Blog. 「スイッチ SWITCH JULY 2001 Vol.19 No.16」 久石譲インタビュー内容

Posted on 2018/10/09

雑誌「スイッチ SWITCH  JULY 2001 Vol.19 No.16」に掲載された久石譲インタビュー内容です。『JOE HISAISHI meets KITANO films』リリースに合わせて組まれた取材は、北野武監督の映像について、手がけた音楽について、あらためてたっぷりと語られた貴重な内容です。

 

 

久石譲

映画音楽の重要人物が語る
創作の哲学、北野監督、
そして新たな挑戦について

久石譲の名を聞いて読者が思い出すものが、幾つかの映画か監督名かそれとも彼自身のリーダーアルバムかはともかく、その才と手腕から、彼が今日の日本映画界において重要人物である点については異論が無かろう。その代表的な仕事の一つに挙げられるのが、北野武監督作品への楽曲提供である。この度リリースされる『JOE HISAISHI meets KITANO films』は両者の初顔合わせであった『あの夏、いちばん静かな海』から最新作『BROTHER』までの楽曲から、久石のセレクトによる16曲によって構成された、北野映画のサントラベストである。しかし彼にとってこの一枚は、それ以上の、そしてそれ以外の意味を持った仕上がりであると、穏やかな口調で語り始める。

「当初からベストであっても決して回顧ではない、いわば現在進行中のプランの途中報告みたいなものにしたいとは考えていた。例えばアプローチの変化としては『BROTHER』がそう。ここで『あの夏~』からのアプローチを敢えて変えてみた。もし、今後も北野監督と仕事ができるのなら、ここで一度違うアプローチにした方が、世界観が拡がると考えたから。日米合作で、ロケーションもロスだったりと、それまでと違う環境という点も、変化という点では適していたし。それで映画のドライな世界観を表現するためにブラスを多用した。これまでも弦とか管は入っていましたが、割合ピアノ中心だったからね。

だから本来なら今回のアルバムの曲順も『あの夏~』から映画の公開順に並べれば、こうした変化が見え易くて良いのだけど、どうしても記録としての意味合いが強く出すぎてしまう。それは避けたかったので最近CFで流れた『Summer』を最初に持ってきて、次に最新作である『BROTHER』を。その後からを公開順にしてみた。

編集し終えて嬉しい発見だったのは『あの夏~』から『BROTHER』まで、実に各々の底辺が共通性を持っていた、ということ。頭では常に北野監督の映画のために音楽を提供することを第一に作ってきたつもりだったけれど、気がつけば自分のソロアルバムを作るような気持ちで携わってきたんだ、という明快な結論に達した。時には、ソロから一歩踏み出した表現もしていたりするこの一枚には、僕自身のここ数年の姿勢が見事に反映されていた。そしてこの一、二年の中で、僕自身にとっても、まさにベストな一枚と言える仕上がりだと思う」

バイオリンを習い始めた五歳の頃から、同じく両親の薦めでジャンルを問わず年間約三〇〇本、多忙な現在も週七~八本の映画鑑賞を欠かさないという久石。そんな無類の映画好きの視点から北野監督、その作品に対しての印象、実作業でのコミュニケーションまでを語ってもらおう。

「省略の人、だね。引き算の映像美。従来の映画の概念にとらわれずに独自の世界観を展開するのは並大抵ではない。北野監督はそういう登場をして見せて、今もそう在り続けている。一〇秒間のシーンだけで彼の作品だと分かる、というのは、やはり尊敬に値する。

北野監督とは、やりとりとか詳しく話したりすることなんてほとんどない。ヒントのような一言、二言だけ。『あの夏、いちばん静かな海』の時は、『シンプルなメロディーの繰り返しが好きなんです』って。『HANA-BI』では『暴力シーンが多いんだけど音は綺麗なのがほしいな』で、『菊次郎の夏』は『さわやかなのがいいな』とか毎回そんな感じ。『BROTHER』に至っては『おまかせ』でしたから。他にその時手掛けている作品の事で、顔を合わせる際に二人で話すことといえば、決まって次回作のアイデア。こんな具合で互いのスタンスが明確に保たれている。とてもシビアだけど、だからこそ信頼感や、やり甲斐も非常に大きいと言える。

北野作品はどれも好きだけど、手掛けた音楽で一番好きなのは『Sonatine』。この作品から確信犯としてミニマル・ミュージックを前面に押し出した。僕自身、当時ロンドンに住み始めたこともあってハイテンションだったので、実験的要素も結構盛り込んでいる。録音したドラムのフレーズを逆回転させて、楽曲の後ろ全体にうっすらと敷いてみたり。映像としてもあの微熱に犯されながら進行していくようなクールさが好きだな」

ここで”ミニマル・ミュージック”という単語が登場したが、実は彼には、現在の自身のスタイルに大きな影響を及ぼした一枚のアルバムがある。テリー・ライリーの『A Rainbow In Curved Air』である。

「このアルバムでミニマル・ミュージックに出会い、衝撃を受けた。約二〇年間培った前衛クラシックの方法論を全て捨て、ミニマル・ミュージックを手掛けてみたいと思った。実際に精神と肉体を全て改造するために、約三年を費やしてしまったけどね」

こうした転機を経て、今日までに久石は、既知の通り北野以外にも宮崎駿や大林宣彦等、多くの監督の作品へと音楽を提供している。多種多様な映画音楽に対して、何か特定のルールや概念を抱いて、彼はその創作に携わっているのだろうか。

「言ってしまえば、映画音楽っていうのはどんな音楽でも成り立ってしまう。アクションモノならハードロックっていうストレートな発想でも別に構わない。でも実はそこが一番の罠であり、楽しさでもある。

自分の中で映画音楽に関するルールとかは、これといっては設けてないけど、敢えて言えば映像の従属物のような音楽には興味が無い。つまり走ったら速い、泣いたら悲しいとうのは作りたくない。それだったら映像と喧嘩するくらいで丁度いいっていう感じかな。あとは、仮に映画がトータルで二時間の作品なら、何も音楽がつかないシーンも含めて展開を意識する。一つのシンフォニーを書くのと同じ気持ちで考え、最終的な映画のテーマ、つまり”何を残すことができるか”を浮き立たせる。もっと言えば、監督、脚本、役者、照明他スタッフ全てが同じ方向を向いて、もしくは向いたフリをして自己の表現を確立させる。その過程で生まれてくるダイナミズムが映画であり、だからこそあらゆる物を包括したメディアと成り得ている。

僕が最も大切だと捉えていることは、”映像から読みとる”という作業。映画音楽の制作は、どうしても”はじめに映像ありき”という当たり前の前提を見失いがちになる。映画監督は自らのメッセージを作品に込めている。それをどう読み解いて音楽を提供するか、そこからが僕の領分なんだ。

結局、音楽というのは抽象的だから、ああだこうだとやり取りしてもあまり意味がないし『ここがこうでね』って他者とディスカッションしづらい。特に日本人って映画音楽って印象のみで批評をする傾向が強い。比べるフランスは正反対。『あの○○のシーンであの音楽を付けたのは、何を狙ったんだ?』って驚く程細かく突っ込んでくる」

宮崎監督の最新作「千と千尋の神隠し」、仏映画「Le Petit Poucet」と音楽を手掛けた新作の公開が続き、一〇月下旬からのオーケストラとの全国ツアーを経て、一一月には韓国でのコンサートも控えている。

「そろそろピアノ弾きに戻るトレーニングもしなくてはならない。弾き方にクセがあるせいかもしれないけど、一度のステージで二~三キロの体重が落ちる。自分にとっては結構な重労働というか、格闘技だから、身体を作っておかないともたないんだ」

そして久石自身もついに監督業に挑戦。第一作『Quartet』(今秋公開)では音楽は勿論、脚本までも自ら手掛けたという熱の入れよう。語り口も自然と弾んでくる。

「撮影は去年に終えていてね。劇中、袴田(吉彦)君扮する主人公の台詞で『音楽ってそれほどのものなんですか?』っていうのがある。この一言を音楽家である僕が言わせるのは、自分では結構強烈な挑戦だった。多分この一言を撮りたくて映画を作ったんだなと、今は思っている。”音楽を作る”ことと”生きる”ことの関係性を何らかの形にしてみたかったのではないかな。音楽は自分では未だ模索の最中だし『Quartet』も、その明確な答えとは成り得ていないけれど、リアリティという点ではなかなかの仕上がりだよ」

実はすでに二作目の撮影済み。デジタルカムコーダーで撮った三〇分の短編映画『4 MOVEMENT』は現在編集中。完成すれば、日本初フルデジタルムービーの登場である。まさしく精力的な活動の久石であるが、目下その才と手腕を持ってしても解決できない、一つの悩みを抱えているらしい。

「二作目の方が公開が早くなってしまってね(福島での『うつくしま未来博』にて七月上映)。こればかりはどうにもならなくて」

充実した表情の後に浮かべた、仕方なさそうな苦笑が印象的であった。

(スイッチ SWITCH  JULY 2001 Vol.19 No.16 より)

 

この取材は北野作品の映画音楽が中心となっています。ちょうど『JOE HISAISHI meets KITANO films』のリリース時期だったこともあり、本誌には貴重な広告ページもありました。発売当時、初回特典・予約特典として同デザイン特大ポスターを入手できた久石ファンもいるかもしれませんね。

 

 

 

また制作スタジオでの写真も印象的でした。

 

 

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