Posted on 2014/09/27
1984年公開 スタジオジブリ作品 宮崎駿監督
映画「風の谷のナウシカ」
映画公開と同年に発売された「ロマンアルバム」です。インタビュー集イメージスケッチなど、映画をより深く読み解くためのジブリ公式ガイドブックです。今では復刻版としても登場していますし、さらに新しい解説も織り交ぜた「ジブリの教科書」シリーズとしても刊行されています。
今回はその原本ともいえる「ロマンアルバム」より、もちろん1984年制作当時の音楽:久石譲の貴重なインタビューです。
「ナウシカを通して音楽を入れてみました」
-久石さんはシンセサイザーによるイメージアルバム、オーケストレーションによるシンフォニー、そしてサントラ盤のBGMと3種類の「ナウシカ」の音楽を作られていますね。
久石:
「そうです。まあ、モチーフとかメロディーは同じですけれども。最初のイメージレコードは昨年の8月から9月にかけて、原作を読んでそこから発想した音を作り上げていきました。シンセを中心にしてケーナ(笛の一種)とかターブラ(太鼓)、ダルシマ(ピアノの原型)といった民族楽器を使っています。
次のシンフォニーが11月から12月にかけての制作で、そのすぐあとにBGMのスコアを書き始めました。ぼくとしては一つのモチーフで3種類もレコードを作ったのは初めてですよ。だいたい映画のBGMまでずっと手がけるようになるとは予想していませんでしたからね。ぼくの場合はスタジオ入りの前の晩に作曲するとか、時には録音の合間に作ってしまうというやり方をしてるんで『ナウシカ』のメイン・テーマなんかもあまり苦労せずに作った感じなんですね。それが幸いにもスタッフの方たちに好評で、シンフォニーを作って、さらに映画までまかせていただいたわけで、大変幸せだと思っています」
-宮崎さんはイメージレコードが先にあったので、このシーンはこういう音楽がつくだろうというのがある程度わかっていたから、大変助かったとおっしゃっていましたね。
久石:
「いやあ、宮崎さんもそうですし特に高畑さんが音楽に大変くわしい方で、このお二人はもう異常に耳がいいみたいね(笑)。例えば最初に作った『腐海』という曲などは、後半に出てくるメロディーがドビュッシー的なので今度の映画には合わないんじゃないでしょうか──というくらいに突っこんだお話をなさるんです。曲のニュアンスがどうこうという点になると大変に熱心で、音楽の打ち合わせは毎回10時間くらい。えんえんとやっていましたよ(笑)」
-そうすると、実際に画面に流れるBGMの時が一番大変だったでしょうね(笑)。
久石:
「ええ。お二人ともメロディーはもう頭の中に入っているわけですから、じゃあこのテーマをもっと壮重な感じにして下さいとか、具体的な注文が次々に出てくるわけです。普通はある程度おまかせ的になるんですが、今回は音楽のイメージがはっきりしていますのでね」
-久石さんとしてはやりにくかった?
久石:
「ということではないんですが、大きな問題が二つあるんです。一つは、イメージが先行しテーマがたくさんありすぎるために、新しいイメージをつけ加えにくかったこと。出来上がった画面を見て、このシーンではもっとこういうふうにすればよかったとか、別のイメージが生まれてくる可能性も大きいわけですからね。それともうひとつは、作曲の段階ではオールラッシュをビデオにしたものを見ながら作っていったので、音がテレビ的に、小さな画面に合わせた感じになてしまうのではないかという危惧も生まれてきたんです」
-でも、劇場で見ると非常に映画的というか、拡がりを感じるんですが……。
久石:
「それは、そうしようと心がけましたから(笑)。でももう少しイメージを飛躍させてもよかったかなというところも、反省としてありますけどね」
-BGMとしてどこに一番注意なさいましたか?
久石:
「音楽のつけ方が普通の映画とは違う場所で入れているんですよね。感情の起伏につけるのではなく、状況的なものにつける。ユパが谷へ降りてくるシーンなんかで突然音楽が盛り上がっているでしょ?ああいうところで目いっぱい音楽を使って、そのかわりセリフの入るところや効果音の生きるところにはなるべくBGMを入れないというポリシーですね。
つまり、音楽をナウシカの目を通して入れているんです。ナウシカの感情につけるのではなく、ナウシカが見て感じるものに入れていったわけで、そうやってアニメの虚構の状況というものを浮き出させようとしたんです。わりと成功したんじゃないかと思いますよ」
(書籍「風の谷のナウシカ ロマンアルバム」より)
「ジブリの教科書 1 風の谷のナウシカ」(2013刊)にもオリジナル再掲載されています。
今から30年以上も前の作品です。
それにしては、ジブリ作品における音楽の在り方が、久石譲が音楽を担当したジブリ最新作 映画『かぐや姫の物語』(高畑勲監督)のそれと同じところも多いですね。
間違いなく映画音楽の扱われ方を変えた革命的作品、そして宮崎駿監督との奇跡の出会いによる記念すべき第1作『風の谷のナウシカ』。
今観ても、今聴いてもまったく色褪せることのないその理由が少しわかったようなインタビュー内容でした。
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