田幸弘 音楽:久石譲 出演:三浦友和 他

 

 

今度、NECアベニューから、今まであったレーベルの中に新シリーズ”サウンド・シアター・ライブラリー”を設けて、積極的に映画音楽のCDを出していこうと思っています。基本的に大きな柱が二つあって、一つは日本の良質な映画音楽を出していこうというもので、もう一つは、映画からイメージを受けた耳で聴くサウンドトラックみたいな形で、映像を抜いた新しいサウンド・シアターというか、そういう新しい試みが出来ればいいな、と考えているんです。もっと言えば、実際にサウンドトラックで作った曲ではなく、新たに歌で作り直したりという、そういったことも当然起こってくるでしょう。もちろんベーシックには映画というものを置いてありますけど、映像との関わり合いというか、そういった関係の中で起こり得る、これからのオーディオ・ヴィジュアル時代にあるべきいろんな試みが出来ればいいと思っています。

”サウンド・シアター・ライブラリー”の大きな特徴は、CDに脚本が全部ついてくることです。それによって自分達が映画に対して音との関係とか、映像があるために納得してしまうようなことを、見ないために、脚本を読んで音を聴いてイメージを喚起できることもあるし、その方がよほどイマジネーション豊かなわけ。とりあえず3月21日に「仔鹿物語」を出し、同時に大林宣彦監督自身が歌っている「ふたり」のシングルを、4月にそのサウンドトラックを出す予定です。このシリーズで大事なことは、単発で出してもあまり見向いてもらいないことを、こういったシリーズにして形にすることによって注目してもらうことであり、映画音楽にスポットを当てるという意味では非常に効果的なんです。今回脚本の中に音楽が入る箇所は示さなかったんですが、何かの作品ではやると思います。ただ、専門家用の企画になると困るので、もっと一般の人に楽しめるように、あまり細かい視点までは入れないつもりです。やはりこれ自体、エンターテインメントでありたいものですよね。

Blog. 「キネマ旬報 1991年4月下旬号 No.1056」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

かつて僕は多くの映画から沢山のことを学んだ。人が生きることで出会う様々な喜び、悲しみ、愛と憎しみ、映画は実生活では体験しえない程の人生を見せてくれた。そしてほんのすこし賢くなって僕は人に対してちょっぴり優しくなれた。

小さいころ僕の生まれた町では二つの映画館があり週変わりで3本づつ、月に24本以上の映画が上演され、僕はそのすべてを見た。アクション物から恋愛もの、西部劇から怪談物まで映画館の真暗闇のなかで息を殺してワクワクしながら見守っていた。そして映画館を出てきたとき、その映画の主人公になったつもりでさっそうと歩きながら、口をついて出てきたのが映画音楽だった。それは今でも変わっていない。

”タラのテーマ”(風と共に去りぬ)”ツナイト”(ウエストサイド物語)”アズ・タイム・ゴーズ・バイ”(カサブランカ)”ムーンリバー”(ティファニーで朝食を)今でもこのメロディーが流れて来たら映画のシーンが浮かんできてジーンとしてしまう。

そして今、音楽の道に進んで、それが映画と関わり合うなんて何てすてきなことだろう。僕は映画音楽が大好きだ。

しかし今映画音楽の現状は、日本の映画の現状と同じくらい悲惨だと思う。優れた監督もいれば優れたアクターもいる。また映画を作るための資金もある。なのに何故日本ではこうも閉鎖的で非創造的な環境になってしまったのか? ジリ貧の音楽予算と苛酷なスケジュール、そして劇伴と呼ばれるようなイージーな作曲家側の姿勢。言いだしたらきりがない。

だが、僕たちは現状を嘆いたり批判するだけで良いのだろうか? それでは何も変わらない。まず自分でやれることからやっていくべきなのだ。かつて映画館で見た夢を取り戻すためにも。

(サウンド・シアター・ライブラリー パンフレットより)

 

 

久石譲 仔鹿物語

釧路湿原・秋
1. 釧路湿原
2. 別海への道
3. 牧場のある風景
4. 夕映えの湖
出逢い
5. 恋するふたり
6. 流氷とエゾ鹿
7. 墓標
8. 花子との別れ
9. 出逢い(メインテーマ)
駅(ステーション)
10. 塘路駅にて
11. 初乳
12. 仔鹿のソネット
家族の肖像
13. 家族の肖像
恋人たちの渚
14. 恋人たちの渚
走れラッキー
15. 突然の出来事
16. 約束
17. 走れラッキー
父の背中
18. 父の背中
暗闇の中で
19. 行者葫
20. 日暮の雑木林
21. 暗闇の中で
エンジェル・ハート
22. 家族の絆
23. 誓い
ラッキーを救え
24. 愛のリレーPart 1
25. 愛のリレーPart 2
26. 愛のリレーPart 3
27. 愛のリレーPart 4
仔鹿と子供たち
28. 仔鹿と子供たち (メインテーマ)
老人と子供
29. 老人と子供
さよならの予感
30. 風立ちぬ
31. 野生のめざめ
32. さよなら列車
33. さよならの向こう側
希望へのUターン
34. 希望へのUターン
仔鹿物語〜メインテーマ〜
35. 仔鹿物語 〜メインテーマ〜

Produced by Joe Hisaishi

All Composed & Arranged by Joe Hisaishi

 

Disc. 大林宣彦 & FRIENDS 『草の想い』

1991年3月21日 CDS発売 NADL-1017

 

映画『ふたり』(監督:大林宣彦 音楽:久石譲)の主題歌。同作品サウンドトラックにも収録されている。大林宣彦監督と久石譲のデュエットという幻の楽曲。事の経緯としては大林監督の奥さんの発案である。

その後、この楽曲は久石譲オリジナル・インストゥルメンタル楽曲「Two of Us」としてさまざまなかたちで発展していくことになる。

 

 

草の想い 大林宣彦

1. 草の想い 作詞:大林宣彦 作曲・編曲:久石譲
2. 風の時間 「ふたり」オープニング曲
3. 草の想い (オリジナル・カラオケ)

 

Disc. 久石譲 『アニメージュ・ベスト・シンフォニー』

アニメージュ・ベスト・シンフォニー

1991年2月25日 CD発売 TKCA-30263
1991年2月25日 CT発売 TKTA-20119

 

スタジオジブリ作品 「風の谷のナウシカ」から「魔女の宅急便」まで
監督:宮崎駿 音楽:久石譲

すべてオーケストラアレンジのシンフォニー・ベスト・アルバム

 

 

アニメージュ・ベスト・シンフォニー

1. 海の見える街 (魔女の宅急便 サントラより)
2. プロローグ~出会い (天空の城ラピュタ シンフォニー編より)
3. 五月の村 (となりのトトロ サントラより)
4. ウルスラの小屋ヘ (魔女の宅急便 サントラより)
5. 大いなる伝説 (天空の城ラピュタ シンフォニー編より)
6. Gran’ma Dola (天空の城ラピュタ シンフォニー編より)
7. パン屋の手伝い (魔女の宅急便 サントラより)
8. おじいさんのデッキブラシ (魔女の宅急便 サントラより)
9. 風の伝説 (風の谷のナウシカ シンフォニー編より)
10. ねこバス (となりのトトロ サントラより)
11. 傷心のキキ (魔女の宅急便 サントラより)
12. よかったね (となりのトトロ サントラより)
13. 時間(とき)の城 (天空の城ラピュタ シンフォニー編より)
14. となりのトトロ (となりのトトロ サウンドブックより)
15. メイがいない (となりのトトロ サントラより)
16. はるかな地へ… (風の谷のナウシカ シンフォニー編より)
17. デッキブラシでランデブー (魔女の宅急便 サントラよりより)
18. 谷への道 (風の谷のナウシカ シンフォニー編より)

音楽/久石譲

 

Disc. 久石譲 『I am』

久石譲 『i am』

1991年2月22日 CD発売 TOCP-6610
2003年7月30日 CD発売 TOCT-25121

 

クラシックやイージー・リスニングではなく、ニュー・エイジミュージックでもない。
ポップだけれど、アヴァンギャルド…
屈指のメロディー・メーカー、久石譲のピアノ・ワールド。
ロンドン・ストリングスとの華麗でスリリングなセッションを経て、
どんなジャンルにも属さない久石譲の世界が完成。

 

 

INTERVIEW

Q.今回のアルバムに収録されている「Venus」や「Echoes」に聴かれる民族音楽との出逢いはいつ頃でしょうか?

久石:
民族音楽はもともと最初から好きだったんですね。エスニックな音楽が大好きで、そこから得る要素は自分の体験外のものなので……。と同時に、僕がやってきた「ミニマル・ミュージック」の音楽的な構造が民族音楽と近い要素を持っていますからね。ミニマル・ミュージックを始めた頃、アフリカ民族音楽のリズム構造を研究したり、中近東のインド音楽に聴ける16拍子の曲や複雑なリズム構成とか、同時にその音楽の時間の流れなど、特殊な時間の流れですよね。そうやって研究していくうちに民族音楽の魅力に魅せられて、気づいてみたらクラシックの勉強と同じかそれ以上ぐらい、自分の中にエスニック的な要素が色濃く染み付いていましたね。

民族音楽的な要素をシンセサイザーで表現する場合、比較的そのニュアンスは出しやすいんだけど、今回のような”ピアノ”と”ストリングス”という「西洋音楽の王者」みたいな楽器編成で演奏する場合、難しいことなんですね。当初は、エスニック的な要素を取り入れられなくて悩んでいたんです。悩んでいたというよりは、取り入れられないだろうなって思ってましたから……。作品を仕上げていく段階で、結果的に「Venus」や「Echoes」の中に、本来の自分らしさを出せたので、とても嬉しいですね。

 

Q.今回のアルバムのコンセプトを教えてください。

久石:
基本的には、現在の商業ベースで作られている音楽の典型的なことはいっさいやめようと……。例えば、誰が聴いてもみんな同じように聴こえるようなものは意味がないしね。全曲に共通していえることなんですけど、基本ラインとして”ピアノだけで表現する(音楽性を保たせる)”ことがポイントなんですね。そして、そこに弦楽のアレンジを入れると。つまり、弦楽を入れて曲を保たせるのではなく、あくまでも”ピアノ”がメインということですね。それに、ぜいたくに弦楽の音色を必要最小限に加えるというコンセプトです。

アルバムをピアノと弦楽だけで作り上げることは非常に難しいことです。なぜ難しいかというと、その編成に耐えうるだけの強力なメロディーを生み出せなければならないし……。そういう意味でいえば、自分には”Hisaishi Melody”とみなさんがおっしゃってくれてるものもあるし、チャレンジできるのではないかなって……。

作品を作り上げていく段階で、一歩間違えるとそれが単にイージ・リスニングになってしまう可能性があるし、イージ・リスニングにしない為には、自分を含めて共演者の持っている確固たるアーティスト性やパーソナリティーがなくてはいけないわけですよ。つまりとても危ういところで作りあげていて、山岳の崖っぷちを歩いているようなものですね。例えば、一歩間違ったらリチャード・クレイダーマンになってしまうし、その反対に踏み外してしまえば、非常に難解なものにもなってしまう。また、要素を剃り落としている分だけ、飽きてしまう可能性も出てきます。

そんな中で、生み出すメロディーを信じて、そして、余計なものをどこまで剃り落とすか? という作業をしながら、例えば、「エスニック的なものが好き」という自分の志向する要素を含めたところでの、削り採る作業とっていいのかな? 音楽的な無駄を排除し、必要最小限の音で作り上げる……これが今回のアルバムで一番重要なことでしたね。

 

Q.完成されたアルバムを客観的に聴きかえしてみてどのような感想をお持ちになりましたか?

久石:
そうですね。初めて完成されたソロ・アルバムを作ったなって印象を持ちましたね。レコーディング中に、何百回、何千回って聴いていますから、トラック・ダウンが終了した頃には、あまり聴きたくないんですよね。でも今回のアルバムに関しては、その後、何度も繰り返して聴いても飽きないんです。それは、「完成されているアルバム」で、僕が創造したという意識を超えて、聴いていられる。

なんていったらいいのかな、不思議なもんでね、アルバムの完成度が高ければ高いほど、その作った作家から作品は離れて行くんですよ。とても客観的な作品になってしまう。そういう意味でいうと、自分の作品であっても、もう僕の作品じゃないっていうような、自分でいうのも変だけど、すぐれた作品に仕上がったと思いますね。

作品を完成させる段階で、ものすごく苦しんだり、悩んだりしました。微妙なコード進行の変化や、1音を付け加えるか、加えないかによって、その曲の雰囲気が変わってしまう……そういう微妙なところで物凄く苦しんだわけです。端の人はどんなことで、どうして苦しんでいる理由が分からないような細かいことで悩んでいたわけでしょ、ところが、苦しんで苦しんだほど、そうやって生まれ出てきた作品にはその苦しんだあとかたもないんですよ。そうして完成した作品は素晴らしいわけです。つまり、作家が苦しんだ形跡が見えるような作品にはろくなものがない。苦しんだ形跡が分かる作品は、カッコが悪いわけで、そして完成度が低い。

完成した作品は、「おお、ここでこんなことをやってる、凄いことやってるな」、「何だこのコード進行は? 何だこのモードは?」ってなプロ志向的な聴き方もできるし、反対に音楽に詳しい方でなくとも、さり気なくBGMとして流したり、「まあ綺麗なメロディーね、楽しい!」というような音楽本来の楽しむ為の聴き方もできるんですね。そんな僕が考える音楽の理想的なことがこのアルバムでできたなって気がしますね。

 

Q.作家の手から離れて行った作品がスタンダードになっていくわけですね? そして聴き続けられると同時に、弾き続けられていくと……?

久石:
できたらね、そういうスタンダードになって欲しいという願いを込めて作ったアルバムですね。例えば、前作『Piano Stories』は、日々アルバムがみなさんの手元に送り出されているわけで、そして、その楽譜もみなさんの手元に届いて、僕の曲を復習(さら)っていてくれると、そうするとその曲は定着しますよね。そのことは、作家にとってとても幸せなことですよ。

今回のアルバムの一つ一つの作品を完成するにあたっても、例えば、とんがり過ぎちゃえば1回聴いて(弾いて)、「おもしろかったな」で終わっちゃう。そういうことのないように、何度も聴いて(弾いて)楽しめる、そう意図して作り上げました。そういう意味では、現代のスタンダードを目指したといってもいいかも知れませんね。

「Piano Solo 久石譲/アイ・アム (I am)」楽譜 インタビュー より抜粋)

 

 

楽曲曲想
演奏解釈のための楽曲イメージ Commentary by 久石譲

Deer’s Wind
本楽曲は来年(1991年)のゴールデン・ウィークに東宝系全国一斉公開される映画『仔鹿物語』のメイン・テーマです。少年と仔鹿との「心の交流」をモチーフにした映画で、楽曲のテーマは、自然の中で繰り広げられる少年と仔鹿との「心の交流」を現す「優しさ」と、それを包む「大自然」を歌ったものです。優しさと同時に、大作映画の「おおらかさ」と「大自然」のスケール感を意識して仕上げてみました。

On The Sunny Shore
この曲は、前作『Piano Stories』に収録されている「Lady of Spring」とサウンド的にも、コード的にも同じ系列に入る曲です。曲のコンセプトとしては、隙間があって、その合間を縫うような淡々としたメロディーが奏でられる……。そして、モードを駆使したような響きと、その中に大人の優しさが出てくれば、と思って書き上げてみました。特に、弦楽のアレンジに関していえば”超スペシャル・アレンジ”で、トレモロや様々な要素を多様し、凝縮しています。アレンジの雰囲気は”空気感”。空気に漂っている”浮遊感”をものすごく意識してみました。今後アレンジャーを目指す方は、是非ともこのアレンジを研究してみてください。また、原曲では「ハーモニカ」が特徴的なフレーズを演奏していますので、メロディー・ラインを他の楽器で奏でてみるのもよいでしょう。いろいろな編成で演奏してみてください。

Venus
この楽曲は、8年ぐらい前に実は作った曲で、3~4回レコーディングをしています。どうも自分の中では形態がなかなか定まらなかったのですが、今回のアルバムでは”エスニック的”な要素を玩味した形態で成り立ち、やっと居場所を見つけ、完成しました。左手のオスティナートを続けながら、右手にロマンティックな割りには、とても器楽的なフレーズが続く不思議な曲です。本来の自分らしさの一部である”エスニック志向”がムクムクと出てきた1曲です。

Dream
本楽曲は、心の奥深い所での響きというか、その包みこむような優しさや味わい深さが出せればと思って書き上げました。Intro.やサビで使っている「Em」のメロディーのところを特に”ジャジー”なイメージにして、大人のけだるさというか、そのような感じを出してみたかったところです。原曲の弦楽のアレンジがかなり凝っていて、後半のピアノと弦楽が非常にダイナミックに絡むところは是非聴いて欲しいところですね。

Modern Strings
この曲は今回のアルバムに収録している曲の中で、もっとも”アヴァンギャルド”的な要素を多様した作品です。「単に驚かす為に」…というアヴァンギャルド的なものはカッコ悪いわけで、むしろ楽曲を聴いていくうちに「エッ?」と思う、本当の意味で深い味わいがあるアヴァンギャルドを打ち出した楽曲です。原曲の弦楽アレンジを具体的に言いますと、冒頭から弦楽が頭打してない点が特徴です。全部が裏拍になっていて、よく聴いていないと分からないかもしれませんね。そして、その「裏拍」がいったん分かると、この楽曲の変な魔力にひかれてしまいます。その魔力といい、スピード感といい、とてもたまらない曲になるんじゃないかと……。原曲の後半でピアノと弦楽が絡むところがとてもスリリングな響きになっています。楽曲のイメージやメロディーの雰囲気が「フランス映画」の感じで、その工夫として、レコーディングの時に、ピアノのタッチや音色を「鼻にかかる音色(鼻音的な音質)」に変えてみました。原曲でサックスを吹いているミュージシャンは”Mr.Steve Gregory”で、彼は「ワム!のケアレス・ウィスパー」で、あの印象的なサックスを吹いている方なのです。「泣ける、大人の味わい」をとても気持ちのいいサックスで演奏してくれていますので、じくりと聴いてみてください。

Tasmania Story
本楽曲は今年(1990年)の夏に東宝系全国一斉公開された映画『タスマニア物語』のメイン・テーマです。サントラ盤では、ピアノとオーケストラでしたが、本ヴァージョンは、ピアノとストリングスをメインにして、スケールの大きなフレーズの中から、そのしっとりした優しさを引き出してみました。レコーディングでのストリングス・セクションは、ロンドンの精鋭達が一同に会して、そのストリングスは、演奏の随所で歌ってくれて、狙い通り以上の演奏が展開できて非常に満足した仕上がりになっています。また、ピアノ自体のアレンジもサントラ盤とは違うヴァージョンです。

伝言
この曲は数年前にオンエアされたTVドラマのメイン・テーマです。当時の僕、というか”Hisaishi Melody”とみなさんに言われていた、典型的なスタイルの楽曲で、伴奏形式やメロディーにそれが現れています。今回のレコーディングでは、ピアノをメインにし、ストリングス・アレンジを最小限におさえて仕上げてみました。また、原曲のハーモニカもじっくりと聴いてみてください。

Echoes
本楽曲は、僕自身は、今回のアルバムのメイン曲だと思っています。オリエント・ミュージック(僕が付けた呼称です)を現した「アジアの夜明け」、「アジアのこだま」というような意味で作り上げた曲で、とても大切にしている曲でもあります。原曲には民族楽器のタブラーと胡弓が入っています。ピアノの特徴としては、ベーゼンドルファーのピアノでしか出せない超低音を出しており、その深い響きの中で、胡弓がメロディーを奏でる箇所はとても印象的で、僕自身とても気に入っています。原曲で胡弓が奏でるメロディーが終わった後に出てくる、ストリングスの不思議なコード進行も味わってみてください。微妙に変化していくコードの響きが特徴です。

Silencio de Parc Güell
ピアノ・ソロ作品として、あたかもシューベルトの「楽興の時」を思わせるような、さりげない優しい小品をイメージして仕上げてみました。曲のタイトルの「パルク・グエル」は、スペインのバルセロナにある”グエル公園”からです。スペインの鬼才、建築家”アントニオ・ガウディ”が作った印象的な公園で、その「静けさ」にとても感動して、曲名を付けました。

White Island
本楽曲は、テレビ朝日開局30周年記念特別番組の、メイン・テーマ曲です。「南極」をテーマにしたスペシャル・ドキュメンタリーで、この特別番組の為に作曲したものなのですが、放映時からとてもみなさんにご好評いただいた曲だったので、今回のアルバムに収録することになりました。メロディーが持っている親しみやすさ、優しさと同時に、スケール感あふれる形態を兼ね備えている楽曲なので、本アルバムの最後を飾るのがふさわしいのではないかと……。じっくりと聴いてみてください。

楽曲曲想 ~「Piano Solo 久石譲/I AM」楽譜より)

 

 

「ストリングスはロンドン・シンフォニーとロンドン・フィルのメンバーに協力してもらいました。ロンドンの──特に弦の音は、僕の求めている音に合うんです。録音はアビィ・ロード・スタジオ。あそこはね、ルーム・エコーが非常にいいんですよ。ピアノのパートは日本で録音しました。ピアノはベーゼンドルファー・インペリアル。低音部分にこだわってみたので」

「結構ね、難しいことやってるんですよ。普通だったら使わないような手法とか。でもさすがに向こうの人たちはその意図をわかってくれて、のってやってくれた。イギリス人のユーモアというか、あけっぴろげなアメリカとはまた違って、楽しい共同作業になりました」

Blog. 「ショパン CHOPIN’ 1991年3月号」久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

東芝日曜劇場 「伝言」 テーマ曲 TV Original Versionについては下記ご参照。

Disc. 久石譲 『The Passing Words』 *Unreleased

 

CM曲に使用された楽曲のCMオリジナルヴァージョンについては下記ご参照。

「Sunny Shore」 日産『サニー』
「Dream」 サントリー『ピュアモルトウイスキー 山崎』

 

 

久石譲 『i am』

1.Deer’s Wind (from Main Theme of“Kojika Story”) (映画「仔鹿物語」より)
2.Sunny Shore
3.Venus
4.Dream
5.Modern Strings
6.Tasmania Story (映画「タスマニア物語」より)
7.伝言~Passing The Words (東芝日曜劇場「伝言」より)
8.Echoes
9.Silencio de Parc Güell
10.White Island (TV「南極大陸1万3000キロ」より)

Musicians
Gavyn Wright London Strings
(Strings Condactor:Nick Ingman)
Toshihiro Nakanishi String Quartet
Tommy Reiry(Harmonica)
Steve Gregory(sax)
Pandit Dinesh(tabla)
Jia Peng Fang(kokyu)
Chuei Yoshikawa(A.Guitar)
Motoya Hamaguchi(L.Prec.)
Toshihiro Nakanishi(E.Vl.)
Hideo Yamaki(Drums)

Recorded at:
Abbey Road Studio London
Taihei Recording Studio Tokyo
Music Inn Yamanakako Studio Yamanashi
Wonder Station Tokyo

 

Recorded at ABBEY ROAD STUDIOS, LONDON
TAIHEI RECORDING STUDIO, TOKYO
MUSIC INN YAMANAKAKO STUDIO, YAMANASHI
WONDER STATION, TOKYO
Produced by JOE HISAISHI
Co-Produced by NAOKI TACHIKAWA
Arranged by JOE HISAISHI

Executive Produced by KEI ISHIZAKA (TOSHIBA EMI)
ICHIRO ASATSUMA (FUJI PACIFIC MUSIC INC.)
MAMORU FUJISAWA (WONDER CITY)
Recording Engineer:
MIKE JARRATT (ABBEY ROAD STUDIO)
YASUO MORIMOTO (ONKIO HAUS)
ATSUSHI KAJI (HEAVY MOON)
SUMINOBU HAMADA (WONDER STATION)
TOHRU OKITSU (WONDER STATION)
Mixing Engineer: MIKE JARRATT (ABBEY ROAD STUDIO)
Mastering Engineer: STEVE JOHNS (ABBEY ROAD STUDIO)

Musicians are: JOE HISAISHI-Piano
GAVYN WRIGHT LONDON STRINGS
(Strings Condactor: Nick Ingman)
TOSHIHIRO NAKANISHI STRING QUARTET (“Venus”)
TOMMY REIRY-Harmonica (“On The Sunny Shore”, “Rumor”)
STEVE GREGORY-Sax (“Venus”, “Modern Strings”)
PANDIT DINESH-Tabla (“Echoes”)
JIA PENG FANG-Kokyu (“Echoes”)
CHUEI YOSHIKAWA-Guitar (“On The Sunny Shore”, “Venus”)
MOTOYA HAMAGUCHI-L.Perc. (“Venus”, “White Island”)
TOSHIHIRO NAKANISHI-E. VI. (“Echoes”, “White Island”)
HIDEO YAMAKI-Drs. (“Modern Strings”)

 

Disc. 久石譲 『パーフェクト・オブ・アニメージュ』

パーフェクト・オブ・アニメージュ

1991年1月25日 CD発売 TKCA-30209
1991年1月25日 CT発売 TKTA-20113

 

スタジオジブリ作品 「風の谷のナウシカ」から「魔女の宅急便」まで
監督:宮崎駿 音楽:久石譲

「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」「となりのトトロ」「魔女の宅急便」各イメージアルバム、サウンドトラックから、メインテーマや主題歌など主要楽曲をもれなく収録した初期宮崎駿作品のベスト盤。

 

 

パーフェクト・オブ・アニメージュ

1. 風の谷のナウシカ ~オープニング・テーマ~ (風の谷のナウシカ サントラより)
2. 空から降ってきた少女 (天空の城ラピュタ サントラより)
3. 晴れた日に… (魔女の宅急便 サントラより)
4. 風の丘 (魔女の宅急便 イメージアルバムより)
5. 風のとおり道 (となりのトトロ サントラより)
6. 大樹 (天空の城ラピュタ イメージアルバムより)
7. はるかなる地へ… (風の谷のナウシカ イメージアルバムより)
8. 君をのせて 歌:井上あずみ (天空の城ラピュタ サントラより)
9. となりのトトロ 歌:井上あずみ (となりのトトロ サントラより)
10. さんぽ 歌:井上あずみ (となりのトトロ サントラより)
11. 神秘なる絵 (魔女の宅急便 サントラより)
12. スラッグ渓谷の朝 (天空の城ラピュタ サントラより)
13. 鳥の人~エンディング・テーマ~ (風の谷のナウシカ サントラより)
14. かあさんのホウキ (魔女の宅急便 イメージアルバムより)

作曲・編曲:久石譲

 

Disc. 久石譲 『Dream』 *Unreleased

1990年 CM放送

 

サントリー 「ピュアモルトウイスキー 山崎」 60秒

音楽:久石譲「Dream」

 

 

幻想的なフェアライトのヴォイスとピアノで始まり、メロディもピアノを基調とした優雅で美しい旋律。後半にかけてシンセサイザーによるストリングス・ヴォイスが重なり、神秘的でもあり上品な世界観を演出している。

曲名「Dream」であることから、オリジナルアルバム『I am』収録の「Dream」と基本は同曲である。ただし異なる箇所の多い。

メロディの旋律が異なる、調性が異なる、アレンジが異なる。

CM版は変ホ長調でありCD版はト長調、調性が異なるだけでも雰囲気は変わってくる。またCM版の音色・アレンジ・構成は上記のとおりで、CD版はアコースティックなピアノと弦楽合奏を基調としている。おそらくCM版の完成が先であり、その後アルバム収録に際して楽曲を練り直したために、結果メロディも多少異なる動きとなったのだと推測される。

CMヴァージョンもとても完成度が高く、CD化してほしいほどの幻の名曲である。

 

 

(CM映像より)

 

Disc. 久石譲 『NHKスペシャル 驚異の小宇宙・人体 サウンドトラック II / MORE THE UNIVERSE WITHIN 』

久石譲 『NHKスペシャル 驚異の小宇宙 人体 Vol.2』

1990年12月21日 CD発売 NACL-1013
1994年3月21日 CD発売 NACL-1512

 

1989年放送 NHKスペシャル 「驚異の小宇宙 人体」
音楽:久石譲

 

~35億年の時空を超えて~
再び、久石譲の内なる宇宙への航海が始まる

 

 

解説

60兆もの細胞からなる我々の人体は”小宇宙”といわれ、大宇宙と同じ様に一つの秩序だった働きをしている。-NHKスペシャル「驚異の小宇宙・人体」は、スウェーデン放送協会の特殊カメラによる体内実写映像や、世界最先端を行くNHKのCG等を駆使した特殊映像技術で、私達を肉眼では決して見ることのできない世界、人間の想像力がおよびもしなかった光景を目の当たりに出現させました。その息を呑む映像美を久石譲のスケールの大きな詩情豊かな音楽がより一層感動的に彩っています。

久石譲-アニメ「風の谷のナウシカ」「魔女の宅急便」や映画「Wの悲劇」「タスマニア物語」等の音楽を手がけ、作曲家、プロデューサーとして、日本の「現在(いま)」を代表する音楽家-人体のもつ極めて巧妙精巧な総合システムを、あるいは大編成のオーケストラやピアノ・バイオリンであたかも吟遊詩人のように奏で、あるいはシンセサイザーを駆使して神秘の世界を探査する科学者のように計算されつくされた音の一つ一つで、全編を緻密であたたかい久石メロディーで包みこんでいます。

久石譲の作り出す音楽の底には、一貫した人間に対するたゆまない愛情と人生の素晴らしさ、言うなれば”人間賛歌”が脈々と流れています。スタジオの中で、音を一つ一つひろい集め分析・集積をくり返し続け、やっと一つの音楽として構築する。それは錬金術師のように、永遠に続けられる活動のように思われてくる。無味乾燥で殺伐となりがちな中にあっても彼は笑顔をたやさない。いつでも一緒に作業をする人達への細かい配慮を忘れないのです。

そんなヒューマンで、劇的にして知的、スケールの大きな詩情をかもしだす音楽、それは彼そのものなのです。この第2集は、第1集で聴かせてくれた久石メロディーが、ふんだんに溢れているわけではありませんが、その音の一つ一つに音と音の隙間に、クラシックから現代音楽、JAZZからポップスまで手がける久石譲の音楽性ヒューマンな感情が感じとられる事でしょう。久石譲の音楽が、静寂の中にくり広げられ続ける人体の様々なドラマをよりファンタジックに、よりドラマチックに感動をより一層感動へと導いてくれる事でしょう。

(解説 ~CDライナーノーツより)

 

 

1998年4月28日 CD発売 PCCR-00301

NHKスペシャル「驚異の小宇宙・人体」サウンド・トラック THE UNIVERSE WITHIN Vol.1 & 2(2CD) として再発売された。

 

久石譲 『NHKスペシャル 驚異の小宇宙 人体 Vol.1』

(2CDジャケット)

 

 

久石譲 『NHKスペシャル 驚異の小宇宙 人体 Vol.2』

1. THE INNERS ~遥かなる時間(とき)の彼方へ~ (Opening Theme Synthesizer Version)
2. HEART OF NOISE ~生命胎動~
3. STRANGER ~かくも果てしなき未知の世界へ~
4. DÉJÀVU ~わればかりかく思うにや~
5. OMEGA QUEST ~永遠なる探索者~
6. VOICE OF SILENCE ~静寂の中の初声~
7. ANIMA PORTRAIT ~魂の肖像~
8. ONE NIGHT DREAM ~千億光年の夢物語~
9. HUMAN WAVE ~60兆のさざなみ~
10. THE INNERS ~遥かなる時間(とき)の彼方へ~ (Violin Version)

COMPOSE & ARRANGEMENT:Joe Hisaishi
PIANO:Joe Hisaishi

Producer:Joe Hisaishi

 

Disc. 東京佼成ウインドオーケストラ 『ニュー・サウンズ・イン・ブラス・ベスト・セレクション Vol.8』

1990年10月17日 CD発売

 

”ニュー・サウンズ・イン・ブラス”シリーズの中から特別によりすぐった名演奏の数々…。ダイナミックで一味違ったポップな演奏をお楽しみください。

指揮:岩井直溥
演奏:東京佼成ウィンドオーケストラ

ゲスト・ミュージシャン:
Drums 猪俣猛
Bass 荒川康男
Trumpet 数原晋 他

 

 

久石譲が編曲を手がけた「四季より 春」「アダージョ」の2楽曲が収録されている。

 

 

曲目解説

1.シボネー
「マラゲーニア」の作曲者でもあるキューバ生まれのエルネスト・レクオーナの作品。キューバの原住民で、既に絶滅してしまったインディオ、シボネー族の恋を歌った曲で、ラテン音楽「ルンバ」のスタンダード・ナンバーとして古くから演奏されている名曲です。

吹奏楽の特性を見事に活かした編曲で、迫力もあり、ワイドなサウンド、それと対照的なルンバの遊びも楽しめます。

 

2.幻想即興曲
ピアノの詩人ショパンが24歳の時作った華麗なピアノ即興曲「幻想」の中間部、ゆるやかな美しい旋律をテーマにしています。ポピュラー曲としても、「虹を追って」などの別名も付けられ、しばしば演奏され親しまれて来ました。

演奏はピアノ・ソロが中心となり、中間部軽快なディスコ・テンポとなりますが、コンサートに変化を与える好ナンバーです。

 

3.飾りのついた四輪馬車
”1943年3月31日の夜、8時30分すこし過ぎ、セント・ジェイムズ劇場の館内照明が消えていき、興奮した観客のざわめきは、恐ろしいまでに静まり返った。指揮者のジェイ・ブロックトンが、さっと振り上げた指揮棒とともに、オーケストラは、力強くオーヴァチュアを響かせはじめた……”。ミュージカル「オクラホマ」の歴史的なオープニングである。それ以来、続演を重ねる事、実に2,248回、この数字を見てもこのミュージカルがいかに好評で、いかに好意を持って迎えられたかが解るであろう。毎日休みなしの上演でも、6年以上はかかる数字である。

原作~リン・リッグス「リラの花緑に育つ」、脚本・作詞~オスカー・ハマースティン二世、音楽~リチャード・ロジャース、振付~アグネス・デ・ミル。

この作品は、リチャード・ロジャースとオスカー・ハマースティン二世のコンビの最初のミュージカルである。このコンビは以後、「回転木馬」「南太平洋」「王様と私」「サウンド・オブ・ミュージック」と次々とすばらしいヒットを続けるのである。

この「飾りのついた四輪馬車」は、「オクラホマ」の冒頭近くに歌われる、楽しいナンバー。好青年のカーリーが、今夜のパーティーに村一番の美しい娘、ローリーを誘い出そうとしています。乗り物はもちろん、きれいに飾りのつけられた四輪馬車。……ストーリーは進み、やがて2人はめでたく結ばれる訳ですが、ミュージカルの終りの方”The wedding”の部分にもこのメロディーは顔を出します。ほんとうに楽しく、ほんとにハッピーなこの曲、この雰囲気をいやが上にも盛り上げているのは、ブラスの響きをよく活かした、絶妙なアレンジがあるからとも言えましょう。正に吹奏楽の醍醐味ここにあり、といった所です。

 

4.さらばジャマイカ
ジャマイカという言葉の持つ響きに、我々は何を感じているだろうか。ジャマイカの熱い風、強い日差し、吸い込まれそうなどこまでも青い空、そして水平線の向こうでは雲と空とに溶け込んでしまいそうな海、憧憬(あこがれ)と勇気。この言葉からはそんなパワーが、何となく伝わって来そうな気はしないだろうか。

 

5.シエリト・リンド
最近、ラテン楽器の普及については目覚ましいものがあり、どこのバンドでも必ず何種類かの楽器が導入されている。もともと日本人のラテン音楽好きは今に始まったことではないのだが、それにしても、ラテン系の音楽は我々に何か郷愁のようなものさえ感じさせてくれるのです。日本人の起源は……などと考えを拡げ、日本人のルーツを音楽から追求してみたくなるほど、それ等は私達に何かを語りかけてきます。

この曲「シエリト・リンド」は、第2のメキシコ国家ともいわれるほどポピュラーなメキシコ民謡ですが、もとはスペイン民謡から変化したと言われています。曲名のシエリト・リンド(きれいな空、美しい空の意)という言葉は、恋人などへの呼びかけなどに使われる、はやしコトバです。

もともと3拍子で演奏される事が多いようですが、今回は、ラテン・パーカッションをふんだんに取り入れ、サンバのイメージでアレンジしております。イントロや、途中でもパーカッションだけのアンサンブル(バッカーダ)の部分に、いろいろなサウンドの楽器や、リズムソロ等のアイディアが存分に盛り込め、コンサートをより楽しいものにしてくれると思います。

 

6.四季より「春」
ヴィヴァルディの有名な弦楽合奏曲「四季」の中の「春」をポップス化したもの。もともと弦楽系の素材を管だけで演奏することは難しいことだが、この編曲ではエレキ・ベースの効果と高音木管群のからみでヴィヴァルディのサウンドを上手に再現していて面白い。最初のテーマが第1楽章、強弱を3小節ずつ対比させ古典曲らしさの中、低音部はそれにおかまいなく正確なリズムをきざむ処理がポップス的。中間部のソプラノ・サックスのソロ(第2楽章)が美しい。繰り返してブレークして行く方法は、アドリブ入門のお手本となる。第3楽章は8分の12拍子、乾いた太鼓の音が民族舞踏を思わせ、軽快なエンディングとなる。鑑賞教材曲でもある古典を、この様な演奏で聴かせるのもバンドを身近なものにさせてくれる。

 

7.マイ・フェア・レディ・メドレー
ブロードウェイ・ミュージカルとして大ヒットを飛ばし、ニューヨークのセント・ジェームズ劇場でロングラン興行となった。日本でも上演されたり、劇中曲がしばしば歌われて来ている。この編曲では「運がよければ」、「踊りあかそう」、「忘れられぬ君」、「何んて素晴らしい」それに「君住む街角」の順でメドレーとなっているが、それぞれにマーチ、スイング、ビギン、ボサノヴァなどのリズムでひと捻りしてあり誠に多彩。勿論聴きなれたメロディーの連結だが、それを抜群のアイディアで構成してある優れた編曲。それぞれのリズムにより、奏法上の約束ごとを良く理解した上で演奏する必要がある。譜面上も易しいので、少し練習を繰り返せば中学校バンドえも楽しめるアレンジです。

 

8.パリのあやつり人形
ヨーロッパのユーロビジョン・コンテストの’67年度の入賞曲。何んでもない曲のようですが、全般に「おや!!」と思わせるユーモアとイタズラがかくされていて誠にブラス的、愉快な曲です。もともとポール・モーリアの楽団の演奏でヒットした曲ですが、コンサートの息抜きになる軽い編曲で、素材がブラス向きなだけに効果が期待できるよい作品です。

 

9.フィーリング
すっかりおなじみのフィーリング。バンド用の編曲もかなり出版されてはいますが、この編曲は原曲の感じを忠実に生かし、全般がフリューゲルホルンのソロを中心としています。演奏に際しては最初のギターの分散和音が重要なので、無ければピアノなどに置きかえても音をていねいに拾って欲しいですね。やはり中・低音を厚目にブラスのハーモニーを生かしたいものです。

 

10.ベンジーのテーマ
先頃かわいいお客さんを沢山集めてヒットした映画「ベンジー」のテーマ音楽。このシリーズ中最もイージーでしかも上品にまとめた良い作品のひとつ。何んでもないテーマながら各セクションのバランスがよく、スローロックとビギンのリズムで愛情を歌いあげます。中学校バンドのレパートリーのひとつとしても歓迎される作品です。

 

11.アダージョ
アルビノーニはヴィヴァルディと同時代のイタリアの作曲家です。このアダージョはその一部を映画「審判」のテーマ音楽に使ったことから、ポピュラー界に入り込んだものです。クラシックの持つ奥深い神秘性を感じさせる名曲で、オーボエのソロが美しく歌います。後半はジャズ・ワルツに哀愁のメロディーが乗りますが、演奏の素材としても勉強になる点の多い良い編曲です。

 

12.サウス・ランパート・ストリート・パレード
古い古いデキシーランド・ジャズのスタンダード・ナンバーだけど、実に楽しいスイングに編曲されている。ピッコロ2重奏、クラリネット、トランペットのソロが楽しい。このソロの部分を、チューバなど、他の楽器にも繰り返し吹かして見たら、面白い演奏効果が得られることだろう。

解説:石上禮男

※解説はそれぞれレコード発売当初のものをそのまま転用しました。

(曲目解説 ~CDライナーノーツより)

 

 

ニュー・サウンズ・イン・ブラス・ベスト・セレクション vol.8

1.シボネー Siboney
2.幻想即興曲 Fantaisie-Impromptu, Op.66
3.飾りのついた四輪馬車 The Surry with the Fringe on Top
4.さらばジャマイカ Jamaica Farewell
5.シエリト・リンド Cielito Lindo
6.四季より「春」 “Spring” from Four Seasons
7.マイ・フェア・レディ・メドレー My Fair Lady (Medley)
8.パリのあやつり人形 Puppet on a String
9.フィーリング Feelings
10.ベンジーのテーマ Benji’s Theme “I Feel Love”
11.アダージョ Adagio en Sol Mineur
12.サウス・ランパート・ストリート・パレード South Rampart Street Parade

編曲:
岩井直溥 1,3,5,7,8,10,12
藤田玄播 2
真島俊夫 4
久石譲 6,11
小野崎孝輔 9

 

Disc. 草尾毅 『Credo-Believe in something-』

1990年9月27日 CD発売 TYCY-5143
1993年7月7日 CD発売 TYCY-5310

 

声優草尾毅のオリジナル・アルバム。

1990年盤にはカラーブックレット24ページのほか、本人のトークを収録した8cmCD付きである。

久石譲が作曲・楽曲提供した「楽しいことばかりあるはずない」「YOU」の2楽曲が収録されている。

 

 

草尾毅 Credo 1990

(1990年盤)

 

 

草尾毅 クレド Credo 1

1.太陽が騒ぐ島
作詞:宝野アリカ 作曲:井上大輔 編曲:KAZZ TOYAMA
2.抱きしめてパラディソ
作詞:SHOW 作曲:埜邑紀見男 編曲:埜邑紀見男
3.Because of You
作詞:KEII 作曲:KAZZ TOYAMA 編曲:KAZZ TOYAMA
4.楽しいことばかりあるはずない
作詞:松本一起 作曲:久石譲 編曲:KAZZ TOYAMA
5.太陽と風の渚
作詞:SHOW 作曲埜邑紀見男 編曲:埜邑紀見男
6.ROCK’N’ROLL MY WAY
作詞:Himi 作曲:タケカワユキヒデ 編曲:KAZZ TOYAMA
7.セビリアの恋人
作詞:宝野アリカ 作曲井上大輔 編曲:KAZZ TOYAMA
8.君といちばん乗りの夏
作詞:Himi 作曲:タケカワユキヒデ 編曲:KAZZ TOYAMA
9.YOU
作詞:松本一起 作曲:久石譲 編曲:KAZZ TOYAMA
10.LONG WAY FROM HOME
作詞:Himi 作曲:KAZZ TOYAMA 編曲:KAZZ TOYAM