1985年11月21日 LP発売 C25G0400
1985年11月21日 CT発売 25P-7401
SOUND NOVEL SERIES
栗本 薫/魔境遊撃隊
南海の巨石島へ薫少年とサウンドトリップ!!
原作:栗本薫
音楽プロデューサー:久石譲
ジャケット:天野喜孝
セント・ジョゼフ島 地図付
魔境遊撃隊 / 栗本薫
この「魔境遊撃隊」は、実をいうと、やや失敗作であります。というのは、はじめ、私が書こうと思っていたのは、四百枚の短編で、しかも、たとえていえば、そう、ハガードの「洞窟の女王」とか、新青年にのってるような──何というか、古式ゆたかな、きわめて古式ゆたかな「秘境小説」の一編だったのでした。小栗虫太郎の「人外魔境」とか、うん、とにかく、丸帽とサファリ・スーツをきた探検家が、白いワニの住んでいる大河をイカダで下ると、やがてニューッと大蛇が木の上からおりてきたり、夜ともなると、ドン・タ・タ、ドン・タ・タ、と人食い☓☓(差別用語につき自主規制)のタイコがひびき、宣教師の娘とか人買いの商人とか、大魔術師とか、不死の女王とかが右往左往する。そういう話を夢みていたのに、どこでどう狂ったものか、できあがったのは、もう少し、モダンな印象のあるものでありました。きっと語り手が、栗本薫君だったのが、まちがいのもとだったのでしょう。枚数は八百枚にのびるし、どんどんイメージはかわるし……しかし、そういう意味で、はじめのイメージどおりにはちっともならなかったのですが、話そのものとしては、私はこの話がわりあい好きです。ことに”リ”ララ、という少女は好きで、もう少しじっくりとした環境(つまりもっと長いってこと)で書きこんでやりたかったと思う。その「魔境遊撃隊」が、こんど、イメージ・アルバムになるということで、楽しみにしています。だんだんわるいクセがついて、短い話が書きづらくなってきてしまい、このままでは千枚以下の短編は書けなくなりそうなので、このクセは何とか是正して、そのうちまた、もういっぺん、「新・魔境遊撃隊」も、こんどこそ「新青年」もろという古めかしさでもって書いてみたいものだと思っています。どうして、そういう古式ゆたかさにこだわるか、というと、それは、幼いころからの私の夢だったから、と云いましょうか。久石譲さんが、幻想と怪奇、モダンとクラシックのミックスしたこの話のエッセンスを、たくみにとらえてくれました。古式ゆたかの方のときには「冒険ダン吉」のテーマでもかけてもらうとして、この「魔境遊撃隊」の方はぜひ、このアルバムをかけつつ読んでみて下さい。
1985年10月 栗本 薫
(LPライナーノーツより)
ストーリィ展開の要旨……松浦典良
A-1 魔境遊撃隊のテーマ
A-2 サザンエクスプローラー号、南へ
友人石森に連れられ印南薫なる人物に会う。山中に立つ荒れはてた赤れんがの豪邸に住む当主はこの世のものとも思えぬ美少年。その物腰は16才の少年らしからぬ、歴史ある印南家の当主の風格。薫の依頼で奇妙なとりあわせの魔境探検隊コマンドは南へ向う。
謎の死をとげた父のもとに月十字教団なる秘密結社から送られて来た一通の手紙は南海の孤島で死んだ宣教師エリクソンについての報告書。エリクソンの名は死んだ父が握っていたメモに印されていた名。報告書には薫の魂を要求する請求書がつけられていた。父の死の謎、エリクソンの死にまつわる謎に迫りはっきりさせる為に島の調査をしたいと薫の説明。
A-3 巨石の島
20日后ひっそりと浮かぶ島に上陸。島民はガンボバ族。南の島らしいわきたつような生命の息吹、躍動感はまったくなく、崖にうちよせる波と梢をわたる風の音が聞こえるのみの荒涼たる島。牧師館の連中と対面。じっとみすえるガンボバたちのたくさんの目が不気味。とつぜん広がる巨石遺跡に息をのむ。林立する高層ビルのような墓場のような四角い巨石の乱立する奇蹟のごとき絶景、巨石のてっぺんに巨大な夕日を背にして立つあやしい魔物じみた影、くるりととびおりたのはクレアエリクソンの娘・メナ。ふさふさした金髪、夢みるような瞳の小さな妖精のような美少女。強烈な個性と一種独特の神秘的な雰囲気は薫に共通するもの。あなたはきれい。アダルパ(ガンボバの信じる精霊、光の幻の鳥)みたいと、大人の女のような微笑で薫をみつめる。メナは自分の父母のことや牧師館のオーガスタらのいかがわしさを薫に話す。聞いている薫はその肩に手をかけ、よりそう二人は小妖精のように美しい。
A-4 ン・チャーナの祝祭
遺跡の調査に出かけた一行の前にゼリー状の不気味な巨鳥ン・チャーナ・ガイが現れこつぜんと消える。その出現におびえあせるオーガスタ等は、ダイヤの鉱脈とエリクソンの日記のありかを迫る。息づまる緊張、どこからか絶叫、夜の浜辺にころがるひきちぎられた首と胴。一夜あけ牧師館はからっぽ、地下室にとじこめられていたメナ。ガンボバの輪にとりかこまれる。じりじりと迫る。やがてたき火が燃やされ、太鼓がうちならされ、叫び声をあげ、火のまわりをめぐる。次第に高鳴り、ふいに大地が鳴動し大音響がひびく。大地にひれふし哀訴するガンボバたち。いっせいにゲドポへ走る。大音響と鳴動の中あらわれた石の島、再び地鳴り、高まる太鼓と叫び。石の島の上にこつぜんとあらわれたン・チャーナ・ガイ。
大音響と共に青い壁となって津波のようにおしよせる。
A-5 石の街のゴララ
気づいたところは海底の石づくりの街チャムロラ。そのあやしげな景色。灰色の奇怪な兵士が見える。石の道を進む。牧師館から消えたオーガスタ等に出会う。再びダイヤのありかを銃口で迫る。逃げる、走る、追う!
ねがえった日光、月光にはばまれる。こつぜんとあらわれるン・チャーナ・ガイ。灰色兵士にとりかこまれる。切りかかる日光の刀の一閃が灰色の首をとばす。首から胴から流れ出るゼリー状の粘液と眼だま。みる間に地面にとけこみひからびた皮と眼だまがころがる。そのおぞましさ灰色兵士に連行されて石の道を行くと突然床がエレベーターのように沈む。ついたところは緑なす草原、美しい神殿・モアイ像、さきみだれる白い花・きこえる小川のせせらぎ、これまでとはうってかわった人間的なたたずまい景色。
しかし頭上をおおうのはコハク色の不気味な物体、鍾乳洞のようにたれさがり皮膜の内部は巨大な何物かの腸の内部──地球のはらわたのよう。
暗緑色の森の間に首を出したのは太古の恐竜プロントザウルス。ゴララ。その巨体は不思議な威厳と悲哀をただよわせ、人間的な親しみを感じさせる。不思議な感動に金縛りになっているところへ、ン・チャーナ・ガイがゴララの上に降下しておしつつむ。苦悶にのたうつゴララ。
B-1 悪魔の侵触
うすぐらいひんやりとした神殿に連れこまれ牢につながれる。薫の父の死はゴララの悶絶と同じ姿だった。薫の魂を要求してきた月十字教団は自らを先史文明の生きのこりであると信じて現在の文明にとってかわろうとしている結社。薫を先史文明の生きのこりの末裔と信じて仲間になれと強要。船室にも上陸后のベッドにもダイイングメッセージが届いた。月十字が信ずるのは先史以前の神クトゥルーの古き神々。ン・チャーナ・ガイは古き者たちなのか?オーガスタらはその一味なのか?
牢から連れ出されて石の廊下をゆく。ずらりとつづく円柱にほどこされた彫刻や神殿のつくりから、古代のチャムロラの人々の典雅な生活や異常に高い文化がしのばれる。やがて略奪と戦火にさらされたと見られるがらんどうの部屋がつづく。そして壁画は不気味で暗い内容に変り、最后には四方の壁をぬりつぶす海と黙ってみおろす巨大なひとつの目。そそりたつ石の扉が開く、巨大なプールの中に言語を絶する生きものン・チャーナがうねうねとぬらぬらとうごめいて、凄惨な食事をしている。天井も壁もおおいつくしているコハク色のゼリー。恐怖のきわみの一行。狂気のクレアにつきとばされたハワードはン・チャーナにとりかこまれる。断末魔の絶叫がひびく。
B-2 白い女王
翌朝、打ち合せ通り脱走をはかる。いっせに走る。やられた灰色から流れ出たゼリーが大きなかたまりとなっておしよせてくる。神殿をとびだし、石の街並を走りぬけ草原をぬけ、恐竜の森へ入る。地ひびきをたてて通りすぎるプロントザウルスの見るものを魅了するその姿。突然現われたティラノザウルスの狂暴な赤い口がヘンリーをくわえこむ。金縛りの恐怖、更におそいかかるその一瞬ン・チャーナ・ガイがティラノザウルスをつつみ込み、再びン・チャーナ・ガイの形にもどると翼をひろげて一同をつつみ込み、空中高く浮びあがる。そこで見た信じられぬ光景、それはプロントザウルスにまたがり両手をさしのべているメナ。メナはン・チャーナ・ガイにのみこまわれたゴララの意識に命令して薫たちを安全なところへ運んだのだ。
メナは伝説の白い女王。かつてこの地に存在した大陸には長身、長頭の美しい人々が精神を基盤とした高度な文化をもって久しく栄えていた。テレパシーやテレキシネスを所有、ストーンヘンジやモアイやチャムロラの石の街をつくりあげた。代々、女王が君臨し平和に納められていたが予言者が大災厄が大陸を海底に没すると予見。生き残る方策のひとつとして街を石でとりかこみ要塞としたチャムロラはもちこたえた。地上が平和をとりもどすまで海底で眠りについた。氷河期を追われた恐竜たちもやって来た。そこへ地球外生物、ン・チャーナがチャムロラを侵略、その強烈な発展欲と種族保存の本能はすべてをとりこみ、この惑星すべてをゼリー状の物質でおおいつくそうと地上へもその触手をのばしてとりこむ。チャムロラをン・チャーナからとき放つために代々生きつづける女王たちの魂の念がこりかたまってメナが生まれた。
メナはチャムロラを永遠の休息につかせるためにン・チャーナと戦うためにチャムロラ自体の思念が生みだしたヴァルキューレ、危機をのがれた一行の前にほほえむ愛らしく幻想的な美少女メナ。
B-3 クレアの微笑
いまだにダイヤにこだわる月光の物欲を冷たくさげすむ薫、その異常なまでの反応は人間以外のものを想起させる。薫を人質にメナに自分を連れもどせとおどすオーガスタ。自分はCIA調査官だと名のる。そのオーガスタをねりこむン・チャーナ・ガイ、それはすでにゴララの意識は消えうせ狂悪そのものとなって薫に迫る。メナの制止もきかない、しがみつくメナ。メナをかばう薫、銃を発射する栗本、かばい合う内についに薫はひざまでのみこまれる。
しがみついて、死んじゃいや、あなたが好き、あたしが助けてあげると必死のメナの手が薫にピタリとふれるやふっと消え失せる薫。同時にメナの体から四方へす~~といくつものおぼろげな白い人型がぬけ出してゆく。メナが異性に心をうばわれ勝手に超能力をつかったことに怒りと失望にかられた女王たちの魂がはなれていったのだ。そこにはただのかよわい10才の少女がン・チャーナ・ガイのいけにえに身をさらしている。熱い思いに命をなげうってとびだす栗本、しがみつくメナ、もはやこれまでとだきしめる。メナ!とささやくような、しかし強くはげしい慈しみと自己犠牲に満ちた声、クレアが青白いゼリーにのみこまれてゆく、メナ、アイラブユーと聖母の限りない慈愛のほほえみ。ママ!と絶叫するメナ、彼女はクレアではなくメナの本当の母ヘレンエリクソン。クレアになりすましていたのだ。娘への思いは狂気をも圧倒して命をもってメナを救った。
B-4 リ・ララとアダルパ
メナにわきおこる激烈な怒り。不条理な運命に対する怒り、それをもたらした自分自身とン・チャーナ・ガイに対する怒り。
白い女王たちに懇願するメナ。憎いン・チャーナを倒すためにもう一度もどって来て!アダルパのことはあきらめる、二度と迷わない、帰って来てメナの中に!ほとばしるメナの叫び。ン・チャーナ・ガイめがけて突進する。その小さな体をすっぽりつつみこみ、やがて細かく身をふるわせ、次第にはげしい苦悶にのたうち内側からとけてゆく。悪臭とひからびた皮をのこして消える。吹きぬける風の中に呆然とたちつくす栗本と雷電。おーいと秋月の声、そのひざには突然空中からあらわれたという薫をだいて、薫の両脚から下はとかされ骨があらわに。見はるようにそそりたつプロントザウルス。ゴララおさがり、とメナの声、その姿には誇りと力強さと意地と冷静さと威厳。統治者であり支配者である者のふしぎな悲哀をさえ漂わせる。
恋をすて再び女王たちの力を得たメナはン・チャーナ・ガイを倒した。そしてン・チャーナを倒してチャムロラに永遠の眠りをあげる、地上の人々を目に見えぬ侵略の危機から救ってあげる。私はひとりじゃない、人の思いはほろびない。みんなここにいる。心配しないでアダルパ、いつかあなたと会える、人の思いは死なないのだから、あなたがずっと好き、と風のようにほほえむ、女王たちの魂がやさしく守るようにつつみ込む。メナの首に自分のロザリオをかける薫。じっと大人の女のように無限の思いのまなざしでみつめる。さようなら大好きなアダルパ! メナの声がふいに遠くなり一陣の海の匂いの風がつつみ、胸の底からひらけてゆくような解放感に気がつくと、薫・秋月・雷電・栗本の4人はセントジョゼフ島の渚にたちつくしている。
尚も執拗に追ってくる月十字教団、それは執事の杢内とその仲間。薫の体をクトゥルーの神々に捧げクトゥルーの長い眠りをさまして戦いにかりたてようとしている。銃で強迫。銃声と同時にカミナリのような青白い閃光が杢内一味におちる。黒コゲの死体。その閃光は薫が両手をあげて呼びこんだように見えた。薫は消えた。薫は何者だったのか? アダルパ、精霊、人類よりも、チャムロラの人々よりももっと古くからいたもうひとつの種族。この惑星自体のもつ山や川や海や木々や時の流れそのものの生命、エッセンスがつくりあげた地球そのものともっとも近い生物。
地球の魂、地球のこころ。われわれ現代人が忘れきく耳を失ってしまった大自然の思いと魂、精霊たちの息吹をきき、うちよせる青い波と吹きすぎる風に身をまかせてたちつくす。
(LPライナーノーツより)
(LPジャケット)
(LP封入ライナーノーツ)
SIDE-A
1. 魔境遊撃隊のテーマ
作曲:久石譲 編曲:福岡やすこ
2. サザンエクスプローラー号、南へ
作曲:久石譲 編曲:武市昌久
3. 巨石の島
作曲:久石譲 編曲:浜乃家霞
4. ン・チャーナの祝祭
作曲:久石譲 編曲:岡田健一、浜乃家霞
5. 石の街のゴララ
作曲:久石譲 編曲:武市昌久
SIDE-B
6. 悪魔の侵触
作曲:久石譲、ジャッカル岩崎 編曲:ジャッカル岩崎、浜乃家霞
7. 白い女王
作曲:久石譲 編曲:福岡やすこ
8. クレアの微笑
作曲:久石譲 編曲:岡田健一
9. リ・ララとアダルパ
作曲:久石譲 編曲:福岡やすこ
原作:栗本薫
音楽プロデューサー:久石譲
イラストレーター:天野喜孝
構成:松浦典良