Info. 2018/06/12 辻井伸行、様々なピアノと出合う楽しみ支える「調律師さんの仕事に感謝」(Web THE PAGEより)

辻井伸行、様々なピアノと出合う楽しみ支える「調律師さんの仕事に感謝」

ピアニスト・辻井伸行が、数々の映画音楽で知られる久石譲とコラボレーションで魅了する。映画『羊と鋼の森』(橋本光二郎監督、公開中)は山崎賢人演じるピアノの調律師を目指す青年の成長物語だが、そのエンディング曲“The Dream of the Lambs”を担当した。流麗なピアノの音色を聴いていると、感動の余韻が静かに染みわたってくる。久石が作曲した曲を辻井が弾くという、まさに夢のコラボレーションが実現したわけだが、かねてより久石のファンだったという辻井に、映画音楽に挑んだ心境を聞いた。

 

調律師が主役の映画で、憧れの久石譲さんとの初コラボ

「僕のマネージャーが以前から原作を読んでいて、調律師さんの話だと聞き、ぜひ点字に訳してもらって読もうと思っていたんです。そこへ映画の話がきて、ぜひ久石さんと組んでほしいといわれ、とてもうれしくて。原作を読み、久石さんが書いた楽譜をもらったときはすばらしい曲で感動しました」

一方では久石のほうも、辻井とのコラボを楽しみにしていたそうだ。曲は、難易度の高いものだったという。

「演奏が難しい曲なのですが、録音までにツアー中で、期間が1週間ほどしかなかったので大変でした。久石さんの前で演奏するのはとても緊張しましたけれど、『とても完璧だ』とおっしゃったときはうれしかったです。自分が関わらなくても映画化されたら観たいと思っていた作品なので、こんな形で携わらせていただけて光栄です」

久石さんと曲収録前の打ち合わせ(提供:東宝)

 

辻井は、以前から久石の音楽が好きだったというが、話を聞くと最初はやはりスタジオジブリの映画からだそうだ。

「すごくメロディーが素晴らしいですし、聴きやすい。いつかジブリ映画で弾けたらいいなと思っていたとき、こういうお話をいただいたんです。久石さんの曲は、この話にぴったりのメロディーで、途中からピアノ協奏曲のような部分とかもあり、ピアノとオーケストラの掛け合いが本当にすばらしいんです。久石さんがどういう思いでこの曲を書いたのかなと楽譜から読み取りながら、ずっと練習しました」

調律師を主人公にした映画だが、ピアニストである辻井も当然のことながら調律師とは縁が深い。演奏は会場によっても、ピアノによっても、また、調律師によってもガラリと変わるという。

「ホールによって響きが違いますし、ピアノによっても違います。ピアニストのタッチとか、調律師さんによっても音がかなり変わるのですが、例えばいろいろな車を運転するようなもので楽しい。とくにピアニストは自分で楽器を持ち運べないし調律もできないので、やはり調律師さんは大切です。調律師さんと観客のみなさんと一緒にひとつのコンサートを作り上げているので、この映画で調律師さんのことがわかるとコンサートの見方も変わると思いますし、とても興味深い映画だとあらためて感じています」

 

調律の要望はあまり出さず「音でわかり合っていくタイプ」 お客様と

辻井自身は、調律師とはどのようなコミュニケーションをとっているのだろうか。

「東京ではいつもやってくださる方がいますが、お互い信頼している調律師さんだとすでにわかり合っているので、それは大きいですね。でも僕は初めての方であってもあまり要望は出さず、音でわかり合っていくタイプです。ホールによっては弾き込まれていなかったり使われていないピアノもあって、それはすごくもったいない。ピアノも弾かれないと音が出ないし、そういう古いピアノは調整が大変ですが、大変な作業を調律師さんがやってくださっているからこそ、よいコンサートができるんだと思っています」

“The Dream of the Lambs”収録時(提供:東宝)

 

そして普段、演奏で心がけていることは、聴く人たちを楽しませることだという。

「技術や表現力は大事ですが、一番は、やはりお客様に楽しんで聴いてもらえる演奏。私はやはりピアノを弾くのが楽しいので、お客様と一体になって楽しんで演奏します。少しでも生の音楽を聴いてもらって、音楽に興味を持ってもらって、足を運んでもらえるようなピアニストになりたい。音楽家としてまだまだ、一生勉強ですしゴールがないので、より世界に羽ばたけるように、少しでも愛されるようなピアニストになっていきたいです」

 

少しでもいい演奏をするために、心がけていること

言葉の端々から志の高さが伝わってくるが、ピアニストとしての自分を維持するためにはどんな日常生活を送っているのだろうか。

「練習も大事ですが、音楽以外のことをやるように心がけています。外に出て気分転換することもありますし、新しい趣味として最近は陶芸にハマっています。ツアー中には温泉に入って疲れをとったり、散歩したりするのも気分転換になりますね。もちろん健康管理も大切です。ゆっくりできるときは、その地元の料理を食べたり、お酒を飲んだり、体を動かせるときは水泳など運動をして体力をつけています。少しでもいい演奏をお聴かせしたいので」

クラシック音楽というとさまざまな批評がつきものだが、批評はあまり気にすることなく、むしろ直接自分の音楽を聴きにきてくれた聴衆の反応を気にするという。

「お客様の拍手は励みになりますし、もっともっと頑張ろうという気持ちになります。後ろのほうまで席があるホールだと、上からシャワーのように降ってくる拍手を浴びて、こんな大きなホールで皆さんの前で弾けて幸せだなと、いつも思います」

最後に、ピアニストを目指す人へのメッセージをもらった。

「もちろん音楽やる上で練習は大切ですけれど、好きなことを見つけて気分転換することも大事。音楽以外の趣味や勉強も音楽にプラスになるので、練習だけではなく、そういうことも積極的にやって、演奏を楽しんでもらえたらなと思います」

(取材・文・撮影:志和浩司) 2018.06.12 12:10

出典:THE PAGE(ザ・ページ)
https://thepage.jp/detail/20180611-00000011-wordleaf

 

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