Posted on 2016/2/22
2007年公開 映画「マリと子犬の物語」
監督:猪俣隆一 音楽:久石譲
2004年の新潟県中越地震、実話を描いた絵本「山古志村のマリと三匹の子犬」をもとに映画化。
公開時映画館で販売された公式パンフレット内久石譲インタビューです。地震から数週間後に控えていた自身のコンサート新潟公演、そのエピソードまでを紹介しています。
INTERVIEW
文章でいえば、最後に句読点をつける役割が、映画音楽だと思います。英語で言うところの”アトモスフィア”、つまり、そのときの空気感や状況を表現していくこと。さらに人間の心理も表現する。映画の伝えたい事をピリオドで明確にして際立たせる。それが映画音楽だと僕は考えています。
この映画の導入は難しいんです。実際に山古志で地震が起こっているわけですから。出だしから災害がある、と予感させる手法もあるわけですよね。でも、最終的に監督が伝えたいことは希望。力強く、人々を励ます導入を目指しました。ストリングス(弦楽器)でさり気なく入っていくのが常套ではあるけれど、ここではいきなりブラス(管楽器)で始まるんです。
説明的な音楽にしたくありませんでした。たとえば、親が包み込む愛情は説明できるものはありませんからね。それに意外に長尺の映画なので、甘口の音楽をつけていくと、画面が流れてしまう。激しいところは激しく、明快に打ち出し、ダイナミックレンジをなるべく拡げるという作業を意識的にしましたね。予定調和に流れすぎると、観る側のインパクトはどんどんなくなっていきますから。
音楽の最も多い分、全体をどう構成していくか正直、作曲するときは苦しみました。通常よりも時間はかかったし、なかなか大変でしたね。メロディとメロディのひき出し方、その兼ね合いにいちばん悩みました。
この映画には悪役がいません。全員善い人なんです。だからこそ音楽的にあまり平和になりすぎると単調になってしまうので、それをお客さんがハラハラしながら見ていけるようにどう立体的にするのか考えました。
王道を往くオーケストラで、正統な映画音楽をこの映画にはつけたいと思いました。まず王道がしっかりあるからトリッキーなものが作れる。今、少なくなってきているこの王道を往く方法できちんとしたものを作っておかなければ、と思いましたね。この映画に関しては、スケール感のある音楽で包み込むということ。それができた手ごたえはあります。音楽が映像に寄り添っていくようにしたいと思っていました。
あの地震のときは、僕の実家がある長野もかなり揺れたようです。ですから他人事ではありませんでした。ちょうどコンサートツアーの直前でもあり、リハーサルをしているときでした。新潟公演も控えていたのですがそのような状況下で、はたしてコンサートをやっていいものかどうか、僕自身、かなり悩みましたね。コンサートは中止しようかという話もあったんです。そうしたら長岡のファンの方から一通の手紙をもらいました。そこには「いまは希望がないけれど、コンサートは何が何でも行きます。それが希望です」と書かれていて。それでやる決心がついたんです。その結果、新潟のコンサートは僕自身、燃焼することができましたし、パーフェクトな出来だったと思います。あの日は観客との素晴らしい一体感がありましたね。
久石譲
(映画「マリと子犬の物語」劇場用パンフレット より)
Production Notes
音楽
久石譲は、東宝の実写映画に久々の登板。近年は、宮崎駿監督や北野武監督の作品、中国・韓国の作品などでおなじみの巨匠だが、かつては『タスマニア物語』など、国民映画と呼ばれる作品も手がけていた。製作サイドは、”東宝のファミリームービーは実は久石さん向きなのではないか?”と考え、依頼。快諾していただいた。なお、猪俣隆一監督は大の久石ファン。冒頭、タイトルが出るまで延々音楽が流れる想定で撮影。久石自ら「音楽映画」と呼ぶほど、その楽曲を存分に鳴らしまくった。また、久石が作曲を手がけた主題歌「今、風の中で」を歌うのは平原綾香。実は平原は、中越地震とは縁が深い。震災後、FM長岡へのリクエストが相次いだことからデビュー曲「Jupiter」が”復興ソング”のように親しまれることとなり、2005年の長岡花火大会では、同曲を現地で熱唱しているのだ。今回の「今、風の中で」は被災者の方々に捧げられた1曲である。
(映画「マリと子犬の物語」劇場用パンフレット より)
久石譲インタビューにもあったように、地震が起こった2004年10月23日、その直後に行われたコンサートツアーは以下のとおり。
Joe Hisaishi Freedom Piano Stories 2004
[公演期間]
2004/11/3 ~ 2004/11/29
[公演回数]
全国14公演
11/3 相模原・グリーンホール相模大野
11/5 横浜・横浜みなとみらいホール大ホール
11/6 新潟・新潟市民芸術文化会館コンサートホール
11/9 名古屋・愛知県立芸術劇場コンサートホール
11/10 長野・長野県県民文化会館
11/12 広島・広島厚生年金会館
11/13 滋賀・びわ湖ホール
11/16 札幌・札幌コンサートホールKitara
11/18 埼玉・川口リリアメインホール
11/19 大阪・ザ・シンフォニーホ-ル
11/22 宮城・宮城県民会館
11/23 東京・Bunkamuraオーチャードホール
11/26 福岡・福岡シンフォニーホール
11/29 東京・東京オペラシティ
[編成]
ピアノ:久石譲
弦楽:アンジェル・デュボー&ラ・ピエタ
パーカッション:安江佐和子/二ツ木千由紀
[曲目]
【My Lost City】
1920~Madness
Two of Us
Tango X.T.C.
Quartet
【ETUDE2004 (for Pf,Vn,V Cell,Perc)】
夢の星空
Silence
a Wish to the Moon
【Freedom】
人生のメリーゴランド
Ikaros
Spring
Fragile Dream
Oriental Wind
【My Favorites】
Cave of Mind (弦楽合奏)
(候補曲)鳥の人 風のとおり道 もののけ姫
Asian Dream Song
—–アンコール—–
a Wish to the Moon
Summer
Kids Return
アシタカとサン (新潟)
新潟県中越地震からちょうど2週間後に日程が組まれていた新潟公演。公演前の経緯や公演の様子は上のインタビューにあるとおりで、実際に新潟公演のみアンコール曲が1曲多く演奏されています。
最終公演日でもない、新潟公演にて「アシタカとサン」が、久石譲によるピアノソロにて新潟の人たちに届けられた記録です。