Blog. 久石譲 「ハウルの動く城」 インタビュー ロマンアルバムより

Posted on 2014/11/29

2004年公開 スタジオジブリ作品 映画『ハウルの動く城』
監督:宮崎駿 音楽:久石譲

映画公開と同年に発売された「ロマンアルバム」です。インタビュー集イメージスケッチなど、映画をより深く読み解くためのジブリ公式ガイドブックです。最近ではさらに新しい解説も織り交ぜた「ジブリの教科書」シリーズとしても再編集され刊行されています。(※2014.11現在「ハウルの動く城」は未刊行 2016年以降予定)

今回はその原典ともいえる「ロマンアルバム」より、もちろん2004年制作当時の音楽:久石譲の貴重なインタビューです。

 

 

「タイミングより感情の動きを大切にしたサウンドトラック」

宮崎アニメには欠かすことの出来ない作曲家、久石さん。宮崎監督も立ち会ったレコーディングは、かつてない規模で行われたという。外見も内面も大いに揺らぐソフィーのために作られた、あるメロディとは?

 

イメージアルバムは本格的な交響組曲に

-音楽制作に際して、ソフィーたちの町のモデルになっているフランスのアルザス地方に取材旅行に行かれたということですが、現地で何を感じましたか?

久石 「現地の空気感みたいなものが自分で分かったから、直接的な影響はなかったんだけど、『ハウル』の世界観を掴むのには、役に立ちましたね。とてもきれいなことろで、これはちょっと音楽的に奇をてらったことをするのはやめようと。オーソドックスに作ってみようと思いました。」

-そして、まずはイメージアルバムに取りかかるんですよね。

久石 「そうなんだけど、今回は最初からオーケストラの音というひらめきがあったので、いつものようなイメージアルバムではなく、本格的な三管編成のオーケストラで、音楽的にも完成度の高いアルバムを作ろうと考えました。それで、『もののけ姫』でもやったことがあるチェコ・フィルハーモニーとやることにしたんです。」

-なぜ最初からフルオーケストラで作ろうと思ったんですか?

久石 「ここ数年、個人的にもオーケストラとコンサートで回る機会が多くなっているので、頭の中でオーケストラが響きやすくなっているんだと思います。サウンドトラックというのは、シーンの長さやタイミングにどうしてもしばられてしまう、映像のための音楽なんですけど、交響組曲『ハウルの動く城』は、音楽だけで100%イメージできる世界を目指しました。特徴としては、普通サウンドトラックではセリフの邪魔をしてしまうためにあまり使わないブラスを、かなりフィーチャーしています。それぞれの楽器を、テクニカルな面で限界近くまで引き出すことができたので、自分としても満足がいく作品になりました。」

-その分、ピアノがあまり使われていない印象がありました。

久石 「オーケストラ作品に徹したので、なるべくピアノは排除しました。逆に、サウンドトラックは主人公ソフィーの世界に寄り添って、もっと個人的な語り口になるので、そちらではピアノの出番が多くなるだろうと考えていました。」

-交響組曲の制作中は、ヨーロッパを移動していたということですが?

久石 「そう。プラハでチェコ・フィルのレコーディングをして、その後、ロンドンのアビーロードスタジオで、ミックスダウンとマスタリングをやりました。アビーロードを使うのは、10年ぶりくらいなんですけど、かつてアシスタントエンジニアだった青年が、今では世界的なエンジニアに成長していて、交響組曲を世界の第一線の音に仕上げてくれたんです。『ハウル』の交響組曲を巡る旅は、僕にとってかなりエキサイティングな旅になりました。」

 

自分の感覚と映画の接点となったワルツ

-さて、交響組曲の後で、今度はサウンドトラックに入っていくわけですが、その時、宮崎監督からは何か要望が出たんですか?

久石 「いろいろなやり取りをする中で、メインとなるテーマを一曲作って、そのバリエーションを中心にサウンドトラックを構成してほしいという話が出ました。ソフィーが18歳から90歳のおばあちゃんまで、それぞれのシーンで表情が変わっていくので、宮崎さんとしては、同じテーマを流し続けることによって、映画に統一性をもたせようとしたんだと思います。ただ、僕が意図するサウンドトラックというのは、キャラクターではなくシーンに付けるものなので、キャラクター的な説明を音楽に含ませていくのは、なかなか大変でしたね。」

-今おっしゃったメインのテーマが『人生のメリーゴーランド』ですが、あの曲はどうやって出来上がっていったのでしょうか?

久石 「今回は宮崎さんの音楽に対する要求が高くて、いつもより主体的に音楽を物語に参加させようとしているのが伝わってきました。なので、いつもはデモを作ってそれを送るだけなんですけど、今回は3曲スケッチを書いて、実際にジブリで自分でピアノを弾いて、宮崎さんと鈴木さんに聞いてもらいました。」

-それらはどんな曲だったんですか?

久石 「1曲目は、わりと誰が聴いても「いいね」と思えるオーソドックスなテーマでした。2曲目は、自分としては隠し球として用意していったワルツで。これは採用されないだろうと思って演奏したんですけど、途端に宮崎さんと鈴木さんの表情が変わって、すごく気に入ってくれたんです。それが『人生のメリーゴーランド』で、結局3曲目は演奏せずに終わりました。」

-なぜ、ワルツにしてみようと思ったんですか?

久石 「その理由はちょっと難しいんだけど、最近、個人的に音楽への要求度が高くなってきていて、映像に付けるには、自分のやっている音楽は強すぎるんですよ。でも、今自分が最も求めていることをやるのが作曲家としては正しいのだから、その落としどころをどうしようかと考えていて出てきたのが、ワルツだったんです。ワルツなら、自分がやりたい音楽と『ハウル』の映像の接点になってくれると。だから、宮崎さんに気に入ってもらえたのは、すごく嬉しかったです。」

 

デジタル時代を経たネオクラシカル

-サウンドトラックの演奏は、新日本フィルハーモニーで、東京・墨田区のすみだトリフォニーホールでレコーディングが行われたということですが、これはどのようなレコーディングだったんですか?

久石 「フルオーケストラで、ステージの後ろに大きなスクリーンを設置して、『ハウル』の映像を流しながら、僕が指揮を取りました。あれはすごくよかったですよ。日本では、いや世界でも最大級の規模のレコーディングになったと思います。」

-宮崎監督もレコーディングに立ち会われたんですか?

久石 「全ての曲をチェックしてもらいました。いつもだったら、確認のためだけに来て、黙って見ていることが多いんですが、今回は積極的に意見を出していただいて、それがとてもありがたかったです。レコーディングのディレクションを一緒にやっているという感覚が、いつもに比べて断然強かったですね。」

-スクリーンに実際の映像を映し出して、それを見ながら指揮を取ることのメリットは何ですか?

久石 「ふつうはテンポを管理するクリックという音を聴きながら、1/30秒のタイミングまでぴったり合わせて録るのが、サントラなんです。でも今回は、実際に映像を見ながら指揮を取ることで、画面の感情の流れと音楽の感情の流れをより大切にすることができました。キャラクターの感情が表現できていれば、タイミング的にはぴったり合わなくてもかまわないという考え方で、そのほうが『ハウル』という映画にはいいんじゃないかと思ったんです。」

-かなり感覚的な要素が強いレコーディング方法ですね。

久石 「最近、僕はオーケストラの指揮を執る機会が増えて、自分の指揮に自信がついてきたから取れた方法なのかな、と。それに当然ながら、宮崎さんが立ち会ってくれたからこそ出来たことです。演奏するたび、映像とのタイミングが違ってくるので、宮崎さんの判断がいつも以上に重要になってくるんですね。」

-映像もそうなんですけど、音楽もどこかアナログな、いい意味での曖昧さがあるのが、『ハウル』だと思うのですが?

久石 「そうですね。絵のほうもかなりCGを使うようになったし、我々もシンセサイザーとかコンピュータを駆使するようになった。そういう最先端の技術を使うだけ使った上で、アコースティックな、人間的な部分でしか表現できない何かを抽出したのが、今回の作品だと思います。だから、サウンドトラックとしては、オールドスタイルなハリウッドの感じと同じように聞こえるかもしれないけど、前の時代に戻ったわけではないんですよ。今やることが意味のある音楽、デジタル時代を経たネオクラシカルというような方法論の音楽になっていると思います。」

 

ケイマル氏のトランペット

-サントラのレコーディングでは、チェコフィルから一人だけトランペット奏者の方を招いたということですが?

久石 「ええ。交響組曲の中の「ケイブ・オブ・マインド」という曲のソロを吹いてくれたミロスラフ・ケイマルさんという方です。この曲は、サウンドトラックの打ち合わせの時に、試しにある重要なシーンに流してみたら、あまりにもぴたっりハマってしまったのでそのまま使おうということになったんです。でも、サウンドトラックの中に、チェコフィルの演奏を入れるわけにはいかないので、ケイマルさんをこの1曲のために呼ぼうということになりました。」

-他の方ではダメだったんですか?

久石 「ケイマルさんはこの曲を完全に自分のものにして吹いていたし、宮崎さんの心の中にも、ケイマルさんのトランペットの音が染みついていました。この曲を使うなら、ケイマルさん以外に考えられない、と。楽器というものは、他の奏者が演奏すると、全く音の表情が違ってしまうものなのですが、特にトランペットはそれが顕著なんです。」

-交響組曲もサウンドトラックも、完成度が高く、それぞれ違った魅力を持つ作品になったんじゃないでしょうか?

久石 「サウンドトラックは「人生のメリーゴーランド」を、これが同じ曲なのかと思えるくらい、いろいろ変奏しているので、そこを中心に楽しんでいただければ、と。交響組曲は、三管編成のフルオーケストラ作品としてかなり完成度が高いので、ぜひ聴いていただきたい。僕も、いつかコンサートで全曲まとめて演奏してみたいと思っているんです。」

(ハウルの動く城 ロマンアルバム より)

 

 

イメージ交響組曲「ハウルの動く城」から、「ハウルの動く城 サウンドトラック」まで、どちらも壮大なフルオーケストラサウンドを楽しめる作品です。かつ趣の違う作品になっているのは、やはり「人生のメリーゴーランド」。

イメージアルバムでは、「人生のメリーゴーランド」のメロディがないなかで、ひとつの『ハウル』の世界観をつくりあげています。メインテーマ曲「人生のメリーゴーランド」が誕生したのは、この後だからです。

そしてサウンドトラックでは、久石譲インタビューにもあるように、多彩な「人生のメリーゴーランド」のバリエーションを聴くことができます。かつジブリヒロインの象徴として響くピアノの旋律も堪能することができます。

 

 

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