Blog. 「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.7」コンサート・レポート

Posted on 2024/08/04

7月31日,8月1日開催「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS」コンサートです。今年は「久石譲 presents MUSIC FUTURE」(7/25,26)とのスペシャルウィークです。久石譲の3大コンサート(WDO,FOC,MF)のうち2つのコンサートがこの夏一挙開催です。

 

 

JOE HISAISHI FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.7

[公演期間]  
2024/07/31,08/01

[公演回数]
2公演
東京・サントリーホール

[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:FUTURE ORCHESTRA CLASSICS
合唱:東京混声合唱団
コンサートマスター:近藤薫
ソプラノ:エラ・テイラー

[曲目]
久石譲:The End of the World
I. Collapse
II. Grace of the St. Paul
III. D.e.a.d
IV. Beyond the World
Recomposed by Joe Hisaishi:The End of the World

—-intermission—-

スティーヴ・ライヒ:砂漠の音楽 *
Steve Reich:The Desert Music
I. fast
II. moderate
III. A – slow
IV. B – moderate
III. C – slow
IV. moderate
V. fast

*オリジナル編成版(1984年)全曲 日本初演

[参考作品]

久石譲 & 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 『The End of the World』

 

 

 

まずは会場で配られたコンサート・パンフレットからご紹介します。

 

 

今年のFUTURE ORCESTRA CLASSICS(FOC)はとてもスペシャルです。

本来室内オーケストラとして50名前後の編成ですが、100名を超える大型オケになり、またホールもサントリーホール2日間と現代の音楽が行う規模をはるかに超えているのですが、関係者の奮闘により2日間ともソールドアウトとなりました。誠にありがたい限りです。

肝心の曲目はスティーヴ・ライヒの「The Desert Music」と僕の「The End of the World」です。1983年に作曲された「The Desert Music」はあまりの規模の大きさと難しさでこれまで日本では演奏されず、今回が日本初演になります。両曲とも戦争に関する題材を扱っています。戦後80年近くなるのに今の状況はいつでも世界戦争が起こってもおかしくないように見えます。多くの人が亡くなり、多くの文化が破壊されています。

でも僕は反戦のコンサートにするつもりは全くなく、このような状況でも自分を見失わずに強くしっかり生きていこう!という元気の出る、ポジティブなコンサートになれば良いと思っています。

皆さまに楽しんでもらえたら幸いです。

久石譲

 

Joe Hisaishi:The End of the World
久石譲:ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド

久石譲が2007年秋にニューヨークを訪れた時の印象がきっかけとなり、2008年から作曲に着手した組曲《The End of the World》は、2001年同時多発テロ(9.11)による世界秩序と価値観の崩壊が引き起こした「不安と混沌」をテーマにした作品である。もともとは《After 9.11》という仮タイトルが付けられていたが、久石はカントリー歌手スキータ・デイヴィスが1962年にヒットさせたヴォーカル・ナンバー《この世の果てまで The End of the World》にインスパイアされ、組曲全体を《The End of the World》と命名した。2008年に、〈I. Collapse〉〈II. Grace of the St.Paul〉〈III. Beyond the World〉の3楽章からなる組曲として初演された後、この作品は一種のワーク・イン・プログレスとしてさまざまな変遷をたどり、2015年のW.D.O.(ワールド・ドリーム・オーケストラ)公演において、上記3楽章に〈D.e.a.d〉を挟み込んだ4楽章+久石がリコンポーズした《この世の果てまで》の計5楽章(4+1)の組曲として演奏された。本日演奏されるのは、そのW.D.O.2015公演で初演されたヴァージョンである。

I. Collapse
ニューヨークのグラウンド・ゼロの印象を基に書かれた楽章。冒頭、チューブラー・ベルズが打ち鳴らす”警鐘”のリズム動機が、全曲を統一する循環動機もしくは固定楽想(イデー・フィクス)として、その後も繰り返し登場する。先の見えない不安を表現したような第1主題と、より軽快な楽想を持つ第2主題から構成される。

II. Grace of the St. Paul
楽章名は、グラウンド・ゼロに近いセント・ポール教会(9.11発生時、多くの負傷者が担ぎ込まれた)に由来する。冒頭で演奏されるチェロ独奏の痛切な哀歌(エレジー)がオリエンタル風の楽想に発展し、人々の苦しみや祈りを表現していく。このセクションが感情の高まりを見せた後、サキソフォン・ソロが一種のカデンツァのように鳴り響き、ニューヨークの都会を彷彿とさせるジャジーなセクションに移行する。そのセクションで繰り返し聴こえてくる不思議な信号音は、テロ現場やセント・ポール教会に駆けつける緊急車両のサイレンを表現したものである。

III. D.e.a.d
もともとは、2005年に発表された4楽章の管弦楽組曲《DEAD》の第2楽章〈The Abyss~深淵を臨く者は・・・・~〉として作曲された。《DEAD》(”死”と、レ・ミ・ラ・レの音名のダブル・ミーニング)の段階では器楽楽章だったが、本日演奏されるW.D.O.2015ヴァージョンに組み込まれた際、久石のアイディアを基に麻衣が歌詞を書き下ろした声楽パートが新たに加えられた。原曲の楽章名は、ニーチェの哲学書『ツァラトゥストラはかく語りき』の一節「怪物と闘う者は、その過程で自分が怪物にならぬよう注意せねばならない。深淵を臨(のぞ)くと、深淵がこちらを臨き返してくる」に由来する。ソリストが歌う歌詞が、特定の事件(すなわち9.11)や世俗そのものを超越し、ある種の箴言(しんげん)のように響いてくる。

IV. Beyond the World
3楽章版の《The End of the World》が2009年のアルバム『Minima_Rhythm』に収録された際、久石自身の作詞によるラテン語の合唱パートが新たに加えられた。「世界の終わり」の不安と混沌が極限に達し、同時にそれがビッグバンを起こすように「生への意志」に転じていくさまを、11/8拍子の複雑な変拍子と絶えず変化し続ける浮遊感に満ちたハーモニーで表現する。楽章の終わりには、第1楽章に登場したチューブラー・ベルズの”警鐘”のリズム動機が回帰する。

組曲としては、以上の4つの楽章で一区切りとなり、最後に《この世の果てまで》のリコンポーズ版がエピローグ的に演奏される。

Recomposed by Joe Hisaishi:The End of the World
原曲《この世の果てまで》の歌詞の内容は、作詞者シルヴィア・ディー(Sylvia Dee)が14歳で父親と死別した時の悲しみを綴ったものとされている。久石がこのヴォーカル・ナンバーを組曲の終わりに付加した理由のひとつは、この曲のメロディーが持つ美しさを久石が高く評価していたからである。このように、パーソナルな思いを表現した世俗曲や民謡のメロディーを、シンフォニックな大規模作品の中に引用する手法は、久石が敬愛するマーラーの作曲の方法論に通じるものがあると言えるだろう。愛する者を失った悲しみをエモーショナルに歌うソリストと、その嘆きを温かく包み込むコーラスの背後で、チューブラー・ベルズのリズム動機がかすかに聴こえてくるが、その響きは今までの恐ろしい”警鐘”から、祈りの”弔鐘”へと変容を遂げている。最後に、チューブラー・ベルズが”希望の鐘”を静かに暗示しながら、全5楽章の組曲全体が安らかに閉じられる。

楽曲解説:前島秀国

 

 

Message from Steve Reich

「砂漠の音楽」は1984年に初演され、2024年にようやく日本初演を迎えることができ、大変嬉しく思います。この機会を与えてくださった久石譲さんとFUTURE ORCESTRA CLASSICSに感謝します。私のこの最大の作品を、すべての演奏者と観客の皆さんに楽しんでいただけますように。

ースティーヴ・ライヒ

 

Steve Reich:The Desert Music
スティーヴ・ライヒ:砂漠の音楽

スティーヴ・ライヒが1982年から83年にかけて作曲した《砂漠の音楽》は、アメリカの詩人/医師ウィリアム・カーロス・ウィリアムズ(1883-1963、以下WCWと表記)の詩をテキストに用いて作曲された、ライヒ最大の編成を持つ作品である。かねてからWCWを敬愛してきたライヒは、詩集『砂漠の音楽 その他の詩』(1954年出版)と『愛への旅』(1955年出版)に収められた詩を選択・抜粋・編集した上で、本作品の歌詞に用いている。

WCWの詩以外に、ライヒは次の3つの「砂漠」から作曲のインスピレーションを得た。まず、旧約聖書の出エジプト記に登場するシナイ半島の砂漠。2つめは、ライヒ自身が何度か往復したことがあるカリフォルニア州ハーヴェの砂漠。そして3つめが、人類初の原爆実験を含む多くの核実験が行われた、ニューメキシコ州アラモゴートの砂漠である。そこでライヒは、WCWがヒロシマとナガサキ以降の時期に書いた3篇の詩を意図的に選択し、詩人の関心とライヒ自身の関心を音楽の中で合致させようと試みた。ライヒは筆者との取材の中で、次のように《砂漠の音楽》を解説している。「私の曲に限りませんが、どんな音楽でも歌詞がある場合には、その言葉に含まれるサウンドと意味を大切に扱わなければいけません。もちろん、歌詞に用いるテキストは自分で選びましたが、歌詞の存在によって、普段の自分だったら絶対にしないような作曲をせざるを得なくなります。《砂漠の音楽》では、WCWの詩が原爆を扱っているので、今までの自分の曲になかった暗さを音楽で表現する必要があったんです」。

今回日本初演される1984年初演版のオーケストラ(4管編成)でとりわけ注目すべきは、ライヒのアンサンブル作品で中心的な役割を果たすマレット楽器が指揮台を囲むように配置され、視覚的にも聴覚的にもリズム(パルス)がこの曲の中心だとライヒが強調していること、そして弦5部が3声のカノンを頻繁に演奏するため、3つの小グループに分割されて配置されているという点である。

全5楽章はABCBAのアーチ構造で構成され、中間のCの第3楽章はそれ自体がABAのアーチ構造を内包している。それぞれの楽章は和音のサイクル(循環)に基づいて作曲され、第1楽章と第5楽章、第2楽章と第4楽章、第3楽章がそれぞれ固有のサイクルを持つ。さらに、第2楽章と第4楽章、第3楽章の両セクション(IIIAとIIIC)は、それぞれ同じ歌詞が用いられている。かくして、切れ目なく演奏される全曲は、第1楽章でパルスのリズムと和音のサイクルを提示し、第3楽章中間のIIIBで折り返し地点に達した後、それまでの往路を復路として帰っていくように逆行し、第5楽章の最後で冒頭のパルス音と和音のサイクルに回帰する。

このような構造に加え、先に紹介したライヒの発言にもあるように、音楽にはテキストの内容が色濃く反映されている。具体的を挙げると、第2楽章と第4楽章の歌詞は、ライヒ自身の音楽とその聴取態度を自己言及的に表現したテキストとして歌われる。合唱が「半分ほど目を閉じてみよう。目で聴くわけではないのだから」と歌うのは、1970年代にライヒの音楽に対して貼られた「睡眠音楽」「トランス音楽」というレッテルに対する反論である。これに対し、半音階を多用した暗い第3楽章では音楽外の問題、すなわち原爆が扱われている。それを端的に表しているのが、第3楽章のIIIAとIIICで歌われる「ようやく願望を実現した以上、人類は願望を変えるか滅びるしかない」という黙示録的な歌詞であり、IIICでヴィオラが演奏するサイレン音すなわち”警報”である。そして、合唱がIIIBで「音楽の基本はテーマの繰り返しだ」と歌い始めると、音楽は”カノン地獄”と呼びたくなるような凄まじい対位法(カウンターポイント)に突入し、やがてカノンは「現状の解決」すなわち「解決すべき現実の諸問題 the facts to be resolved」という言葉を扱い始める。つまり、「繰り返し」を続けるライヒのミニマル・ミュージックと同様、たとえ難しくても、人類は「諸問題」に厭くことなく向き合っていかなければならないという言外の意味がそこに込められている。

なお、最後の第5楽章の歌詞に関して、ライヒはWCWのテキストを編集することで「最も先に光を届ける」人が具体的に誰なのか、敢えて明示を避けている。WCWの原詩ではトルストイ、孔子、ブッダ、リンカーンなどの人物が挙げられているが、原詩の文脈とライヒの作曲意図を踏まえ、歌詞の拙訳では「偉人」と曖昧にしておいた。

楽曲解説:前島秀国

(「JOE HISAISHI FUTURE ORCHESTAR CLASSICS Vol.7」コンサート・パンフレットより)

 

*パンフレットには両作品の歌詞/訳詞まで掲載されています

 

 

前島秀国さんは本公演に先駆けてスティーヴ・ライヒ「砂漠の音楽」についてのコラムも寄稿しています。楽曲解説をより深くまで補完するものとしてぜひご覧ください。

 

 

また公演翌日には山田治生さん(音楽評論家)によるコンサート・レビューも公開されました。本公演の見どころ聴きどころが凝縮された筆跡をお楽しみください。写真(The End of the World)はそこからお借りしています。

久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.7 | CLASSICNAVI
久石譲、スティーヴ・ライヒの世界観を存分に味わった歴史的な公演
公式サイト:https://classicnavi.jp/newsflash/post-19956/

 

 

 

ここからはレビューになります。

 

もうすでに情報が多すぎて何から書こうか。ファン目線の補足くらいになるべくシンプルに書いていこうと思います。

久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICSは、これまでベートーヴェンやブラームスといったクラシック音楽の交響曲全曲演奏などを進めてきました。現代音楽だけでプログラムする記念すべき公演になります。そしてスティーヴ・ライヒ作品の日本初演、これだけでも並々ならぬ意気込みを感じるコンサート前夜です。

リハーサルも約1週間をかけて行われています。今年は「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.11」との2週にわたるスペシャル・ウィーク、期間中リハーサルも同時進行で行われたことがSNS記録からわかります。頁末にまとめています。あとでゆっくり楽しんでください。

 

 

久石譲:The End of the World

今でこそ交響曲第1番~第3番と発表している久石譲ですが、その前までは多楽章からなるシンフォニー作品が交響曲ばりの大作とファンのなかでは位置づけられていました。その中の重要な一作品「The End of the World」です。これまでの変遷や楽曲解説は素晴らしくきれいにまとめられています、いつでも上に戻ってご覧ください。

ここでは感想だけ。久石譲版対抗配置です。2015年からの変更点は、チューブラー・ベルズが後方の打楽器群のなかに並ぶのではなく、対抗配置の第1ヴァイオリンとチェロそしてコントラバスに囲われる中方左側に位置していたことです。この作品におけるテーマ性としての重要さ、そして音楽的先導役としての重要さを象徴しているようでした。

第1楽章、従来の陰影さを覆っていたティンパニから、強いアクセントへと変わっていました。久石譲版ベートーヴェン交響曲ではティンパニがよく効いていたように、同じスコアをもとにしながらかなり力強く前面に押し出しています。これだけでも序盤から目をそらせない気迫が十二分に伝わってきます。

第2楽章、中間部の4ビートになるパートで少し変わっていました。2015年音源ではそこはシンバルを中心にリズムを刻んでいますが、本公演ではスネアのリム(枠打ち)に始まり、徐々にヘッド(面打ち)はもちろんバスドラムのキックやタムタムも加わっていき、ドラムセットを惜しみなく操るジャジーなスティックさばきを展開しています。セッションさながら自然に体もノリます。第1楽章もそうですが、改訂とまではいかない大きく構造を変えずにできる微修正といった印象です。

第3楽章、よかったです。2015年のときは組曲DEADからちょっと入れてみました的感覚が少し残ってたんですけど(個人の受け止め方の問題です)、今ここにきてがちっとハマった、他の楽章としっかり結びついてここにないといけない楽章だとしっかり感じとることができました。素晴らしくよかったです。

第4楽章、ピークに向かって音楽は着実に駆け上がっていき膨れ上がっていきます。東京混声合唱団のコーラスも素晴らしかったです。オーケストラと対等でありながら、ダイナミクスもアクセントも見事にシンクロしています。そうしてオーケストラと合唱団はステージ上でひとつの巨大な生き物として渾然とそびえ立つように迫力に圧倒されます。

リコンポーズ、支配する弦楽の不協和音が美しい。歌い出しにも弦楽が加わっていたと思います。2015年版ここはピアノやハープだけの伴奏です。弦楽の厚みは編成規模からくるところもあるかもしれませんが、その精緻で重層的な響かせかたが第3楽章からの流れをみてもつながっていて、エンドロールにふさわしい。ここもまた4つの楽章+1の違和感が一層なくなり、この歌をもって大きな作品が完結することを心の底から実感できました。

エラ・テイラーさんは、ジブリ・スクリーンコンサート「JOE HISAISHI SYMPHONIC CONCERT: Music from the Studio Ghibli Films of Hayao Miyazaki」2023年ロンドン、2024年パリ、ドイツなどで共演を重ねています。押しつけることのないまっすぐな歌声と、息が立ち上がる瞬間から息が切れるところまでの繊細さや胸が高鳴ってくる力強さまで、ずうっと聴き惚れていました。ほんと心に沁みました。

「The End of the World」過去一の名演でした。たしかに作品の進化に合わせて2009-2010年、2015年と演奏頻度もそう多くはありません。ここにきて作品のもつ巨大な存在感や久石譲作品において極めて極めて!重要な一作品であることをまた思い知らされました。正直どちらがプログラム先行後行でも良かったんじゃないかと思えるほど甲乙つけがたい。どちらも約40-45分ならなる久石譲作品とスティーヴ・ライヒ作品、とてつもないバランスで拮抗していたと感じています。作品が終わってもすぐに拍手をすることが出来ないほど息をのむ緊張感と凄みがありました。

サントリーホールの響きがまた素晴らしい。第2楽章の向井航さんのチェロ独奏(FOC、MFコンサートでもおなじみ)、林田和之さんのサクソフォン独奏(たくさんの久石譲コンサートでおなじみ)、そして中間部の一瞬の弦楽四重奏パートなどなど、とにかく音が立ってる。FOCは室内オーケストラで中ホール開催が多いです。今回は大編成なこともあってサントリーホールが選ばれているとも思いますが、編成規模に関わらずまたやってほしい、いつでもやってほしい、そう思ってやみません。

 

 

スティーヴ・ライヒ:砂漠の音楽

繰り返しお伝えします。楽曲解説や評論家レビューをご覧ください。それが一番です。

この作品が遂に日本で聴けるんだ絶対行く、というほどの馴染みがありません。プログラムで初めて知った、次にコンサートまで少し予習した、そんな作品です。だから繰り返し…

とにかく贅沢極まりない大編成なんです。上述の山田治生さんのレビューには「舞台には、4管編成の大オーケストラ(弦楽器は3群に分かれる)、10名の打楽器奏者(ティンパニを含む)、4名の鍵盤楽器奏者(ピアノとシンセサイザー)、そして混声合唱が並ぶ。」とあります。そうなんですね。本公演のスティーヴ・ライヒ時間の写真は現時点でどの方面からもあがらないので参考の舞台配置図です。全く同じではありませんでしたが、こんなステージ見たことないとはっと驚きます。一大イベントなフォーメーションだと一目瞭然です。見たこともないし聴いたこともない、それもそう実現難しかった日本初演ですから。すごい。この大所帯が精緻にミニマルを築きあげるんですから。すごい。

 

from [Steve Reich] The Desert Music (Score-Video) YouTube

 

作品のことは語れるほどないのが残念です、大人しくしゃべりません。久石譲ファンから感じたことだけ言わせてもらいます。「The End of the World」と「砂漠の音楽」、同じようなリズム動機も登場するし同じようなハーモニーを響かせたりもします。また、久石譲は両作品とも現代的アプローチで臨んでいるから、ダイナミズムやアクセントの表現も共通点を感じる場面が幾度あります。そこで突如現れてきたのが、「砂漠の音楽」を演奏しているのに表裏一体で「The End of the World」が浮かび上がってくるという瞬間です。そう感じたことに驚嘆しました。

この二つの作品には、同じミニマル作家として共鳴している音楽的素材があります。平たく言うと、このフレーズとか和音って久石譲のほうにもあったよねというのを、そんなことはわかっていると言わんばかりに、久石譲はそれを躊躇することなく堂々とした指揮で導き共振させています。意図的に「The End of the World」を連想させたということではありません。本公演の二つのプログラムが一体化して本日の大きなメインディッシュとなっていると感じたからです。これには唸らざるを得ません。久石譲の作曲家/指揮者として築きあげてみせた巨大構造物に驚嘆したのです、という息は荒いけどちょっと伝わりにくいかもな感じたことでした。

 

久石譲は過去にもスティーヴ・ライヒ作品を演奏会で取り上げています。2015年には「エイト・ラインズ」(『久石譲 presents MUSIC FUTURE 2015』ライブ音源収録)を、2016年には「シティ・ライフ」(『久石譲 presents MUSIC FUTURE II』ライヴ音源収録)を。またMUSIC FUTURE海外公演などではミニマルのリズムをわかりやすく紹介する「クラッピング・ミュージック」をイントロダクションに置いたり、2024年10月には日本センチュリー交響楽団定期演奏会にて「デュエット~2つの独奏ヴァイオリンと弦楽オーケストラのための」がプログラム予定になっています。

 

 

終演後、拍手は鳴りやまず久石さんは何回も何回もカーテンコールに応えてくれました。待望の久石譲「The End of the World」再演、そしてスティーヴ・ライヒ「砂漠の音楽」日本初演、プログラムの満足感は観客の大きな拍手となって跳ね返りました。

本公演はライブ配信はなし、記録用カメラのみです。こんな公演が会場に来た人だけしか味わえないなんて心から残念です。それは置いといたとしても、それは記録しないとダメでしょう、というか新聞からクラシック音楽誌までメディアはちゃんと取材に来てるんですか、ちゃんとプレス招いているんですか、そんな余計なお世話を一人ピリピリしていました。だって、そのくらい久石譲にとっても歴史的な公演です。しっかり各方面に取り上げてもらって一ページに刻んでほしいところです。そうして、そうして広く知れ渡ったその先に音源化や映像化を強く切望します。あとはあとは、FUTURE ORCESTRA CLASSICSで久石譲作品「The End of the World」「Sinfonia」「Oribis」あたりをしっかり録音するっていうのは、結構あり得てほしい期待値膨らみます。古典作品から現代作品まで培ってきたFOCの成果を久石譲作品で照らし返してほしい、心から願っています。

 

 

会場のCD販売コーナーでは、『JOE HISAISHI IN VIENNA』CD/LPと『久石譲 FOC シューベルト交響曲第7番・第8番』購入者《先着60名限定サイン会》もありました。先のMFコンサートで念願のサイン会再開となりましたが、どちらのコンサートも海外客も多いです。サイン会もそうなるから英語話せるスタッフさんをと大変です。予想もしていなかったギフトに日本土産に貴重ですね。本公演では久石譲さんの他、近藤薫さん(ヴァイオリン)向井航さん(チェロ)高島拓哉さん(オーボエ)もサイン会に参加いただいたようです。事前告知も予告もありません。行ったらわかるラッキーなチャンスこれからまたあるといいですね。

 

 

みんなのコンサート・レポート紹介

会場でもお会いしたファンつながりショーさんのコンサート・レポートです。気さくにオーケストラ演奏会の様子を伝えてくれます。これ言ってもいいかな(笑)えっと、「後半は眠ってしまうかも」なんて休憩時間に言われてましたけどなんのその終わったら「あっという間だった!」って表情明るく楽しそうでした。すっかりミニマルにもハマっているレポートお楽しみください。ほかにもお会いできた皆さん楽しいひとときをありがとうございました。

ファン歴も長く過去数多くのコンサート・レポートが収められています。本公演1週間前の「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.11」コンサートにも行かれています。

JOE HISAISHI FUTURE ORCHESTRA CLASSICS VOL.7(2024.8.1) – Sho’s PROJECT OMOHASE BLOG 改 seconda

久石譲コンサート オーナーの鑑賞履歴 – Sho’s PROJECT OMOHASE BLOG 改 seconda

 

 

 

 

リハーサル風景

今年はMFコンサート(7/25,26)も控えながらリハーサルもMF・FOCと同時進行で行われていたことがわかります

7月24日

from 東京混声合唱団(東混)公式X
https://x.com/TokyoKonsei

 

東混日記[vol.21]東混日記に久石譲さん登場!久石譲フューチャー・オーケストラ・クラシックスのリハーサル風景&インタビュー(約4分)

from 東京混声合唱団公式YouTubeチャンネル

 

 

7月28日

スタジオ・リハーサル

from 久石譲コンサート@WDO/FOC/MF公式X
https://x.com/joehisaishi2019

 

from 東京混声合唱団(東混)公式X

 

 

 

7月29日

ホール・リハーサル

場所をホールに移して本番をイメージしながらと熱の入れよう

from 久石譲コンサート@WDO/FOC/MF公式X

 

ピアノは、作曲家・指揮者・ピアニスト・チェンバリスト・オリガリストと幅広い鈴木優人さん。もう一人は、MFコンサートVol.11でもピアノ・オルガンとしてMusic Future Bandメンバーの鈴木慎崇さん

from 東京混声合唱団(東混)公式X

 

from Masato Suzuki 鈴木 優人 公式X
https://x.com/eugenesuzuki

 

 

7月30日

from 久石譲コンサート@WDO/FOC/MF公式X

 

コントラバス城満太郎さん(3枚目)も新日本フィルハーモニー交響楽団やたしか過去FOCコンサートでもおなじみじゃないかと

from 東京混声合唱団(東混)公式X

 

 

7月31日(ゲネプロ)

ほか

from 東京混声合唱団(東混)公式X

 

 

7月31日(公演1日目)

from 久石譲コンサート@WDO/FOC/MF公式X

 

8月1日(公演2日目)

from 久石譲コンサート@WDO/FOC/MF公式X

 

7月28日~7月31日 Posted

ほか

リハーサル風景の動画もあります(たくさん!)

from 久石譲本人公式インスタグラム
https://www.instagram.com/joehisaishi_composer/

 

 

公演風景

ほか

公演風景の動画もあります

from 久石譲本人公式インスタグラム

 

from 東京混声合唱団(東混)公式X

 

 

 

コンサート前後には、FOCメンバーや合唱団からの投稿やオフショットが満載です。今回は多すぎて紹介できませんが、ぜに気になるメンバーや楽器のSNSをチェックしてみてください。また久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋アカウントでは、見つけれたものはいいね!したりリポストしたりコンサート前後でわいわいやっています。フォローいただけたらタイムラインで共有できると思います。ぜひ見逃さないこぼさないひとつのガイドにしてください。

久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋 X(Twitter)
https://x.com/hibikihajimecom

 

 

FOCシリーズ

 

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

Blog. 「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.11」コンサート・レポート

Posted on 2024/07/28

7月25,26日開催「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.11」コンサートです。今年は「JOE HISAISHI FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.7」(7/31-8/1)とのスペシャルウィークです。久石譲の3大コンサート(WDO,FOC,MF)のうち2つのコンサートがこの夏一挙開催です。

 

 

JOE HISAISHI presents MUSIC FUTURE Vol.11

[公演期間]  
2024/07/25,26

[公演回数]
2公演
東京・紀尾井ホール

[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:Music Future Band

[曲目]
フィリップ・グラス / 久石譲:2 Pages Recomposed
フィリップ・グラス:弦楽四重奏曲 第5番

—-intermission—-

デヴィッド・ラング:Breathless
マックス・リヒター / 久石譲:On the Nature of Daylight
久石譲:The Chamber Symphony No.3 *世界初演

[参考作品]

久石譲 presents MUSIC FUTURE IV

 

 

まずは会場で配られたコンサート・パンフレットからご紹介します。

 

 

11回目を迎える今年のMUSIC FUTURE(MF)は僕のLarge Ensembleの新、旧作品を含めて木管、金管、ストリングカルテットの作品を配置したとても良いプログラムだと思っています。各楽器の特性を活かした現代の作品がカラフルに今日の世界を表現してくれます。またYoung Composer’s Competition(YCC)の作品も演奏します。今年はイタリアの若き作曲家が登場します。アートでエンターテインメントする!僕の最も好きな言葉です。楽しい一夜になることを期待しています。

久石譲

 

私の友人である久石譲氏が、今回のMUSIC FUTUREで私の作品を演奏すると聞いてとても嬉しく思っています。私は既に弦楽四重奏曲第4番という大変「シリアスな」カルテットを書いていましたが、「String Quartet No.5」(1991年)は、おそらくすべての中で最も重要なテーマである音楽性そのものについての作品でした。

MUSIC FUTUREでは、久石譲の編曲による「2 Pages」も演奏されます。この曲は、音楽の素材を大幅に削ぎ落としていた時期のものです。実際、この曲には5つの音しかありません。新しい表現言語を発展させていた頃の作品です。久石氏の編曲は、音楽に新たな命や新たな色彩を音楽にもたらします。それはもともと意図されていなかったものかもしれませんが、そうした色彩や彼のエネルギーを歓迎します。

フィリップ・グラス

 

私の作品である「Breathless」を演奏してくださる久石譲氏と素晴らしい奏者の皆さんに大変感謝いたします。

私にとって、木管五重奏はいつも非民主的なアンサンブルのように思われます。高音の楽器がメロディーを奏で、低音の楽器がそれを支えているからです。そこで、各楽器がより平等になる曲を作れないかと考えました。そべての楽器が常に演奏し、常に同じものを演奏し、そのそれぞれが、ほぼ同一の音楽的要素からほぼユニゾンの大きな全体が形成されていく連続的な流れに寄与するような曲を考案したのです。最後にすべての音符を数えてみると(誰がそんなことをしたがるかは分かりませんが)、各楽器がほぼ完全に同じ数の音符を演奏しているとわかるでしょう。この曲を書いたときに、私には自分の作品がジャン=リュック=ゴダールによる同名の素晴らしい映画(訳注:邦題『勝手にしやがれ』)と関連があると確信していたのですが、どんな関連性があると考えていたのか、今では思い出せません。

デヴィッド・ラング

 

 

The Chamber Symphony No.3
Joe Hisaishi

 2020年にピアニストの滑川真希さん、Philharmonie de Paris、Art Electronica Festivalからの共同委嘱で作曲を開始したが、Covid-19によりコンサートが2022年に延期されたため楽曲の仕上げも2022年の春となった。

 当初、Sonatineと題して3楽章の楽曲として完成したが、作曲が遅かったせいで初演は第3楽章のToccataのみとなった。誠に反省しているのだが、その時の真希さんのパフォーマンスはパリの観客を完全に魅了した。

 そして今年MUSIC FUTURE用に書き直せないか?と思いつき、1月より編曲を試みたが、実際原曲自体も修正して全く別の作品に仕上がった。そこでタイトルもThe Chamber Symphony No.3(室内交響曲第3番)とした。

 4月には完成したが、元々ピアノのソロという制約もあったので同時に多くの要素を入れることはできなかった。そのため2声部を基本に作曲したので(のちに3声部に変えたため作曲が大幅に遅れた)、それを活かせる方法として僕のSingle Track Musicという単旋律を基本としたオーケストレーションを導入した。その説明は省くが、その方法によりピアニスティックなパッセージとうまくマッチして立体的な楽曲に仕上がった。

 全3楽章、約22分の作品となった。

久石譲

(「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.11 コンサート・パンフレット」より)

 

*全作品の楽曲解説は前島秀国氏によって本公演のために書き下ろされています。(久石譲作品は久石譲本人による)

 

 

 

ここからはレビューになります。

 

 

まだ出会ったことのない新しい音楽を体験するコンサート、それがMUSIC FUTUREコンサートです。今回もわからないけど面白いを存分に浴びてきました。

 

第5回 Young Composer’s Competition

開場18時から開演19時までの間に設けられました。18時半から司会進行の依田謙一さん、審査を務めた久石譲さん、足本憲治さんが登壇され講評が行われました。お話のなかで印象的だったのは、今年は国際色豊かに41作品の応募がありこれは他のコンペと比べても多いほうだということでした。

過去には、ミニマル系の作品が選ばれることが多かったですが、今回はもっと範囲を広げて募集要項にもある「聴衆と高いコミュニケーション能力をもつ作品」から不協和音の現代作品が受賞となったとありました。優秀作品および一次通過4作品の音源と講評は公式サイトにて公開されています(※音源は冒頭のみ)。

国立音楽大学の学生による弦楽四重奏で演奏されました。演奏者の一人が2日目高熱を患い、急遽代役を立て朝からみっちり練習して今から臨むことも紹介され、とても気合と熱量のこもった演奏をひりひりと感じることができました。

 

◆第5回Young Composer’s Competition優秀作品
「SOL D’Oriente Fantasia for string quartet」
作曲者:Fabio Luppi

公式サイト:第5回 Young Composerʼs Competition
https://joehisaishi-concert.com/comp2024-jp/

 

 

2 Pages Recomposed
Philip Glass / Joe Hisaishi

約15分の作品。弦楽器5、フルート、オーボエ、クラリネット、バスーン、ホルン、トランペット、トロンボーン、オルガン、マリンバ、パーカッション(※楽器編成はステージ目視による、以下同)。2018年開催「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.5」にて初演されました。そのライヴ音源が『MUSIC FUTURE IV』(2019)に収録されています。久石譲の単旋律という手法によって再構成された作品です。

About “Single Track Music” ( written by 久石譲)

”スタイルは僕が提唱しているSingle Track Musicという手法で構成している。ここでは和音がなく、ただ単旋律が変容しながら続いていく。だが、ある音が高音に配置され、またある音が低音に配置されると3声のフーガの様に聴こえ、発音時は同じ音でもそれがエコーのように弾き伸ばされると和音的効果も生まれる。”

単旋律を解説したものです。久石譲は自作品のなかでこの手法を積極的に盛り込んでいて、それらは一つの作品一つの楽曲の中に語法のパーツとして使われていることも多いです。言葉を音楽でわかりやすく体感するのには、単旋律のみで構成された記念すべき第1作品目「Single Track Music 1」(サクソフォン四重奏と打楽器版・2015年/『Minima_Rhythm II』収録)や、この曲「2 Pages Recomposed」が理解を助けてくれます。脳と耳を総動員して、なるほどこんなことが起こっているんだ、とわかってくるとぐっと面白さが見えてきます。

 

 

String Quartet No.5
Philip Glass

約22分の作品。全5楽章は続けて演奏されます。冒頭からうっとりするような美しいハーモニー、そこから一気に快活になっていく華やかで気品をまとったミニマリズムです。同系色の弦楽器たちが色彩感豊かに次々に場面転換していくさまは、聴いているだけで楽しいどんどん惹き込まれていきます。とにかくこの作品は眉間にしわを寄せて難しい顔をしながら聴く音楽じゃありません。親しみやすくきっと百人百様なイメージができあがると思います。フィリップ・グラス本人も作品解説など全く言及していないようです。委嘱したクロノス・クァルテットの演奏も音源化されています。マイナー調のハーモニーが特徴的なフィリップ・グラスにこんな作品があったなんて、百聞は一見に如かずです。

 

 

Breathless
David Lang

約13分の作品。フルート、オーボエ、クラリネット、バスーン、ホルン。音楽的に難しいといいますか、今行われていることを掴み取ろうとすることが難しい作品でありました。ただ、すべての楽器が均等に共振している響きや、すべての楽器が十全に役割をまっとうしている様子は見てとることができます。デヴィッド・ラングのコメントは明確でわかりやすい。

言っていることはわかっても音楽的な要素はつかめない。こういう時は潔く諦めて音楽に身を委ねてしまうのが一番です。ひとつポイントを絞って楽しみ方を見つけます。今回は木管五重奏かつ弱音で進む曲というのもあって、それぞれの楽器がとても溶け合って聴こえました。なので、隣同士のバスーンとホルンに注目して、音似てるけど今鳴ったフレーズはどっちだろう、と耳を鍛えたいゲームをしていました。この作品も音源はありますが耳だけで聴き分けることは超高難度です。生演奏だからこその贅沢な遊びです。

曲はだんだんクレッシェンドしていき、次第に強音へと変化していきます。その時に現れるのは、それぞれ楽器の性格がわかる音色です。もう目を閉じてもバスーンとホルンを聴き間違えることはありません。ずっと同じ旋律を繰り返しているだろうなか、はっきりと特色が浮き立ってきます。ともすると、この作品は社会的要素が潜んでいるのだろうか、平等・協調・個性、そんなことまでは考えないようにしながら力を抜いて身を委ねていました。

 

 

On the Nature of Daylight
Max Richter / Joe Hisaishi

約6分の作品。トランペット、ホルン2、バスーン、トロンボーン2、クラリネット。マックス・リヒターの代名詞的な楽曲です。作曲家は知らなくても曲は聴いたことある人も多いと思います。とても汎用性が高く、映画だけでも有名どころで7本以上の作品に使われています。もうここまでくるとクラシックです。個人的にもお気に入りのこの曲については、一曲たっぷり調べ書いたことがあります。

久石譲のアレンジは、原曲の骨格そのままに楽器を置き換えたものです。弦楽の響きとはまた異なる厳かな雰囲気に仕立てられていました。基調となる旋律を奏し続けるホルンは2奏者を立てて交互に受け渡すように演奏していたり、ヴァイオリン役のトランペットには補佐でクラリネットがユニゾンしていたり(立ち位置も補佐らしくトランペット後方に)、繊細な楽曲とその響きに配慮を尽くした久石譲版でした。

 

 

The Chamber Symphony No.3
Joe Hisaishi

約22分の作品。弦楽器5、フルート、オーボエ、クラリネット、バスーン、ホルン、トランペット、トロンボーン2(バストロンボーン)、パーカッション2、ピアノ。全3楽章からなる作品です。プログラムノートで「第3楽章 Toccata」、コンサート公式Xのリハーサル風景で「第1楽章 Symphonia」を知ることができますが、第2楽章のタイトルは現時点ではわかりません。

楽曲解説にあるとおり、「全3楽章からなるピアノソロ作品が元になっている」「2声部から3声部に変えた」「Single Track Music(単旋律)の手法を導入した」「ピアニスティックなパッセージとうまくマッチした」、このあたりのキーワードがこの作品を知る大きな手がかりになります。

第1楽章 Symphoniaは、主題となっているモチーフが変容していきます。1管編成16名のアンサンブルを活かしながらパンチの効いたパーカッション群も迫力があります。バロック音楽にバッハ「インヴェンションとシンフォニア」があります。インヴェンションは2声部のピアノ曲、シンフォニアは3声部のピアノ曲です。単旋律を導入しながらも、声部が多いためモチーフは対位法的に絡みあっています。

第2楽章は、聴きながら元となったピアノソロを一番想像しやすかったかもしれません。この楽章もモチーフが変容していきます。雰囲気的には、「The Black Fireworks II.Passing Away in the Sky」や「2 Dances II.Step to heaven」あるいは「2 Pieces II.Fisherman’s Wives and Golden Ratio」あたりを連想する場面もあります。これは音楽的アプローチや手法につながりがあり、そこからくる響きも影響していると思います。タイトルを考察するなら、3拍子を基調としていることからもScherzo(スケルツォ)とか、舞曲的側面もあるような気がしています。次の情報が待たれるところです。

第3楽章 Toccataは、強烈な最強音から始まります。スタジオジブリ音楽に馴染みがある人はすぐに「絶望」(映画『かぐや姫の物語』より)が頭を過るかもしれません。力強いパッセージが縦横無尽に飛び交っていきます。シンコペーションの効いたリズミックな旋律にワクワクします。ホルンの粒の細かい音型の繰り返しは「The Border Concerto for 3 Horns and Orchestra」(2020/『Minima_Rhythm IV ミニマリズム 4』収録)を連想する瞬間もあります。【トッカータ(伊: toccata)とは、主に鍵盤楽器による、速い走句(パッセージ)や細かな音形の変化などを伴った即興的な楽曲で、技巧的な表現が特徴。(Wikipediaより)】

近年の久石譲アンサンブル作品のなかでは「2 Dances」が最も激しい作品と思っていたなか、速さはともかく迫力は一歩抜け出すかもしれない、激しいけれどしっかり旋律的な動きもわかる、単旋律と3声部の見通しのよさのおかげか、、そんな「The Camber Symphony No.3」の世界初演を肌で感じれたことは好奇心が喜んでいます。いつかピアノソロ作品との差異も聴ける日を楽しみにしています。ピアノ版もきっとかなりかっこいい。

久石譲の室内交響曲第1番は「Chamber symphony for Electric Violin and Chamber Orchestra」(2015/『久石譲 presents MUSIC FUTURE 2015』収録)、室内交響曲第2番は「”The Black Fireworks” for Bandoneon and Chamber Orchestra」(2017/『久石譲 presents MUSIC FUTURE III』収録)です。

 

 

MUSIC FUTURE BANDは久石譲の呼び掛けのもとコンサートのために集結する変動型スタイルです。今年も顔なじみのコアメンバーを始め、錚々たる顔ぶれが一堂に会しています。MUSIC FUTURE初参加となる郷古廉さん(ヴァイオリン)は、映画『君たちはどう生きるか』の音楽収録でもFutune Orchestra Classicsのゲスト・コンサートマスターを務めていました。プログラムごとにステージ・セッティングも行われ、多彩な編成で観客の脳と耳をダイレクトに刺激してくれます。

Conductor久石譲

Violin1郷古廉、Violin2小林壱成、Viola中村洋乃理、Violoncello中実穂、Contrabass谷口拓史、Flute柳原佑介、Oboe坪池泉美、Clarinetマルコス・ペレス・ミランダ、Bassoon向後嵩雄、Horn福川伸陽,信末碩才、Trumpet辻本憲一、Trombone青木昴、Bass Trombone野々下興一、Percussion大場章裕,柴原誠、Piano/Organ鈴木慎嵩

 

 

今年は「JOE HISAISHI MUSIC FUTURE SPECIAL 2024」と題してMUSIC FUTURE(MF)とFUTURE ORCESTRA CLASSIC(FOC)が2週にわたって開催されるスペシャル・ウィークです。MF本公演から「On the Nature of Daylight」は当時イラク戦争へのプロテスト・ミュージックでもあります。「Breathless」は平等を音楽的アプローチから構築したものであり、そこからくる響きは前半は集団で融合し後半は個性をもって分離していくようにも感じました。次週のFOC公演はスティーヴ・ライヒも久石譲も核問題やテロをテーマにした作品が並びます。今年は、MFもFOCも戦争がテーマなのでしょうか。

そうしたときに、じゃあフィリップ・グラス「2 Pages」「弦楽四重奏曲第5番」はどうなんだとか、久石譲「The Chamber Symphony No.3」はどうなんだとか、こじつけつなげようとはせずにわからないものは今はそのまま置いておきます。次週のFOC公演も楽しみです。

会場のCD販売コーナーでは、『JOE HISAISHI IN VIENNA』購入者《先着50名限定サイン会》もありました。日本国内でサイン会が開かれるのはコロナ禍を経て約5年ぶりぐらいだと思います。事前告知も予告もありません。もしかしたら行ってわかるラッキーなチャンスこれからまたあるといいですね。

 

 

みんなのコンサート・レポート紹介

会場でもお会いしたファンつながりショーさんのコンサート・レポートです。会場の雰囲気からコンサートの細かいところまでたくさん伝わってきます。同じコンサートにいても見ているところや感じているところは一人ずつ全く違う、それもわかって読んでてとても楽しいです。ファン歴も長く過去数多くのコンサート・レポートが収められています。今となっては触れれるだけ貴重なページ、ぜひめくってみてくださいね。

JOE HISAISHI presents MUSIC FUTURE VOL.11(2024.7.26)
from Sho’s PROJECT OMOHASE BLOG 改 seconda

久石譲コンサート オーナーの鑑賞履歴
from Sho’s PROJECT OMOHASE BLOG 改 seconda

 

それから、国際色豊かに英文レポートです。コンサート一日のことが鮮明に記されています。作品ごとの聴く前と聴いた後のイメージの変化がよく伝わってきます。こういう感じ方もあるんだと学びながら楽しく読ませてもらいました。世界各地の映画音楽作曲家のコンサートに足を運びそのレポートがいっぱいです。今は日本を拠点とされているようです。ぜひWeb翻訳してお楽しみください。

Joe Hisaishi presents Music Future Vol. 11 (2024) – Soundtracks in Concert
from Soundtracks in Concert – Your one-stop source for soundtrack concert reports, reviews and more!

 

久石譲3大コンサートに久石譲指揮定期演奏会/特別演奏会にと足しげく参戦するふじかさんです。それうはもう聴きなれてる書きなれてるだけあって、そういう音楽なんだとイメージしやすい。ぜひお楽しみください。

 

 

Young Composer’s Competition 受賞作品の練習風景

from 久石譲公式X
https://x.com/official_joeh

 

 

リハーサル風景

from 久石譲コンサート@WDO/FOC/MF公式X
https://x.com/joehisaishi2019

 

 

 

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

Music Future Series

 

Disc. 久石譲指揮 フューチャー・オーケストラ・クラシックス『シューベルト:交響曲 第7番「未完成」&第8番「ザ・グレイト」』

2024年7月24日 CD発売 OVCL-00850

 

リズムとカンタービレの共存。爽快なシューベルト!

久石譲とFOCによるベートーヴェンとブラームスの交響曲全集は、リズムが際立つタイトで生き生きとした音楽がインパクトと反響を呼びました。当盤では切れ味の鋭いリズム、明瞭なハーモニーは推進力にあふれ、シューベルトの美しい旋律が流麗に歌い上げられます。日本の若手トッププレーヤーが集結したFOCによる、未来へ向かう音楽を、どうぞお楽しみください。

(CD帯より)

 

 

CDに寄せて

柴田克彦

久石譲は、2016年フューチャー・オーケストラ・クラシックス(FOC。当初はナガノ・チェンバー・オーケストラ)のベートーヴェン交響曲全曲演奏の開始時に、「作曲当時の小回りが効く編成で、現代的なリズムを活用した、ロックのようなベートーヴェン」、「巨大なオーケストラが戦艦やダンプカーだとすれば、こちらはモーターボートやスポーツカー」、「クラシック音楽もup to dateで進化するもの。必然的に現代における演奏があり、さらに未来へ向かって変わっていくべきだ」とのコンセプトを語っていた。その結果生まれたタイトで生気溢れる音楽は、絶大なインパクトを与えた。

2020年、次に挑んだのがブラームスの交響曲全曲演奏。ここでは、「基本コンセプトは同じ」としながらも、「ブラームスのリズムは重く、ベートーヴェンとは性格が違う」「必ず歌う」と語っていた。そして、造形美とロマンが共存した従来にはない演奏を実現させた。

本作は、久石&FOCがこれらに続いて2023年に取り組んだシューベルトの「未完成」&「ザ・グレイト」交響曲とアンコールの「ロザムンデ」間奏曲第3番のライヴ録音である。ここでは、「ソリッドでスポーツカーのような」、それでいて「しなやかな歌に溢れた」シューベルト演奏が展開されている。

シューベルトといえば”歌”である。従ってブラームス演奏の経験値も生きる。だが時代的にはベートーヴェンにグンと近い(ほぼ同時代だ)。今回の演奏は、これまで通りテンポが速く、響きもタイトで推進力に溢れている。そしてここでは、ベートーヴェンの際に久石が話していた2つの要素が重要なカギを握っている。

1つはダイナミクスだ。久石は「ベートーヴェンの凄さのシンプルな例は、mpとmfが一切ないこと。なのでp=弱く、f=強くと単純に考えてはいけない。pとfの表現は通常のmp,mfに近いので、状況によって弾き分け、ppとffは明確に表現する必要がある」と語っていたが、シューベルトも同様で、mpとmfがほぼ出てこない。よって今回その変化の細やかさが、新鮮なダイナミズムをもたらしている。

もう1つはリズム=拍子。ベートーヴェンの際の「1拍子がとても多い。例えば7番と第3楽章や9番の第2楽章。こうした場合、3拍子の表記を1拍子にグルーピングしなくてはいけない」との言葉が、ここでも生かされている。明確なのは、「未完成」の第2楽章、「ザ・グレイト」の第3、4楽章だが、全体にこれが基本的な方向性だ。従って、テンポが速いだけでなく、リズムが明解で自然な躍動感に富んでいる。

「未完成」の第1楽章から快速テンポで刻みも明確。各旋律もそれに乗って歌われる。第2楽章は3/8拍子の1小節が1拍の1拍子。ここはアンダンテ「コン・モート=動きをもって」でもあるので、弛緩しない歌が爽快に続いていく。

「ザ・グレイト」の第1楽章の序奏は、2/2拍子の1拍がアンダンテでかなり速く進む。これはピリオド勢の台頭以降ままある形だが、特筆すべきは流麗さと各声部の見通しの良さだ。これにはモダン楽器のメリットが生かされてもいる。主部は無闇に速すぎないテンポで進行する。ここはアレグロ「ノン・トロッポ=はなはだしくなく」ゆえに、序奏との差は少なくて当然だ。第2楽章はやはりアンダンテ「コン・モート」。連綿と歌い上げられるのではなく、刻まれるリズムに即応しての歌が続く。第3楽章は「1拍子」が真価を発揮した軽やかなスケルツォ。第4楽章は旋律やリズムの執拗な反復が生気を保ちながら変幻していく。また、時に冗長な第3、第4楽章のリピートも、繰り返しが生み出す夢幻の推進力に繋がっている。

「ザ・グレイト」はベートーヴェンの交響曲第7番同様に”リズムとカンタービレの共存”が図られた音楽なのだ。本盤の演奏はそのことを明解に伝えてくれる。

これは「慣例的な表現を排した」清新なシューベルトだ。それは同時に「現代における必然的な演奏」であり「未来へ向かう演奏」でもある。

(しばた・かつひこ)

(CDライナーノーツより)

 

 

曲目解説
寺西基之

シューベルト:交響曲 第7番 ロ短調 D.759《未完成》

生涯通してウィーンを本拠に活動したフランツ・ペーター・シューベルト(1797ー1828)は早くから楽才を発揮し、少年期から交響曲を手掛けている。それらの初期の交響曲では、伝統的な交響曲の様式と自らのロマン的な資質をどう結び付けるかについて様々な可能性を探っていることが窺えるが、このCDで演奏されている後期の2つの交響曲 第7番ロ短調と第8番ハ長調(かつてはそれぞれ第8番・第9番と呼ばれていたが、作品目録改訂版で番号が繰り上げられた)においては、もはや伝統的な交響曲のあり方にこだわらない、情感の広がりに重点を置いた彼独自の様式を打ち立てることになる。

とはいえその第1曲目のロ短調交響曲は2つの楽章しか仕上げられなかった未完の作である。シューベルトは第3楽章の初めの部分で作曲を打ち切った。その理由は不明だが、彼自身到達した新たなロマン的な交響曲様式を実際の作品としてどう纏めるかという点でまだ迷うところがあったのかもしれないし、この交響曲を作曲中の1822年12月に梅毒にかかっていることが判明し、身体と精神の両面で危機に陥ったことが関係しているのかもしれない。もっともシューベルトが作品を作曲中途で止めることは以前にもよくあったことで、未完で放置された作品が彼の場合特別な例ではなかったという点は留意したい。いずれにせよ2楽章までの自筆譜はその後友人のヨーゼフ・ヒュッテンブレンナーに手渡され、彼の机の中で世に知られず眠ることとなる。やっとシューベルト死後37年経た1865年ンに指揮者ヨハン・ヘルベックがこの作品の存在を知り、同年12月17日ウィーンにおいてヘルベックの指揮で初演が行われ、以後この曲は未完の”完結した”作品として親しまれるようになった。シューベルトのそれまでの交響曲には見られない、夢の世界をさ迷うようなロマン的特質を持った作品で、彼の後期の作風が如実に示された傑作となっている。

第1楽章(アレグロ・モデラート)はソナタ形式で、低く不気味に示される8小節の序奏主題が楽章全体の重要な要素となり、悲劇的な暗さとロマン的詩情の交錯のうちに発展、展開部では激情的な高まりを築く。第2楽章(アンダンテ・コン・モート)はホ長調の夢見るような緩徐楽章だが、一見平安な叙情美の裏に不安定に移ろう情緒が漂っている。

 

シューベルト:交響曲 第8番 ハ長調 D.944《ザ・グレイト》

《未完成》交響曲で自らの資質を生かした独自の交響曲様式を見出したシューベルトは、このハ長調交響曲でそれを初めて完全な作品として示すこととなる。かつてないロマン的な気宇壮大な広がりを持ったこの交響曲を聴いたシューマンは「天国的な長さ」と評しているが、並列的ともいえる独自の構成法ー主題や動機の執拗な反復、和声の色合いの変移による気分の変転や突然の飛躍ーで情感の移ろいを表現するその書法は、古典派の交響曲とは異なり、まさにロマン的と呼ぶにふさわしいものといえるだろう。

長らくこのハ長調交響曲は1828年(すなわち死の年)に短期間で書かれたと思われていた。しかし近年の研究では1825年に着手され、1826年に完成されたことが判明している。シューベルトはウィーン楽友協会にこの作品を献呈したいと打診し、協会側もこれを受け入れた。しかし私的な試演でこの作品のあまりの長さと独特のスタイルが問題となったのか、予定されていた初演は中止となり、作品はシューベルトの兄フェルディナントに渡されたままお蔵入りになってしまう。

この交響曲が日の目をみたのは作曲者死後11年経った1839年のことだった。この年の元日、フェルディナントの家を訪れたシューマンがこの交響曲の自筆譜を発見し、ただちにライプツィヒのゲヴァントハウス管弦楽団の指揮者だった親友のメンデルスゾーンに連絡をとった。そして同年3月21日にゲヴァントハウスの演奏会において、メンデルスゾーンの指揮によってようやくこの大作は初演されたのである。

第1楽章(アンダンテ~アレグロ・マ・ノン・トロッポ)は、2本のホルンの朗々たる旋律に始まる充実した序奏の後、ソナタ形式の主部となる。勢いある第1主題、木管に示される軽快な第2主題、トロンボーンに厳かに示される第3主題と、性格の異なる主題部が並列され、展開部では様々な情感の移ろいをみせる。第2楽章(アンダンテ・コン・モート)はイ短調による叙情的な緩徐楽章。オーボエに示される哀愁漂う主要主題とロマン的な憧憬の気分に満ちた副主題が交替する。第3楽章(スケルツォ、アレグロ・ヴィヴァーチェ)は躍動感溢れる堂々たるスケルツォ。のどかな牧歌的な主題によるトリオが挟まれる。第4楽章(アレグロ・ヴィヴァーチェ)は力感に満ちた第1主題と管楽器に歌われる第2主題を持つソナタ形式で、展開部ではベートーヴェンの第9交響曲の”歓喜の歌”の引用とおぼしき新主題も現れる。一定の動機やリズムを執拗に繰り返す独特の原理が生かされた大規模なフィナーレである。

 

シューベルト:劇音楽《キプロスの女王ロザムンデ》D.797より 第5曲 “間奏曲 第3番”

シューベルトは1823年にヘルミナ・フォン・シェジーの劇《キプロスの女王ロザムンデ》のための劇付随音楽を作曲した。これは1823年12月に上演されたが、シェジーの劇は内容の拙さゆえに完全な失敗に終わってしまう。しかしシューベルトの音楽は評価され、今日まで頻繁に演奏会で取り上げられてきた。

その中の”間奏曲 第3番”は第3幕と第4幕の間に置かれた曲で、この劇音楽の中でも”バレエ音楽第2番”とともにとりわけ親しまれている名品である。変ロ長調、アンダンティーノ、優美で穏やかな主要主題の間にやや動きのある短調の副主題が挟まれる。シューベルト自身この曲の主要主題を気に入っていたのか、のちに弦楽四重奏曲第13番イ短調Op.29/D.804(1824年)の第2楽章やピアノのための即興曲集Op.142/D.935(1827年)の第3曲変ロ長調に引用している。

(てらにし・もとゆき)

(CDライナーノーツより)

 

*ライナーノーツは全文とも日本文・英文にて収載

 

 

 

フューチャー・オーケストラ・クラシックス
Future Orchestra Classics(FOC)

2019年に久石譲の呼び掛けのもと新たな名称で再スタートを切ったオーケストラ。2016年から長野市芸術館を本拠地として活動していた元ナガノ・チェンバー・オーケストラ(NCO)を母体とし、国内外で活躍する若手トップクラスの演奏家たちが集結。作曲家・久石譲ならではの視点で分析したリズムを重視した演奏は、推進力と活力に溢れ、革新的なアプローチでクラシック音楽を現代に蘇らせる。久石作品を含む「現代の音楽」を織り交ぜたプログラムが好評を博している。2016年から3年をかけ、ベートーヴェンの交響曲全曲演奏に取り組んだ。久石がプロデュースする「MUSIC FUTURE」のコンセプトを取り込み、日本から世界へ発信するオーケストラとしての展開を目指している。

(CDライナーノーツより)

 

 

シューベルト(1797-1828)
交響曲 第7番 ロ短調 D759「未完成」

1. 1 Allegro moderato
2. 2 Andante con moto

交響曲 第8番 ハ長調 D944「ザ・グレイト」

3. 1 Andante – Allegro ma non troppo
4. 2 Andante con moto
5. 3 Scherzo: Allegro vivace
6. 4 Finale: Allegro Vivace

7. 劇音楽「キプロスの女王ロザムンデ」D797より 間奏曲 第3番

久石譲(指揮)
フューチャー・オーケストラ・クラシックス

2023年7月5日 東京オペラシティ コンサートホール、7月6日 長野市芸術館メインホールにてライヴ収録

高音質 DSD11.2MHz録音 [Hybrid Layer Disc]

 

Info. 2023/09/12 [CM] 「キリン よろこびがつなぐ」音楽:久石譲「Summer」使用 O.A.スタート 【7/22 update!!】

Posted on 2023/09/12

キリンビバレッジのCM「よろこびがつなぐ」に久石譲「Summer」が使用されています。映画『菊次郎の夏』(1999)メインテーマとして誕生した曲です。今回のCMは映画サントラ・オリジナル・バージョンです。

キリンはJFAのオフィシャルトップパートナーです。9月12日「キリンチャレンジカップ 2023」にて地上波初O.A.となったのは「サッカー編」です。 “Info. 2023/09/12 [CM] 「キリン よろこびがつなぐ」音楽:久石譲「Summer」使用 O.A.スタート 【7/22 update!!】” の続きを読む

Disc. 『君たちはどう生きるか』

2024年7月3日 発売
DVD VWDZ7535
Blu-ray VWBS7535
4K UHD VWBS7536

 

2023年公開映画『君たちはどう生きるか』

 

内容紹介
世界中で大ヒット、待望の劇場最新作
宮崎駿監督が描く黙示録

◆あれから10年 
 待望の劇場最新作、宮崎駿監督が描く黙示録

●豪華キャスト&アニメーション最高峰のスタッフが集結。
●「映画の原点に帰りたかった」  プロデューサー・鈴木敏夫
 → “宣伝をしない”宣伝により、期待感を醸成しエンターテイメントの話題を席巻。

◆世界中で大ヒット!数々の賞を獲得、日本アニメーション史上初の快挙!!
●米英アカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞受賞。
→第96回米国アカデミー賞® 長編アニメーション映画部門賞 受賞!
→第77回英国アカデミー賞 アニメーション映画賞 受賞!
→第81回ゴールデン・グローブ賞 アニメーション映画賞 受賞!

●日本:93億円突破、約626万人を動員。(2024/4/3現在)

●北米:23年12月8日に北米の2205館で公開され、初登場第1位を記録。スタジオジブリ作品の興収で過去最高記録を更新。
●フランス、イギリス、韓国、台湾ほか、劇場公開された国々で大ヒット。
●中国:24年4月3日に公開。オープニング興収・約21億円と中国における日本製アニメーションの記録を更新。
(2024/4/3現在)

◆豊富な商品ラインナップ!
●「DVD」、「ブルーレイ」、スタジオジブリ作品初となる「4K UHD」を発売。

◆豪華なコンテンツを収録!
●豪華ハリウッドスターによる英語吹替版を収録。
【英語吹替版キャスト】 眞人:ルカ・パドヴァン/青サギ:ロバート・パティンソン/キリコ:フローレンス・ピュー/
ヒミ:カレン・フクハラ/夏子:ジェンマ・チャン/勝一:クリスチャン・ベール/
老ペリカン:ウィレム・デフォー/インコ大王:デイブ・バウティスタ/大伯父:マーク・ハミル
●ブルーレイには多言語の字幕・音声を収録。
●絵コンテ全編収録。
●4K UHDはドルビービジョン、ドルビーアトモスを採用。

<キャスト>
眞人:山時聡真
青サギ/サギ男:菅田将暉
キリコ:柴咲コウ
ヒミ:あいみょん
夏子:木村佳乃
勝一:木村拓哉
いずみ:竹下景子
うたこ:風吹ジュン
えりこ:阿川佐和子
ワラワラ:滝沢カレン
あいこ:大竹しのぶ
インコ大王:國村 隼
老ペリカン:小林 薫
大伯父:火野正平

<スタッフ>
原作・脚本・監督:宮崎 駿
プロデューサー:鈴木敏夫
制作:星野康二、宮崎吾朗、中島清文
作画監督:本田 雄
美術監督:武重洋二
色彩設計:沼畑富美子、高柳加奈子
撮影監督:奥井 敦
音楽:久石 譲

主題歌「地球儀」
作詞・作曲・歌:米津玄師(Sony Music Labels Inc.)

制作:スタジオジブリ

© 2023 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli

※収録内容は変更となる場合がございます。

 

<映像特典>
■アフレコ台本 *ブルーレイ
■絵コンテ(本編映像とのピクチャー・イン・ピクチャー)約124分
■「地球儀」MV 約5分
■久石 譲 インタビュー 約10分
■予告編集 約9分
-北米版予告編
-フランス版予告編
-ドイツ版予告編
-スペイン版予告編
-韓国版予告編
-台湾版予告編
■SNSプロモーション用ショートムービー 約3分
-本田 雄 編
-山下明彦 編
-濱田高行 編
-井上俊之 編

 

 

[DVD] 君たちはどう生きるか
発売日:2024/07/03
商品内容:本編ディスク+特典ディスク(2枚組)
価格:5,170円(税込)

 

[Blu-ray Disc] 君たちはどう生きるか
発売日:2024/07/03
商品内容:ブルーレイ 1枚、特殊パッケージ仕様
価格:7,480円(税込)

 

[4K UHD] 君たちはどう生きるか
発売日:2024/07/03
商品内容:4K UHD 1枚、ブルーレイ 1枚、特殊パッケージ仕様
価格:11,880円(税込)

 

 

 

映像特典に収録された久石譲インタビュー(約10分)は、2024年1月30日に米アカデミー賞公式チャンネルにて動画公開されたものと同じ。(2024年7月3日現在 公開中)

 

詳細や動画よりテキスト化したものは下記にまとめている。

 

 

 

 

 

 

 

Info. 2024/07/24 久石譲&FOC『シューベルト:交響曲第7番「未完成」、第8番「ザ・グレイト」』CD発売決定!!

Posted on 2024/07/01

シューベルト:交響曲第7番「未完成」、第8番「ザ・グレイト」
久石譲&FOC

リズムとカンタービレの共存。
切れ味鋭い、爽快なシューベルト! “Info. 2024/07/24 久石譲&FOC『シューベルト:交響曲第7番「未完成」、第8番「ザ・グレイト」』CD発売決定!!” の続きを読む

Info. 2024/07/01 《速報》 「Hisaishi Conducts Hisaishi」久石譲コンサート(シカゴ)プログラム

Posted on 2024/07/01

2024年6月27-30日、久石譲コンサートがアメリカ・シカゴで開催されました。世界最高のオーケストラのひとつともいわれるシカゴ交響楽団デビューです。また、当初予定から30日公演が追加となるほどの熱烈な歓迎ぶりとなりました。最高のオール・久石譲・プログラムの4Days! “Info. 2024/07/01 《速報》 「Hisaishi Conducts Hisaishi」久石譲コンサート(シカゴ)プログラム” の続きを読む

Disc. 久石譲 『JOE HISAISHI IN VIENNA』

2024年6月28日 CD発売 UMCK-1762
2024年6月28日 LP発売 UMJK-9131/2

(世界同日リリース/日本盤のみ記載)

 

 

クラシック名門レーベル、ドイツ・グラモフォンからの第二弾アルバム!

久石譲の研ぎ澄まされた技巧と感性に焦点を当てた自作曲集。世界的名手、アントワン・タメスティ&ウィーン交響楽団との渾身の録音。

(CDカバーより)

 

 

久石譲のドイツ・グラモフォン第2弾アルバムは、クラシック作曲家及び指揮者としての研ぎ澄まされた技巧と感性に焦点を当てたクラシック作品集。

2021年に京都で初演された「Symphony No. 2」は本人指揮によりウィーン交響楽団とウィーン楽友協会で世界初録音。そしてこちらも世界初録音となる「Viola Saga」は著名なヴィオラ・ソリスト、アントワン・タメスティをフィーチャー。今作のリード・トラックでもあり、2022年の日本での初演時から評価の高い楽曲となっている。

演奏
久石譲(指揮)
ウィーン交響楽団(オーケストラ)
アントワン・タメスティ(ヴィオラ)※Track 4,5

録音
Track 1-3: 2023年3月 ウィーン楽友協会
Track 4-5: 2023年9月 ウィーン・コンツェルトハウス

(メーカー・インフォメーションより)

 

 

 

ブックレット

2023年3月30日、久石譲はいつものように満面の笑みを浮かべながら、ウィーンの名高い楽友協会大ホールにて開催されたコンサート・シリーズ「Cinema:Sound」第1回目の舞台にウィーン交響楽団を率いて登場した。日本の長野県で1950年に誕生した藤澤守は、クインシー・ジョーンズへのオマージュとして自身のアーティスト名を日本語表記で「久石譲」という漢字に当てていることで知られている。久石は、東京を拠点とする著名なアニメーション製作会社、スタジオ・ジブリのために書いた原曲の指揮をピアノ演奏をこのウィーンのコンサートで予定していた。スタジオ・ジブリは、偉大な作家(ストーリーテラー)である宮崎駿によって1985年に設立。『もののけ姫』、『千と千尋の神隠し』、『ハウルの動く城』等の最も印象的な宮崎映画の多くには、2023年当時72歳の久石が1970年代初頭以降手がけてきた通算100以上の作品の一部が含まれている。

だが、この公演は、自身の新作「Symphony No.2」の初演で幕を開けた。こうして指揮台でスポットライトを浴びる彼にとって、これはとりわけ重要な機会だった。つまり、ベートーヴェン、モーツァルト、そして(以前マーラーの別荘の複製(レプリカ)を建てたほどまでに)彼が心から敬愛する作曲家のマーラー等がかつてステージに立った楽友協会大ホールに久石が今回初めて足を踏み入れただけではなく、この時は、彼にとって初の「音楽の都」への訪問でもあった。彼はリハーサルの合間にウィーンの街並みを散策し、その驚嘆すべき文化的歴史のみならず、魔法にかかったような(マジカル)な雰囲気に刺激を受けたのである。当然、久石のこれまでの輝かしいキャリアにおいて、このコンサートが重要な節目となることは明らかだった。だが、それ以上に、彼の最高傑作のひとつであるこの作品を初披露するにあたり、ウィーンはまさに相応しい場所だった。

映画音楽は、偏見を持つ人たちから芸術性の低いものとして過小評価されることもあり、久石は、しばしば曖昧な含みを持ってジョン・ウィリアムズやハンス・ジマーと比較されてきた。その夜、多くの聴衆は、例えば初期の(北野監督作品への提供)曲が盛り込まれた「Mládí for Piano and Strings」に惹かれて会場に足を運んだことは間違いない。それにもかかわらず、「Symphony No.2」は聴衆にとって強力な新発見となった。以前から、久石は常に複数の音楽ジャンルに興味を搔き立てられており、彼の想像力(イマジネーション)が最も奔放に発揮されるのは、映画という課せられた構造から解放されたクラシック作品である。とはいえ、西洋の伝統的な交響曲やジャズ、そして特にイエロー・マジック・オーケストラのような電子音楽(エレクトロニカ)同様に、母国の豊かな音楽遺産からインスピレーションを見出した一方で、久石に最も音楽的影響を与えたのは、彼が傾倒してきたフィリップ・グラス、テリー・ライリー、スティーヴ・ライヒの音列主義(セリエル音楽)だろう。

必然的に、映画以外の久石作品では常にこのようなミニマリズム的傾向があるが、この「Symphony No.2」は元々のその(ミニマルな)傾向よりも遥かに複雑である。彼の映画音楽による贅沢なオーケストラ演奏と、主要なインスピレーション源であるリズミカルで明確な規律との間の隔たり(ギャップ)を埋めるこの曲は、強烈であると同時に親密で、大胆にもドラマティックであると同時に仄かに反復的でもある。この組み合わせによる累積的かつ潜在意識的な効果は唯一無二のものであり、疑いなく素晴らしい。久石は、広大なダイナミック・レンジと、堂々たるパーカッシブな楽器群と同様に重要な金管(ブラス)、弦(ストリングス)、管(ウィンド)等の幅広い楽器を生かすことにも喜びを感じているだろう。とはいうものの、想像力に富んだこの作品を通して、彼は「音楽が自然の法則と摂理に可能な限り近づくことに願いを込めて作曲する」という、自身の非凡な哲学に忠実であり続けている。

このウィーンでの演奏内容があまりにスリルに富んでいたため、新曲収録アルバムを初めてドイツ・グラモフォンに提供するにあたり、久石は「Symphony No.2」をスタジオ録音ではなく、大成功を収めた楽友協会での夜に収録した録音(テープ)を使うことにした。そして、その数ヵ月後、「Symphony No.2」と共にアルバムに収録される新曲のために彼はウィーンを再訪し、この地を象徴するもう一つの会場であるコンツェルトハウスにて、ソリストのアントワン・タメスティ、そして再びウィーン交響楽団と共演した。彼にとっては、自身のウィーン初訪問を際立たせたこの街の精神(スピリット)を再現することが重要であったのだ。同海上は聴衆不在だったが、彼らは一丸となり、もうひとつの新曲「Viola Saga」を演奏した。

人間の声に似ているという彼の考えに基づいて選ばれた、これまで十分に活用されていなかった楽器(ヴィオラ)のために協奏曲(コンチェルト)を書くことは、久石の長年の目標(ゴール)だった。この協奏曲は、繊細な冒頭から軽快な足取りで度々驚くべき方向へと踊り、その感情的(エモーショナル)な迫力は、その主題(テーマ)の豊かな反復と同様に力強い。マイケル・ナイマン風のエネルギッシュな音質がとりわけロマンティックな経過句(パッセージ)に貢献している中盤では、それがまさに表れている。しかし、久石の作品は、常に、こういったひとつひとつの要素を単に足し合わせたものではない。この協奏曲は瞑想的かつ厳粛でもあり、クライマックスを飾る最後の数分では心を打つような洗練さを描き出すというように、総合的魅力を堪能できるのである。

「Symphony No.2」同様に「Viola Saga」も、この最も独創的で多才な作曲家による名作である。中には、史上最高の久石作品と示唆する人さえいることだろう。オーストリアの首都を巡り歩き、伝説的な建造物に驚嘆し、この街の輝かしい過去を大いに堪能したこの静かな語り口の紳士は、彼に贈られる惜しみない賛辞に対しては、その唯一無二の愛すべき微笑みを嬉しそうに浮かべながら、もちろん謙遜することだろう。だが、たとえ彼が自身に贈られた賛辞を控えめに否定したとしても、『Joe Hisaishi in Vienna』は、この日本人作曲家が、ウィーンの偉大な作曲家たちの足跡を辿る者に与えられる喝采に値する人物であることを証明している。

2024年 ベルリンにて
ウィンダム・ウォレス

(翻訳:湯山惠子)

 

 

 

CDブックレットはインターナショナル盤(世界共通盤)をベーシックとする英文によるもの。日本国内盤は、加えて日本語翻訳ブックレットが封入されている。世界各国盤も同様の仕様をとって流通すると思われる。ブックレットに久石譲バイオグラフィやプログラムノートは収載されていない。

 

 

 

About “Symphony No.2”

Symphony No.2  (World Premiere)
2020年9月にパリとストラスブールで初演し、その後世界各地で演奏する予定だったが、パリは2022年4月、その他の都市も2022年以降に延期された。僕としては出来上がった曲の演奏を来年まで待てないので今回W.D.O.で世界初演することに決めた。

2020年の4~5月にかけて、東京から離れた仕事場で一気に作曲し、大方のオーケストレーションも施した。が、コンサートが延期になり香港映画などで忙しくなったこともあり、そのまま今日まで放置していた。当初は全4楽章を想定していたが、3楽章で完結していることを今回の仕上げの作業中に確信した。

この時期だからこそ重くないものを書きたかった。つまり純粋に音の運動性を追求する楽曲を目指した。36分くらいの作品になった。

Mov.1  What the world is now?
チェロより始まるフレーズが全体の単一モチーフであり、それのヴァリエーションによって構成した。またリズムの変化が音楽の表情を変える大きな要素でもある。

Mov.2  Variation 14
「Variation 14」として昨年のMUSIC FUTURE Vol.7において小編成で演奏した。テーマと14のヴァリエーション、それとコーダでできている。とてもリズミックな楽曲に仕上がった。ネット配信で観た海外の音楽関係者からも好評を得た。

Mov.3  Nursery rhyme
日本のわらべ歌をもとにミニマル的アプローチでどこまでシンフォニックになるかの実験作である。途中から変拍子のアップテンポになるがここもわらべ歌のヴァリエーションでできている。より日本的であることがむしろグローバルである!そんなことを意識して作曲した。約15分かかる大掛かりな曲になった。

(「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサート・パンフレット より)

 

 

作品レビュー

Mov.1  What the world is now?
荘厳な導入部です。上から下へ連なる2音がくり返す弦楽は、古典クラシック作品にもみられる崇高さあります。最小に切りつめられたモチーフが、ヴァリエーション(変奏)で展開していきます。中間部や終部に聴かれるパーカッションの炸裂も強烈です。急降下する旋律、下からせり上がってくる旋律、うねり旋回する旋律、それらの合間にアタックする最強音たち。単一モチーフ[レ・ファ・ド](D-F-C)および[レ・ファ・ド・ミ](D-F-C-E)の旋律とそこからくるハーモニーは、第3楽章の構成と響きにもつながっていくようです。(つづく)

Mov.2 Variation 14
次の第3楽章とはまた異なる、こちらもわらべ歌のようなテーマ(メロディ)とそのヴァリエーション(変奏)から構成された曲です。メロディがリズミカルになったり、付点リズムになったり、パーカッションや楽器群の出し入れの妙で楽しいリズミックおもちゃ箱のようです。遊び歌のようでもあり、お祭り音頭のようでもあります。日本津々浦々で聴けそうでもあり、海を渡って世界各地の風習や郷愁にもシンパシー感じそうでもあります。子どもたちが集まって遊びのなかで歌う歌、それがわらべ歌です。おはじきのような遊びも、世界各地で石をぶつけて同じように遊ぶものあったり、お祭りのようなリズム感は世界各地の祭事やカーニバルのような躍動感あります。(つづく)

Mov.3 Nursery rhyme
”ミニマル的アプローチでどこまでシンフォニックになるかの実験作である”、久石譲の楽曲解説からです。ここからはテーマ(メロディ)だけに注目して楽章冒頭を紐解いていきます。コントラバス第1群がD音から13小節のテーマを奏します。2巡目以降は12小節のテーマになります。本来は1コーラス=12小節のテーマでできていて、1巡目に1小節分だけ頭に加えているかたちです。「レーレレ/レーレミ、レーレーレー」(13小節版)、「レーレミ、レーレーレー」(12小節版)というように。なぜ、こうしているのかというと、かえるの歌の輪唱とは違うからです。かえるの歌はメロディ1小節ごとに、次の歌い出しが加わっていきますよね。なので、ズレて始まって、そのままズレズレて終わっていきます。

コントラバス第1群が2巡目に入るとき、同じ歌い出しの頭から、コントラバス第2群がA音から13小節のテーマを奏します。同じく2巡目以降は12小節のテーマになります。この手法によってズレていくんです、すごい!12小節のテーマだけなら、同じ歌い出しの頭から次が加わっていくと、メロディをハモるように重なりあってズレることはありません。でも、なんらかの意図と理由で、歌い出しの頭を統一しながらもズラしたい。だからすべて1巡目だけ13小節で、2巡目以降は12小節なんだと思います、すごい!テーマは低音域から高音域へとループしたまま引き継がれていきます。つづけて、チェロはE音から、ヴィオラはC音から、第2ヴァイオリンはG音から、第1ヴァイオリン第1群はB音から、最後に第1ヴァイオリン第2群はD音からと、壮大な太陽系を描くように紡いでいきます。そして全7巡回したころには、壮大なズレによる重厚なうねりを生みだしていることになります。対向配置なので、きれいにコントラバスから第1ヴァイオリンまで時計回りに一周する音響になることにも注目したい。さらに言うと、コントラバス第1群のD音に始まり、最終の第1ヴァイオリン第2群もD音で巡ってくるわけですが、このとき響きが短調ではないと思います。メロディの一音が替わっているからです。あれ? なんで同じD音からなのにヴァイオリンのときは抜けた広がりがあるんだろう、暗いイメージがない。ここからくるようです。(つづく)

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサート・レポート より抜粋)

 

 

「THE EAST LAND SYMPHONY」と「交響曲 第2番」の2作品だけを並べてみても、そこには大きな3つの要素があります。古典のクラシック手法、現代のミニマル手法、そして伝統の日本的なもの。この3つの要素と音楽の三要素(メロディ・ハーモニー・リズム)の壮大なる自乗によって、オリジナル性満ち溢れた久石譲交響曲は君臨しています。これは誰にもマネできるものではありません。《Minima_Rhythm for Symphony》、これこそまさに久石譲にしかつくれない交響曲であり、《総合的な久石譲音楽のかたち》と言うべきものです。

Overtone.第44回 新しいミニマリズムのかたち より抜粋)

 

 

「久石譲:交響曲第2番」第2楽章や第3楽章で《圧縮》《増殖》を聴くことができます。第3楽章「Nursery rhyme」はタイトルとおりわらべ唄のようなモチーフが登場します。フィナーレを迎えるラスト2分は、モチーフが幾重にも圧縮したり伸ばされたりで同時に奏でられいます。2分音符から16分音符まで、まさに上の譜面図のようになっています。もちろんシンプルではありませんから、カノン風に旋律はズレうねり、ピッコロ、オーボエ、トランペットらが掛け合うように装飾的に交錯しています。モチーフの増殖を螺旋のように描きあげながらピークを迎えます。

「久石譲:交響曲第2番」はまだ音源化されていません。そのなかで第2楽章「Variation 14」はアンサンブル版も作られ、こちらはリリースされています。例えば、7分あたりから1分間くらいの箇所は聴きとりやすいです。モチーフを高音ヴァイオリンらが16音符の速いパッセージで繰り返しているとき、低音チェロやトロンボーンらは4分音符に引き伸ばして奏しています。まるでベースラインのようなおもしろさですが同じモチーフです。そこへフルート、オーボエ、クラリネットらがまた、モチーフの素材を部分的にカラフルに奏してます。ここもまた《圧縮》と《増殖》が現れている状態といえます。

「Variation 14」には久石譲が推し進める《単旋律》の手法もあります。同じように低音で比べてみます。わかりやすいところで4分半あたりから1分間くらい、ときおりボンボンと不規則に鳴っているベースのようなパートは《単旋律》の音です。メロディライン(モチーフ)のなかの一音を同じところで同時に瞬間的に鳴らしている、そんな手法です。この楽曲の注目ポイントは、《単旋律》の手法と《圧縮》の手法をスムーズに切り替えながら構成されている妙です。さらにすごい、ラスト1分などは《単旋律》と《圧縮》の手法をミックスさせて繰り広げられています。だから厳密には《単旋律》(ドとかレとか同じ音だけ鳴っている)とは言えないかもしれませんが、それは理屈であってこだわらなくて大丈夫、《単旋律》オンリーもちゃんとやっています。この楽曲は、交響曲第2番第2楽章は、久石譲の近年作曲アプローチから《単旋律》と《圧縮》を昇華させ構築してみせた、すごいかたちなんです!(たぶん)聴くだけでもワクワク楽しい楽曲ですが、その中に技法もいっぱい詰まっているようです。ここだけでずっと話したくなる、またいつか語り合ってみたい。先に進めましょう。(つづく)

Overtone.第93回 メロディの圧縮?増殖? より抜粋)

 

 

 

About “Viola Saga”

久石譲:Viola Saga -for Orchestra-

久石譲(1950-)の《Viola Saga》は下記の作曲者自身の言葉にあるように、2022年10月に紀尾井ホールで開かれた『Music Future vol.9』で初演された作品を、2023年7月に東京オペラシティコンサートホールと長野市芸術館メインホールで開催された『Future Orchestra Classics vol.6』でオーケストラ作品に書き換えて再演したもの。前者の独奏者がナディア・シロタで、後者の独奏者が本日演奏することになったアントワン・タメスティでした。

Viola Sagaは2022年のMusic Future vol.9で初演した作品だが、今回Violaとオーケストラの協奏曲として再構成した。タイトルのSagaは日本語の「性ーさが」をローマ字書きしたもので意味は生まれつきの性質、もって生まれた性分、あるいはならわし、習慣などである。同時に英語読みのSagaは北欧中世の散文による英雄伝説とも言われている。あるいは長編冒険談などの意味もある。仮につけていた名前なのだが、今はこの言葉が良かったと思っている。曲は2つの楽曲でできていて、I.は軽快なリズムによるディベルティメント、II.は分散和音によるややエモーショナルな曲になっている。特にII.はアンコールで演奏できるようなわかりやすい曲を目指して作曲した。が、リズムはかなり複雑で演奏は容易ではない。(久石譲)

(「日本センチュリー交響楽団 第276回定期演奏会 2023年9,10月プログラム冊子」より)

 

 

「もともとオーケストラのなかでもヴィオラというのは目立たないんだけれども、僕はものすごく好きで。一番大きい理由は、人間の声に一番すごく感じがするんです。で、ヴィオラのためのコンチェルトを書きたいなと前から思っていて、それで今回チャレンジしたわけです。それともうひとつは、”Viola Saga”っていうのは、”Saga”というのは北欧系の物語という意味もあるので、一応仮のタイトルで”Viola Saga”と付けたんですが、なんかそれがもうずっと”Viola Saga”って言ってたらそれが普通になっちゃたんでそのままタイトルにしました。」

「”Viola Saga”は第2楽章が先にできたんですね。非常にこうわりとエモーショナルなわかりやすい曲を書こうと思っていて、それが出来たと思ったんですが、それでだいたい10分くらいなので、もう1曲その前にもう少しリズミックなものを書こう思ってこの曲をつくりました。そしたら意外に第1楽章のほうがものすごく難しくなっちゃってて。ヴィオラ奏者にも相当すごい負担がある状態だったんで、最初の演奏会の時は、もうほんとに最後まで曲が止まらないで演奏できたらいいなと思いました(笑)」

Info. 2023/06/30 「久石譲:Viola Saga」 グラモフォン「STAGE+」配信決定!! より一部抜粋)

 

 

 

作品レビュー

冒頭「ドー、ソー、レー、ラー、シ♭ーラシ♭ソー」と始まります。2オクターブにまたがる広い音域のモチーフです。実はこの最初の「ド、ソ、レ、ラ」はヴィオラの開放弦です。4本張られた弦の指を押さえない状態で鳴る低音から高音の4つの音。そこへケルティック感のあるハーモニーの重奏になっています。はい、ここだけでももう久石譲楽曲解説にある「Saga、生まれつきの性質、北欧中世の」を見事にクリアしています。すごい!着想もそうだしそれを音楽として魅力的にかたちにしてしまう。(つづく)

Blog. 「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.9」コンサート・レポート より抜粋)

 

 

ヴィオラがここまで主役で大活躍する作品ってそんなにないと思います。しかも、リズム主体でわくわくできてエモーショナルも感じる現代的な作品って、世界中にどのくらいあるんでしょうか。久石譲「コントラバス協奏曲」も、コントラバスってこんなに魅力的なんだと感じさせてくれる作品です。近い将来届けられるだろう「Viola Saga」の録音は、頻繁に聴くだろう自信があります。あわせて室内アンサンブル版も音源化してほしいですね。そうですね、室内アンサンブル版が銀のViola Sagaだとしたら、オーケストラ版は金のViola Saga、そのくらい印象も変わるし、それぞれにらしい輝きを放っている作品です。(つづく)

Blog. 「久石譲指揮 日本センチュリー交響楽団 第276回 定期演奏会」コンサート・レポート より抜粋)

 

 

 

 

リリースを迎えるまでの時系列インフォメーション、先行配信リリース、Music Video、久石譲インタビュー動画、アナログ盤などについてはこちらにまとめている。

 

 

久石譲
JOE HISAISHI IN VIENNA
SYMPHONY NO.2 ・ VIOLA SAGA
ANTOINE TAMESTIT・WIENER SYMPHONIKER

01. Symphony No. 2: I. What the World Is Now?
02. Symphony No. 2: II. Variation 14
03. Symphony No. 2: III. Nursery Rhyme
04. Viola Saga: Movement 1
05. Viola Saga: Movement 2

Total time – 0:59:16

 

All music composed & conducted by Joe Hisaishi

Orchestra: Wiener Symphoniker
Viola on Viola Saga by Antoine Tamestit

Symphony No.2 recorded by Philip Krause (Balance Engineer)
Viola Saga recorded by Stephan Flock (Balance Engineer);
Georg Burdicek (Recording Engineer)
Mixed by Tomoyoshi Ezaki (Octavia Records Inc.)
Mastered by Shigeki Fujino (Universal Music)
Recorded at Musikverein Vienna
Viola Saga recorded at Konzerthaus Vienna
Published by Wonder City Inc.

Executive Producer: Kleopatra Sofroniou
Marketing Manager: Murray Rose
Product Coordination Management: Sarah Reinecke
Creative Production Manager: Oliver Kreyssig
Portrait photo © Lukas Beck
Concert Photo © Andreas Bitesnich
Design: Florian Karg

℗ 2024 UNIVERSAL MUSIC LLC,
in collaboration with Deutsche Grammophon
Artwork © 2024 Deutsche Grammophon GmbH,
Mühlenstraße 25, 10243 Berlin