Disc. 久石譲 『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック 3 』

2011年11月9日 CD発売 TOCT-28020

 

司馬遼太郎の長編小説を原作とするスペシャルドラマ「坂の上の雲」。日本のテレビ史上これまでにないスケールを目指しNHKが総力を挙げて取り組んできたスペシャルドラマである。音楽を手掛けるのは日本を代表するコンポーザー久石譲。

本作は「ドラマ第3部」のために録音された新曲と「ドラマ第1部・第2部」使用曲より第1弾・第2弾サントラ未収録曲をまとめて一挙収録した豪華盤。視聴者の皆様から人気の高い「Stand Alone」の新ヴァージョンも収録。

壮大なスケール感。希望に満ちた旋律。坂の上の雲に向かってひたすらに歩み続けた明治人の世界が鮮やかによみがえるオリジナル・サウンドトラック。

(メーカーインフォメーションより)

 

 

寄稿

曲が自分を追い越していきました。

身体を通過して、物語を通過して、知らないうちに久石さんの音楽が物語の高揚感とか、もしくは後味みたいなものを先導している形になっていました。

一言でいえば頼もしいというか、守られているというか。ドラマの撮影中「Stand Alone」にそんな不思議な力を感じていました。

本木雅弘

(NHK BS「ザ☆スター」インタビューより談話抜粋・一部加筆修正)

(CDライナーノーツより)

 

 

久石譲さんのマジック

スペシャルドラマ「坂の上の雲」第3部は戦争を描いている。映像では砲煙が立ち込め、激しく土煙が舞い上がる。銃口からは火花が散り、何隻もの軍艦が波しぶきを立てながらターンしてゆく。戦争の映像を作るために、制作現場も戦争のようになっている。最新の映像合成技術は凄まじく、リアルな戦場の映像を作り出してゆく。しかしドラマ制作の手間が減った訳ではない。コンピューターのキーを叩けば映像が生み出されるものではなく、結局は手作業だ。多くのスタッフが精魂込めて作業している。職人仕事の積み重ねで映像ができてゆく。この10年間で、撮影から放送にいたるドラマの制作環境はデジタルへと変わったが、やることは変わらない。デジタルを使ったアナログな作業だ。議論と試行と失敗とを積み重ね、現場から番組が生まれる。

音楽も同じであると思う。久石譲さんとわれわれスタッフが議論を積み重ね、できるだけ音楽イメージを共有しようとする。音楽という言葉にならないものについて話し合っている現場は、傍からはかなり滑稽に見えるかもしれない。しかし、音楽が生まれる端緒はそういう現場である。

議論の場における、われわれのある種滑稽な言葉と未完成の映像が、久石さんのもとに残される。そこからは久石さんの作曲家としての孤独な作業だ。ドラマは大勢のスタッフと出演者の共同作業によって作られるが、その中でも孤独な仕事を強いられるのが脚本家と作曲家である。しかし、その孤独な仕事から生み出されるものは素晴らしい。脚本家の原稿の一行が迫真の映像となり、作曲家のスコアは大編成のオーケストラが奏でる美しい音響となる。

第3部の音楽では、ひとつだけわがままを言った。メインテーマである「Stand Alone」を麻衣さんに歌ってほしいということである。麻衣さんは久石さんの娘さんで、3年前に「Stand Alone」のデモを聴いたときに歌っていたのが麻衣さんだった。そのときの鮮烈な印象が忘れられず、是非にとお願いした。

新しい「Stand Alone」を聴いたとき、「鎮魂の祈り」と「未来への希望」という言葉が浮かんだ。このドラマの締め括りにふさわしい音楽になった。ひとつの曲がドラマの各部ごとに変貌を遂げたというだけでなく、この3年間の社会の変化を敏感に反映しているように感じる。久石さんのマジックである。

2011年9月

NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」
チーフ・プロデューサー 藤澤浩一

(CDライナーノーツより)

 

 

この「オリジナル・サウンドトラック 3 」は第3部新録音楽曲となる(1)~(13)と、第1部未収録楽曲となる(14)~(16)、第2部未収録楽曲となる(19)~(21)に、ボーナス・トラックの(20) (21)で構成されている。

(20)は「オリジナル・サウンドトラック 1」(以下 サントラ1)「オリジナル・サウンドトラック2」(以下 サントラ2)にも収録されている。

主題歌でありメインテーマの『Stand Alone』は、「サントラ1」「サントラ2」の既発6ヴァージョンとは別に、(16)にて、クラリネットとグロッケンシュピールによる温かい優しいメロディーになっている。

第3部で主題歌を歌っているのは、麻衣(13)。オーケストレーションも「サントラ1」「サントラ2」から変更されていて、新ヴァージョンに。混声合唱も入り、より透明感のある1曲となっている。

第3部の新録音楽曲からは、(1)は「サントラ1」の『(10)激動』とメインテーマ『Stand Alone』をモチーフにした序章、(2)は「サントラ1」の『(2)時代の風』をモチーフにするなど、第1-2部の流れをくみながらも、第3部はまさに戦争が描かれているだけあって、(6) (8) (11)は鳥肌が立つほどの勇壮な楽曲になっている。

第1部の未収録楽曲からは、「サントラ1」の『(3)旅立ち』をモチーフに、よりやさしい響きになっている(15)や、第2部の未収録楽曲からは、本編でも印象的に使用されていた(19)などが新たに加わっている。

そしてほんとにボーナスな1曲に仕上がっているのが、ボーナス・トラックの(21)。11分半にも及ぶ大曲となっていて、曲名からもわかるように、「坂の上の雲」の世界を凝縮した組曲『Saka No Ue No Kumo』。メインテーマ『Stand Alone』を軸に、核となる数曲を織り交ぜた一大叙情詩となっている。

 

 

 

久石譲 『坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック 3 』

第3部:新録音楽曲より
1. 第三部 序章
2. 孤影悄然
3. 大地と命と
4. 煉獄と浄罪
5. 二人の将
6. 絶望の砦 ~二〇三高地二起ツ~
7. 海と命と
8. 天気晴朗ナレドモ波高シ
9. AIR
10. 運命の死地
11. 日本海海戦
12. 終曲
13. Stand Alone / 久石譲×麻衣
第1部:未収録楽曲より
14. 少年の国 III
15. 夢
16. Stand Alone for Clarinet & Glockenspiel
第2部:未収録楽曲より
17. 大英帝国のテーマ
18. 獣たちの宴
19. 赤い花
ボーナス・トラック
20. Stand Alone with Piano / サラ・ブライトマン×久石譲
21. Saka No Ue No Kumo

音楽/久石譲
指揮/外山雄三 演奏/NHK交響楽団 (M11,M13,M21)
指揮/久石譲 演奏/東京ニューシティ管弦楽団

All Music Composed and Produced by 久石譲

Piano by 久石譲
Vocal by 麻衣 (M9,M13)
Chorus by 栗友会合唱団 (M13,M18)

Orchestrated by 山下康介 宮野幸子 久石譲

Recorded at NHK CR-506, CR-509 (M11,M13,M21) Nemo Studios (M20)
Mixed at NHK CP-604, CR-506

 

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