Blog. 「月刊ピアノ 2005年2月号」 久石譲 インタビュー内容

Posted on 2017/02/25

「月刊ピアノ 2005年2月号」に掲載された久石譲インタビュー内容です。

オリジナルアルバム『FREEDOM PIANO STORIES 4』を発表した時期になります。

 

 

 

こんな時代だから、作家はどうしても発言を”きちん”としたい。でも今回、なんかそれはちがうかなって予感はしていた。

2004年はまさに久石譲によって怒涛の1年となった。『ハウルの動く城』、無声映画『キートン将軍』、ポップス・オーケストラ”World Dream Orchestra”、『FREEDOM』ツアー、そしてソロアルバム制作。彼はこれからの活動や作品を通して、何を感じ、何を思い、そして何を我々に伝えようとしたのだろうか。日々進化を遂げる”久石ワールド”に深く迫った。

 

僕にとってこの『FREEDOM』は過渡期だったと思うんですよ

-新作『FREEDOM』のタイトルに込められた思いをうかがたいのですが。

久石:
「実は、サブタイトルに”心の自由を求めて”ってつけようかなって思ってたくらい、最近、なんとなく世の中に閉塞感があって生きづらくなってると思うんです。たとえば”なにかやろう”って思っても、結果がなんとなくわかっちゃうんですよね。そうすると”これやっても仕方がない””これもやっても先が見えてる”みたいな感じで自分のほうで壁を作っちゃってなにもやらなくなってきてる気がしてて。僕自身もそうだし、周りの人たちなんかを見ててもすごくそういうのを感じていて。だから、自分の中のそういうバリアをはずしてやったらもっと生きやすくなるんじゃないかなぁって。そんな思いからこういうコンセプトになったんです」

 

-前作の『ETUDE』は”夢はいつか叶う”というもっとシリアスなテーマでしたが。

久石:
「やっぱりね、『ETUDE』までいっちゃうと一般に聴いてくれる人たちとどんどん自分が離れていっちゃうんだよね。個人的にはあの延長が好きではあるんだけど、内面的に深くなりすぎるっていうことは作家の自己満足にも陥りやすいと思うから、一回きちんとコミュニケーション取れるラインまで戻す必要があったんだよね。だから、このアルバムのメロディアスで美しい感じとは裏腹に、制作現場は悲惨なくらい悩んだけどね。まあとにかく”肩の力抜いて!”っていう感じなんです。だから曲目も『伊右衛門』とか『進研ゼミ』とかすごくわかりやすいでしょ? 自分でもちょっと恥ずかしいなぁって思うくらい(笑)。今回は気楽に、朝とか昼間の光を浴びながら聴いてくれ!っていう感じかな」

 

-リリースも予定よりかなり遅れたそうですね。

久石:
「そう。予定ではツアーの前だから10月には出したかったんです。でも、いろんな仕事が重なってしまって。バスター・キートンの無声映画をやって、ワールド・ドリーム・オーケストラの夏のツアーがあって、アルバムも作って、『ハウルの動く城』でしょ? もう、はっきりいってくたびれ果ててしまって(笑)。それで、ふと我に返っちゃったんですね。こんなやり方でいいのかってね」

 

-結果的にはじっくり制作期間をもってよかったということですね?

久石:
「そうですね。僕にとってこの”FREEDOM”は過渡期だったと思うんですよ。いまの世の中みたいに価値観がボロボロに崩れだした時代は、作家ってどうしても発言をきちっとしたいんですよ。自分が感じる世の中だったりとか、僕もそうしたくなってたんですけど、でもなんかそれは違うなっていう予感だけがあって。それで悩んだんです。でも、結果的に宮崎さんの『ハウルの動く城』も、たとえば『もののけ姫』のときのような壮大な、”人間とは?”っていう問いかけはしていないですよね。決して重い作品ではないし。きっとこの時代に、シリアスな発言しても疲れきってる人間にそれ言ってなんになる? っていうことなんです。それだったら、隣の人とつながってるんだとか、一日一日の思いを大切にするんだとか、もっと身近なことを言うくらいがせいぜいかなって。だから僕にとっても、宮崎さんにとっても次のための準備期間でありオアシス的作品になったんじゃないかな」

 

-アーティストは、時代背景を意識するべきだとお考えですか。

久石:
「この時代に生きてるから影響は受けないはずないよね。ただ、その時代の断面を切り取って見せるだけだと、数年後に古びますよね。だからこの時代の状況をふまえて、そこからどう普遍的なモノを探すかっていうことなんですよ。なんかいまのちょっとカッコよかったね(笑)」

 

2004年はワルツの年だった。それが”ハウル”にも不思議とハマったんだね。

 

”芸術家”の生き方は、僕の性格に合ってなかったんだ(笑)

-映画『ハウルの動く城』では、公開に先立って制作されたイメージ・アルバムを10日間で書き上げられたと聞きました。

久石:
「はじめ、全然曲が書けなくて苦しんでたんですよ。でも、チェコ・フィルでやるのは決まってて日程は迫ってくるし。そこで、とりあえず八ヶ岳のスタジオにこもったんです。そうしたら、なんか急にパッと雲が晴れちゃって、100人編成のフルスコアが1日1曲、10日間で10曲書けちゃって。あれはちょっと異常でしたね。完全になにか降りてきたっていう感じ。なにがそうさせたのかは自分でもわからないんだ。ただ、あれを基準に考えないでってスタッフには言ってるよ(笑)」

 

-映画『ハウルの動く城』では、メインテーマ「人生のメリーゴーランド」の華麗なワルツが非常に印象的でした。

久石:
「あのね、僕にとって2004年はワルツの年だったんですよ。実は『ハウル~』だけじゃなくて、バスター・キートンもテーマがワルツだったし、ワールド・ドリーム・オーケストラでもショスタコーヴィチのワルツを演奏したし。すごくワルツに凝った1年だったなぁって。なんかね、ワルツのあのリズムっていうのが、前作の『ETUDE』なんかでちょっと行き過ぎちゃった自分をもう一回戻してくれたんだよね。それが『ハウル~』の映像にも不思議とハマったんだよね」

 

-そして、もうひとつ非常に驚いたのが、その「人生のメリーゴーランド」が、シーンごとにさまざまなバリエーションとなって流れてきたことです。

久石:
「あれは、実は宮崎さんの意図なんです。今回はソフィーというヒロインが90歳から18歳の間でどんどん表情が変わっていく。そこで一貫してこれはソフィーであるということを印象づけるために、そのときに必ず流れる音楽がほしいって要望があって。それは、宮崎さんの中でとっても重要だったんです。それで、実は劇中の全30曲中18曲がこのテーマのヴァリエーションなんです。これは作曲家にとっては、非常につらいんですよ。だって作曲の技術を駆使しなくちゃならないから(笑)。あるときは、ラブロマンス的なもの、あるときは勇壮で、あるときはユーモラスで。でも、大変ではあったけど仕上がりを観て、こういう意図を要求された宮崎さんはあらためてスゴイと思いましたね」

 

-宮崎さんとは、数多くの作品でご一緒されてますが、常に観客に新鮮さを与えてくれるのはなぜでしょうか?

久石:
「それはあくまで作曲家と映画監督という関係で、作ったものを中心に置いての対峙関係でずっとやってるから。たとえば、普段一緒にゴハンを食べたりも一切しないしね。でも、もう何十年も一緒にやってるからお互いの性格もよくわかるし、お互いに甘えとか妥協は絶対に許さないから。だから、一回そういう慣れ合ったやり方を提示したら次はないと思ってる。毎回まっさらになって取りかかるっていうことですよね。そして、2~3年後に宮崎さんの作品が来るころ、自分がどれだけ成長してるかなんだよね。だから大変ですよ(笑)。でも、宮崎さんは人間的にも素晴らしい人だから、一緒に仕事ができる喜びのようが強いんだよね」

 

-いまや、久石さんの音楽は世代を超えて幅広く愛されていますが、もともとは前衛的な現代音楽に傾倒されていたと聞きました。どんな心境の変化が?

久石:
「そう。もう観客なんてどうでもいいっていう音楽を死ぬほどやってましたから(笑)。20代は芸術家だったんですよ。聴衆とか関係なく、自分のやりたいこと、新しいことを求めてて。ただ、あるとき、理屈っぽい世界のありかたに疑問をもってしまって。でも、もちろん価値はあるんですよ。ただね、芸術家であろうという生き方と、大衆性をもった生き方があった場合、自分の性格が大衆性の方に合ってたんですよ。それが一番の理由かな」

 

-昨年も、本当に多忙を極めた1年となりましたが、今年はどんな活動を?

久石:
「ナイショ(笑)。いろいろやりたいことはあるけど、いつも先を決めちゃってこなさなきゃいけなくなるケースが多いから、今年は自分でまず何をやりたいかを見つめたい。だから、いまはいっさい宙ぶらりんって感じかな(笑)」

 

補)
掲載インタビューページ内、インタビュー撮影写真下のひと言コメントより。

久石:
「『ハウル~』のイメージアルバムは、自分で言うのもなんだけど後世に残らなきゃいけない作品だと思う。いつか絶対フルオーケストラでコンサートを実現させたいね」

久石:
「ワールド・ドリーム・オーケストラでは、世界中にある美しく素晴らしい曲を、どんどん皆さんに届けていきたいね」

(「月刊ピアノ 2005年2月号」より)

 

 

ちょうどこの頃の久石譲活動詳細は、書籍「35mm日記」にも綴られています。忙しい日々、『FREEDOM PIANO STORIES 4』の喧々諤々な制作現場、何が大変だったのか?!ぜひ本を手にとってみてください。

目次は下記作品ページでご紹介しています。

 

Book. 久石譲 「久石譲 35mm日記」

 

 

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