Overtone.第93回 メロディの圧縮?増殖?

Posted on 2023/05/20

ふらいすとーんです。

今回は難しいところから易しいところへ、わかりにくいところからわかりやすいところへ、少しずつほぐしていけたら。ゆっくりタイムにでも読んでください。ときにリスナーには努力が求められます。どうぞ耐え抜いてお付き合いください。きっと、そういうことね!と言葉と音楽が結びつくとそう願っています。

 

2020年2月開催「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.2」コンサートです。プログラムからアルヴォ・ペルト作品です。楽曲解説はこうあります。

 

アルヴォ・ペルト:フェスティーナ・レンテ ~弦楽合奏とハープのための
Arvo Pärt:Festina lente for string orchestra and harp

1986年作曲の「フェスティーナ・レンテ」は、ローマ帝国の創始者である初代皇帝アウグストゥスも使った矛盾語法の「ゆっくり急げ」から着想したものである。このタイトルは構成だけでなく形式についても暗示している。作品は第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリン、ヴィオラ、そしてチェロとコントラバスの3つのグループからなるカノン様式で構成され、メロディは全員同時にしかし3つの異なるテンポで演奏される。最も速いメロディは7回繰り返され、短いコーダを経て音楽は静寂の中へと消えていく。

Blog. 「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.2」 コンサート・レポート より抜粋)

 

そのときのレビューです。

アルヴォ・ペルト:フェスティーナ・レンテ ~弦楽合奏とハープのための

静謐なこの作品は、曲目解説にもそのコンセプトが紹介されています。さらにわかりやすく言うと、ひとつのメロディがあって、例えば第1ヴァイオリン・第2ヴァイオリンは4分音符で演奏します。ヴィオラはその2倍の長さ2分音符で演奏します。チェロ・コントラバスはさらにその倍の全音符で演奏します。この3つのパートが同時に演奏されて進んでいきますが、例えば4部音符でメロディを奏でるのに2小節あったとして、2分音符であればその倍4小節かかります、全音符であれば8小節かかります。すごく簡単にいうと。異なる対旋律はなく、ひとつのメロディの音符長さのズレだけで、自然的にハーモニーや大きなリズムが生まれる、そんな作品だと解釈しています。こういったところにアルヴォ・ペルト作品のおもしろさ、そして久石譲が創作において共感しているところがあるのだろうと思います。チェロやコントラバス、ハープといった楽器を座って固定しないといけないものを除いて、この作品でも立奏です。

Blog. 「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.2」 コンサート・レポート より抜粋)

 

 

今ならコンサート特別配信されています。

 

JOE HISAISHI FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.2 全曲特別配信! Special Online Distribution

アルヴォ・ペルト:フェスティーナ・レンテ ~弦楽合奏とハープのための
久石譲:The Border 〜Concerto for 3 Horns and Orchestra〜
ブラームス:交響曲 第1番 ハ短調 作品68
ブラームス:ハンガリー舞曲 第4番 嬰ハ短調

from Joe Hisaishi Official YouTube

 

 

2022年3月4日開催「久石譲指揮 日本センチュリー交響楽団 第262回 定期演奏会」でも、同作品はプログラムされています。

 

これ以上ここで言葉を尽くしても難しいので先に進みます。でも、最後まで読んだあとにまたここに戻ってきてください。今ならちょっとわかる!そうなるとうれしいです。

 

 

今回のテーマは、メロディの《圧縮》《増殖》についてです。近年の久石譲作品の楽曲解説、および久石譲が取り上げる現代作品の楽曲解説に、たびたび登場する言葉です。ということは、同じく音楽的な手法も共通しているものがあるということになります。アルヴォ・ペルト、フィリップ・グラス、デヴィッド・ラング、そして久石譲。ここでは2020年以降の久石譲作品から見ていきます。

 

と、その前に、やっぱり言葉だけだと難しくって読むの諦めますね、読み飛ばしたくなりますね、譜面といっしょに図解しようとがんばります。

 

図1

上の図は、同じ音型を使って音符の長さごとに繰り返しています。???

 

図2

赤丸ひとつの音型です。

ここに《圧縮》《増殖》の両方があります。

8分音符を軸にしてみましょう。音型をモチーフとします。モチーフを1回奏でるのに1小節です。これを《圧縮》つまり16音符の長さに縮めると1小節に2回奏でることができます。逆にこれを4分音符の長さに伸ばすと1小節では0.5回、2小節に1回奏でることができます。もっと引き伸ばすと2分音符は、、というようになります。そして、上の譜面の状態は、モチーフが《圧縮》されたりしながら同時に流れている、モチーフが4つのパートで《増殖》している状態、ということになります。(あくまでも一例です)

 

なあんだ、そういうことか。《圧縮》とか《増殖》とかいうから、すごい難しい理論だと思ったら、圧縮って音符を伸ばしたり縮めたりしてるだけじゃないか、増殖って音や楽器が増えて盛り上がってるっていうことでしょ、なんか敷居高めに言いやがって、、(ちょっとお口が悪いですよ)、わかるとスッキリしますね。そうはいっても、言葉にするとこうとしか言えないのもまたしかり、決して置いてけぼりにするつもりない、言葉と音楽との境界線です。だからわかってしまえばこっちは1UPです。

 

 

「久石譲:交響曲第2番」第2楽章や第3楽章で《圧縮》《増殖》を聴くことができます。第3楽章「Nursery rhyme」はタイトルとおりわらべ唄のようなモチーフが登場します。フィナーレを迎えるラスト2分は、モチーフが幾重にも圧縮したり伸ばされたりで同時に奏でられいます。2分音符から16分音符まで、まさに上の譜面図のようになっています。もちろんシンプルではありませんから、カノン風に旋律はズレうねり、ピッコロ、オーボエ、トランペットらが掛け合うように装飾的に交錯しています。モチーフの増殖を螺旋のように描きあげながらピークを迎えます。

「久石譲:交響曲第2番」はまだ音源化されていません。そのなかで第2楽章「Variation 14」はアンサンブル版も作られ、こちらはリリースされています。例えば、7分あたりから1分間くらいの箇所は聴きとりやすいです。モチーフを高音ヴァイオリンらが16音符の速いパッセージで繰り返しているとき、低音チェロやトロンボーンらは4分音符に引き伸ばして奏しています。まるでベースラインのようなおもしろさですが同じモチーフです。そこへフルート、オーボエ、クラリネットらがまた、モチーフの素材を部分的にカラフルに奏してます。ここもまた《圧縮》と《増殖》が現れている状態といえます。

「Variation 14」には久石譲が推し進める《単旋律》の手法もあります。同じように低音で比べてみます。わかりやすいところで4分半あたりから1分間くらい、ときおりボンボンと不規則に鳴っているベースのようなパートは《単旋律》の音です。メロディライン(モチーフ)のなかの一音を同じところで同時に瞬間的に鳴らしている、そんな手法です。この楽曲の注目ポイントは、《単旋律》の手法と《圧縮》の手法をスムーズに切り替えながら構成されている妙です。さらにすごい、ラスト1分などは《単旋律》と《圧縮》の手法をミックスさせて繰り広げられています。だから厳密には《単旋律》(ドとかレとか同じ音だけ鳴っている)とは言えないかもしれませんが、それは理屈であってこだわらなくて大丈夫、《単旋律》オンリーもちゃんとやっています。この楽曲は、交響曲第2番第2楽章は、久石譲の近年作曲アプローチから《単旋律》と《圧縮》を昇華させ構築してみせた、すごいかたちなんです!(たぶん)聴くだけでもワクワク楽しい楽曲ですが、その中に技法もいっぱい詰まっているようです。ここだけでずっと話したくなる、またいつか語り合ってみたい。先に進めましょう。

 

Variation 14 for MFB (2020) (世界初演)

from official audio

 

 

「久石譲:Metaphysica(交響曲第3番)」です。ちょっと交響曲第2番で盛り上がりすぎちゃった感、しゃべり過ぎちゃった感あり割愛します。音源化もまだです。期待を膨らませるさわりくらいに。

 

第2楽章の楽曲解説はこうあります。

”II. where are we going? は26小節のフレーズが構成要素の全てです。それが圧縮されたり伸びたりしながらリズムと共に大きく変奏していきます。”

ほんとにこのとおりになっています。なにやら静かにゆっくり始まって、ガラッと一変鋭くリズミックになって、魅力的な弦楽四重奏のみ構成にもなって、力強い爆発力で解き放たれる。どんどん曲想が変わって同じようにメロディラインも変わっているように錯覚しますが、楽曲解説のとおり同じモチーフで首尾一貫です。

第3楽章の楽曲解説はこうあります。

”III. substance は ド,ソ,レ,ファ,シ♭,ミ♭の6つの音が時間と空間軸の両方に配置され、そこから派生する音のみで構成されています。ちなみにこれはナンバープレースという数字のクイズのようなゲームからヒントを得ました。”

6つの音からなるモチーフが稲妻のような速さで鳴り響き、それが中間部ではまるで強烈なフックのように2分音符に引き伸ばされた長さで重厚にたっぷりに奏されます(下の音で)。とても強い印象をのこします。「交響曲第3番」にも《圧縮》は散りばめられています。いやこれだと正確じゃない。楽曲解説の「時間と空間軸の両方に配置され」、《圧縮》は横の流れなので時間、《増殖》は縦の広がりなので空間と捉えることもできるなら。「交響曲第3番」ここもまた《圧縮》と《増殖》が現れている状態といえます。

 

第2楽章だけ特別に公開されています。どうぞゾクゾクしてください。

 

 

「久石譲:2 Dances for Large Ensemble」第2楽章です。長尺なメロディラインが4,8分音符で奏されたあと、同じテンポをキープしたまま16音符に圧縮されて奏される変化を聴くことができます。コンサート映像が公開されています。18分20秒あたりから2分間くらいの箇所です。この楽曲も同じモチーフで首尾一貫です。さらに高度に解析すると、基本モチーフは8分音符の粒です。でも18分20秒あたりの展開はスウィングする付点リズムのようになっているから「4,8分音符」とここでは書きました。そう、圧縮のパターンは等倍だけじゃありません。8分音符が等間隔で16音符や4分音符になるだけでじゃない、いろいろ変形した伸び縮み方もしている。圧縮バリエーションと言っていいのかな、いやむしろ、《圧縮》と《変奏》の合わせ技と言ったほうが正しいに近いのかもしれません。ほかでも旋律がカノン風にズレて増殖していたり、音符の長さを変えて同時に並走していたり。ここもまた《圧縮》と《増殖》が現れている状態といえます。まだまだ話し足りないけど先に進める、名残惜しい。

 

“JOE HISAISHI presents MUSIC FUTURE Vol.8” Special Online Distribution

 

 

(余談)

近年の久石譲作品から「Single Track Music 1」「2 Pieces」「2 Pages (Recomposed)」などにも《増殖》や《圧縮》といったキーワードは出てきます。曲ごとにどこを指して増殖している状態なのか?注目して聴いてみるのもおもしろいです。

 

(余談)

「増殖」と近い言葉に「増幅」があります。使い分けるなら「増殖」=ふえる、ふやす、「増幅」=ます、ふくらむ、おおきくする、というように前者の数的なものと後者の範囲的なものになるのかなとこれは個人の解釈です。そんなこともあってか音楽作品の楽曲解説には「増殖」が使われていることが多いようです(少なくとも久石譲作品と関連作品はそうでした)。評論やレビューでは「感情を増幅させて」などと使われていたりもします。範囲ですね。細かいところの言葉のこと。

 

(余談)

当サイトでは、久石譲作品の楽曲解説やコンサート・レポートなどを収めています。「disc 曲名」「blog 曲名」「レポート 曲名」などで検索してみてください。いろいろな聴きかたを紐解けるかもしれません。曲名だけだとたくさんのページにヒットしすぎるかもしれません。

 

 

急にサウンドトラックの話をします。海外TVドラマ「THE FLASH/フラッシュ」というヒーローアクションものです。シーズン8くらいまである人気作で、サウンドトラックもシーズンごとに出ています。そのおかげもあって、メインテーマはじめ主要楽曲のいろいろなバリエーション、シーズン・バージョンアップなど、音楽を追いかけても楽しい作品です。

 

The Fastest Man Alive (Always Late)

from Blake Neely – Topic (official audio)

メインテーマです。スピードヒーローということもあってか、モチーフの象徴的なフレーズが登場しています(00:14-00:27)。ここだけでモチーフとなっている音型を7回繰り返しています。その後も繰り返しながもうひとつの主旋律が上で鳴っていたり(00:40-00:50)、音型の一部を素材にして繰り返したり(01:00-01:25)、徹底的にこの音型にこだわって作られています。曲は曲想を変えながら進んでいきます。ピアノも変奏だし(02:29-2:40)そのあとの弦楽も変奏だし(02:43-end)。なんですけど、今回は変奏の楽しみはぐっとガマンして基本音型だけにこだわっていきます。

 

 

Sending Reverse Flash Back / Wells Betrays

16分音符だった速いモチーフが、8分音符の長さに伸びています(2:30-2:50)。より力強くより重く聴こえてきます。ここの盛り上がったピークなんて『スター・ウォーズ』ばりのお手本のようです。音符の長さが変わった印象の違い、この曲はこれだけ言って流します。、、なんて言いながら曲のエンディング、低弦でモチーフを刻む重厚さは『トップガン:マーヴェリック』などにも聴けるハリウッド手法の定番です。

 

 

Stuck in the Speed Force

モチーフの耳が慣れたころ、きれいにフォーカスしてくれます。ピアノは8分音符で(2:10-2:27)、ホルンらは2分音符で(2:33-)、その上にストリングスは16音符でモチーフの素材を断片的に散りばめながら。その流れのまま高音ストリングスは8分音符でクライマックスへ。ここでもモチーフの最初の2音や4音を抜き取って効果的に繰り返しています。もうわかりますね、《圧縮》の手法を使った曲と言えます。

 

Ready to Save the World

一番わかりやすい曲!3:10-endまでの1分間を集中して聴いていきます。モチーフが3つのラインで並走しています。ストリングスは16音符で、ピアノは8分音符で、そしてホルンは2分音符です。同じメロディを使い、音符の長さが違うこともはっきりと聴き分けながらその織りなす流れを楽しむことができます。

 

ここ、上の譜面図と同じ《圧縮》と《増殖》状態です。

 

そしてもしこの箇所を冒頭の「アルヴォ・ペルト:フェスティーナ」のように解説したらこうなるのかもしれません。

[楽曲は弦楽、ピアノ、そしてホルンの3つのグループからなるカノン様式で構成され、メロディは全員同時にしかし3つの異なるテンポで演奏される。最も速いメロディは10回繰り返され、反復を経て音楽は静寂の中へと消えていく。]

全く同じ曲のこととは思えないほど高邁になってしまいました。でも、言っていることもやっていることも説明としては一緒です。テレビドラマの音楽が一気にありがたいものに格上げされた気さえしてきます。おもしろいですね。

 

 

The Right Decision3

この曲はモチーフをピアノで演奏したものです。ここでは《圧縮》の話は置いておく。映画もドラマも海外もアジアも、ほんとモチーフの時代だなと感じます。従来の息の長いメロディライン、旋律が豊かに広がっていく曲想は今ちょっと影をひそめている。切り詰められた短いモチーフをどう料理していくか。料理の仕方には音色・リズムなどいろいろな手法がありますが、一番顕著になっているのはハーモニーです。この曲を聴いても、あの急速で力強いモチーフが、ここまで変わるんだとびっくりします。印象に影響を与えているのは複雑なハーモニーやさじ加減のあるエモーショナルなコード進行です。今の作曲家には、映画全体から音楽を構成するの意のなかにアレンジ力も大きく求められているように感じます。ワンテーマからの引き出しの多さがものをいっている。だから欧米も韓国もチームで音楽を作ることが主流になっている。モチーフが音数を変化させながら流れていきます(01:30-)。

 

 

The Most Important Part Of The Job

久石譲指揮で演奏会にプログラムされたこともある「チャイコフスキー:交響曲第5番」は、第1楽章のモチーフ(第1主題)が短調で織りあげられ、第4楽章で同じモチーフが長調で奏されるという形式をとっています。短調が長調に変わっただけで気づけなくなるくらいがらっと印象も変わっています。「久石譲:交響曲第2番」第3楽章もわらべ唄のようなひとつのモチーフで織りあげられ、明るくなったり暗くなったりと響きの変容を楽しむことができます。たぶん、チャイコフスキーのそれよりも同じ楽章内ということもあって、聴きとれ楽しめると思います。

今回取り上げた海外ドラマからのモチーフも、基本となるメインテーマの第1印象は、速い・鋭い・アクションものらしい、そんな感じです。でも、この曲のように180度印象を変えて、希望・明るい・ハッピーエンディングをイメージさせるような曲想になったりします(01:00-)。後ろで聴かれるホルンの旋律も、なんとなく雰囲気で鳴らしているのではなく、モチーフの音型からうまく拾いあげられているように思います。

 

 

ポップスにいく。

クラシック音楽や現代作品だと説明されてもハテナしか浮かばないことも、実はやっている手法は近かったりすることはたくさんあります。サウンドトラックから耳を慣らしていくのはとても楽しいです。なんといっても、聴きやすい!探しやすい!見つけやすい!サウンドトラックやポップスから耳のレバレッジをかけていく、楽しいストレッチを習慣にする。

海外TVドラマ「THE FLASH/フラッシュ」のメインテーマ・モチーフは、定番音型と言えるほど幅広い楽曲で耳にすることができます。久石譲の『悪人』や『坂の上の雲』のサントラにも近いものが聴けたりします。すぐにどの曲か思い浮かぶ人はすごい、とてもよく聴いていますね。

ポップスにもモチーフの波は押し寄せている?メロディラインだけじゃなくて伴奏音型やフレーズでインパクトのあるもの、その楽曲カラーを決定づけるもの。たくさんあると思いますが、ぱっと浮かんだのがこれだったので、同じ音型を使っています。BTSです。

 

N.O

from BANGTANTV official

 

 

終わりに近づく。

今回、一番最初に難易度高いほうから紹介した「アルヴォ・ペルト:フェスティーナ・レンテ」。とても高邁で構えてしまいそうですけど、紹介してきた海外テレビ・サントラとまったく同じことをやっているんです。ほんとですよ、ちょっと見てみましょう。

 

from Festina lente – Arvo Pärt Centre (official) より image edit
https://www.arvopart.ee/en/arvo-part/work/517/

曲のはじまりです。ヴァイオリンが2小節でやっていることを、ヴィオラは倍の長さ4小節でやっています。チェロとコントラバスはさらに倍の8小節まで伸びています(赤)。同じように次の2小節も伸びていきます(青)。「メロディは全員同時にしかし3つの異なるテンポで演奏される」楽曲解説とおりです。《圧縮》と《増殖》のどちらもあります。

同じことをやっているのに、見つけられるサントラと見つけられないクラシック。クオリティを問うつもりも大衆さと高邁さを競うこともありません。そこにはアプローチと志向性の違いがあります。映画音楽はエンターテインメントとして観客に気づいてもらわないといけない。「ああだからここでこのメロディがくるんだね」とわかってもらわないと映像との効果を発揮できません。一方のコンテンポラリーな作品は、すぐにはわからないかもしれないけれど、音楽として強靭な構造をもったもの……音楽だけで……そう純音楽なんですね。この作品は冒頭から一番速いヴァイオリンで1コーラス1周するのにおそらく1分近くかかっています。そんな息の長い旋律が伸びたり折り重なってる、モチーフも変容している、楽曲解説があってもなくても気づけわかれと言われるほうが超難問って感じです。

 

もう一度、アルヴォ・ペルト作品を聴いてみましょう。イントロから20秒間が上の公式譜1ページ目です。前よりは3つのメロディが聴きわけられるようになった気がしませんか?20秒だけ集中力MAX!!

 

Festina lente

from Paavo Järvi -Topic (official audio)

 

 

むすび。

現代作品から久石譲作品から海外ドラマサントラからK-POPまで。いろいろな角度から手法の共通点を紐解いてきました。偶然にも同じ音型をベースにして幅広いジャンルで聴けるおもしろさもありました。

もうお腹いっぱい

だとは思いますが、耳のストレッチができたら「久石譲:2 Dances」や「久石譲:Variation 14」もアルバムやライヴ映像でまた聴いてみてください。普段よく耳にするサウンドトラックでやってることと同じようなことが起こっている?とあまり力まず楽しく耳をすませて。なんかハマっちゃいそうってなるかも。

もうお腹いっぱい

だとは思いますが、とても興味深い点もあります。「アルヴォ・ペルト:フェスティーナ・レンテ」を聴いて、静謐・美しい・宗教的・エモーショナル、そんな感想もあるかと思います。でも曲を紐解くと決して感性だけで作っていないことがわかります。メロディを論理的に組み立てて、圧縮したり増殖したりと運動性を追求した先に、その旋律の交錯からハーモニーやリズムが生まれているという楽曲構造になっています。くだけて言っちゃうと、神様に祈りを捧げながら思い向くまま作っているわけではない、だって譜面が論理的なのはわかったし。感性よりも論理性が勝っている、作る側は。

このあたりのことは、久石譲の今の志向性と共通しているのかもしれません。美しいと感じるかエモーショナルに感じるかは聴く側のこと、作る側は感情に訴えようとは思っていない。あくまでも論理的に音を配置した結果、運動性を追求した先に、そこからリスナーのイマジネーションをかきたてるものが生まれてくる。コード進行や和音で曲を広がらせるのではない、旋律たちの織りなす瞬間に生まれるハーモニー、つまりポリフォニー、つまりバッハ時代ですね。

きっとこれからの久石譲作品を聴くヒントにもなると思います。そして、いつか届けられる日がくるだろう「久石譲:交響曲 第2番・Metaphysica(第3番)」を聴くときに、ぜひちょっとだけ思い出してください。そのときまた耳のストレッチのお手伝いができて、久石譲交響曲をさらに楽しむきっかけになれるのならうれしいです。

 

それではまた。

 

reverb.
好きな音楽をさらに楽しめる自分に出会えるならうれしい。努力の根源は好奇心だ!なんて。

 

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

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