Posted on 2015/4/20
クラシックプレミアム第34巻は、リストです。
誰もが耳にしたことがある「愛の夢」から、村上春樹の長編小説でも一躍脚光を浴びた「巡礼の年」など、リストのピアノの世界へひきこまれていきます。
ピアノだけの音色とは思えないほどの色彩豊かな世界、そして一人で弾いているとは思えない難易度の高い楽曲の数々。リストの魅力は、そういった超絶技巧を駆使したなかにも、しっかりと聴かせる、心に響く旋律があるところでしょうか。
【収録曲】
《パガニーニによる大練習曲》 LW-A173 (S141) より 第3曲 〈ラ・カンパネラ〉
《愛の夢》 LW-A103 (S541) 第3番 変イ長調
ホルヘ・ボレット(ピアノ)
録音/1982年
《ハンガリー狂詩曲集》 LW-A132 (S244) 第6番 変ニ長調
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
録音/1960年
《超絶技巧練習曲集》 LW-A172 (S139) 第5番 〈鬼火〉・第8番 〈死霊の狩り〉
ホルヘ・ボレット(ピアノ)
録音/1985年
《3つの演奏会用練習曲》 LW-A118 (S144) 第3曲 〈ため息〉
《2つの演奏会用練習曲》 LW-A218 (S145) 第1曲 〈森のざわめき〉
ホルヘ・ボレット(ピアノ)
録音/1978年
《巡礼の年 第1年 スイス》 LW-A159 (S160) より
第4曲 〈泉のほとりで〉・第8曲 〈ノスタルジア〉
ラザール・ベルマン(ピアノ)
録音/1977年
《巡礼の年 第2年 イタリア》 LW-A55 (S161) より
第5曲 〈ペトラルカのソネット 第104番〉
《巡礼の年 第3年》 LW-A283 (S163) より
第4曲 〈エステ荘の噴水〉
アルフレッド・ブレンデル(ピアノ)
録音/1986年、1979年
「久石譲の音楽的日乗」第33回は、
クラシックは演奏するたび新しい発見がある
前号ではクラシック音楽を指揮する久石譲が指揮者としてのあれこれや体験談をまじえた内容でした。今号でもその続きとなるわけですが、2015年今年初のコンサートとなった台湾(台北/台南)でのコンサート舞台裏を垣間見ることができます。演奏プログラムでもあった「ショスタコービッチ:交響曲 第5番 ニ短調 作品47」についての考察もめぐります。
一部抜粋してご紹介します。
「台湾でショスタコーヴィチ作曲の交響曲第5番を指揮した。2月の終わりで中華圏では旧正月明けの華やいだ時期だった。台北と台南の2回公演だったが、おかげさまでチケットは両日とも即日完売。台南はホールの外でもスクリーンを設置し、約1万人以上の人が詰めかけた、ロックコンサートでもないのに。実は昨年の5月もそこでコンサートを行ったのだが、同じく数万人の人が押し寄せた。もちろん台湾でも異例なことだ。ただそのときはベートーヴェンの第9交響曲だったのでまだわかるが(それもよく考えると何だか変だが)、ショスタコーヴィチと僕の曲でこれほど人が詰めかけるとは、僕自身が驚いている。ちなみに台湾は世界の名だたるオーケストラのツアーサーキットに入っていて観客の耳は肥えている。その観客はとても素直で熱心に聴いてくれて、オーケストラ(国家交響楽団)と僕はかなりハイテンションの演奏ができた。」
「もう一つ、忘れられない出来事!それはコンサートが終わってから駅までパトカーに先導されて移動したこと。去年、人が大勢出過ぎて交通渋滞を起こし、共演したウィーンの合唱団の人たちが危うく列車に乗り遅れるところだった。その反省からか今回はパトカーが待機。コンサート終了を待って、駅まで誘導していただいたのである。」
「だいぶ脱線したが、台湾では音楽家としてパトカー先導されたのだからこれはちょっとうれしい。だから駅に着いてから運転していた警察官たちと記念写真を撮った。もちろん頼まれたからではあるが。」
「ショスタコーヴィチの交響曲第5番は、前回、読売日本交響楽団と演奏したのだが(これは当時の「深夜の音楽会」という番組でオンエアされた)、そのときより僕自身だいぶ進化し、全体のテンポ設計や、細部の表現、何よりも何が行いたいのかより明確にオーケストラに伝えられたのではないか、と思っている。」
「そして一番わかったことは「革命」というタイトルを持つこの楽曲が(これは日本だけでしか呼ばれていない)、実はとてつもなく暗く、表の表現とはかけ離れているところにショスタコーヴィチ本人はいたということだ。つまり苦悩から歓喜へ、闘争から勝利へ、というベートーヴェンの第5番、第9番やマーラーの第5番交響曲と同じ図式に従って全体は構成しているが決して歓喜でも勝利でもないのである。表面上をそうすることで党から睨まれている状況から脱出したが、本人の心はいたってクール、冷めて見ているのがよくわかった。だからといってこの楽曲を適当に書いたのではなくて、むしろ裏に託した批判の精神、孤独などが痛いほど僕には感じられた。だから第4楽章ラストのテンポは色々議論の的なのだが、これは遅ければ遅いほどよいというのが僕の結論。凱旋パレードのように華やかに盛り上げるのは以ての外。まるであたりを埋め尽くしている戦車軍団がゆっくり進軍していくようなA音(ラ)の連打がここの決め手になる。もちろんこれは僕の考えで、人に押し付けられるものではない。やはりクラシックは演奏するたびに新しい発見がある。」
「そういえば僕の指揮の師でもある秋山和慶先生はベートーヴェンの第9番をなんと400回以上指揮されたと伺った。恐るべし、と言いたいのだが、もっと凄いことを先生は仰った。「これだけ演奏してもまだ毎回新しい発見があるんだよね、それで頑張ろうと……」 やはり、クラシック音楽は奥が深い。」
ショスタコーヴィチの交響曲第5番は、ムラヴィンスキー指揮やレナード・バーンスタイン指揮などで名盤があります。うえのふたつはどちらもライブ録音(しかも東京公演)が、よくレビューなどで話題にあがっています。もちろんエッセイにもあるようにテンポのことでもいろんな感想など。
気に入ったクラシック音楽に出会えたときに、そういった聴き比べをしてみるのもおもしろいですね。明らかに「これが同じ楽曲とは思えない!」という感動に出逢えるときがあります。
また、2月に開催された台湾公演での、セットリスト(アンコールまで)、および久石譲も語っていたその”熱狂的な様子”は現地写真付で公開しています。
こちら ⇒ Info. 2015/02/27 《速報》 久石譲 「世紀音樂大師-久石譲」 台北コンサート プログラム
そうこうしているうちに、2015年日本での久石譲の熱い夏がやってきそうです!