毎日新聞 2014年11月27日 東京夕刊
音楽とメディアとの関係を考えると、新聞などの印刷物は実に分が悪い。何せ音が聞こえない。だが、意外と親和性のあるジャンルがある。クラシック、ジャズ、演歌である。「活字」や「写真」といった古い媒体要素がこのジャンルをじっくり説明するのに力がある、ということだろうか。テレビにはアイドルポップが似合うし、FMラジオにはJポップがなじむ。では、映画には……。
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「たけし映画」「ジブリ・アニメ」と言えば、作曲家久石譲の音楽である。最近、宮崎駿監督「風立ちぬ」と高畑勲監督「かぐや姫の物語」の最新ジブリ作品の音楽をモチーフにした楽曲などを収録したアルバム「ワークス4 ドリーム・オブ・W.D.O.」(ユニバーサル)を発売した。「W.D.O.」とは、久石が新日本フィルハーモニー交響楽団と組んで活動する場合の「ワールド・ドリーム・オーケストラ」を指す。つまり豪華な映画音楽CDということか?
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「違うね」。久石はいたずらっぽく笑って否定した。「映像用の音楽は、独立したジャンルと考えた方がいい。その仕事をちょっとやり過ぎたね。今回、僕はクラシックを書いたんだ」
クラシック?
「そう。チャイコフスキーやガーシュインが、バレエやミュージカル用でありながら、独立させ演奏しても成立する音楽を作ったでしょう。それと同じ。つまり、クラシックとして『作品化』することを念頭に置いて作った映画音楽なんだ」
CD収録された作品は、「風立ちぬ」が22分、「かぐや姫の物語」が16分の組曲に変貌している。他の曲も口笛で吹けるような小品ではない。とはいえ、確かに品格は感じても、難解で近寄りがたい現代音楽の高尚さは控えめ。親しみやすいといってもいい。
「現代音楽じゃないよ、『現代の音楽』。メロディーやハーモニー、リズムも取り込んだポストクラシカルと言えばいいかな。ビョークのプロデュースをしたり、メトロポリタン歌劇場のオペラ音楽を書いたりするニコ・ミューリー(マーリー)たちが代表格だね」
久石はミニマル音楽の旗手だったはずだが……。
「ミニマルは過程だったと言おうかな。ミニマルが、僕の音楽に残したことが二つある。一つが根源的なコンセプトの重要性。もう一つがテクニカルな要素。今、ワークス4を仕上げたことで、自分の行く先が見えてきた気がする。オーケストラで古典を指揮することで音楽の読み解きの勉強も深くなった。“変わる”時期ということかな」
久石は、自信に満ちてほほ笑んだ。
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映画と音楽は切っても切り離せない。だが、久石の話から、その関係性に「説明」「演出」以上の「何か」が存在することが分かる。映画と相性がいいのは、素人にはちょいと難しい「現代の音楽」なのかしら。【川崎浩】
(毎日新聞 より)