Blog. 久石譲 新作『WORKS IV』ができるまで -まとめ-

Posted on 2014/11/18

10月8日、久石譲待望の新作CD『Works IV -Dream of W.D.O.』が発売されました。

お伝えしているとおり、この作品は、8月9日・10日に行われた「久石譲&WORLD DREAM ORCHESTRA 2014」(W.D.O)コンサートをLiveレコーディングし、かつCDのクオリティーを追求した作品として仕上げたものです。

2013年の映画作品をメインにサウンドトラックの音楽を新たに構成、音楽的作品としてオーケストレーションし直し豪華に昇華させた楽曲たちが並びます。

まず一聴しての感想は、とにかくクオリティが高い!音質がいいだけでなく、楽器ごとの細かい音の配置や調整、バランスまで、これがライヴ録音か?!と思わされる完成度にただただ脱帽です。

これには本当にびっくりしました。おそらくこのクオリティーに仕上げるまでには相当な技術と苦労があったと思いますが、久石譲のシンフォニー作品では3-5本の指には入るだろう傑作となっています。スタジオ・レコーディングの緻密さ、Liveレコーディングの臨場感、そのどちらをも兼ね備えたダイナミックな作品に仕上がっています。

まさに「サウンドトラックを超えた」次のステージへの輝き。これを見せつけられると、いや聴かせられると、もうスタジオ録音がいいのか、ライヴ録音がいいのかわかなくなるくらい、そのくらいの緻密さ、ダイナミズム、臨場感と空気感を一気に詰め込んだ傑作です。

そして同時に、これからのコンサートでも同じ規模とはいかないまでも、どんどんLive録音、CD音源化してくれることをさらに切望してしまいます。近年の久石譲コンサートでは、ツアープログラムではなく、都市圏を中心とした単発企画であり、さらにはコンサートでしか聴くことのできない新作や未発売作品、はたまた過去の名曲が装いを新たに改訂などの機会が増えているためです。

さて、個人的な『WORKS IV -Dream of W.D.O.』からの思いはここまでに。

 

 

どのようにして本作『WORKS IV』はできあがったのか?

ここ数日間であらゆるメディアに登場した久石譲インタビューから本作品ライナーノーツ解説までを紹介してきました。これらをもとに『WORKS IV』ができるまで、インタビューや解説を総力特集して、キーファクターをまとめていきます。

 

*”WORKS”シリーズコンセプト

久石:
映画など他の仕事でつくった音楽を「音楽作品」として完成させる、という意図で制作しています。映画の楽曲であれば、台詞が重なったり、尺の問題があったりとさまざまな制約があるので、そうした制約をすべて外し、場合によってはリ・オーケストレーションして音楽作品として聴けるようにする。『WORKS』シリーズはそうした位置づけの作品です。

*収録曲への想い

久石:
たとえば宮崎さんとの担当作は数えて10作、30年間に及びます。それを多くの方が聴き、それぞれに評価してくれました。そして『風立ちぬ』が最後の(長編)作品になるということですから、きちんとした形で残していこうという意図はありました。

久石:
「天人の音楽」(天人が天から降りてくるときの音楽)は、もともとサンプリングのボイスなどを入れていたので、オーケストラとの整合性がうまくとれずに苦戦しましたね。ただ、それが現代的にかっこよく響いてくれれば成功するだろうという狙いが根底にありましたし、高畑さんも実験精神旺盛な方ですから、とがったアプローチをしても快く受け入れてくれました。「五音音階を使っているのに何故こんなに斬新なの?」と思わせるラインまではすごく時間がかかりましたが、結果として納得いくものができました。

(以上、Blog. 久石譲 『WORKS IV』 発売記念インタビュー リアルサウンドより より)

 

*レコーディング

久石:
オーケストラのレコーディングというのは、お金がかかってしまうものですよね。だからといって、コンサートの本番1回だけをライブ盤として出すのは良いとは思わなかった。というのは、コンサートの雰囲気をそのままパッケージするということは、音のバランスという意味で難しいというケースもあるからです。なので、今回は2回のリハーサル、2回のゲネプロ、本番2回の合計6回すべて、初日からレコーディング・クルーを入れて、全テイクを録ったんですよ。それで、リハーサルが終わった夜に、レコーディングのクルーを含めて全部聴いて、例えば”シンバルの音が大きいから修正したほうが良いね”となった場合、マイクの位置やほかの楽器との距離を変えたり、それでも駄目だったら、僕の指揮で「そこのシンバルをもう少し小さくして」と指示を出して対処しようと話し合いました。そうやって徹底的にシミュレーションしたんです。そうすることによって、コンサートとしてもきちんとした演奏のクオリティを保ちつつ、CDとしてもできる限り望んでいる音のクオリティに近づけようとしたわけです。恐らく、こういう方法を日本で試みた人はいないと思いますよ。リハーサルの初日から舞台袖には大量のマイクとレコーディングの機器を用意し、マイクはそれぞれの楽器ごと1cm単位で角度などの修正をする。最終的なCDの音源はコンサートの音が中心になっているんですが、実はリハーサル時の会場にまだ観客が誰もいない状態の音もいっぱい使われているんです。そういう意味で、なかなか良いクオリティだと思いますよ、追求できましたからね。

久石:
オーケストラの録音は、空気感というか、スタジオでオンマイクの音で作る音楽ではなくて、響いている音で作り上げるんです。今回は、それをしっかり録るということをメインにして、その空気を伝わってくる音を大切にしてCDに仕上げることができたと思います。

 

*レコーディングについて (解説)

今回の録音は、コンサートの収録だったため、エンジニアを務めた浜田純伸氏はマイキングに関して、見た目が邪魔にならないように気をつけていたという。また久石さんからは、リハーサルの初日にマイクの数が多過ぎて、ごちゃごちゃして見えるという指摘があったそうだが、マイクを減らすことはせずに、ポジションを動かしただけで、そのまま進行させた。そのマイクの数は、予備も含めて合計56本になったそうだ。

初日のリハーサルが終わり、録ったテイクをプレイバックした際、久石さんから、パーカッションの音像と音量が大き過ぎることと、ソロ・バイオリンの音色が薄く抜けが悪いという指摘があった。パーカッションに関しては、マイキングだけでは対処が難しいということだが、弦のオンマイクに関しては、マイクの向きと指向性を調整。あとは、ミックスで処理することにしたそう。ソロ・バイオリンに関しては、マイクそのものを変えて対処したという。

 

*編集(ミックス)作業について (浜田純伸)

浜田:
AVID Pro Toolsです。また、さまざまなノイズを消すためにIZOTOPE RXを多用しました。譜めくり、いすの鳴る音、咳、空調音…。今回はダイナミック・レンジの広い曲が多く、静かなところでは、結構細かなノイズが聴こえてくるためです。

浜田:
今回はホールが2ヵ所あり、リハと本番でホールの響きもかなり違いました。その中から細かくベスト・テイクをつないでいったので、つなぎ目で響きの違いが不自然にならないようにEQ、コンプなどのオートメーションを書いた部分が大変でした。

 

*現在の作曲方法

久石:
ケースバイケースですね。ピアノだけで全体を作ってオーケストレーションしていくという方法や、時間がなければオーケストラから作っていくこともあります。作曲の際は結構コンピューターに向かっている時間も多いかもしれません。ただ、最近は核になるメロディやハーモニーは、ピアノで作ってしまう場合が多いですね。

(以上、Blog. 久石譲 『WORKS IV』 サウンド&レコーディング・マガジン インタビュー内容 より)

 

*『WOKRS IV』から見る発展性と普遍性

久石:
時代や国境を越えて聴かれ演奏される音楽を制作したい。そのための時間を作る生活にシフトチェンジしている最中です。今回の『WORKS IV』のように完成度を高めた楽曲は、楽譜をドイツに本拠を構えるショット・ミュージックから出版しています。

注)2014.11月現在「WORKS IV」の楽譜出版は未定

久石:
かつて、僕の作品は僕だけが演奏していました。それが今では、世界各国のオーケストラが僕の書いたオリジナルの楽譜で演奏しています。自分の作品がパーソナルなものから普遍性を帯びてきました。

(以上、 Blog. 久石譲 『WORKS IV』 クロワッサン 2014年11月10日号 インタビュー内容 より)

 

*「WORKS」シリーズ誕生の軌跡 (解説)

1997年の『WORKS I』が、常設オケをサウントラ演奏に初めて起用した『もののけ姫』の劇場公開からわずか3ヶ月後にリリースされたというのは、今から考えると大変象徴的な事実である。偶然にも、著者は『WORKS I』発売時に久石とインタビューする機会を得たが、その時に彼が「ほぼ2年間にわたってオーケストラというものと格闘してきた。そこを是非聴いていただきたい」と熱く語っていたのが大変に印象的であった。その後、彼の音楽活動──作曲家としても演奏家としても──において、フル・オーケストラが占める割合がにわかに増大していったのは、久石ファンのリスナーなら周知の通りだろう。その論理的な帰結が、2000年から始まった自作の指揮活動と、2009年から本格的に始めたクラシック指揮者としての活動である。

 

*”アーティメント”(=アート+エンタテインメント) (解説)

映画音楽というエンタテインメントは、セリフ、効果音、音楽に要求される尺の長さなど、さまざまな制約が存在するため、必ずしもクラシック作品と同じ方法論で作曲するわけにはいかない。しかし、いったんその音楽をコンサートという空間で演奏するとなれば、クラシックの古典曲と並んで演奏されても何ら恥ずべきところがないところまで完成度を上げるというのが、現在の久石のスタンスである。この点において、久石は9年前の『WORKS III』の頃とは比較にならないほど、高い完成度を自作のオーケストレーションに求めるようになった。別の言い方をすれば、演奏会用作品というアートのクオリティを保ちつつ、映画音楽というエンタテインメントを演奏していくのである。これを久石自身は”アーティメント”(=アート+エンタテインメント)と呼んでいるが、『WORKS IV』は、これからの久石の音楽活動の中で重要な位置を占めていくであろう”アーティメント”の方法論を高らかに宣言したアルバムなのである。

 

*収録曲について (解説)

本盤には、久石が2013年に手がけた宮崎駿監督『風立ちぬ』と高畑勲監督『かぐや姫の物語』の音楽が含まれている。ここに至るまでの道程、すなわちスタジオジブリの前身であるトップクラフト時代に制作された『風の谷のナウシカ』から数えると実に30年もの時間が経過しているわけだが、その時間は4歳からヴァイオリンを始めた久石の音楽人生全体の約半分を占めるばかりか、彼の音楽をリアルタイムで享受してきた我々リスナーにとっても大きな意味を持っている。難しい言い方をすれば、久石がスタジオジブリ作品のために書いた音楽と、我々自身が歩んできた同時代性は、もはや両者を分けて考えることが不可能なほど、のっぴきならない密接な関係を結んでいるのである。そうした観点から『風立ちぬ』と『かぐや姫の物語』を改めて聴いてみると、単に2大巨匠の最新作の音楽が聴けるという喜び以上の、ある”歴史の重み”を感じ取ることが出来るはずだ。その重みに相応しいオーケストレーションを施されて演奏されたのが、本盤に聴かれる『風立ちぬ』と『かぐや姫の物語』の組曲と言っても過言ではない。

それら2本のジブリ作品に加え、本盤には日本映画界の至宝というべき山田洋次監督の『小さいおうち』の音楽も収録されている。2013年の1年間に、久石がこれら3巨匠の監督作を立て続けに作曲したこと自体、もはや驚異と呼ぶほかないが、別の見方をすれば、それは現在の久石の立ち位置、すなわち日本映画全体において欠くことの出来ない最重要作曲家という位置づけをこの上なく明瞭に示している。

 

*W.D.O.について (解説)

本盤の録音と並行する形で開催されたコンサート「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014」は、W.D.O.としては久石と3年ぶりの共演、新日本フィルとしては2012年の「ペンション・ファンド・コンサート “アメリカン・ミュージック・ヒストリー”」以来2年ぶりの再会となったわけだが、W.D.O.結成からちょうど10年という節目の年の共演において、久石とW.D.O.が到達した演奏の完成度の高さは、もはや圧倒的としか表現のしようがなかった。久石自身はそれを「細胞が喜ぶオーケストラ」と呼び、メンバーのひとりは「これほどの自発性と喜びをもって、久石さんの音楽の演奏に臨むオーケストラは他に存在しない」と自信のほどをのぞかせる。まさに一期一会のアンサンブルというべきだろう。

 

*レコーディング方法と背景 (解説)

10年前ならいざ知らず、クラシック業界を取り巻く現在の厳しい環境の中で、大編成のクラシック作品をスタジオ録音することは世界的にも非常に困難になっている。現在、商業発売もしくは配信されているフル・オーケストラ録音のほとんどが、ライヴ録音という形態を採っているのはそのためだ。そんな厳しい状況の中で、久石はアルバムとしての完成度を追求すべく、リハーサルから2回の本番演奏会まですべての演奏を収録し、その中から選りすぐったベスト・テイクを今回の『WORKS IV』に収録するという手法に挑んだ。一般的に言って、クラシックの常設オーケストラはリハーサル段階からアルバム・クオリティの演奏を要求されることを好まない。本番演奏会でベストを尽くすこと考えると、それだけ負担が大きくなるからである。しかしながら、W.D.O.は久石が求める”本物”のオーケストラ・サウンドを『WORKS IV』に収めるべく、敢えて演奏会本番の負担になることも恐れずに、全力を尽くして録音に臨んだ。

注)解説:前島秀国

(以上、 Blog. 久石譲 『WORKS IV』 ”アーティメント”を語る ライナーノーツより より)

 

*収録曲詳細 (解説)

「バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲」
宮崎監督の意向で音声がモノラル制作されたこともあり、本編用のスコアは慎ましい小編成で演奏されていたが、《第2組曲》では原曲の持つ室内楽的な味わいを残しつつも、音響上の制約を一切受けることなく、壮大なオーケストラ・サウンドが展開している。

Kiki’s Delivery Service for Orchestra (2014)
今回の2014年版では、スパニッシュ・ミュージックの要素が印象的だった後半部のセクションもすべてオーケストラの楽器で音色が統一され、よりクラシカルな味わいを深めたオーケストレーションを施すことで、ふくよかで温かみのあるヨーロッパ的な世界観を描き出している。

ヴァイオリンとオーケストラのための「私は貝になりたい」
上映時間にして実に15分近くを占める”道行き”のシークエンスのために、久石は格調高い独奏ヴァイオリンを用いたワルツを作曲し、ヴァイオリンとオーケストラのためのコンチェルティーノ(小協奏曲)として発展させたもの。

交響幻想曲「かぐや姫の物語」
久石は五音音階を基調とする音楽をはじめ、前衛的なクラスター音、西洋の楽器で東洋的な世界観を表現するマーラー流の方法論、さらには久石の真骨頂というべき、エスニック・サウンドまで多種多様な音楽語法を投入し、高畑監督の世界観を見事に表現してみせた。古来より”赫映姫”とも”輝夜姫”とも記されてきたヒロインの光り輝く姿を表現するため、チェレスタやグロッケンシュピールといった金属系の楽器を多用しているのも本作の大きな特長のひとつで、今回の組曲版ではそうした楽器のメタリカルな響きが、よりいっそう有機的な形でオーケストラの中に溶け込んでいる。組曲としての音楽性を優先させるため、本編のストーリーの順序に縛られない構成となっているのは、『風立ちぬ』の《第2組曲》と同様である。

小さいおうち
久石は、セリフを重視する山田監督の演出に配慮するため、本編用のスコアでは特徴的な音色を持つ楽器(ダルシマーなど)を効果的に用いていたが、本盤に聴かれる演奏はギター、アコーディオン、マンドリンを用いた新しいオーケストレーションを施し、同じ昭和という時代を描いた『風立ちぬ』と世界観の統一を図っている。

注)解説:前島秀国

(以上、 Disc. 久石譲 『WORKS IV -Dream of W.D.O.-』 より)

 

 

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