Disc. 久石譲 『Quartet カルテット』

久石譲 『カルテット DVD』

2002年3月25日 DVD発売 BCBJ-1128

 

2001年公開 映画「Quartet」
監督:久石譲 音楽:久石譲 出演:袴田吉彦 桜井幸子 他

久石譲 第一回監督作品
[モントリオール映画祭ワールドシネマ部門正式招待作品]

 

 

この作品は僕の自伝ではないけれど、ある意味で僕の物語。僕の周りにいた、音楽と共に生きようとして悩み立ち止まる、繊細で、美しい人たちの物語です。

久石譲

 

 

「音楽が主役になっている、ということ。物語に音楽がからんでいるとか、主人公が音楽家というだけでは音楽映画にはなりません。音楽がドラマとからんでクライマックスに向かっていくような映画を、私は音楽映画と呼ぶことにしています」

「整理すると、音楽とストーリーが密接にかかわっていること、音楽が台詞の代わりになりえていること、この2点に集約されます」

「まず演奏トレーナーには役者が楽器を弾けるようにするのではなく、”弾いているように演じる”ことを教えてもらいました。役者たちは彼のもとで最低1ヵ月間のトレーニングを積んで、撮影に挑んでいます」

「たとえば、役者が演奏しているふうの表情をアップで見せ、切り返しでプロの演じている手元だけを見せるというカット割では、観る人誰もが『編集で見せていますね』と興ざめしてしまう。ワンカットで登場人物が演奏するシーンを成立させるためには、まず役者のトレーニング。しかし、それでも追いつかないほどの演奏技術が必要なパートがあることもわかっていましたから、そこは撮影のトリックを入れる計画を立てました。技法は複数。完全な種明かしをしてはつまらないので、たとえば2人羽折り、たとえば合わせ鏡、そんな技法を用いているということだけお伝えしておきます。時間をかけた創意工夫ばかりで、その分できばえも良かったと自負しています。ぜひ、映画館で演奏シーンを堪能していただきたいですね」

Blog. 「ディレクターズマガジン 2001年11月号」 久石譲 インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「撮影は去年に終えていてね。劇中、袴田(吉彦)君扮する主人公の台詞で『音楽ってそれほどのものなんですか?』っていうのがある。この一言を音楽家である僕が言わせるのは、自分では結構強烈な挑戦だった。多分この一言を撮りたくて映画を作ったんだなと、今は思っている。”音楽を作る”ことと”生きる”ことの関係性を何らかの形にしてみたかったのではないかな。音楽は自分では未だ模索の最中だし『Quartet』も、その明確な答えとは成り得ていないけれど、リアリティという点ではなかなかの仕上がりだよ」

Blog. 「SWITCH スイッチ JULY 2001 Vol.19 No.16」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「ストーリーは自分とはそう関係ないんですけども、僕にとってのリアルという面でね。たとえば、大学のシーンをどこで撮ろうかと、いろんな大学を見せてもらったんですけど、結局、自分が出た大学、国立音大しかない、と。キャンパスの真ん中にはやっぱり噴水(笑)。あったほうがいいんじゃなくて、なきゃいけない。庭ではラッパを練習していないと。ピャラララ、ピャラララとかってやっててくれないとダメなんです(笑)。監督というのはみんなどこかで虚構をやってるから、ウソっぽくなることをすごく恐れるんですね。そこでいちばんリアルなのは、自分の体験なんですよ」

「主人公が、お父さんが家を崩壊させてまでカルテットに打ち込んだことに対して、「音楽ってそれほどのもんですか」っていうシーンがあるんですよ。観ていると、すっと流れちゃう場面かもしれないけど、音楽家である僕が監督しながら、この台詞をいわせるっていうのは、すごく重いんですよね」

「あります、正直いえば。こんなに全部を犠牲にして…。たとえば、この2日間すさまじい指揮をしました。その前は籠もりきりで一日10数時間、譜面を書いてます。そのまた前は、2ヵ月間籠もってレコーディング。1年間、ピアノにさわってないのに、ピアノをダビングするなんてことまで起きてくる。まったくよくやってますよね。何のためにやってるんだろうって、ふと思うことがあるんです。「音楽ってそれほどのもんですか」。この台詞をいわせるために、僕はこの映画を撮ったんじゃないかという気がしてます」

Blog. 「月刊ピアノ 2001年7月号」映画『Quartet』 久石譲 インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「全体の半分弱くらいが音楽シーンで、時間軸に固定されますから、構成自体は難しくなかったんです。でも、セリフの投げ合いで感情を引っ張りすぎると音楽シーンのパワーがなくなっちゃうから、芝居は極力抑える、カメラは引くって決めてましたね。そういう意味では、北野監督的なやり方だったんですよ。過剰に説明をせずに、どこまで引いて見せるかという意味ではね。武さんは僕が映画を撮るというのを知っていたんです。あるとき一緒にご飯を食べていて、武さんが大杉漣さんに話をしていたんですよ。”ラーメンをおいしく撮る方法って、いかに本当においしいかと見えるようなカットを撮らなくちゃいけないんだよ。たいがいの監督がしくじるのは、いかにうまいかという内容を説明しちゃうから。トンコツ味でとか昆布のダシでとかさ、そうするとトンコツが嫌いな人はそれを聞いた瞬間、半分引いちゃうんだよな”って。大杉さんに話をするフリをして、たぶん僕に言ってくれたんだと思う。それがすごく残っていて、大変なヒントをいただきましたよね」

「この映画、2回観た人の反応がいいんですよ。芝居や何かを全部言葉でやっていると2回観たいとはあまり思わないですよね。でも、音楽は2度聴いても嫌にならない。その音楽が今回、セリフ代わりになってますね。リピートに耐える映画になったかと思うと、とてもうれしいですね」

Blog. 「DVDビデオ・ぴあ 2001年10月号」 映画『Quartet』久石譲 インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「まず音楽映画とはどういうものか、明確な定期をしておかなければいけないと思いました。ドンパチがあればギャング映画、音楽があれば音楽映画というふうに考えれば、実際どのジャンルを見ても明確な定義など存在しないんです。そこで自分が考える音楽映画とは、まず第1に音楽自体がストーリーの展開と強く絡んでいなくてはいけない。第2に、せりふの代わりに音楽で半分ぐらいは表現してしまう。つまり、(音楽で)見る側にイマジネーションを広げてもらう。この2点を明確にして自分のスタンスをとろうというのが演出の根底にあったんです」

「そりゃ大混乱ですよ(笑)。譜面を渡されて、『3小節目のジャン!で、左からカメラ寄る』なんて書いてあるわけです。結局、学生さんのアルバイトを雇い、たとえば阪本善尚カメラマンの後ろに1人付けて、「1、2、3、ポーン」という感じで背中を叩いてもらって撮ってもらいましたから(笑)。通常、オケを撮る場合もオケを恐れちゃって遠くから撮るだけっていうケースが圧倒的に多いんですよね。自分はオケの連中との仕事も長いんで、『はいっ!弦、全部どけ~!』ってガンガンなかに入って撮る」

「袴田君たちは(プロの)ヴァイオリン奏者じゃないから、みんな(実際に)弾いていないってわかっているわけです。だから見る側が『あっ、本当に弾いている』と思えるところまでもっていくのが鍵でした。楽曲の小節ごとに顔のアップ、手のアップ……と決め、『その小節だけは何が何でも手とかは写るからね』と指示して、さらってもらったんです」

Blog. 「PREMIERE プレミア 日本版 October 2001 No.42」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

 

映像特典「プロローグ・オブ・カルテット」にて久石譲インタビューが収録されている。

配役中、唯一楽器奏者である久木田薫(チェロ)は、本編でも実際に自身が演奏している箇所が多い。またこの映画での出会いがきっかけとなり、 『ジブリ・ザ・クラシックス』というジブリ作品カバーCDを発売している。スタジオジブリ映画の主題歌、挿入曲を、チェロの演奏をメインにクラシック風、タンゴ風などにアレンジ。ギター、バンドネオン、ハーモニカなど多種多彩な楽器によるアコースティック・カバー作品である。

本編中盤に登場する金管アンサンブルは「上野の森ブラス」メンバーだと思われる。本編にて演奏していた楽曲は「ハトと少年」(映画『天空の城ラピュタ』より)である。また同楽曲・同アレンジで収録されているのが、彼らの『ブラス ファンタジア I ~宮崎アニメ作品集~』である。原曲の持ち味をそのままに、上質でハイセンスな金管アンサンブルを堪能することができる作品である。

映画エンドクレジットにて流れる「Main Theme」は、サントラ盤とは異なるヴァージョンとなっている。プログラミングされたパーカッション(リズム系)の音および種類が異なっている。聴き比べてみるのもおもしろい。

 

 

 

 

 

久石譲 『カルテット DVD』

キャスト:袴田吉彦/桜井幸子/大森南朋/久木田薫/藤村俊二/三浦友和

監督・音楽:久石譲
脚本:長谷川康夫/久石譲

本編113分
(シーン・チャプター/ミュージック・チャプター)

映像特典25分
・「プロローグ・オブ・カルテット」(メイキング映像)
・劇場用予告編
・ラジオスポット
・キャスト&スタッフ プロフィール

 

Disc. 久石譲 『ENCORE』

久石譲 『ENCORE』

2002年3月6日 CD発売 UPCH-1142
2018年4月25日 LP発売 UMJK-9071

 

自身が手がけた映画音楽やCM音楽をセルフカバーしたアルバム。
スタジオジブリ 宮崎駿監督作品や北野武監督作品など
オーケストラ映画音楽をシンプルかつ透明感あるピアノソロアルバムに。
名曲たちに新しい輝きを与えたベスト盤とも言える内容。

高音質・ダイレクトカッティング盤

 

 

2018年4月25日 LP発売 UMJK-9071
完全生産限定盤/重量盤レコード/初LP化

 

 

久石譲 『ENCORE』

1. Summer (映画「菊次郎の夏」より)
2. Hatsukoi (映画「はつ恋」より)
3. One Summer’s Day (映画「千と千尋の神隠し」より / あの夏へ)
4. The Sixth Station (映画「千と千尋の神隠し」 / 6番目の駅)
5. Labyrinth Of Eden (アルバム「地上の楽園」より)
6. Ballade (映画「BROTHER」より)
7. Silencio de Parc Güell (アルバム「I Am」より)
8. HANA-BI (映画「HANA-BI」より)
9. Ashitaka and San (映画 「もののけ姫」より)
10. la pioggia (映画「時雨の記」より)
11. Friends (アルバム「Piano Stories II」より)

封入特典:「Summer」譜面

Recorded at Tokyo Opera City (Oct 12 , Dec 27・28 2001 and Jan 8 2002)

Piano:YAMAHA CF III S

 

Disc. 久石譲 『JOE HISAISHI COMPLETE Best Selection』

久石譲 JOE HISAISHI COMPLETE Best Selection

2001年12月12日 CD発売 PICL-1235
2006年3月22日 CD発売 GNCL-1054

 

このベスト盤は、『地上の楽園』『MELODY Blvd.』といったソロ・アルバムのナンバーから、映画『青春デンデケデケデケ』『魔女の宅急便』『紅の豚』『ふたり』やNHK朝の連続テレビ小説『ぴあの』のメイン・テーマまでを幅広く収録した決定版。ピアノを主体にした流麗で美しい音世界に心ゆくまで浸ることができる。

 

 

オリジナル収録アルバム

『ぴあの オリジナル・サウンドトラック Volume 1』 (1,5,15)
『ぴあの オリジナル・サウンドトラック Volume 2』 (16)
『MELODY Blvd.』 (2,3,6,8,11)
『地上の楽園』 (4,7,9,10,12,13,14)

 

 

久石譲 JOE HISAISHI COMPLETE Best Selection

1. Forenoon ~夜明け
2. Here We Are ~青春のモニュメント (映画「青春デンデケデケデケ」)
3. I Believe In You ~あなたになら (映画「水の旅人」)
4. さくらが咲いたよ
5. Path to the Lights ~希望への道
6. Hush ~木洩れ陽の路地 (映画「魔女の宅急便」)
7. HOPE
8. Two Of Us ~草の想い (映画「ふたり」)
9. Lost Paradise
10. Lonely Dreamer ~鳥のように (映画「この愛の物語」)
11. Rosso Adriatico ~真紅の翼 (映画「紅の豚」)
12. Piano (Re-Mix) ~ぴあの 「NHK朝の連続テレビ小説「ぴあの」)
13. 季節風 (Mistral)
14. The Dawn
15. Closed Fist ~閉じられた手
16. Broken Whistle ~拾いもの

All composed and arranged by Joe Hisaishi

 

Disc. 久石譲 『LE PETIT POUCET』

Le Petit Poucet (プセの冒険 真紅の魔法靴) オリジナル・サウンドトラック

2001年10月9日 CD発売 014 934-2 ※輸入盤のみ

 

2001年仏公開 映画「Le Petit Poucet」(邦題:プセの冒険 真紅の魔法靴)
監督:Olivier Dahan(オリヴィエ・ダアン) 音楽:久石譲 joe hisaishi

 

 

「全体のサウンドの設計からいうと、〈日本〉をすごく出しました。和太鼓だったり尺八だったり……宮崎監督をはじめ、日本の監督は尺八を使うとすごく嫌がるんですよね。『尺八の音』とイメージを限定してしまうから、と。でも、フランス人には全然関係ないことなので、逆に前面に出したんですよ。そのほうが自分にとってリアリティがあるということもありますが、もうひとつはドメスティックなほうがかえってインターナショナルに通用する。要するに日本やアジアの風土に根ざした音楽を掘り下げた状態で提示すれば、それは世界中で通用するはずなんです」

Blog. 「PREMIERE プレミア 日本版 October 2001 No.42」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

Le Petit Poucet (プセの冒険 真紅の魔法靴) オリジナル・サウンドトラック

1. La lunan brille pour toi (Version Edit) (vocal:Vanessa Paradis)
2. Le Petit Poucet (Main theme)
3. La forȇt de Rose
4. L’attaque des pillards
5. Sur le chemin de cailloux blancs
6. Perdus
7. Les pièccs d’or
8. Aux loups!
9. La maison rouge
10. A la table de l’Ogre
11. Le jardin secret
12. L’Ogre
13. La forȇt rouge
14. Entre l’Ogre et la falaise
15. Le duel
16. Le messager de la Reine
17. “La lune brille pour toi” (Générique de fin) (vocal:Vanessa Paradis)

「La lune brille pour toi」
作詞:Olivier Dahan 作曲:Joe Hisaishi

Musique Originale Composée et Arrangée par Joe Hisaishi

Musiciens
Piano:Joe Hisaishi
Orchestre:Paris Philharmonic Otchestra

and Shakuhachi , Flute et Kena , Latin Percussion , Luth

Orchestrations:
Joe Hisaishi
Kazunori Miyake
Jun Nagao

Enregistrements:Studios Guillaume Tell
Mixage:Roland Guillotel

 

Little Tom Thumb
(United States, 2001) 016 968-2

1.Close Your Eyes
2.Little Tom Thumb (Main Theme)
3.Rose’s Forest 
4.The Pillagers Attack 
5.On The Road Of White Stones
6.Lost 
7.The Golden Coins 
8.Wolves! 
9.The Red House 
10.At The Ogre’s Dinner
11.The Private Secrets
12.The Ogre
13.The Red Forest 
14.Between The Ogre And The Cliff 
15.The duel
16.The Queen messenger
17.Close Your Eyes (Ending Theme Song) 
18.”La Lune Brille pour Toi” (Bonus track)

 

Disc. 久石譲 『三鷹の森ジブリ美術館 Original BGM』 *Unreleased

久石譲 三鷹の森ジブリ美術館

2001年10月1日 開館

 

2001年開館の三鷹の森ジブリ美術館。その館内BGM用、展示室用BGMとして作曲され寄与された楽曲。「動きはじめの部屋」などで流れるオリジナルBGMでピアノ曲やオルゴール風の小曲。

ジブリ美術館 映像展示室「土星座」にて短編映画本編上演前に流れる過去短編作品プロモーション映像にも久石譲が献呈した音楽が使われている。BGMのいずれかが該当するのか別楽曲なのかは不明である。

 

 

2001年「Musica del Museo」(ジブリ美術館オリジナルBGM1)
美術館展示室「動きはじめの部屋」BGM

MDGP-1001 Not for Sale

ジブリ美術館 BGM 非売品 ジブリ美術館 BGM 非売品 2

2001年「ムゼオ虫」(ジブリの森のえいがサウンドロゴ)
美術館で上映される短編アニメーション映画のオープニング用

2006年「Birthday 15+ (Musica del Museo Seconda Parte)」(ジブリ美術館オリジナルBGM2)
宮崎駿監督65歳の誕生日にプレゼント

2008年「La neve è rimossa (Musica del Museo Terzo Parte)」(ジブリ美術館オリジナルBGM3)
宮崎駿監督67歳の誕生日にプレゼント
副題は「雪解け」 同曲名は「雪がとける」という意味のイタリア語

2008年「クマのうちの歌」(作詞:宮崎駿 作曲:久石譲)
ジブリ社内保育園「3匹の熊の家」の園歌

2009年「Wave (Musica del Museo Quarto Parte)」(ジブリ美術館オリジナルBGM4)
宮崎駿監督68歳の誕生日にプレゼント

2010年「Stormy Sea of Spring」(ジブリ美術館オリジナルBMG5)
宮崎駿監督69歳の誕生日にプレゼント

2015年「祈りのうた for Piano」(ジブリ美術館オリジナルBGM6)
宮崎駿監督74歳の誕生日にプレゼント

2017年「小さな曲」(ジブリ美術館オリジナルBGM7)
宮崎駿監督76歳の誕生日にプレゼント

2018年「The Bird Seeing The Bridge」(ジブリ美術館オリジナルBGM8)
宮崎駿監督77歳の誕生日にプレゼント

 

 

三鷹の森ジブリ美術館でしか聴けない楽曲でCD化もされていない。

 

2008年の『久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~』のコンサートにて開演前のBGMとしても流れていた(「Musica del Museo」「Birthday 15+」「La neve è rimossa」の3曲)。コンサートのアンコールなどで「Wave」は演奏している。

 

「Musica del Museo」
北野武監督『Dolls オリジナル・サウンドトラック』収録の「感 -FEEL-」という曲にどことなく似た雰囲気が漂う、穏やかなピアノ曲。メロディアスなはっきりとしたメロディーではなく、叙情的なコードが展開していく。

「Wave」
16音符が冒頭から終盤まで流れるように展開していく。こちらも一度聴いたらその空気感が離れないとても印象的なピアノ曲。まるでフィルムやセル画の1コマ1コマをつないで流れていくような、16音符の1粒1粒が流れては織り重なっていき、ストーリーの起承転結を奏でている。聴けば聴くほどに感情の揺れも表現しているようなドラマチックな楽曲である。

「Stormy Sea of Spring」
未聴だが、ジブリ美術館スタッフブログには、「波を思わせるようなゆったりとしたピアノの調べ」とあった。

「祈りのうた for Piano」
久石譲初のホーリー・ミニマリズムのようなシンプルな三和音を使った楽曲。

 

 

2002年三鷹の森ジブリ美術館の企画展示「天空の城ラピュタと空想科学の機械達展」のために制作された映像作品の音楽を手がけている。

 

 

 

2015.8.5 追記

ついに音源化!
「WAVE」「祈りのうた for Piano」を収録したCD作品

Minima_Rhythm II

 

 

2018.1.9 追記

「三鷹の森ジブリ美術館」を訪ねて。「動きはじめの部屋(The Beginning of Movement)」展示室で流れる音楽について。現在は午前と午後ふたつの曲を流している。午前中聴いた曲は初めて聴くもので、バッハのピアノ曲のような流れる旋律が織りなす美しいピアノ曲。スタッフの人に尋ねたら「午前は少し爽やかなものがいいかなと思いこちらを流すようになりました」とのこと。まさに朝のゆったりとした時間にぴったりな曲。久石譲が宮崎駿監督の誕生日に献呈している曲のひとつを使用している。曲名不明、制作年不明。午後は、2001年開館以来おなじみの「Musica del Museo」(ジブリ美術館オリジナルBGM1)が流れている。こちらは「動きはじめの部屋」展示室のために書き下ろされた楽曲。

ほぼ毎年一曲ずつ宮崎駿監督にプレゼントしている慣例ピアノ曲だが、公表されておらずこの年はプレゼントしたのか?曲名は?などは、都度の情報や久石譲インタビューから推しはかるしかない。いつの日かその詳細情報がすべて公になり、また三鷹の森ジブリ美術館BGM集としてCD化されることを切望している。

 

 

 

久石譲 三鷹の森ジブリ美術館

 

Disc. 久石譲 『Quartet カルテット オリジナル・サウンドトラック』

QUARTET カルテット

2001年9月27日 CD発売 UPCH-1105
2005年10月5日 CD発売 UPCY-9009

 

2001年公開 映画「Quartet」
監督:久石譲 音楽:久石譲 出演:袴田吉彦 桜井幸子 他

 

久石譲 第1回監督作品
日本初の本格的音楽映画、劇中使用曲フル・バージョン収録
ボーナス・トラックにリミックス・バージョン収録

 

 

曲目解説 by JOE HISAISHI

1.Main Theme
メイン・テーマに、プログラミングによるリズムを加えた楽曲です。エンディングのアイディアとしては、幾つかの方法が考えられましたが、青春映画の希望的要素を込めたアレンジにしました。

2.Student Quartet
この映画の音楽に関しては、当初メイン・テーマ以外は既存のクラシック曲を使って完成させる予定でした。しかし、制作を進めていくうちに、自分の映画の中で、僕以外の人が作った曲が鳴ることに違和感を覚え始めて…。聞いてもらえばわかるように、この曲は本当ならモーツァルトの「ディヴェルティメント」をイメージしていましたので、それに近い雰囲気で書き上げました。途中、主人公の苦悩を音楽で語る意味で、イタリア映画の音楽っぽい、メロディアスで泣かせるフレーズを封入しています。そうしたところに、単なるモーツァルト風楽曲にはしないぞというこだわりを感じてもらえたら嬉しいですね。

3.パッサカリア
劇中、明夫(袴田)がオーディションで弾くソロの曲です。「Student Quartet」の場合と同様に、本当なら「カプリース24」という、パガニーニのバイオリン・ソロの曲を使いたかった箇所なので、この作風を下敷きにしてそのフォーマットにのっとって、新たに自分で作ってみました。なぜ「カプリース24」をイメージしたかといえば、メロディもよくポピュラリティがありつつ、激しさも備えている。バイオリニストとしてのビルティオーゾといいますか、テクニカルな部分も相当に要求する楽曲ですから。いうなれば、パガニーニに捧げるオマージュのようなものです。

4.Black Wall (Strings Quartet)
マレーヴィッチ・ウォルハイムという著名作曲家が作った有名なクラシック作品で、なおかつ弦楽四重奏であり、オーケストラの定番曲でもあるという設定です。これはよくあることで、「展覧会の絵」も元々はピアノ曲だったものが、オーケストラにもなっているのと似たスタイルです。本来、青春映画では、こういう現代音楽調の不協和音の楽曲を使うのは、楽曲がやたらと小難しくなりがちなので、かなりの冒険ではあります。ある意味これが、(映画の)最初から最後までを引っ張っているといってもいいくらい。そういう音楽家としての勝負曲として書いた作品です。ちなみに作曲家名は、絵画界のミニマル・アーティストの”~・マレーヴィッチ”という人と”~・ウォルハイム”という人の名前を組み合わせて作った架空の作曲家名です。

5.浜辺のカルテット
これはメイン・テーマをさらに極力シンプルに、緩やかなテンポでアレンジしたものです。主人公の明夫(袴田吉彦)と智子(桜井幸子)の恋愛感情も音楽だけで表現できるんじゃないかと思って、映画では全般的にラブ・シーンを排除してきました。だけど、二人の気持ちが徐々に接近していく様子や、バラバラだった4人が少しずつ心を通わせていくニュアンスはどうしても必要でしたので、この音楽に託してみました。

6.Melody Road (My Neighbor TOTORO~HANA-BI~KIDS RETURN)
「となりのトトロ」「HANA-BI」「キッズ・リターン」のメドレーです。僕が映画をやるということのサービス・カットでしょうか(笑)。ある程度僕の音楽が好きな人ならば、たぶん馴染みがある楽曲だろうという観点で選んだ楽曲群ですね。技術にこだわる人間が目指す音楽から、気持ちの音楽へと切り替わっていく過程や様子を感じ取ってもらえるといいんですが。

7.DA・MA・SHI・絵 (Sax Quartet)
ストーリーの中では、主人公たちがコンクールを受けている際に別のアンサンブルが演奏しているシーンの楽曲です。これもコンクール曲であるという前提ですから、構成が複雑であることと、なおかつミニマル音楽をずっとやり続けてきた自分の個人的な思い入れも込めて選曲しました。そういう意味では、僕にとって重要な曲の一つといえます。イギリスの弦楽四重奏団”バラネスク・カルテット”を迎えて昨年リリースした『Shoot The Violist』というアルバムにも入っている曲です。

8.Lover’s Rain
この映画では唯一のBGMです。つまり、ほかの楽曲はすべて、絵(映画)の中で誰かが演奏したり、周りで誰かが弾いているという状況下で奏でられていますから、いわゆる映画音楽というのがこの映画にはほとんど存在しない。唯一書いたのがこの曲。自分としては相当画期的なことをやっているつもりではあります。

9.冬の夢
僕の『My Lost City』というソロ・アルバムの中に収録されている作品です。ここでは映画にも出演している久木田薫さん自身が弾いてます。主人公の一人・愛ちゃん(久木田)が音楽の深さを知るきっかけとなる曲ですね。これまで随分いろいろな曲をチェロのために書いてきましたが、これが最も好きな曲のひとつです。

10.・・・・for Piano
映画の中では使っていない、メイン・テーマのピアノ・ソロ・バージョンで、このCDに収録するために急遽演奏した曲です。映画「Quartet」のサントラ盤でありつつも、僕のソロ・アルバムとしての側面もあるCDですから、どうしてもピアノのソロでテーマを弾いてほしいというリクエストがありまして…。実際、僕はこういう感じの楽曲を、過去に出したソロ・アルバムを含めてもほとんど弾いていませんので、今までの自分のピアノ・スタイルとは違った世界にチャレンジしてみたいという感覚が強かったですね。

11.Black Wall (Orchestra)
track 4のオーケストラ・バージョン。映画では、オーケストラのコンサート・マスターとしてバイオリンを弾く明夫(袴田)と、その一方で明夫の到着を待つカルテットのメンバーという、クライマックスにつながる重要なシーンでずっと流れる曲です。同じ曲ですが、カルテットでは繊細さが強調され、オーケストラでの演奏ではダイナミックさが増し、荘厳な感じに響いています。

12.Quartet g-moll
本来映画音楽としては、見てくれた人が映画館を出た後にも口ずさめるようなメロディがベストな形といえます。音楽とともに映画のシーンが浮かんでくるような…。その場合のメロディは極力シンプルなほうがいいわけです。ただこれは、映画の中ではコンクールで演奏する曲でもあり、コンクールを受ける楽曲であるからには、テクニック的にもカルテットとしての機能を存分に引き出している作品でなければならない。すると必然的に、映画音楽としてのシンプルさと、アンサンブルの奥行きや音楽的な内容の深さ、難しさの両方を兼ね備えた、非常に高度な音楽にならざるを得ない。そうした大きな矛盾といいますか、相反する要素を融合させる取り組みをしました。

13.Main Theme -Remix
※ボーナス・トラックとして収録

(曲目解説 ~CDライナーノーツより)

 

 

そもそも”カルテット”とは?

カルテット(英語表記で quartet)とは、広義で四重奏(唱)のこと。四重奏曲を指すこともある。『新音楽辞典』(音楽之友社刊)には「4個の独奏楽器による室内楽重奏。弦楽四重奏が基本的で、(中略)ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロにピアノ四重奏、木管をひとつ加えたフルート四重奏、オーボエ四重奏、木管、金管、ホルン、サクソフォーン四重奏その他各種の編成がある」と記されている。今日まで続く弦楽四重奏曲の基本様式を確立したのはフランツ・ジョゼフ・ハイドン(1732~1809)という説がもっぱらである。その醍醐味は様々だが、劇中で三浦友和扮する青山助教授わいく「アンサンブルの中でも弦楽四重奏ってのは、余分なものをすべて削ぎ落とした究極の形態だ。演奏家としての力量がこれほどはっきり表れるものはない」とのこと。幼少の頃バイオリンをたしなんでいた久石自身の弦楽四重奏に対する考え方としてとらえてもいいだろう。

Blog. 映画『Quartet カルテット』(2001)監督・音楽:久石譲 劇場用パンフレットより 抜粋)

 

 

「撮影は去年に終えていてね。劇中、袴田(吉彦)君扮する主人公の台詞で『音楽ってそれほどのものなんですか?』っていうのがある。この一言を音楽家である僕が言わせるのは、自分では結構強烈な挑戦だった。多分この一言を撮りたくて映画を作ったんだなと、今は思っている。”音楽を作る”ことと”生きる”ことの関係性を何らかの形にしてみたかったのではないかな。音楽は自分では未だ模索の最中だし『Quartet』も、その明確な答えとは成り得ていないけれど、リアリティという点ではなかなかの仕上がりだよ」

Blog. 「SWITCH スイッチ JULY 2001 Vol.19 No.16」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「まず音楽映画とはどういうものか、明確な定期をしておかなければいけないと思いました。ドンパチがあればギャング映画、音楽があれば音楽映画というふうに考えれば、実際どのジャンルを見ても明確な定義など存在しないんです。そこで自分が考える音楽映画とは、まず第1に音楽自体がストーリーの展開と強く絡んでいなくてはいけない。第2に、せりふの代わりに音楽で半分ぐらいは表現してしまう。つまり、(音楽で)見る側にイマジネーションを広げてもらう。この2点を明確にして自分のスタンスをとろうというのが演出の根底にあったんです」

Blog. 「PREMIERE プレミア 日本版 October 2001 No.42」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「音楽が主役になっている、ということ。物語に音楽がからんでいるとか、主人公が音楽家というだけでは音楽映画にはなりません。音楽がドラマとからんでクライマックスに向かっていくような映画を、私は音楽映画と呼ぶことにしています」

「整理すると、音楽とストーリーが密接にかかわっていること、音楽が台詞の代わりになりえていること、この2点に集約されます」

Blog. 「ディレクターズマガジン 2001年11月号」 久石譲 インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「主人公が、お父さんが家を崩壊させてまでカルテットに打ち込んだことに対して、「音楽ってそれほどのもんですか」っていうシーンがあるんですよ。観ていると、すっと流れちゃう場面かもしれないけど、音楽家である僕が監督しながら、この台詞をいわせるっていうのは、すごく重いんですよね」

「あります、正直いえば。こんなに全部を犠牲にして…。たとえば、この2日間すさまじい指揮をしました。その前は籠もりきりで一日10数時間、譜面を書いてます。そのまた前は、2ヵ月間籠もってレコーディング。1年間、ピアノにさわってないのに、ピアノをダビングするなんてことまで起きてくる。まったくよくやってますよね。何のためにやってるんだろうって、ふと思うことがあるんです。「音楽ってそれほどのもんですか」。この台詞をいわせるために、僕はこの映画を撮ったんじゃないかという気がしてます」

Blog. 「月刊ピアノ 2001年7月号」映画『Quartet』 久石譲 インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「全体の半分弱くらいが音楽シーンで、時間軸に固定されますから、構成自体は難しくなかったんです。でも、セリフの投げ合いで感情を引っ張りすぎると音楽シーンのパワーがなくなっちゃうから、芝居は極力抑える、カメラは引くって決めてましたね。そういう意味では、北野監督的なやり方だったんですよ。過剰に説明をせずに、どこまで引いて見せるかという意味ではね。武さんは僕が映画を撮るというのを知っていたんです。あるとき一緒にご飯を食べていて、武さんが大杉漣さんに話をしていたんですよ。”ラーメンをおいしく撮る方法って、いかに本当においしいかと見えるようなカットを撮らなくちゃいけないんだよ。たいがいの監督がしくじるのは、いかにうまいかという内容を説明しちゃうから。トンコツ味でとか昆布のダシでとかさ、そうするとトンコツが嫌いな人はそれを聞いた瞬間、半分引いちゃうんだよな”って。大杉さんに話をするフリをして、たぶん僕に言ってくれたんだと思う。それがすごく残っていて、大変なヒントをいただきましたよね」

「この映画、2回観た人の反応がいいんですよ。芝居や何かを全部言葉でやっていると2回観たいとはあまり思わないですよね。でも、音楽は2度聴いても嫌にならない。その音楽が今回、セリフ代わりになってますね。リピートに耐える映画になったかと思うと、とてもうれしいですね」

Blog. 「DVDビデオ・ぴあ 2001年10月号」 映画『Quartet』久石譲 インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

 

 

 

映画公開当時、ファンクラブ限定で映画前売券販売企画があった。その特典として『CD付 Quartet プロモーションツール』が前売券と一緒に届けられている。また一般劇場前売券でも、”プレミアムCD付前売券”発売があった。数量限定、東京・大阪・名古屋・福岡・札幌の指定された複数映画館が対象。

(ファンクラブ会報 NEWS WONDER2 No.39 より要約)

 

 

 

 

 

 

QUARTET カルテット

1. Main Theme
2. Student Quartet
3. パッサカリア
4. Black Wall (Strings Quartet)
5. 浜辺のカルテット
6. Melody Road
(My Neighbor TOTORO〜HANA-BI〜KIDS RETURN)
7. DA・MA・SHI・絵 (Sax Quartet)
8. Lover’s Rain
9. 冬の夢
10. ・・・・for Piano
11. Black Wall (Orchestra)
12. Quartet g-moll
13. Main Theme -Remix

all composed, arranged and produced by joe hisaishi

Piano:JOE HISAISHI

Conductor:KIM HONG JE

Musicians
Balanescu Quartet:
ALEXSANDER BALANESCU:1st Violin
FENELLA BERTON:2nd Violin
CHRIS PITSILLIDES:Viola
NICK HOLLAND:Violin Cello (M-2,3,4,5,6,12)

YUICHIRO GOTO GROUP (M-1,8,9)
IKUO KAKEHASHI (M-1)
NEW JAPAN PHILHARMONIC (M-11)
kAORU KUKITA (M-9)
Vivi SAXPHONE ENSAMBLE (M-7)

Orchestration:KAZUNORI MIYAKE

Recording Studios:
WONDER STATION
AVACO CREATIVE STUDIOS
ANGEL STUDIO (LONDON)

 

Disc. V.A. 『久石譲 セレクテッド カルテット・クラシックス』

久石譲セレクテッド・カルテット・クラシックス

2001年9月27日 CD発売 UCCG-3247

 

初監督作品 映画「カルテット」の公開にちなみ久石譲が自らセレクトした弦楽四重奏曲のコンピレーション・アルバム

 

 

「カルテット」はクラシック音楽のエッセンス

『カルテット』という映画を作るに当たって約1年がかりで脚本を練り、弦楽四重奏を目指す若者の話なので、同時にカルテットの楽曲をすごく調べたんです。モーツァルト、ベートーヴェンなどのCD、スコアも手に入れて調べていきましたが、映画自体では音楽家としての自分の色を出すために結果としてどれも使用しませんでした。けれどもラヴェルのカルテットであったりとか、名曲がたくさんあって、その時の経験から「カルテット・クラシックス」として皆様にも聴いてほしいと思ったのが、このアルバムを企画した理由です。

音楽を志した頃から、弦楽四重奏というものは当然あるべきスタイルとして頭にありました。カルテットというのは、基本的にはクラシック音楽のエッセンスだという気持ちがすごく強いんです。例えばベートーヴェンの作曲の仕方を見ていても、それぞれの時期、時代にまずピアノ・ソナタで新しい方法にチャレンジする、それをオーケストラでうんと拡大してその時期の自分のスタイルを確立して、最後に必ず弦楽四重奏を書くんですよ。それによってある時代の自分の音楽のアプローチというものに必ず区切りをつけていきます。ピアノでまずチャレンジ、オケで拡大、最後にカルテットでその時期をまとめるという繰り返しです。

ベートーヴェンにとってカルテットはどのくらいの重さがあったんだろうか、と作曲家として考えることがよくありました。我々が作曲を勉強する時に和声学という勉強をします。和声学はソプラノ、アルト、テナー、バスという4声体を基準にして音楽を作るんです。そうすると実は弦楽四重奏はそれと全く同じ形式になってしまう。つまり、作曲をやる上で最初に学ぶ形態が発展したものが弦楽四重奏なんだなというのが僕の根底の考え方です。したがって、作曲家にとって弦楽四重奏に最後に行き着くというのは、それが無駄をすべて削ぎ落とした本当のエッセンスのような究極の形態であるからという気がします。

久石譲

(CDライナーノーツより)

 

 

【楽曲解説】

1.シューベルト:弦楽四重奏曲 第13番 イ短調 D.804 《ロザムンデ》 ~第2楽章
F.P.シューベルト(1797-1828)は、未完成作品を含めて全部で15曲の弦楽四重奏曲を残しているが、1824年に作曲されたこの第13番は、第2楽章に劇音楽《ロザムンデ》の間奏曲の旋律が流用されていることによって名高い作品である。そしてアンダンテのその第2楽章は、自由なロンド形式による緩徐楽章であり、ロザムンデの主題の反復から優美でやわらかい美しさが醸し出されている。

2.ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲 《糸杉》 ~第1曲「君に対する私の愛情は」
A.ドヴォルザーク(1841-1904)は、1865年に全18曲から成る歌曲集《糸杉》を作曲したが、弦楽四重奏のための《糸杉》は、作曲者自身がそこからピック・アップした12曲を弦楽四重奏のために1887年に編曲したものであり、ロマンティックで詩的な性格の小品集といった内容を呈している。そして、このアルバムに収められている「君に対する私の愛情は」は、その第1曲にあたるものである。

3.ラヴェル:弦楽四重奏曲 ヘ長調 ~第2楽章
M.ラヴェル(1875-1937)は、弦楽四重奏曲を1曲しか残していないが、27歳の彼の筆から生まれたこの1曲は、この作曲家の名声を不動のものにした傑作である他、彼の才能の全貌が具体化した最初の作品と目される注目作でもある。アセ・ヴィフートレ・リトメの第2楽章は、3部形式によるスケルツォ楽章であり、トリオの部分では、主部の2つの主題を素材にして多彩な展開が繰り広げられる。

4.チャイコフスキー:弦楽四重奏曲 第1番 ニ長調 作品11 ~第2楽章 (アンダンテ・カンタービレ)
P.I.チャイコフスキー(1840-1893)は、全部で3曲の完成された弦楽四重奏曲を残しているが、1871年に完成されたこの第1番は、それを聴いたトルストイが第2楽章の美しさに涙を流したと伝えられている作品である。「アンダンテ・カンタービレ」の名で単独でも有名になっているその第2楽章は、自由な形式による緩徐楽章であり、ロシア的で綿々とした抒情美がまさに限りない名場面になっている。

5.ハイドン:弦楽四重奏曲 第77番 ハ長調 Hob.III:77 (作品76-3) 《皇帝》 ~第2楽章
1796年に作曲されたこの第77番は、F.J.ハイドン(1732-1809)の弦楽四重奏曲のなかでも最もポピュラーなものであり、そこでは、第2楽章の主題にハイドンが作曲した旧オーストリア国家「皇帝讃歌」が流用されている。そして、ポーコ・アダージョ・カンタービレのその第2楽章は、変奏曲形式による緩徐楽章であり、有名な皇帝の主題と4つの変奏から構成されている。

6. モーツァルト:弦楽四重奏曲 第17番 変ロ長調 K.458 《狩》 ~第1楽章
全6曲から成る「ハイドン・セット」は、W.A.モーツァルト(1756-1791)の弦楽四重奏曲を代表する傑作であるが、その第4曲にあたるこの「狩」は、1784年9月9日に完成されたものであり、第1楽章の第1主題が狩の時のラッパを連想させることから、「狩」と呼ばれるようになった。そして、アレグロ・ヴィヴァーチェ・アッサイの第1楽章は、第1主題に強い独立性が与えられたハイドン風のソナタ形式による楽章である。

7.ボロディン:弦楽四重奏曲 第2番 ニ長調 ~第3楽章 (夜想曲)
ロシア国民楽派の五人組の1人であるA.P.ボロディン(1833-1887)は、全部で2曲の弦楽四重奏曲を残しているが、1881年に作曲されたこの第2番は、そのなかでも特に演奏される機会の多い傑作であり、情緒豊かで色彩感に富んだ作品になっている。そして、ボロディンのノットゥルノ(夜想曲)として単独でも広く親しまれているアンダンテの第2楽章は、綿々と歌われる甘美な旋律がたまらなく美しい緩徐楽章である。

8.プッチーニ:弦楽四重奏のための 《菊》
イタリア歌劇を代表する大作曲家の1人であるG.プッチーニ(1858-1924)は、歌劇を中心にした創作活動を続けながらも先輩のヴェルディとは異なり、数は決して多くはないもののオーケストラ曲や室内楽曲の作曲にも手を染めている。そして、1892年に作曲されたこの「菊」は、繊細で可憐な抒情美が光彩を放っている作品であり、まさに菊のイメージを連想させるような音楽になっている。この作品では、本来は弦楽四重奏のために書かれているが、弦楽オーケストラのためにも編曲されている。

9.ドビュッシー:弦楽四重奏曲 ト短調 作品10 ~第1楽章
C.A.ドビュッシー(1862-1918)は、弦楽四重奏曲を1曲しか残していないが、1893年に完成をみたその弦楽四重奏曲は、印象派音楽の確立と発展を担うドビュッシーの試みが見事に結実した作品であり、非現実的な官能美やファンタジーが豊かに息づいている傑作になっている。アニメ・エ・トレ・デジテの第1楽章は、ソナタ形式による楽章であるが、定石に束縛されない自由な創意が大きな成果を実現させている。

10.ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第13番 変ロ長調 作品130 ~第5楽章
L.V.ベートーヴェン(1770-1827)後期の弦楽四重奏曲は、幽玄で深遠な表現を特色とした晩年のこの大作曲家ならではの傑作として名高いが、そのなかの1つであるこの第13番は、1825年に完成された6楽章制による異例の弦楽四重奏曲である。そして、カヴァティーナ、アダージョ・モルト・エスプレッシーヴォのその第5楽章は、3部形式による緩徐楽章であり、作曲者自身が会心の作と述べた静かで叙情的な音楽である。

柴田龍一

(楽曲解説 ~CDライナーノーツより)

 

 

久石譲セレクテッド・カルテット・クラシックス

1. 弦楽四重奏曲 第13番 イ短調 D.804 《ロザムンデ》 ~第2楽章 (シューベルト)
2. 弦楽四重奏曲 《糸杉》 ~第1曲「君に対する私の愛情は」 (ドヴォルザーク)
3. 弦楽四重奏曲 ヘ長調 ~第2楽章 (ラヴェル)
4. 弦楽四重奏曲 第1番 ニ長調 作品11 ~第2楽章 (アンダンテ・カンタービレ) (チャイコフスキー)
5. 弦楽四重奏曲 第77番 ハ長調 Hob.III:77 (作品76-3) 《皇帝》 ~第2楽章 (ハイドン)
6. 弦楽四重奏曲 第17番 変ロ長調 K.458 《狩》 ~第1楽章 (モーツァルト)
7. 弦楽四重奏曲 第2番 ニ長調 ~第3楽章 (夜想曲) (ボロディン)
8. 弦楽四重奏のための 《菊》 (プッチーニ)
9. 弦楽四重奏曲 ト短調 作品10 ~第1楽章 (ドビュッシー)
10. 弦楽四重奏曲 第13番 変ロ長調 作品130 ~第5楽章 (ベートーヴェン)

演奏:
ハーゲン弦楽四重奏団 1. 2. 8.
ラサール弦楽四重奏団 3. 9. 10.
アマデウス弦楽四重奏団 4. 5. 6.
ドロルツ弦楽四重奏団 7

録音:1968年-1993年

DIGITAL RECORDING:1. 2. 5. 6. 8.

 

Disc. 久石譲 『千と千尋の神隠し サウンドトラック』

久石譲 『千と千尋の神隠し サウンドトラック』

2001年7月18日 CD発売 TKCA-72165
2020年11月3日 LP発売 TJJA-10028

 

2001年公開 スタジオジブリ作品 映画「千と千尋の神隠し」
監督:宮崎駿 音楽:久石譲

 

映画本編の楽曲を収録したサントラ盤。新日本フィルハーモニー交響楽団のフルオーケストラにより、サントラでは今回初めて、コンサートホールで生収録された。指揮・ピアノも久石が担当。録音は2001年5月、木村弓の主題歌も収録。

 

新日本フィルを自らのタクトで率い、
シンセサウンドとオーケストラサウンドの完璧な融合を実現
カラフルなリズムと荘厳な響きによって綴られる全21曲は必聴!

 

 

「実はこの作品のテーマを表現するためにオーケストラが必要かどうかっていうのは、よくわからないんですよ。主人公の心情だけを追っていくことを考えたらピアノ一本でも充分なわけだから。だけどあの世界観を表現するにはやはりフルオーケストラぐらいの広がりがないとダメだと思ったんです。それで宮崎さんもすごくその場の空気感を大事にされる方だから、今回はスタジオで収録するのではなくて、コンサートホールでライブで録ったんです。それはすごく成功していると思う。それでエスニックやガムラン、バリ島の音楽、沖縄民謡、中近東やアフリカのものまでいろんなものを使っているんだけど、それらは料理でいう飾りつけみたいなもので、実はそこにはあまり意味がないんです。意味があるとすれば、それは作品自体が限定した空間のリアリティを求めているものじゃないですから、いろんなものを使うことによって閉じた感じをなくしてどんどん広がりを出す。そのための手段として使った。それだけです。」

「映画の後半に千尋が海の上を走る電車に乗って銭婆のところへ向かうシーンがあるんですけど、僕はあのシーンが宮崎さんが今回一番やりたいところだったと思っているんです。それでイメージアルバムの中にある『海』という曲が、そのシーンにすごく合うんですよ。宮崎さんもイメージアルバムを作った時にその曲を真っ先に気に入ってくれたんですけどね。」

Blog. 久石譲 「千と千尋の神隠し」 インタビュー 劇場用パンフレットより 抜粋)

 

 

「湯婆婆のテーマ曲は苦労したなぁ。何度も書き直してるんです。宮崎さんのキャラクターって複雑で、善人が後ろに悪を抱えていたり、きびしい顔の裏に優しさがあったりするじゃないですか。必ず相反する両面を要求するから、単に怖いおばあさんとして書くことができないんです。でも、その分、自分でも、一、二の出来になったんじゃないかな。通常の楽器を使っているけど、その音がしないように作ったんですよ。ピアノの一番高い音と低い音が同時に鳴るような。あの曲は、気に入っている曲の1つです。」

Blog. 久石譲 「千と千尋の神隠し」 インタビュー ロマンアルバムより 抜粋)

 

 

「木管楽器の音をほんのわずかだけ出し入れしていたんです。今回はコンサート用のホールで、管楽器も弦楽器もそれぞれにマイクを立てて、同時に演奏して収録したんですが、管楽器のマイクにも弦楽器の音がわずかに漏れて入っている。そのために、例えば木管楽器の音を大きくすると、別の楽器の音も若干大きくなってしまう。だから、微妙な調整でベストのバランスを探していたんです。」

「毎回、挑戦の連続です。今回は、ガムランやエスニックな打楽器など、とてもオーケストラといっしょに奏でるようには思えない楽器を大胆に使っています。それに6.1チャンネルのドルビーサラウンドという、従来の5.1チャンネルよりもさらに進歩した、アニメ映画では初めての試みにも挑戦しているんです。」

Blog. 「千と千尋の神隠し 徹底攻略ガイド 千尋と不思議の町」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「宮崎監督は最初、すごくミニマルっぽいものを要求したんです。もともと『となりのトトロ』などでもミニマル風の音楽を付けたことはありますが、今回、監督から『ここのシーン、普通なら(フルオケで)ジャーン!と鳴らすところをミニマルで行きませんか?』と言われてびっくりしました。いつも宮崎監督は『自分は音楽のことはよくわからないので』とエクスキューズしていますが、北野監督と同様、映像に付ける音のあり方に関しては、ものすごく鋭敏な神経をもっていますね。『千と千尋の神隠し』のサントラでは、あまり好きなやり方ではないのですが、キャラクターごとに音楽を付けていくハリウッド的な手法をとりました。あくまでも少女の話なので、彼女の心情にできるだけ寄り添いながら静かな音楽で押し通し、あとは監督の世界観に(フルオケで)合わせると。ただ、その世界観をつかむのが大変でしたね」

Blog. 「PREMIERE プレミア 日本版 October 2001 No.42」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

久石:
木管楽器の音をほんのわずかだけ出し入れしていたんです。今回はコンサート用のホールで、管楽器も弦楽器もそれぞれにマイクを立てて、同時に演奏して収録したんですが、管楽器のマイクにも弦楽器の音がわずかに漏れて入っている。そのために、例えば木管楽器の音を大きくすると、別の楽器の音も若干大きくなってしまう。だから、微妙な調整でベストのバランスを探していたんです。

ー全部の楽器を別々に録音しておけば、そうならないわけですね。

久石:
でもそうすると、ホールの音の響きの良さが失われてしまう。今回は響きの良さを選択したわけです。なんとなく聞いているだけでは、気が付かないことですが、こうしたことの積み重ねが、最終的な音楽の仕上がりを決定するんです。

ー宮崎監督とのコンビはこれで7作目。

久石:
毎回、挑戦の連続です。今回は、ガムランやエスニックな打楽器など、とてもオーケストラといっしょに奏でるようには思えない楽器を大胆に使っています。それに6.1チャンネルのドルビーサラウンドという、従来の5.1チャンネルよりもさらに進歩した、アニメ映画では初めての試みにも挑戦しているんです。

Blog. 「千と千尋の神隠し 徹底攻略ガイド 千尋と不思議の町」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

久石:
どう展開していくのか息をのむような話なんですよね。ですがベースは一人の少女の成長譚みたいな話なので。そこのところの表現、いろいろな神々が出てきて異世界に入ったりするところの音楽のあり方と、あくまで一人の少女が一歩一歩成長していく過程っていうのをどうやって音楽でつくるか、そこに一番苦心したかもしれない。それともう一個、普通でいうファンタジーのあっちの世界っていうのを通り越して、結構具体的なこの世界とあっちの世界みたいな違いが、宮崎作品のなかでもだんだん強く出てくる。それはのちのポニョにつながってくると思うんですが。「6番目の駅」っていう曲があるんですけど、ちょうど海を渡っていくところ。あれはある種もう黄泉の世界にいくんじゃないかみたいな、この世界とあっちの世界その境みたいなものが行き来する、そういうのをどうやって表現するかなあというのをすごく考えましたね。

Blog. NHK FM 「今日は一日”久石譲”三昧」 番組内容 -トーク編- より抜粋)

 

 

 

千と千尋の神隠し Spirited Away MEMORIAL BOX

2003年4月9日 CD-BOX発売 TKCA-5

第75回 アカデミー賞 アニメーション映画部門受賞

 

 

 

2020.11 Update

2020年発売LP盤には、新しく書き下ろされたライナーノーツが封入された。時間を経てとても具体的で貴重な解説になっている。

 

 

 

 

久石譲 『千と千尋の神隠し サウンドトラック』

1. あの夏へ
2. とおり道
3. 誰もいない料理店
4. 夜来る
5. 竜の少年
6. ボイラー虫
7. 神さま達
8. 湯婆婆
9. 湯屋の朝
10. あの日の川
11. 仕事はつらいぜ
12. おクサレ神
13. 千の勇気
14. 底なし穴
15. カオナシ
16. 6番目の駅
17. 湯婆婆狂乱
18. 沼の底の家
19. ふたたび
20. 帰る日
21. いつも何度でも 歌:木村弓

作曲・編曲・演奏:久石譲
プロデュース:久石譲

指揮・ピアノ:久石譲
演奏:新日本フィルハーモニー交響楽団

オーケストレーション:久石譲 長生淳 三宅一徳

レコーディング・スタジオ:
ワンダーステーション
すみだトリフォニーホール

 

Spirited Away (Original Soundtrack)

1.One Summer’s Day
2.A Road to Somewhere
3.The Empty Restaurant
4.Nighttime Coming
5.The Dragon Boy
6.Sootballs
7.Procession of Gods
8.Yubaba
9.Bathhouse Morning
10.Day of the River
11.It’s Hard Work
12.The Stink God
13.Sen’s Courage
14.The Bottomless Pit
15.Kaonashi (No Face)
16.The Sixth Station
17.Yubaba’s Panic
18.The House at Swamp Bottom
19.Reprise
20.The Return
21.Always With Me

 

Le Voyage De Chihiro
(France, 2002) 198 732-2

1.Cet Eté La…
2.Le Chemin Où On Passe
3.Le Restaurant Où On Ne Voit Jamais Personne
4.La Nuit Tombe
5.Le Petit Dragon
6.La Punaise De La Chaudière 
7.Les Dieux 
8.Yubaba, La Vieille Du Bain Public 
9.Le Bain Public Au Matin 
10.La Rivière, Ce Jour Là 
11Le Boulot, C’est Tuant ! 
12.Une Divinité Calamiteuse 
13.Le Courage De Chi 
14.Un Trou Insondable 
15.Sans-Visage
16.Le Sixième Gite D’étape
17.La Folie Furieuse De Yubaba
18.La Maison Du Fond Du Marécage
19.De Nouveau…
20.Le Jour Du Retour 
21.Rêvons Toujours Les Memes Rêves Aimés

 

센과 치히로의 행방불명 Original Soundtrack
(South Korea, 2004) PCKD-20160

1.어느 여름날
2.통로
3.아무도 없는 음식점
4.밤이 다가온다
5.용의 소년
6.보일러 벌레 
7.신들 
8.유바바
9.온천장의 아침 
10.그날의 강 
11.일은 힘든 법이야 
12.오물의 신 
13.센의 용기 
14.밑빠진 구멍 
15.카오나시(얼굴없는 요괴) 
16.6번재 역 
17.유바바의 광란 
18.연못 아래의 집 
19.또 다시 
20.돌아가는 날

 

Disc. 久石譲 『いつも何度でも / いのちの名前』

久石譲 『千と千尋の神隠し いつも何度でも』

2001年7月18日 CDS発売 TKCA-72166

 

2001年公開 スタジオジブリ作品 映画「千と千尋の神隠し」
監督:宮崎駿 音楽:久石譲

 

 

「いのちの名前」は映画メインテーマ曲「あの夏へ」(イメージアルバム楽曲名は「あの日の川へ」)である。後に平原綾香にもカバーされている。

本作品に収録されている「いのちの名前」はピアノ伴奏を基調としながらも、中盤からシンセサイザー・ストリングスなどが奏でられていて、久石譲によるピアノ演奏以外は、シンセサイザー音源となっている。メインテーマ曲「あの夏へ」としても、サントラ盤はオーケストラによる生演奏であることからみても、貴重なヴァージョンである。3曲目のインストゥルメンタル版は、オリジナル・カラオケである。

 

 

いのちの名前 平原綾香

 

こちらはヴォーカルとピアノのみによるふたりのコラボレーション。

 

 

 

久石譲 『千と千尋の神隠し いつも何度でも』

1. いつも何度でも 歌:木村弓 作詞:覚和歌子 作曲:木村弓
2. いのちの名前 歌:木村弓 作詞:覚和歌子 作曲・編曲:久石譲
3. いのちの名前 (インストゥルメンタル) 作曲・編曲:久石譲

プロデュース:久石譲

ジャケット監修:宮崎駿

 

Disc. 久石譲 『joe hisaishi meets kitano films』

2001年6月21日 CD発売 UPCH-1086

 

北野映画全6作のサウンドトラックより、久石自ら選りすぐられたベストアルバム。トヨタ・カローラCM曲”Summer”収録。北野武監督寄稿+森昌行プロデューサーによるライナーノーツなど、数々の特典を盛り込んだ力作。オフィス北野作品サウンドロゴを初収録。

 

 

” joe hisaishi meets kitano films ” に寄せて

このアルバムを聴いていると、それぞれの作品に取り組んでいた時の自分自身の気持ちの流れみたいなものが蘇ってくる。それぞれ違う曲なんだけど、何か一貫した匂いを発しているし、今までの作品の映像を再編集して、ここにある曲を全部使って一本の映画を作ってしまうってえのはどうだい?・・(笑) そのくらいトータルな世界がここには存在している。それにしても、いずれ劣らぬ名曲揃いだね。お見事!です。

北野武

(CDライナーノーツより)

 

 

北野映画のプロデューサー森昌行氏(オフィス北野社長)が語る、久石音楽と北野作品の接点と相関関係

北野監督という人は、もともと映画を撮りたくて撮り始めたわけではないといういきさつを含めて、基本的に映画の文法にのっとってものを考えるところがなかったんですね。だから映画音楽に関しても、正直言ってあまり深く考えていなかったと思うし、どちらかといえば既にあるものの中から使っていこうという意識が強かったと思う。

「その男、凶暴につき」はエリック・サティですしね。「3-4×10月」の時も、ジャン・リュック・ポンティだったりエリック・ドルフィだったり。著作権の問題で使えなかったという事情もあり、それなら逆に音楽を全部やめてしまおうという経緯もあって、あの作品では映画音楽というものをまったく使っていないんですよ。

映画音楽のいろはを知らないわけではないんですけど、自分の作品のイメージを意識にて曲を作ってもらうという発想がなかったんですね。ですから、映画音楽というものと正面から向き合ったのは「あの夏、いちばん静かな海。」での久石さんが初めてでした。

武さん自身、いろんなコンポーザーの方々を知っているわけではなかったし、スタッフの間でふと久石さんの名前が挙がったのが発端で…。久石さんといえば、宮崎(駿)作品とのコラボレーションの印象のせいか、どうしてもアニメーション映像のキャラクターに命を吹き込むような、素朴でセンシティヴな音楽のイメージが強いので、一見、武さんとは接点がなさそうに思えますよね。ですが、映画制作において常套手段を持たず、文法を外して考える武さんのやり方には、久石さんが持っているテイストのほうが合うかも知れないと思えたんですね。

久石さんには、世界観についてあれこれディスカッションして音楽をつけてもらうというよりも、映画そのものが持つキャラクターのようなものを客観的に見ていただけるんじゃないか、なおかつ的確な音楽をつけていただけるんじゃないかという思惑もそれなりにありましたし。武さんが描いている世界には、久石さんの素朴ふうなエッセンスのほうが与しやすいんじゃないか、それがミスマッチであればあるほど、ひょっとしたらハマるんじゃないか、と。だから、動機としてはきわめて不純でしたね(笑)。

初めてご一緒させていただいた作品の「あの夏~」の主人公には台詞がないという特殊なケースでしたけど、台詞の代わりにあのキャラクターに世界観を持たせたり肉づけしていくのは音楽なのかなあという気もしてましたし、そこでこそ久石さんの手腕が生きるかなという期待もあって、お願いしたわけなんですけどね。

われわれの中では、北野武 VS 久石譲という組み合わせは、かなりセンセーショナルでスリリングなコラボレーションだったわけですよ。

ただ、久石さん自身は相当難儀をされたと思います。なぜなら、武さんは本来音楽がつかないような場面に音楽をつけようと言いだしたり、ありきたりな発想を排除した観点でリクエストしますから。しかも打合せの段階で、どのシーンにどんな音楽をつけてほしいというリクエストをしておきながらも、武さんはダビングの段階でそれを根底から覆したりもしますし(笑)。そもそも、何度も何度もディスカッションを重ねて、映像にマッチする音楽を決めていくやり方は、武さん的ではないわけです。ある程度任せられながら、久石さんが北野ワールドの当たらずとも遠からずのヒントを見つけていくという方法が主流なんですが、いざ任せられる立場の久石さんの心中を察すると、かなりの苦労を抱え込んでいるんじゃないんでしょうか。任せられたとはいえ、まったく違った世界を示すわけにもいきませんからね。

つまり、共通言語を持ちえない者同士がなんとか共通言語を模索するような難しさが潜んでいるわけです。でも久石さんは、武さんのそういうわがままに近いこだわりを許すだけじゃなくきちんと認めてくれて、なおかつ理解と納得もしていただいてる。

それに久石さんは、北野映画の”削ぎ落とし”の手法をよく理解して下さってますね。あれこれフルにスタンバイさせながらいろんなカットを撮っても、どんどん削ぎ落としてシンプルにしていく。音楽でも同じようなことをしているんです。贅沢なスコアを書き上げてもらうんですが、武さんはそれをどんどん削ろうとする。でも久石さんはそれを客観的に見つめながら、最終的にもうこれしかないというところまでもっていく作業を楽しんでいただいているみたいです。おそらく、二人とも同じようなテーマを抱えているからこそ理解し合えるんだと思うんですが…。

つまり武さんは、台詞がないシーンや一見演出が何もないようなシーンに何を感じさせるかということを大切にして、そのために必要な絵を撮る。久石さんも同様に、必要な場面に必要な音楽をつけるという映画音楽の基本をふまえつつも、音楽のないシーンにいかに音楽を感じさせるかということのために音楽をつけるという考え方を持っている。そのスタイルやスタンスの近さが、二人をより強固に結びつけていつ部分でもあるような気がします。

既に久石さんも北野組の一員といいますか、北野作品には欠かせない存在になっていることは確かですが、二人の関係は求め合って寄り添い合う粘着型の関係性ではなく、適度な距離感を持った関係といえるんじゃないでしょうか。お互いの才能をリスペクトし合いつつも、一方ではライバル意識に近い気持ちを持って接している。そこでの摩擦熱のようなものが、北野作品のクォリティを高めているんだと思いますね。

その摩擦熱が一気にヒートアップしたのが最新作の「BROTHER」でした。武さんはここまでの映画人としての総括だと言い、われわれは北野監督によるエンタテインメント作品のスタート地点と位置づけ、久石さんはその狭間でなんとかよりよい着地点を見つけ出そうと苦悶していたように思います。その結果として、まずメインテーマを奏でるリード楽器を決めあぐねることになり、しかも旋律を疑問視する意見も出てきたことも事実です。

特に英国側のプロデューサーでもあるジェレミー・トーマス氏からは、音楽が作品を難しくしていないかという意見が投げかけられ、それに対してこちら側の生理としては、これまでの流れの中に位置づけられることだけは拒否しなければいけないという気持ちもあって、猛反発したんです。仮に心地好いピアノの旋律が流れてそこに武さんが登場してくるなら、これまでの作品と何ら代わりばえしないと思うんです。

そうじゃなく、「BROTHER」は新しい環境の中で新しく作られたエンタテインメント作品なんだという部分を主張するためにも、音楽はこれじゃないとダメなんだ、とジェレミーにも納得していただきました。そういったやりとりを経てこの作品を公開できたことで、武さんと久石さんの関係は更に密になったような気がします。武さんが久石さんに要求するレベルは高くなり、同様に、久石さんの北野映画を掘り下げる眼力もより高くなったでしょうから。

ただ、総じて言えるのは、要は久石さんが醸すメロディラインが、シンプルな中に非常に美しい旋律と音色を秘めているということ、そしてそういう久石さんのセンスと才能をきちんと理解したうえで、しかもそれが大好きだから北野映画の音楽監督をお願いしているという点は、過去も現在も揺るぎがないところです。表現は陳腐ですが”シンプル・イズ・ベスト”とでも言いますか…。

そういう久石さんの音楽作品がセレクトされた作品集を聞かせてもらうと、そこには一つの確かな流れが存在していて、間違いなく久石さんの世界ではあるんですが、同時に北野武の世界でもあることを感じるんです。つまりは、久石さんが武さんの映像からインスパイアされて築きあげる世界には、その独特の匂いを知らず知らずのうちに共有していて、しかも同じ匂いを久石さん自ら発しているということだと思うんですよ。そういう意味では、久石譲、北野武の両者の世界観を堪能できる、他にはちょっと見当たらない価値あるサウンドトラック集なんじゃないでしょうか。

 

あの夏、いちばん静かな海。
A Scene at the Sea
1991.10.12 公開
出演:真木蔵人、大島弘子

〈episode 1〉
この作品に関しては、監督自身も認めているように、もともと主人公の2人(生まれながらの聴覚障害者)に台詞がないところへもってきて、後半は台詞も何もなく、この作品そのものをふり返るように、主人公たちの思い出が日記帳のごとく滔々と連ねられているわけですが、あそこはどう考えても音楽がないと成立しない部分といいますか、音楽にあれこれ語ってもらったカットなんですね。

つまり最初から音楽を入れ込むことを想定して意識的に撮ったシーンなんです。武さんが自らの映像にあれほど音楽を求めたことは珍しいんじゃないですかね。久石さんとのコラボレーションはこの作品が最初だったわけですけど、登場人物の台詞が極端に少ないぶん、音楽がもたらす効用への期待感は、ほかのどの作品よりも高かったと思いますし、それだけに久石さんは苦労されたんじゃないでしょうか。結果的に、言葉(台詞)以上に主人公の感情や作品自体の情感を雄弁に物語るかのような音楽をつけていただいて、作品のクォリティや価値を随分高めていただいたような気がします。

 

ソナチネ
Sonatine
1993.6.5 公開
出演:ビートたけし、国舞亜矢、渡辺哲、勝村政信、寺島進、大杉漣、逗子とんぼ、矢島健一、南方英二

〈episode 2〉
これは久石さんと武さんの間で”ミニマル”というテーマ性で見事なコンセンサスがとれた作品じゃないでしょうか。「あの夏~」ってミニマル的要素はありながらも、決してミニマルな作品じゃありませんでしたけど、この「ソナチネ」は徹底的に”ミニマル”ですよね。

そういう意味では久石さんにとって本領発揮の場だったと思いますし、2人が真剣に勝負をし合った作品という印象が強いですね。武さんは音楽の専門家ではありませんから”ミニマル”という言葉をどこまで把握していたかはわかりませんが、基本的にシンプルなものの繰り返しという手法は、彼自身すごく好きですからね。例えば「あの夏~」の、主人公たちが歩いた同じ道を、次は違う登場人物が同じように歩いていくシーンとか。繰り返しながら、ちょっとずつ変化させる手法。そこに関しては、久石さんの得意とするミニマル・ミュージックがピッタリ合ったという印象でした。お互いが、本質的に好きな世界なんだと思います。

ただ、武さん自身も言っているように、この作品は、平均点でいえばたいした点ではないというか、国立大学は無理だねというような(笑)点だけど、勝負に出ている場面がある。本人曰く、目茶苦茶凄いシーンと、ありゃりゃ?というシーンが混在している。ゴルフに例えるなら、OBもあるんだけど、バーディどころかイーグルも幾つかある感じ。ホールによっては大勝負をかけたりもしている、ある意味とても実験的な試みをしている作品ですから、それに対して久石さんも自身の本領をミニマルでしっかりぶつけてきましたし、その結果としてあの独特の世界観が醸し出されたんだと思います。サンプリングも駆使されてますし、北野作品の中ではいちばん実験的な音楽といってもいいでしょうね。映画の中身以外の部分ではかなりの火花を散らしている作品といいますか…。そこが、多くの人に名作と言わしめたゆえんでしょうし、イギリスのBBC放送による「映画・世界の100本」に選出された要因なんじゃないでしょうか。ただ、世界中(公開された国の中)で日本人がいちばん見ていない作品で、興行的にはやや不幸な作品ではありましたが…(笑)。

 

キッズ・リターン
Kids Return
1996.7.27 公開
出演:金子賢、安藤政信

〈episode 3〉
特にこの作品のエンディングは、かなり印象的なシーンに仕上がりましたね。主人公の2人が「もう俺たち終ったのかな」「まだ始まってもいねぇよ」と言った瞬間にドーンとテーマ音楽とエンド・ロールが入ってくる。普通ロール・チャンスというと、映画の本編が終わり、ポツポツと立ち上がるお客さんに向けた”どうぞお帰り下さい”の合図みたいになりがちですが、でも「まだ始まってもいねぇよ」の台詞のあとにきわめて激しく飛び込んでくるこの作品の音楽は、ロール・チャンスをも作品の一部として取り込んでしまうほどの迫力があるし、それがあるから直前のシーンもより生きてくるという相乗効果をもたらしていると思うんです。メインテーマのキャッチーさでいえば、「菊次郎~」とともに、メロディメイカーとしての久石さんの力量を再認識させられます。

 

HANA-BI
1998.1.24 公開
出演:ビートたけし、岸本加世子、大杉漣、寺島進

〈episode 4〉
この作品の、例えばタクシーをパトカーに作り変えていくシーンには、組曲のようなものすごく長い音楽がついていますが、久石さんがかなり悩まれた証のようにも思えますね。そのシーン以外にも、武さん自身が描いた絵を、映像の中に巧みにインサートしている場面があって…。「キッズ・リターン」でも自分で描いた絵をポスターに使ってましたけど、ここではかなりの数の絵をカットの一つとして使っている。あの世界と対決するのは大変だったと思いますよ。当然あそこには音をつけてくれというカットですからね。無音でしかも動きのない絵を、いろんなカメラワークを駆使して撮っていますから、それときっちり向き合える音楽をつけるとなると、結構思案しますよね。われわれ自身も両者のイメージをすり合わせるために、かなり大変な思いをした記憶があります。ただどんなに陰惨な場面でも、そこに流れる久石メロディの美しさがインパクトにつながっている気がします。

 

菊次郎の夏
Kikujiro
1999.6.5 公開
出演:ビートたけし、関口雄介、岸本加世子、吉行和子

〈episode 5〉
ピアノの音色とわかりやすいシンプルな旋律の繰り返しという、音楽の核の部分のイメージは、武さんも久石さんも一致していました。音楽を発注する際に、武さんがいちばん具体的に発言した作品ですね。ウィンダムヒルのジョージ・ウィンストンが手がけた「オータム」に代表される季節を扱った曲を例に出して、今回はこういう世界観が欲しいんだと意思表示していたことを思い出します。その点においては珍しい例ですね。どちらかといえば、いつもは”お任せ”で、イメージを具体的に伝えるということは少ないんですけど、撮影を始めた当初からそのイメージは口にしていましたから、よほどのこだわりがあったんでしょう。結果、シンプルでなおかつ流れてきた瞬間夏を連想させるとてもキャッチーなメロディを含む、有無をいわせないくらい見事なサウンド・メイクをしていただきましたから、本人の満足度もかなり高かったと思います。

 

BROTHER
2001.1.27 公開
出演:ビートたけし、オマー・エプス、真木蔵人

〈episode 6〉
この作品では、メインテーマのリード楽器を何にするか、かなり苦労しました。武さんはリード楽器にことのほか強い拘りを持っていて、しかも自分自身がピアノをやっていることもあって、ピアノという楽器が好きなんですね。だけど久石さんのセンスとして、こっちの楽器を使ったほうがこんな広がりが出ますよという主張を返してくる。そこはある意味闘いでした。結果的に、リード楽器としてフリューゲルホルンを選択したわけですが、これは非常に大きなチャレンジだったと思います。監督自身、フリューゲルホルンという楽器は全然予想もしてなかったでしょうし。

予定調和的にピアノで奏でておけば、これといった苦労もせずに済んだとは思いますけど、この作品自体が持つ意味合いといいますか、日英合作という国際的なプロジェクトによる映画であること、ハリウッドの撮影システムを導入したことなど、新しい映画作りの結果として新しい映画が生まれるという流れに見合う試みが、音楽にも必要だったわけですね。ご覧いただいてわかるとおり、主役ビートたけしのビジュアルといいますかファッション・センスは、この「BROTHER」も「HANA-BI」も「ソナチネ」も一様なんです。別に何部作といわれるような関連した作品ではないんですけど、開襟のシャツにダークカラーのスーツ、そしてサングラスというスタイルは共通している。しかし、だから音楽もピアノで、という考えはそぐわない。内容に対する音づけという意味ではなく、新しいやり方で新しい作品が生まれるという意味合いを音楽でどう表現するかという点は、われわれにとってもそうでしたけど、久石さんにとっても大きなテーマだったと思うんです。その部分では、久石さん自身、相当悩まれたんじゃないかと思います。現に、ロスの撮影現場までお見えになって、時間が許す限り監督と話し合って、もっとも相応しい接点を探していましたから。メロディとか旋律の問題ではなく、新しさをどういった世界観で示すかということにおいて。といいつつメロディに関しても、絵面との整合性においてはかなり難しかったと思いますよ。ジャジーな要素や、半音が結構使われていることが、そのことを雄弁に語っているような気がします。

デニー役のオマー・エプスのモノローグによるこの作品のエンディングは、音楽を入れ込んだ「あの夏~」のエンディングの対極にあるといってもいいくらいのシーンで、音楽をまったくはずしてしまっている。本来は武さんのリクエストで久石さんに饒舌で分厚い情感豊かな音楽をつけていただいたんですけど、最終段階で音楽をとってしまった。もちろん音楽が気に入らなかったわけではなく、音楽は音楽として成立したんでしょうけど、作品のテーマを示す流れのうえでは、饒舌すぎたのかもしれないですね。ただそのあとエンドロールで再びメインテーマが呼び込んでいることを考えると、あの音楽のないエンディングこそ、音楽を削ぎ落としたシーンでいかに音楽を感じさせるかの典型と言えるんじゃないでしょうか。

(解説・各作品エピソード/森昌行 ~CDライナーノーツより)

 

 

〈サウンドトラック制作進行ノート〉

あの夏、いちばん静かな海。 発売日:1991年10月9日
1991年7月 ワンダーステーション六本木にてレコーディング。

ソナチネ 発売日:1993年6月9日
1992年6月1日 北野監督の次回作の音楽の依頼がある。出演者等詳細は未定。11月辺りの音楽制作の予定。
1992年7月31日 北野監督とロケ前に顔合わせ。音楽の方向性の打ち合わせをする。今回は石垣島がテーマになる模様。
1992年9月17-19日 久石氏石垣島のロケに同行。
1992年10月26日 当初11月頭から音楽制作に入る予定であったが、編集作業の進行の影響で中旬に変更となる。
1992年11月13日 ワンダーステーションにて音楽作業開始。
1992年11月19日 18時半に北野監督来訪、テーマ曲を決定。
1992年11月20-24日 ワンダーステーションにてダビング作業。
1992年11月25日 Dolby 4chのT/D。この日北野監督が再編集に入り、M14のシーンが全カットになり、M15に変更が入ったとの知らせあり。21時に監督がワンダーシティに確認のため来訪。
1992年11月26日 映画音楽作業終了。
1993年3月21-22日 ロンドンにあるTHE TOWN HOUSEにてCD用のMIXを行う。
1993年3月23日 Abbey Road Studiosにてマスタリング。

Kids Return 発売日:1996年6月26日
1995年10月27日 調布にっかつ撮影所にて前半部のラッシュを見る。その後打ち合わせ。
1996年2月16日 にっかつ撮影所にてオールラッシュ。監督を交え最終打ち合わせ。
1996年2月29日 代々木にあるワンダーステーション2st.にて音楽制作開始。
1996年3月13日 音楽制作日程終了。

HANA-BI 発売日:1998年1月1日
1997年6月9日 ワンダーステーション代々木スタジオにてレコーディング開始。
1997年6月11日 調布にっかつ撮影所にて監督と打ち合わせ。
1997年6月12-19日 ワンダーステーション代々木スタジオにてレコーディング。
1997年6月22日 ポリグラムスタジオAst.にて弦のレコーディング。
1997年6月23-24日 ワンダーステーション代々木スタジオにて映画用のT/D。
1997年7月10-11日 ワンダーステーション六本木スタジオにてCD用のT/D。

菊次郎の夏 発売日:1999年5月26日
1998年10月6日 ワンダーステーション代々木スタジオにてレコーディング開始。
1998年10月7-10,12,21-23日 レコーディング作業。
1998年10月21日 ポリグラムスタジオにてオーケストラ・レコーディング。
1999年2月2-4日 ワンダーステーション六本木スタジオにてT/D。

BROTHER 発売日2001年1月17日
2000年3月29日 にっかつスタジオにてオールラッシュ。
2000年4月3-14日 音楽制作プリプロ~レコーディング。
2000年4月8日 監督とテーマ曲について打ち合わせ。
2000年4月14日 監督とサントラについて打ち合わせ。
2000年4月22日 墨田区トリフォニーホールにて新日本フィルの演奏で録音。
2000年4月23-25日 映画用のT/D。
2000年5月15-17日 CD用のT/D。
2000年9月27-28日 マスタリング。

(サウンドトラック制作進行ノート ~CDライナーノーツより)

 

 

joe hisaishi meets kitano films ジャケット 裏

 

 

「北野武監督はすごい人ですよね。僕はこの映画に一番ピッタリだと思う曲をメインテーマで書きます。それで副次的なサブテーマを書きます。聴いた武さんは、サブテーマを気に入ったりするんですよ。「監督、もっといいのありますから」と言っても、これなんですよ。なぜだろうと思うと、たいがいその場合、副次的テーマの方がシンプルなんですよね。それでそれをメインにすげ替える。映画の様相ががらっと変わるんですよ。その時に北野武という監督の嗅覚、感覚のすごさ、いまという時代に生きている彼が選ぶ、いいなと思うものというのが、一番ポップなんですよね。大衆との接点では大体あたるんですよ。テレビで大衆を目の当たりに日々闘っている、武さんの嗅覚というのは鋭いですね。僕らはこもって作っているから、どうしても頭で作ってしまいます。その分ステージは高いかもしれないけど、一般とのつなぎの部分で弱い時がよくあるんですよ。その時に武さんはぽーんとそれを見抜く。その能力はすごいですよね。『菊次郎の夏』でも、非常にシンプルなピアノの曲を書いたんですけど、武さんもすごく気に入って、結果的に非常にいい感じの分かりやすい音楽が主体になった。武さんも弾きたいっておっしゃったから、譜面を書いて送ったら、もう弾けるよって言ってましたけど。いまでも最低1日1時間はピアノを練習しているとか。秋の僕のコンサートの時に弾くって言ってますよ。3回くらい言ったから、本気なのかもしれない。」

Blog. 「ダカーポ 422号 1999.6.2 号」鈴木光司 × 久石譲 対談内容 より抜粋)

 

 

「北野さんはね、さあ、映像を撮ったぞと、ポーンと僕のほうに預けて、さあ、音楽つけてみやがれ、っていうかんじですね、いつも。生易しいものじゃない。できたら音楽抜きで映画を撮れたら最高だな、と思ってると思いますよ。志ある監督はみんなそうです。また今回も(音楽に)助けられちゃったなあ、ってたまにいいますからね。それはお互いさまで、「Kids Return」にしても「HANA-BI」にしても、核になっている部分は、北野さんのアイディア。北野さんの映像に出会わなければ、ああいうメロディーは書かなかったわけですから、半分は北野さんの作曲だと思ってますよ」

Blog. 「月刊ピアノ 2000年4月号」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「編集し終えて嬉しい発見だったのは『あの夏~』から『BROTHER』まで、実に各々の底辺が共通性を持っていた、ということ。頭では常に北野監督の映画のために音楽を提供することを第一に作ってきたつもりだったけれど、気がつけば自分のソロアルバムを作るような気持ちで携わってきたんだ、という明快な結論に達した。時には、ソロから一歩踏み出した表現もしていたりするこの一枚には、僕自身のここ数年の姿勢が見事に反映されていた。そしてこの一、二年の中で、僕自身にとっても、まさにベストな一枚と言える仕上がりだと思う」

「省略の人、だね。引き算の映像美。従来の映画の概念にとらわれずに独自の世界観を展開するのは並大抵ではない。北野監督はそういう登場をして見せて、今もそう在り続けている。一〇秒間のシーンだけで彼の作品だと分かる、というのは、やはり尊敬に値する。

北野監督とは、やりとりとか詳しく話したりすることなんてほとんどない。ヒントのような一言、二言だけ。『あの夏、いちばん静かな海』の時は、『シンプルなメロディーの繰り返しが好きなんです』って。『HANA-BI』では『暴力シーンが多いんだけど音は綺麗なのがほしいな』で、『菊次郎の夏』は『さわやかなのがいいな』とか毎回そんな感じ。『BROTHER』に至っては『おまかせ』でしたから。他にその時手掛けている作品の事で、顔を合わせる際に二人で話すことといえば、決まって次回作のアイデア。こんな具合で互いのスタンスが明確に保たれている。とてもシビアだけど、だからこそ信頼感や、やり甲斐も非常に大きいと言える。

北野作品はどれも好きだけど、手掛けた音楽で一番好きなのは『Sonatine』。この作品から確信犯としてミニマル・ミュージックを前面に押し出した。僕自身、当時ロンドンに住み始めたこともあってハイテンションだったので、実験的要素も結構盛り込んでいる。録音したドラムのフレーズを逆回転させて、楽曲の後ろ全体にうっすらと敷いてみたり。映像としてもあの微熱に犯されながら進行していくようなクールさが好きだな」

Blog. 「SWITCH スイッチ JULY 2001 Vol.19 No.16」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「今回のベスト盤は僕にとって重要な作品です。北野監督のために書いてきた音楽が、実は自分のソロアルバムのための音楽と呼べるものでもあった、という面を含んでいます」

「例を挙げると『菊次郎の夏』のメインテーマ『Summer』。あれは僕にとっては第2テーマだったんです。もともと『菊次郎の夏』では北野監督が『絶対にピアノでリリカルなものを』というイメージをはっきりもっていたので、その意向に沿って第1テーマと、軽くて爽やかな『Summer』を作った。そして両方聴いて頂いたときに『あ、これ、いいね』と監督が洩らしたのが第2テーマだったんです。そう言われたら、こっちはパニック(笑)。つまり、映画のなかの重要な個所は第1テーマで押さえたつもりだったのに、監督が気に入ったのは第2テーマだから、全部入れ替えなければならない。しかし、そのときに監督が出した方向性というのは、実は圧倒的に正しいんですよ。僕なんかでは太刀打ちできない『時代を見つめる目』があるんです。軽かったほうの『Summer』が結局メインテーマになり、しばらくたってからそのテーマ曲が車メーカーに気に入られ、1年以上もCMで流れている。宮崎監督もそうですが、彼らは音楽が社会に出たとき、人々の耳にどのように聞こえるか、ちゃんと知っているんですね」

Blog. 「PREMIERE プレミア 日本版 October 2001 No.42」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

 

久石:
北野監督って映画の撮り方を変えたんですよね。世界的にも結構影響を与えた。それはどういうことかというと、しゃべっている台詞のある人以外の人たちが、いかにもそこにいるような演出を一切しなかったんですね。みんな家族写真のようにただそこにいるだけにさせた。普通演出の人は、いかにも自然のように演出して動かす。それをしなかった。そのやり方っていうのはその後世界中の若い監督に影響を与えて。要するに、無理やりに演技らしいことはしないんでいいんだと。それをつくった画期的な監督でしたね。

久石:
どちらかというと、引き算の映画。どんどん加えていくんじゃなくて、結果無駄なものを全部外していった。そういう意味では非常にミニマルな映画ですよね。

久石:
個人的な区分けでいうと、初期のほうは宮崎さんの映画は基本的にメロディ中心だったんですよ。北野さんのほうはミニマルをベースにしたんです。ですからやり方をすごく変えて臨んでた。途中からちょっとメロディを増やしましたけれども。フランスとかでインタビュー受けていると必ず聞かれるんですよね。まずあり得ないと。映画音楽で宮崎さんのような作品をやっている人が、どうしてバイオレンスの映画を担当しているのかが、同じ人間がやってるのが想像できないと。インタビュー受けるたびにそういう質問ばっかりだったんですよね。僕のほうからすると、なんにも不自然じゃないんですよ。なんでかっていうと、片側にミリマリストとしてやってきたこと、もう一方にメロディメーカーとしてやってきたこと、それを実はちょっと使い分けてやっていた。そういうやり方だけだったんですよ。あれ風これ風でやるのは本物にはならないからね。だから自分がいいと思うことしかやらない、ということですかね。

久石:
北野さんの映画は、表面上ではバイオレンスとかいろいろあるんですが、根底には人間の儚さとか哀しさがあったんですね。その辺で僕もすごく共感して作っていたところがあります。

Blog. NHK FM 「今日は一日”久石譲”三昧」 番組内容 -トーク編- より抜粋)

 

 

 

久石譲 『joe hisaishi meets kitano films』

1. INTRO:OFFICE KITANO SOUND LOGO
2. Summer (菊次郎の夏)
3. The Rain (菊次郎の夏)
4. Drifter…in LAX (BROTHER)
5. Raging Men (BROTHER)
6. Ballade (BROTHER)
7. BROTHER (BROTHER)
8. Silent Love (Main Theme) (あの夏、いちばん静かな海。)
9. Clifside Waltz III (あの夏、いちばん静かな海。)
10. Bus Stop (あの夏、いちばん静かな海。)
11. Sonatine I ~act of violence~ (Sonatine)
12. Play on the sands (Sonatine)
13. KIDS RETURN (KIDS RETURN)
14. NO WAY OUT (KIDS RETURN)
15. Thank you,…for Everything (HANA-BI)
16. HANA-BI (HANA-BI)

All songs composed, arranged and produced by JOE HISAISHI