作曲家の久石譲が、新作「ミニマリズム」(ユニバーサル)を出した。自身の原点であるミニマル音楽に取り組んだアルバム。その意図などについて聞いた。
国立音大在学中に、最小限の音型を繰り返すミニマル音楽に感化された。1981年のデビュー・アルバム「MKWAJU」もミニマルの手法を踏襲した。しかし、84年に宮崎駿監督の映画「風の谷のナウシカ」の音楽を手がけて以降、叙情的な旋律をオーケストラで壮麗に仕立てる作風が人気を集めるようになった。
「でも、折に触れ、自分の原点を突き詰めたいという欲求がわいてくる」という。今回は、1月にオーケストラの指揮を務めたことがきっかけとなった。「クラシックの作曲家を志し、研さんを積んでいた若いころの気持ちがよみがえった」と語る。
「今世紀、ポピュラー音楽が発展してきた要因に、肉体に訴えかけるリズムやグルーブ(乗り)を重視したことがあると思う。ポピュラー畑で活動してきた身として、ミニマルの手法に肉感的なリズムを注入することを今回の大きなテーマとした。アルバムのタイトルはそれを暗示したもの」
冒頭収録の「Links」は15拍子という変則的リズムを導入、デビュー・アルバムの表題曲のリメークではアフロ的な高揚感を演出している。
さらに、ミニマル音楽は実は古典ともつながっている、という音楽観も提示したかった。
「例えば、ベートーベンの『運命』は冒頭の1小節のバリエーションが基本となる。手法は違うが、短い音型を展開させるという根本の発想は近似していることに、最近気づいた」
そんなメッセージを託したのが3楽章から成る「Sinfonia」。バロック、交響曲といった古典とミニマルを巧みに融合している。
「プロの音楽家として、様々なジャンルを取り入れつつ、30年近い経験を積み、人間的にも成長した今だからこそ書ける僕のクラシック音楽に仕上がったと思う。ただこれは、まだ入り口。次は40分の大曲を書くことを課題にしたい」
15日から全国ツアーが始まる。2部構成で、前半は新作、後半は最近手がけた映画音楽を中心に構成する。「僕の持つ先鋭性と叙情性を対比できるような内容にするつもり」と語る。すみだトリフォニーなど首都圏4公演は完売した。
(2009年8月12日 読売新聞)