Posted on 2015/5/14
3月に開業した北陸新幹線に乗って。
ゴールデンウィーク終盤5月9日に開催されたコンサート「久石譲&新日本フィルハーモニー交響楽団 富山特別公演」です。富山県民会館リニューアルオープン・開館50周年記念事業、県民ふるさとの日記念事業 という企画コンセプトのもと開催されています。
演奏プログラムおよびアンコールはこちら。
久石譲&新日本フィル・ハーモニー交響楽団 富山特別公演
[公演期間]
2015/05/09
[公演回数]
1公演
富山・富山県民会館ホール
[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
混声四部合唱:富山県合唱連盟特別編成合唱団
[曲目]
ドヴォルザーク:交響曲第9番 ホ短調 作品95 「新世界より」
久石譲:室内オーケストラのための「シンフォニア」
I.パルゼーション II.フーガ III.ディヴェルティメント
久石譲:交響変奏曲「人生のメリーゴーランド」
(Symphonic Variation ”Merry-go-round” + Cave of Mind)
久石譲:ふるさとの空 (富山県ふるさとの歌)
(原詞:布村勝志 補作詞:須藤晃 編曲:山下康介)
—-encore—-
久石譲:となりのトトロ (with Chorus)
まずは、当日会場で配布されたコンサート・プログラムより。
【曲目解説】
ドヴォルザーク:交響曲第9番 ホ短調 作品95 『新世界より』
ドヴォルザークの最後の交響曲で、アメリカ時代に作曲されました。音楽院で黒人学生と接したドヴォルザークは、彼らの歌う黒人霊歌に感銘を受け、自分の作品に(そのまま素材として用いるのではなく)その精神を反映させようと考えました。円熟した作曲技法、親しみやすいメロディー、『新世界(=アメリカ)より』という魅力的なタイトルと相まって、最も人気の高い交響曲として世界中で毎日のように演奏されています。
第1楽章 静かな序奏から始まり、ホルンが力強い第1主題を吹奏します。フルートやオーボエが奏でる第2・第3主題も民族色が強く、黒人霊歌やボヘミア民謡との関連がうかがわれます。
第2楽章 最も有名な楽章。イングリッシュ・ホルンによって吹かれるひなびたメロディーは後に歌詞が付けられ、「家路」というタイトルで有名になりました。
第3楽章 活気あふれる民族舞踊的な楽想で、ネイティヴ・アメリカンの踊りから発想したとも、ボヘミアの農民の踊りと共通しているともいわれています。
第4楽章 徐々にテンポを速めていく弦楽による序奏は、鉄道マニアだった作曲者が蒸気機関車の発車を模したという説もあります。ホルンとトランペットによる力強い第1主題は勇壮で、クラリネットが吹く女性的な第2主題とあざやかなコントラストを作ります。
室内オーケストラのための《シンフォニア》
2009年に発表された「Sinfonia」は、ミニマル・ミュージックの作曲家として、久石が原点に立ち返って書き上げた弦楽オーケストラ作品。
「第1楽章は、昔、現代音楽家として最後に書いた「パルゼーション」という曲の構造を発展させたものだ。機械的なパルスの組み合わせで構成され、四分音符、八分音符、三連符、十六分音符のリズムが複合的に交差し展開していく。第2楽章は、雲のように霞がかったり消えたりするようなコード進行の部分と、いわゆるバッハなどの古典派的なフーガの部分とで構成されている。これも第1楽章と同じで五度ずつハーモニーが上昇し、全部の調で演奏されて終わる。第3楽章は、2009年5月「久石譲 Classics vol.1」のクラシックコンサートで初演した曲。そのときは弦楽オーケストラだけだったが、管楽器などを加えて書き直した。ティンパニやホルンなどが入ったおかげで、より一層古典派的なニュアンスが強調されて、初演の弦楽オーケストラとは一味違う曲になった。」
(※アルバム「ミニマリズム」より、一部改変して転載)
交響変奏曲 「人生のメリーゴーランド」 (『ハウルの動く城』より)
2004年公開、宮崎駿監督作品の映画『ハウルの動く城』より。魔法で老婆に変えられてしまった主人公・ソフィーと魔法使いハウルをとおして、生きる楽しさや愛する歓びを描いた作品です。劇中では、18歳の少女から90歳の老婆に変化するソフィーですが、観る人が同一人物だとわかりやすいようにメインテーマ「人生のメリーゴーランド」のモチーフが、物語の進行に合わせて見事に変奏されていきます。オリジナル・サウンドトラックでは、シーンごとに個別に収録されていますが、その楽曲を紡ぎ合わせ、フル・オーケストラのためのひとつの交響的変奏曲として生まれ変わらせた楽曲です。
ふるさとの空 (富山県ふるさとの歌)
「ふるさとの空」は、県民や県出身者が、ふるさとを思い、ふるさとへの愛着を育みながら、みんなで一緒に歌い、心を一つにできる歌を作って欲しいという県内外の多くの方々の声を受け、平成23年8月から「富山県ふるさとの歌づくり実行委員会」で歌づくりが進められました。歌詞については、公募で選ばれた布村勝志さんの原詞を、富山県出身の音楽プロデューサー須藤晃さんが補作、久石譲さんが作曲を担当して、平成24年7月に富山県教育文化会館において発表されました。ふるさと富山の素晴らしさや魅力が盛り込まれた「ふるさとの空」は、子供から大人まで広く歌われています。今回の公演は、大編成の管弦楽と合唱により、久石譲さん本人の指揮で演奏される貴重な公演となります。
(久石譲&新日本フィルハーモニー交響楽団 富山特別公演 コンサート・プログラムより)
少し感想をまじえて。
- ドヴォルザーク:交響曲第9番 ホ短調 作品95 『新世界より』
「久石譲 Classics vol.1」にも収録されている、久石譲が過去に何度か指揮したことのある楽曲です。曲目解説にある第1楽章の第2・第3主題など、とても緩急のある、ゆっくりとその旋律を聴かせる箇所もある、そんな構成になっていました。第3楽章や第4楽章でもその流れは引き継がれ、とてもメリハリのある抑揚起伏に富んだ展開。2009年CDとはまた違った、久石譲の指揮者としての解釈も表現力もパワーアップした演奏を堪能することができました。
久石譲 『JOE HISAISHI CLASSICS 1 』 収録
- 室内オーケストラのための《シンフォニア》
こちらもCD作品よりも第1楽章、第2楽章はややスローテンポ。音をしっかり確かめるように、音の絡み合いやズレをしっかりと表現するような構成になっていました。また第3楽章はティンパニがより強調され、楽曲に躍動感や独特のグルーヴ感を与えていました。
[参考作品]
約100名を超える混声合唱団および二管? 三管編成用の奏者が壇上に加わる
- 交響変奏曲 「人生のメリーゴーランド」 (『ハウルの動く城』より)
コンサートではおなじみの人気曲。『WORKS III』(2005年)にて “Symphonic Variation 「Merry-go-round」”として作品化されました。このときはメインテーマである「人生のメリーゴーランド」モチーフの変奏のみでの約14分の大作。その後2008年武道館コンサートなどを経て、「Symphonic Variation ”Merry-go-round” + Cave of Mind」へと発展。『WORSK III』の原型から、少し構成を短縮し、その分中間部に「Cave of Mind」を挿入。映画本編でもクライマックスに近づく印象的なシーンで使われた楽曲で、オリジナル・サウンドトラックでは「星をのんだ少年」という曲名で収録されています。トランペットの優しい旋律が印象的です。
そしてそんな定番曲も新しい試みもありました。「Cave of Mind」から終盤の「人生のメリーゴーランド」メインテーマへと引き継がれる楽曲構成なのですが。通常、ここで久石譲ピアノによる「人生のメリーゴーランド」からテーマがはじまります。オリジナルではほぼ久石譲ピアノ・オンリーという聴かせどころです。でも今回は、ステージ中央にピアノがない。どうなるんだろう?と思っていたら、その箇所をハープやヴィブラフォンなどの楽器に置き換えられていました。ピアノとはまた違った、オルゴール的な響きと雰囲気でした。次の管弦楽が入ったあとのピアノパートは、オーケストラのピアノ奏者の方でした。
※下記CDの9’00” – 10’10” くらいの箇所のことです
[参考作品]
久石譲 『The Best of Cinema Music』 ライヴ収録
- ふるさとの空 (富山県ふるさとの歌)
もちろんCD作品化もされていない楽曲ですが、公式に聴けるサイトもありますのでぜひ聴いてみてください。(http://www.pref.toyama.jp/sections/1002/furusato/index.html) 管弦楽から吹奏楽、独唱から合唱まで、いろいろなバリエーションで聴くことができます。今回は曲目解説にもあったとおり、1回限りの管弦楽+混声合唱団という特別な編成でのお披露目となりました。久石譲が手がけたご当地ソング、うらやましい限りです。
[参考]
久石譲 富山県ふるさとの歌 『ふるさとの空』 作曲 *Unreleased
アンコールは「となりのトトロ」主題歌。たしかに混声合唱団の方々も壇上に残ったままですし、この編成だからこそ実現できた合唱付きバージョンです。合唱までをものみ込むような新日本フィルハーモニー交響楽団のすさまじい迫力でした。会場が揺れんばかりのクライマックスの爆発力。そしてわれんばかりの拍手喝采。コンサートならではの体感でした。
そしてここでも中間部の間奏は久石譲のピアノがしっとりと聴かせるパートなのですが、今回は楽団のピアノ奏者が演奏。
※下記CDの2’37” – 3’05” くらいの箇所のことです
[参考作品]
久石譲 『The Best of Cinema Music』 ライヴ収録
今回久石譲は「ハウルの動く城」や「となりのトトロ」といった、定番人気曲であっても、ピアノには指1本触れない!?という珍しい内容でした。オーケストレーションをかき替えてまで指揮者に徹したコンサートです。それだけに、久石譲ピアノを聴けなかった残念な想いはあるのもも、指揮者とオーケストラの一心同体という緊張感が終始張りめぐらされ、地響きがするほどのトトロまで行き着けたのだと思います。
コンサートという、楽曲の現在進行形を示す場、進化しつづける解釈や今想うかたちを表現する場。そんなことをあらためて思い、久石譲の今という瞬間、そして久石譲の長い通過点のひとつに立ち会えた喜びでした。
またひとつコンサートのあしあとが刻まれます。