Blog. 久石譲「Piano Stories 2006 Asian X.T.C.」コンサート・パンフレットより

Posted on 2016/1/9

過去の久石譲コンサートから「Pianos Stories 2006 Joe Hisaishi Asian X.T.C.」コンサートツアーです。

1998年の初共演以来、意気投合し、複数のアルバム制作にもかかわった弦楽四重奏団バラネスク・カルテットを迎えての全国12公演でのツアー開催。バラネスク・カルテットとのCD制作やコンサート履歴は、また別の機会でスポットを当てて特集したいです。

 

 

Piano Stories 2006 Joe Hisaishi Asian X.T.C.

[公演期間]36 Piano Stories 2006 Joe Hisaishi Asian X.T.C.
2006/10/03 – 2006/10/26

[公演回数]
12公演
10/3 新潟・りゅーとぴあ コンサートホール
10/5 札幌・札幌コンサートホールKitara
10/7 富山・オーバードホール
10/9 福井・ハーモニーホールふくい
10/10 東京・東京芸術劇場
10/12 神奈川・ミューザ川崎 シンフォニーホール
10/13 東京・Bunkamuraオーチャードホール
10/17 岡山・倉敷市民会館
10/18 広島・広島厚生年金会館
10/19 福岡・福岡シンフォニーホール
10/24 大阪・ザ・シンフォニーホール
10/26 名古屋・愛知県芸術劇場

[編成]
ピアノ:久石譲
弦楽:バラネスク・カルテット
二胡:ジャン・リーチュン
古筝:ジャン・シャオチン
マリンバ:神谷百子
パーカッション:ヤヒロトモヒロ、今福健司
ベース:竹下欣伸
サクソフォーン:林田和之、西尾貴浩

[曲目]
[Ensemble]
794BDH
MKWAJU
DEAD 〜愛の歌〜
Tango X.T.C.

East (Balanescu Quartet)

[PIANO Solo +]
あの夏へ
Summer
Zai-Jian

Asian X.T.C.
A Chinese Tall Story
Venuses

[Asian X.T.C.]
Dawn of Asia
Hurly-Burly
Monkey Forest
Asian Crisis

もののけ姫
HANA-BI
Madness
Kid’s Return

—–アンコール—–
風のとおり道
Oriental Wind
アシタカとサン (Pf.solo)

 

補足)
パンフレットに掲載されていた演奏プログラム予定とは大きく異なっている。曲順や演目に変更が生じている。準備段階からリハーサルを経ての事前修正、さらには、ツアー開催期間中もプログラム変更が多少発生していると思われる。

上記セットリストは、いち会場で当日配布されたプログラム紙記録である。他会場では一部曲順の変更や曲の差し替えもあるかもしれないが、おそらく総合的には上記とほぼ差異はない。

 

 

官能的かつ魅惑的なステージで独特な雰囲気を演出した同コンサートの公式ツアー・パンフレットより。

 

 

アジア趣向の中にきらめく新たな「久石譲」のかたち
~New Album「Asian X.T.C.」をめぐって~

アジアをテーマに制作した最新アルバム「Asian X.T.C.」は、単にアジア風味が効いたポップス作品集に終わらず、そのままズバリ、久石譲という作曲家の現在を映す鏡となった。その一つの証左となるのがミニマル技法への回帰である。毅然と「今の僕は過渡期だ」と言い切るその表情には、作曲家として完成すること=巨匠への道を避け、新たな可能性を追い求める最前線の戦士としてのさわやかな野心がみなぎる。

「リセットしたというのかな。原点に戻るというよりも、らせんのように描いていって、その先でもう一回遭遇したような感じだね。ミニマルをベースにやってきた経験とポップスをやって培ったリズム感、単純にいうならノリ、グルーヴ感。それが両方きちんと息づいたところでの自分にしかできない曲。それを書いていこうと決心がついた最初のアルバムが『Asian X.T.C.』なんです」

アジアというテーマも伊達ではない。「美しく官能的でポップなアジア」と銘打たれたそこには、同時に深遠な東洋思想への共鳴があった。

「アジアって善と悪が共存していて、悪はダメっていう発想がない。人間が持っている二面性も決めなくていい、両方持っているのが自分なんだと。この考えにたどり着いたとき、やっとアルバムの方向が見えたんだね」

その「決心」はアルバム構成に具体的に集約された。映画やCM曲の楽曲群(陽サイド)と、ミニマル・ベースの楽曲群(陰サイド)がそれぞれ別個に固められて前後に並んでいる。まるでLPレコードの表裏を連想させる「二面性」をあえて1枚のディスクの中で訴えているのだ。統合性や平衡感覚に囚われず、はっきり違ったものがザクっと並んでいてもいいではないか。そんな力強い作曲者の声が、手に取るように伝わる。

「曲を書き終えたあとに初めて構成が決められたんです。とりあえず今、自分がやれることはこれなんだと。その決断ですね」

アルバムの詳細に今少し踏み込むなら、全11曲を収めたアルバムには、韓国映画「トンマッコルへようこそ」、中国映画「叔母さんのポストモダン生活」、香港映画「A Chinese Tall Story」の主題曲が盛り込まれており、最近目覚ましいアジア圏での作曲者の活動が簡潔に伝えられている。ピアノは久石自身が担当し、ゲストにバラネスク・カルテット、ギター・デュオのDEPAPEPEが連なり、二胡、古箏などの中国楽器も加わる。テーマに掲げられた「ポップ」とは要は「かっこいいこと」に通じ、「官能的」とはバリ島で刺激を受けたという闇、その体験談に顕著な「神秘性=ゾクゾク感」という表現に換言することができるだろう。音色といい、発想といい、整然とした世界がそこに広がる。

「僕は論理性を重んじて曲を書いています。でも、音楽ってそれだけでは通じない。直接脳に行っちゃう良さが歴然とあるわけだし、それは大事にしないといけない。そこまで行かないと作品にはならないね」

これまた今回のテーマを地でいく声として注目してよく、要するに感性と論理性の拮抗こそが作曲家・久石譲の本質であり、この二面性を正面から引き受けなければいけないという意識において、実のところ従来と変わらぬ野心と探究心の表れでもあろう。

アジアへの展望を通して、久石譲は新たな出発ちのときを迎えた。

取材・文=賀来タクト

 

Searching for ASIAN X.T.C.

アジアでの仕事をしているうちに、アジアをテーマにしたアルバムを作りたいと漠然と思った。でも、漠然としたイメージしかなくて、アジアの貧困や自然とか政治的要素とかそういうものを題材にするより、ポジティブな視線から、アジアの内に秘めた魅了するものを表現したいと思った。…そして、行き着いたのが「人」だった。アジア人の美しさ、魅力、かっこよさを、アジアのもっている、時間を超越した官能性みたいなものをテーマにして表そうと「Asian X.T.C.」というタイトルをつけた。でも、アジアのことを知ろうとすればするほど、わからなくなる。それは自分もアジア人であり、日本にいるから。外からアジアをみて、客観的になろうと。そして、ヨーロッパへ旅立った。ロンドンで、バラネスク・カルテットとレコーディングをしていくなかで、僕が作った音で彼らが東洋をどう感じるかということを大事にした。二胡、古箏などの伝統楽器は、リズムの出し方、音域などが限られていて、西洋楽器のようには融通がきかない。でも、アジアの楽器を軽くスパイスでというふうな使い方をしたくなかった。西洋と東洋の融合を目指した。僕の原点であるミニマルミュージックも今回は演奏するが、アジアとミニマルの組み合わせを一番効果的に表現できる、弦楽四重奏、コントラバス、二胡、古箏、サックス、マリンバ、パーカッションという編成にした。今回のツアーでは、西洋と東洋の情熱的なぶつかり合いをみなさんいも生で感じてもらえるのではないかと思う。僕自身も未知なる世界を開拓し、挑戦することに非常にワクワクしている。

久石譲

in BEIJIN アジアを探しに… 3.24~3.27
in LONDON レコーディング&TD 7.28~7.31 & 8.18~8.23

(「Piano Stories 2006 Joe Hisaishi Asian X.T.C.」コンサート・パンフレット より)

 

久石譲 『 Asian X.T.C.』

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