Score. 『久石譲 I am』

1991年3月30日 発行

久石譲監修によるピアノ曲集。編曲は他者によるもの。オリジナルアルバム『I am』のマッチング・ピアノ譜。

 

【補足】

当時は公式スコア[オリジナル・エディション]という位置づけがまだなかった。久石譲監修ではあるが他者の編曲による(当時はそれが主流だった)。ただし、CD作品のマッチングとして同時期に楽譜出版されたもの、また楽譜表紙(装丁)がCDジャケットデザインに準ずるもの、制作協力クレジットされ公式コンサートパンフレットや媒体でも紹介されていたもの、これらを監修・公認(準公式)楽譜として紹介している。

 

 

本楽譜「I am」に掲載収録されている久石譲インタビューや、久石譲自身による楽曲解説をご紹介します。

 

 

「Piano Solo 久石譲/アイ・アム (I am)」 監修:久石譲 ドレミ楽譜出版社

はじめに

今回のアルバム『I AM』は、とてもピアニスティックな仕上がりになっています。

”Piano”──自体にとても入り込んで作品を作り上げました。基本的には、例えば、メロディーをていねいに、綺麗に歌わせていくところや、モード的な音の組み合わせ方でかもしだす微妙なコード進行の変化、そしてその「響き」などを大切にして欲しいところです。

”Piano”から奏でられる「微細な音」を聴いて、微妙なタッチをつねに意識して演奏してみてください。

それから、一番重要なポイントは「Pianoと遊ぶ」ことです。

本当に音楽を楽しむ、趣がある、そういう「自分だけの時間」を持つ為に、そして「自分を再発見する」とか、あるいは「自分に戻りたい時」に作品を弾いてもらえれば、とても嬉しいですし、これほど作家としての幸せはありません。

より多くの方々に僕の作品を聴いていただけて、そして、みなさん御自身が弾いてくだされば、”Hisaishi Melody”はよりいっそう馴染み深いものになっていただけると信じています。両手で演奏するのが難しければメロディーだけを指1本でポンポンとなぞるだけでも作品を味わっていただけると思います。

久石譲

 

 

INTERVIEW

アーティストとしてだけではなく、コンポーザー、アレンジャー、パフォーマー、プロデューサー、映像[映画・CF等]や舞台音楽などの活動を通して、次々と”MUSIC”を創り上げ、世界的にも高い評価を得ている”Mr. Joe Hisaishi”。

そこで、”Mr. Joe Hisaishi”の魅力を解明するために、小さい頃のこと、学生時代、そして、今回の力のこもったアルバムのことなど、熱く語っていただきました。

 

Q.最初に音楽と出逢った頃のお話から教えていただけますか?

久石:
そうですね、ヴァイオリンを習い始めたのが最初で、4歳の時でした。レッスンは、クラシック・オンリーでしたが、それと別にラジオから流れるあらゆるジャンル、例えば、童謡、歌謡曲、ポップスなどいろいろと聴くことが好きでしたね。

 

Q.音楽とは別に、小さい頃に興味を持っていたものはなんですか?

久石:
映画がとても好きでしたね。父が好きで、小さい頃よく映画館に連れていってもらいましたよ。多少、大きくなってからは一人で見に行くようになりました。僕が住んでいた街には、映画館が2館あって、当時、上映作品が週変わりで3本立てだったんです。両方の映画館に行って週に6本、そうすると1ヵ月に合計24本。夏休みや特別上映期間になると、上映作品が増えて、平均して1ヵ月に30本近い作品を見て、そして年間を通しては360本ぐらい。このペースで幼稚園から小学校の時期に見てましたね。

 

Q.年間に360本の上映作品を見ると映画からの影響が強かったのではないですか?

久石:
これだけ見てくると1本1本の作品からの影響や印象は逆に薄くて、今、普通の人達が「テレビを見る」という感覚と同じで、ずっと映画館にいた、という感じですよね。映画館に座って見て……、小さい頃の「基礎体験」のような形で自分の中に残っています。だから「映画」という特別なものに対して、影響や印象が残るのではなくて、本当に日常生活の中でそれがなければならないもの、という感じで自分に染み付いてしまいました。それと当時、テレビの普及が過渡期にあった頃で、テレビが貴重だった時代でしょ、こんな話をすると古いと言われるけど(笑)。テレビが普及していても画面は小さいし、音も悪かった…。その点やっぱり一番良い音をしていたのは映画館だったんですよね。そういう意味では、当時、大きな画面で、しかも一番良い状態で「(映画)音楽」を含めて、見て、聴いていたということになりますね。

 

Q.「映画」や「音楽」から影響され、そこから「感受性の引き出し」が蓄積されていったわけですよね?

久石:
そういうこともあります。あるハズなんだけど、基本的に「引き出し」になるものは「技術」なんですよ。で、この当時はそんなこと考えていないから、むしろ、引き出しになるか? ならないかということよりは、「映画」を通して様々な人生を見せてもらったわけですよね。お話したように年間360本近い本数を見るっていうことは、作品を選んでないんですよ。例えば、アニメーション、西部劇、恋愛物語、怪談映画…とにかくなんでも見ました。つまりありとあらゆるものに対して、僕は素直に受け入れていたわけです。それは、もしかしたら、今の自分が「音楽のジャンルをこだわらない」っていうことに近いことなのかもしれませんね。

 

Q.当時、平行してどんな「音楽」に興味を持っていましたか?

久石:
中学に入学した頃は、ブラス・バンドに入部しました。最初はトランペット。入部したその日に音が出て、翌日からサード・トランペットを吹きました。半年たって、トップを吹いて、ソロをやったり…。翌年の2年生には、サキソフォンをやって、同時に指揮もしました。でも3年生になったらやめちゃったんですけどね(笑)。そういう状態だったら、むしろ、音楽的にはクラシックよりは、中学時代に出逢った「ビートルズ」の影響が強かったですね。高校時代には、ビートルズの他にもポップスやジャズをよく聴いていましたし、当時は聴く側から、ブラス・バンドのような「音の出せる側」の現場に、つまり自分で演奏することが、楽しかったことですね。

 

Q.数々の映画や音楽との出会いを経て、大学時代にはどのようなものに興味を持ち始めていましたか?

久石:
大学(国立音楽大学作曲科)の3年になる頃に出逢ったテリー・ライリーの『ア・レインボウ・イン・カーブド・ミュージック』にショックを受けましたね。それまでの「現代音楽」の語法とは違うなにかがあって、衝撃的でした。

 

Q.その頃は、「現代音楽」の語法に基づき作曲をしていたわけですか?

久石:
大学当時、「クラスター」や「12音技法」等のいわゆる現代音楽の語法の中で、いろいろと自分も考えに考え、悩みに悩んだあげく「ミニマル・ミュージック」のスタイルを取り入れながら作品を仕上げていましたね。このスタイルを自分なりに咀嚼し、把握して表現するのに2年間かかりました。

 

Q.大学卒業以後、プロとして活動を始めた頃のお話を教えていただけますか?

今にして思えば、大学時代に幸か不幸か、ロック関係の友達がいなかったんですね。もし、ドラマーやベーシストの友人がいたらおそらくガラッと変わった人生になっていたと思います。当然のごとくすぐに”バンド”を結成するだろうし……。今日まで「バンド経験ゼロ」っていう珍しい人ですからね(笑)。普通だったらバンドをやったり、セッションをしながら次第にスタジオ業界の仕事をこなして行くというパターンですよね。僕の場合、最初からスタジオ・ワークでしたね。学生時代の関係じゃなくて、友人関係や、音楽関係、特に現代音楽の関係が多くて、スコアを書く仕事や映像関係の仕事が先でした。

 

Q.プロとしての初期活動はアレンジや作曲が先だったわけですか?

久石:
そうですね。それと映像に関する仕事が一番最初でしたね。映像に関するアレンジが特別なわけじゃないけど……。だけど、今でも思うけどバンドを結成するような友人達に出逢っていたら人生はまったく違ったものになっていたような気がするね。そうすると「風の谷のナウシカ」の音楽等は生まれていなかったかな……。

 

Q.今回のアルバムに収録されている「Venus」や「Echoes」に聴かれる民族音楽との出逢いはいつ頃でしょうか?

久石:
民族音楽はもともと最初から好きだったんですね。エスニックな音楽が大好きで、そこから得る要素は自分の体験外のものなので……。と同時に、僕がやってきた「ミニマル・ミュージック」の音楽的な構造が民族音楽と近い要素を持っていますからね。ミニマル・ミュージックを始めた頃、アフリカ民族音楽のリズム構造を研究したり、中近東のインド音楽に聴ける16拍子の曲や複雑なリズム構成とか、同時にその音楽の時間の流れなど、特殊な時間の流れですよね。そうやって研究していくうちに民族音楽の魅力に魅せられて、気づいてみたらクラシックの勉強と同じかそれ以上ぐらい、自分の中にエスニック的な要素が色濃く染み付いていましたね。

民族音楽的な要素をシンセサイザーで表現する場合、比較的そのニュアンスは出しやすいんだけど、今回のような”ピアノ”と”ストリングス”という「西洋音楽の王者」みたいな楽器編成で演奏する場合、難しいことなんですね。当初は、エスニック的な要素を取り入れられなくて悩んでいたんです。悩んでいたというよりは、取り入れられないだろうなって思ってましたから……。作品を仕上げていく段階で、結果的に「Venus」や「Echoes」の中に、本来の自分らしさを出せたので、とても嬉しいですね。

 

Q.今回のアルバムのコンセプトを教えてください。

久石:
基本的には、現在の商業ベースで作られている音楽の典型的なことはいっさいやめようと……。例えば、誰が聴いてもみんな同じように聴こえるようなものは意味がないしね。全曲に共通していえることなんですけど、基本ラインとして”ピアノだけで表現する(音楽性を保たせる)”ことがポイントなんですね。そして、そこに弦楽のアレンジを入れると。つまり、弦楽を入れて曲を保たせるのではなく、あくまでも”ピアノ”がメインということですね。それに、ぜいたくに弦楽の音色を必要最小限に加えるというコンセプトです。

アルバムをピアノと弦楽だけで作り上げることは非常に難しいことです。なぜ難しいかというと、その編成に耐えうるだけの強力なメロディーを生み出せなければならないし……。そういう意味でいえば、自分には”Hisaishi Melody”とみなさんがおっしゃってくれてるものもあるし、チャレンジできるのではないかなって……。

作品を作り上げていく段階で、一歩間違えるとそれが単にイージ・リスニングになってしまう可能性があるし、イージ・リスニングにしない為には、自分を含めて共演者の持っている確固たるアーティスト性やパーソナリティーがなくてはいけないわけですよ。つまりとても危ういところで作りあげていて、山岳の崖っぷちを歩いているようなものですね。例えば、一歩間違ったらリチャード・クレイダーマンになってしまうし、その反対に踏み外してしまえば、非常に難解なものにもなってしまう。また、要素を剃り落としている分だけ、飽きてしまう可能性も出てきます。

そんな中で、生み出すメロディーを信じて、そして、余計なものをどこまで剃り落とすか? という作業をしながら、例えば、「エスニック的なものが好き」という自分の志向する要素を含めたところでの、削り採る作業といっていいのかな? 音楽的な無駄を排除し、必要最小限の音で作り上げる……これが今回のアルバムで一番重要なことでしたね。

 

Q.完成されたアルバムを客観的に聴きかえしてみてどのような感想をお持ちになりましたか?

久石:
そうですね。初めて完成されたソロ・アルバムを作ったなって印象を持ちましたね。レコーディング中に、何百回、何千回って聴いていますから、トラック・ダウンが終了した頃には、あまり聴きたくないんですよね。でも今回のアルバムに関しては、その後、何度も繰り返して聴いても飽きないんです。それは、「完成されているアルバム」で、僕が創造したという意識を超えて、聴いていられる。

なんていったらいいのかな、不思議なもんでね、アルバムの完成度が高ければ高いほど、その作った作家から作品は離れて行くんですよ。とても客観的な作品になってしまう。そういう意味でいうと、自分の作品であっても、もう僕の作品じゃないっていうような、自分でいうのも変だけど、すぐれた作品に仕上がったと思いますね。

作品を完成させる段階で、ものすごく苦しんだり、悩んだりしました。微妙なコード進行の変化や、1音を付け加えるか、加えないかによって、その曲の雰囲気が変わってしまう……そういう微妙なところで物凄く苦しんだわけです。端の人はどんなことで、どうして苦しんでいる理由が分からないような細かいことで悩んでいたわけでしょ、ところが、苦しんで苦しんだほど、そうやって生まれ出てきた作品にはその苦しんだあとかたもないんですよ。そうして完成した作品は素晴らしいわけです。つまり、作家が苦しんだ形跡が見えるような作品にはろくなものがない。苦しんだ形跡が分かる作品は、カッコが悪いわけで、そして完成度が低い。

完成した作品は、「おお、ここでこんなことをやってる、凄いことやってるな」、「何だこのコード進行は? 何だこのモードは?」ってなプロ志向的な聴き方もできるし、反対に音楽に詳しい方でなくとも、さり気なくBGMとして流したり、「まあ綺麗なメロディーね、楽しい!」というような音楽本来の楽しむ為の聴き方もできるんですね。そんな僕が考える音楽の理想的なことがこのアルバムでできたなって気がしますね。

 

Q.作家の手から離れて行った作品がスタンダードになっていくわけですね? そして聴き続けられると同時に、弾き続けられていくと……?

久石:
できたらね、そういうスタンダードになって欲しいという願いを込めて作ったアルバムですね。例えば、前作『Piano Stories』は、日々アルバムがみなさんの手元に送り出されているわけで、そして、その楽譜もみなさんの手元に届いて、僕の曲を復習(さら)っていてくれると、そうするとその曲は定着しますよね。そのことは、作家にとってとても幸せなことですよ。

今回のアルバムの一つ一つの作品を完成するにあたっても、例えば、とんがり過ぎちゃえば1回聴いて(弾いて)、「おもしろかったな」で終わっちゃう。そういうことのないように、何度も聴いて(弾いて)楽しめる、そう意図して作り上げました。そういう意味では、現代のスタンダードを目指したといってもいいかも知れませんね。

 

Q.それでは、最後に来年(1991年)の活動予定や今後、チャレンジして行きたいものを教えてください。

久石:
来年(1991年)は、いろいろと大変ですよ(笑)。その予定の為のパンフレットを作っているくらいですからね。まず、本アルバム『I AM』がリリースされます。そして『I AM』の楽譜集とパーソナル・ブックを出版します。そして、現在まで各方面からの要望が高かったフル・オーケストラとの共演が実現します。来年(1991年)の2月22日、アルバム・リリースと同時に、東京の池袋にある東京芸術劇場で行います。編曲した楽譜を準備するのも大変ですが、とても充実したコンサートになりますよ。それと、全国各地を弦楽カルテットとパーカッション程度の小編成でコンサート・ツアーを予定しています。

プロデューサーとしては、「サウンド・シアター・ライブラリー」という新しいレーベルをスタートさせます。NECアベニューにある、僕の”IXIA Label”の中に「サウンド・シアター・ライブラリー」というシリーズを作りまして、今日の日本の映画音楽が落ち欠けているものを復興させようという新しいレーベルです。プロデューサーとしてももちろん、一作家としても力をそそいでいきたいと思っています。当初は僕の作品をリリースしていきますが、他のアーティストの作品をもプロデュースしていく予定です。

それと”監督”をやるかもしれません。「環境ビデオ」の監督をやってみたいんですよ。来年中には実現させたいですね。

現在まで、わりと「音楽」というフィールドをメインにして活動してきましたが、少しずつそのフィールドを広げていきたいと思っています。自分が今までいろいろと関わってきた仕事を含めて、多種多様な形態で間口を広げ、より多角的に活動を展開しようと計画しています。

(「Piano Solo 久石譲/アイ・アム (I am)」楽譜 インタビュー より)

 

 

楽曲曲想
演奏解釈のための楽曲イメージ Commentary by 久石譲

Deer’s Wind
本楽曲は来年(1991年)のゴールデン・ウィークに東宝系全国一斉公開される映画『仔鹿物語』のメイン・テーマです。少年と仔鹿との「心の交流」をモチーフにした映画で、楽曲のテーマは、自然の中で繰り広げられる少年と仔鹿との「心の交流」を現す「優しさ」と、それを包む「大自然」を歌ったものです。優しさと同時に、大作映画の「おおらかさ」と「大自然」のスケール感を意識して仕上げてみました。

On The Sunny Shore
この曲は、前作『Piano Stories』に収録されている「Lady of Spring」とサウンド的にも、コード的にも同じ系列に入る曲です。曲のコンセプトとしては、隙間があって、その合間を縫うような淡々としたメロディーが奏でられる……。そして、モードを駆使したような響きと、その中に大人の優しさが出てくれば、と思って書き上げてみました。特に、弦楽のアレンジに関していえば”超スペシャル・アレンジ”で、トレモロや様々な要素を多様し、凝縮しています。アレンジの雰囲気は”空気感”。空気に漂っている”浮遊感”をものすごく意識してみました。今後アレンジャーを目指す方は、是非ともこのアレンジを研究してみてください。また、原曲では「ハーモニカ」が特徴的なフレーズを演奏していますので、メロディー・ラインを他の楽器で奏でてみるのもよいでしょう。いろいろな編成で演奏してみてください。

Venus
この楽曲は、8年ぐらい前に実は作った曲で、3~4回レコーディングをしています。どうも自分の中では形態がなかなか定まらなかったのですが、今回のアルバムでは”エスニック的”な要素を玩味した形態で成り立ち、やっと居場所を見つけ、完成しました。左手のオスティナートを続けながら、右手にロマンティックな割りには、とても器楽的なフレーズが続く不思議な曲です。本来の自分らしさの一部である”エスニック志向”がムクムクと出てきた1曲です。

Dream
本楽曲は、心の奥深い所での響きというか、その包みこむような優しさや味わい深さが出せればと思って書き上げました。Intro.やサビで使っている「Em」のメロディーのところを特に”ジャジー”なイメージにして、大人のけだるさというか、そのような感じを出してみたかったところです。原曲の弦楽のアレンジがかなり凝っていて、後半のピアノと弦楽が非常にダイナミックに絡むところは是非聴いて欲しいところですね。

Modern Strings
この曲は今回のアルバムに収録している曲の中で、もっとも”アヴァンギャルド”的な要素を多様した作品です。「単に驚かす為に」……というアヴァンギャルド的なものはカッコ悪いわけで、むしろ楽曲を聴いていくうちに「エッ?」と思う、本当の意味で深い味わいがあるアヴァンギャルドを打ち出した楽曲です。原曲の弦楽アレンジを具体的に言いますと、冒頭から弦楽が頭打してない点が特徴です。全部が裏拍になっていて、よく聴いていないと分からないかもしれませんね。そして、その「裏拍」がいったん分かると、この楽曲の変な魔力にひかれてしまいます。その魔力といい、スピード感といい、とてもたまらない曲になるんじゃないかと……。原曲の後半でピアノと弦楽が絡むところがとてもスリリングな響きになっています。楽曲のイメージやメロディーの雰囲気が「フランス映画」の感じで、その工夫として、レコーディングの時に、ピアノのタッチや音色を「鼻にかかる音色(鼻音的な音質)」に変えてみました。原曲でサックスを吹いているミュージシャンは”Mr.Steve Gregory”で、彼は「ワム!のケアレス・ウィスパー」で、あの印象的なサックスを吹いている方なのです。「泣ける、大人の味わい」をとても気持ちのいいサックスで演奏してくれていますので、じっくりと聴いてみてください。

Tasmania Story
本楽曲は今年(1990年)の夏に東宝系全国一斉公開された映画『タスマニア物語』のメイン・テーマです。サントラ盤では、ピアノとオーケストラでしたが、本ヴァージョンは、ピアノとストリングスをメインにして、スケールの大きなフレーズの中から、そのしっとりした優しさを引き出してみました。レコーディングでのストリングス・セクションは、ロンドンの精鋭達が一同に会して、そのストリングスは、演奏の随所で歌ってくれて、狙い通り以上の演奏が展開できて非常に満足した仕上がりになっています。また、ピアノ自体のアレンジもサントラ盤とは違うヴァージョンです。

伝言
この曲は数年前にオンエアされたTVドラマのメイン・テーマです。当時の僕、というか”Hisaishi Melody”とみなさんに言われていた、典型的なスタイルの楽曲で、伴奏形式やメロディーにそれが現れています。今回のレコーディングでは、ピアノをメインにし、ストリングス・アレンジを最小限におさえて仕上げてみました。また、原曲のハーモニカもじっくりと聴いてみてください。

Echoes
本楽曲は、僕自身は、今回のアルバムのメイン曲だと思っています。オリエント・ミュージック(僕が付けた呼称です)を現した「アジアの夜明け」、「アジアのこだま」というような意味で作り上げた曲で、とても大切にしている曲でもあります。原曲には民族楽器のタブラーと胡弓が入っています。ピアノの特徴としては、ベーゼンドルファーのピアノでしか出せない超低音を出しており、その深い響きの中で、胡弓がメロディーを奏でる箇所はとても印象的で、僕自身とても気に入っています。原曲で胡弓が奏でるメロディーが終わった後に出てくる、ストリングスの不思議なコード進行も味わってみてください。微妙に変化していくコードの響きが特徴です。

Silencio de Parc Güell
ピアノ・ソロ作品として、あたかもシューベルトの「楽興の時」を思わせるような、さりげない優しい小品をイメージして仕上げてみました。曲のタイトルの「パルク・グエル」は、スペインのバルセロナにある”グエル公園”からです。スペインの鬼才、建築家”アントニオ・ガウディ”が作った印象的な公園で、その「静けさ」にとても感動して、曲名を付けました。

White Island
本楽曲は、テレビ朝日開局30周年記念特別番組の、メイン・テーマ曲です。「南極」をテーマにしたスペシャル・ドキュメンタリーで、この特別番組の為に作曲したものなのですが、放映時からとてもみなさんにご好評いただいた曲だったので、今回のアルバムに収録することになりました。メロディーが持っている親しみやすさ、優しさと同時に、スケール感あふれる形態を兼ね備えている楽曲なので、本アルバムの最後を飾るのがふさわしいのではないかと……。じっくりと聴いてみてください。

(楽曲曲想 ~「Piano Solo 久石譲/I AM」楽譜より)

 

 

久石譲 I am 楽譜

Piano Solo
久石譲/I am

from Album 『I AM』
Deer’s Wind (映画「仔鹿物語」より)
On The Sunny Shore
Venus
Dream
Modern Strings
Tasmania Story (映画「タスマニア物語り」より)
伝言 (東芝日曜劇場「伝言」より)
Echoes
Silencio de Parc Güell
White Island (TV「南極大陸1万3000キロ」より)

 

監修:久石譲
協力:株式会社ワンダーシティ/東芝EMI株式会社/株式会社アサヒ・エディグラフィ
編曲・採譜・解説:青山しおり
定価:1,300円+税
発行:株式会社ドレミ楽譜出版社

 

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