Posted on 2016/5/7
雑誌「別冊KURA 《Nagano ARTOlé》 長野市芸術館開館記念BOOK」(4月20日発売)に久石譲のインタビューが掲載されています。
5月8日グランド・オープニングを迎える長野市芸術館、その芸術監督としての久石譲のインタビューになります。ほかにも開館記念BOOKだけあって、長野市芸術館の着工前から現在に至るまで、様々な切り口での総力取材がぎっしりつまっています。
本誌コンテンツ内容はこちらをご参照ください。
Info. 2016/04/20 [雑誌] 「Nagano ARTOlé -長野市芸術館開館記念BOOK-」発売
ここでは久石譲インタビューにフォーカスしてご紹介します。
SPECIAL INTERVIEW
「長野市で日常的に音楽を聴けるように。しかも、世界に出しても恥ずかしくないものを提供したいのです。」
長野市芸術館 芸術監督 久石譲
世界の久石譲が目指す長野市発の音楽とは
-改めて、長野市芸術館への思いをお聞かせください。
久石:
「僕は作曲家なので、長野市芸術館の芸術監督の話をいただくまでは、作曲や指揮活動以外のことには消極的でした。でも、社会還元も重要なことだと考え、引き受けました。芸術監督といっても、年間プログラムの作成など、細かい仕事も多いのですが、大きな目標が見えたんです。それは、長野市で日常的にいろいろな音楽を聴けるようにしていくこと。しかも、そこで演奏される内容は、決して長野限定ではなくて、世界中のどこに出しても恥ずかしくないものを提供すること。何年か先には、長野市民の皆さんにとって音楽が日常になっていて、このホールに足しげく通っていただける、それが理想であり、一番大事なことだと思っています。ホールで音楽を聴くことに対して、敷居が高いというイメージを持っている方もいるかもしれませんが、そこをできるだけ日常と繋げていく。市民の皆さんにも、演奏家にも、音楽を通してどんどん新しい体験をしてもらう。そういうことをきちんと取り組みたいと思います。毎年夏に開催する音楽フェスティバル「アートメントNAGANO」や、僕が長野市芸術館で立ち上げる室内オーケストラ「ナガノ・チェンバー・オーケストラ(NCO)」も、その構想の中に位置付け、世界を目指して継続してきたいと考えています。」
-久石さんにとって長野県はどういった場所ですか?
久石:
「あまり意識していないんですよ。でも、ここで生まれ育っているわけですから、今日(2016年1月18日)のように雪が降っているとうれしいです。皆さん「あいにくの雪で…」と言ってくださいますが、僕は素直に、うれしいって思います。意識的ではなくて無意識に、きっとどこかで長野の自然の恩恵を受けている、と感じています。僕の中には、長野で生まれ、日本で育ったというベーシックなものがあり、そこで培われたものも確かにあるわけですが、それを意識して前面に出して音楽活動をすることはありません。音楽は、いいものをつくるか、つくらないか。世界中どこでやっても、基本的には自分がやるべきことをきちっとやる、それだけです。」
音楽=論理的な構造で想像力を養う体験を
-以前、久石さんは、想像力を養うことの大切さについてお話しされていました。長野市芸術館での体験を通して、子どもや若い方たちに伝えたいことは。
久石:
「百聞は一見に如かずというように、いまの時代、すべての判断基準が視覚中心になっています。それはつまり、即物的になっている、とも言えます。目で見えるものが豊かだったり、物質が人間を豊かにするという、視覚の効果ですね。一方、音楽の話で言うと、たとえば「あ」という音には意味がない。でも、「あ」の次に「し」「た」とくると、はじめて意味を持ちますね。「あ・し・た」と言った時に時間の経過があります。音楽も、ドだけじゃ意味がない。ド・ソとか、ド・ミ・ソと音が続くことで、時間の経過が生まれてきます。時間の経過があるということは、そこに論理的な構造ができる。耳から入ってくると、非常に論理的にものごとを考えるということなんです。それをしなくなって、全部視覚で情報として処理していくとなると、アートは死んでいく。即物的なものの考え方ができてしまうと、そこにはもう想像力がなくなってしまうんですね。活字で「ここは広大な宇宙だった」とひと言書いてあるとします。すると、広大な宇宙を自分でイメージしますね。でも、映画で、広大な宇宙を表現したものを見ると、「ああ、これが宇宙か」と。視覚のほうが直接的で、そこには、想像力が入りづらくなってきます。想像力が養われないとどうなるかというと、人に対する思いやりが減ってしまうんです。たとえば、人と話している時、相手は僕のことを「小難しいやつだな」と思っているかもしれない。それに対して僕が「このまま小難しいやつで通そう」と思ったり(笑)、さまざまな思いが浮かびます。時間の経過の中で、相手のことを考えている。そうやってコミュニケーションは成り立っている。それが、おろそかになってはいないだろうか、と危惧しています。音楽に対しても、自分のイマジネーションや空想する力といったものをどんどん広げるためには、音楽をいっぱい聴いてもらったほうがいい、本もたくさん読んだほうがいい。長野市芸術館での体験を通して、想像力のおもしろさや大切さをみんなに投げかけられたらいいなと思っています。」
子どもたちに夢と希望を 世界初演の新作「祝典序曲」
-小さいお子さんにとっても、本物の音楽を聴かせてあげられるすばらしい機会ですね。
久石:
「その通りだと思います。僕は高校生までまともなオーケストラは聴いたことがなかったんです。長野市のホールで本格的なオーケストラを聴いたのは、高校一年だったと思います。その時すごく衝撃を受けました。すばらしいと思いました。同時に、もっと早い時にそういう経験をしていたらよかったな、とも思いました。これから、長野市芸術館で、絶えず一流の音楽を演奏していき、それを見てくれた小学生や中学生が「かっこいいな」「すごいな、自分もやりたいな」と思ってくれたら一番うれしいですよね。そういう場所になることを願っています。」
-5月8日のグランドオープニング・コンサートで、久石譲さんの新曲が演奏されると聞き、ワクワクしています。
久石:
「芸術監督を引き受けたからには、作曲家としてできることは、やはり曲をつくること。まず祝典序曲を書こう、と思いました。イメージは見えていますが、今はまだ曲を書いている段階なので、お話しできることは少ないのですが。ものをつくる人間は皆、そうだと思いますが、締切日が近づかないと完成しないんです(笑)。」
-5月8日を楽しみにしております。ありがとうございました。
(「別冊KURA 《Nagano ARTOlé》 長野市芸術館開館記念BOOK」より)