Blog. 久石譲 「天空の城ラピュタ」 インタビュー ロマンアルバムより

Posted on 2014/10/12

1986年公開 スタジオジブリ作品 宮崎駿監督
映画『天空の城ラピュタ』

映画公開と同年に発売された「ロマンアルバム」です。インタビュー集イメージスケッチなど、映画をより深く読み解くためのジブリ公式ガイドブックです。

今では復刻版としても登場していますし、さらに新しい解説も織り交ぜた「ジブリの教科書」シリーズとしても刊行されています。

今回はその原本ともいえる「ロマンアルバム」より、もちろん1986年制作当時の音楽:久石譲の貴重なインタビューです。

 

 

「こんなに密度の濃い音楽打ちあわせは初めてです」

-まず「ラピュタ」の音楽を書くにあたっての、基本的な考え方がどういうものだったのか、聞かせてください。

久石:
「基本コンセプトとしては、やはり映画のイメージというものを基礎にして、愛と夢と冒険の感じられる音楽にしようということでした。具体的にいうと、メロディをキチッと聞かせるものにしよう、それも、子どもたちが聞いて、心があたたかくなるようなものにしよう、というのが基本的な考え方ですね」

-でも、それは意外に難しいことですね。

久石:
「そうなんです。明るくて、しかも胸にジーンとくるような良さを持った曲というのは、なかなか作れませんからね。しかし、今回はそれにどうしても挑まなければならなかったと思います。それと、音とイメージは、あくまでもアコースティックにいこうと、はじめから考えました。『アリオン』の場合は、音のサンプルの数がひじょうに多かったわけで、この『ラピュタ』ではむしろシンプルなアコースティックの音が中心になっています」

-実際に音を聴きますと、かなり大編成のような感じがしますが。

久石:
「ええ。オーケストラは五十人編成でした。これは日本映画の場合、最も大きい編成といえると思いますね。なにしろ録音スタジオに入りきらないぐらいの人数でしたから。それと、シンセサイザーは、フェアライトのIIとIIIという最新型を使用しています。だから、予算的にも、通常の三倍ぐらいかかっていますね」

-今回も「ナウシカ」の場合と同じように、プロデューサーの高畑勲さんと、だいぶ綿密な打ちあわせをなさったようですね。

久石:
「いや、それほどでもなかったと思います。高畑さんとは前回の『ナウシカ』のときの経験がありますから、むしろかなりラフにやっていたと思います。

ただ密度そのものはかなり濃いんです。というのは、実際に映画用の音楽を書くまえに、イメージアルバム(『空から降ってきた少女』)を作っているでしょう。だから、高畑さんの頭にも、ぼくの頭にも、そのイメージアルバムのメロディが鳴っているわけです。たとえばこのシーンではあのテーマ、あのシーンには別のテーマ、というように、きわめて具体性があるんですね。おたがいにそのメロディを鳴らしながら、打ちあわせをしていくわけです。たぶんこんなことは、他の誰もやっていないでしょう。それだけレベルの高い打ちあわせなわけです。だから『ラピュタ』の音楽は、いわば二段階をへて書かれていったわけですね」

-実際の作業は、やはりラッシュ・フィルムのビデオを観ながら進めるわけですか。

久石:
「そうですね。技術的にいうと、音楽を絵にあわせていくのは、コンピューターが発達していますから、0(ゼロ)コンマ何秒というところまで、ピッタリあわせることが可能なんです。だから僕のほうとしては、コンマ何秒単位であわせていき、それを高畑さんと宮崎さんに検討してもらうということでした。

じつは高畑さんも、ここまで音楽の方がピッタリあうことは期待していなかったみたいですね。それと、テレビアニメじゃないので三十秒、四十秒といった短い音楽はつけていないんです。やはり映画は、三分、四分という長さを持った音楽でないと、全体に堂々とした感じになりません」

-今回意外に思ったのは、パズーが早朝小屋の上でトランペットを吹いたときのメロディなんですね。あの、ルネサンス期の音楽のような明るさを持ったメロディというのは、いままでの久石さんのメロディ・ラインになかったものですね。

久石:
「たしかにそうかもしれません。でも、ぼくにとっては身近な音楽なんです。というのは、大学のときに、バロック・アンサンブルの指揮をやっていたことがあったからなんです。それ以降なぜかエスニックな音楽の方へ行ってしまったので、意外と思われるかもしれないけれど、むしろそっちの方がぼくの原点に近いんですよね。

また、ぼくのメロディ・ラインは、スコットランドやアイルランドの民謡のような感じに近いんです。だから『ラピュタ』は、かなりぼくのもともとの持っている音楽に近いところでやれた作品なんです」

-映画のために作った音楽のなかで苦労した曲、あるいは、大変だったシーンなどはありますか。

久石:
「全体にスムーズに行ったんですが、難しいのが一曲だけありましてね。M-37というやつなんですが。パズーとシータが”天空の城”についたあと、気がついて、城の内部へ入っていき、その内部の様子や大樹をあおぎ見て、お墓の前に立つ、というシーンのための音楽なんです。これは解釈がすこしちがっていましたね。ぼくは、大樹やお墓というところから、壮大なそして神秘的な感じの曲を作ってしまったんですが、あそこはむしろ、マイナーでハートにしみいるような曲のほうがよかったんです。もの悲しさが必要だったんですね。

なぜそうなったかというと、ラッシュのビデオのなかに、色のついていない未完成の部分があって、それがだいじなカットだったわけですが、それをつかめていなかったんですね。この部分が唯一難しかったところといえますね。」

-今回は4ch・ドルビーというシステムだったんですが、その点については?

久石:
「高畑さん、宮崎さんをふくめて、ダビングのときにびっくりしましてね。映画はぜったい4chにしなきゃいけないと思いますね。音質とかダイナミック・レンジなんかでも、モノラルとは格段の差があって、この作品を4chとモノラルの両方で見たら別物に見えるぐらいのちがいがあるはずです。こういう作品こそ、ぜったいに4ch・ドルビーであるべきだと思いました。音楽の世界ではあたりまえのことなんですが、映画は音の点ではまだ遅れてますね。」

とにかく、アニメーションで『ラピュタ』以上の音楽は当分書けないでしょうね。そのぐらいの自信作です」

(天空の城ラピュタ ロマンアルバムより)

 

 

スタジオジブリがその手法を築き上げたといってもいい、ひとつの映画に対する音楽のイメージアルバムからサウンドトラックへという流れ。そして当時の映画ならびに映画音楽の位置づけや技術的な環境も垣間見れる貴重なインタビュー内容です。

初期のジブリ作品、とりわけ『ラピュタ』や『トトロ』などでは、生き生きとした映像にあわせて、コンマ何秒まで絵と音楽がシンクロした、躍動感あり、そしてコミカルでもある、音楽が多くつけられています。

『ラピュタ』でいうと、ドーラ一族と鉱夫たちの愉快なケンカシーンでも、そしてあの名場面パズーがシータを救出するシーンでも。M-37のインタビューのくだりは、興味深かったですね。おそらくサウンドトラック収録の「月光の雲海」がそうなのでしょうか。メインテーマが印象的に使用されている、記憶に残る1曲です。

そして、最後のインタビューコメントをいい意味で覆すようですが、この後も『ラピュタ』に並ぶ、『ラピュタ』を超える?!、数々の名曲たちが生まれていきます。

 

 

「ジブリの教科書 2 天空の城ラピュタ」(2013刊)にもオリジナル再収録されています。

ジブリの教科書 2 天空の城ラピュタ

 

 

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