インタビュー:過渡期の良さが出た新アルバム

連載 久石譲が挑む「ハウル」の動く音 (読売新聞)
インタビュー:過渡期の良さが出た新アルバム

作曲家でピアニストの久石譲が新アルバム「FREEDOM」を1月26日に出した。昨秋のツアーで共演したカナダの女性弦楽アンサンブル、アンジェル・デュボー&ラ・ピエタを招き、映画「ハウルの動く城」(宮崎駿監督)のテーマ曲や、サントリー緑茶「伊右衛門」のテレビCM曲などの新アレンジを収録している。アルバム制作にかけた思いを聞いた。(依田謙一)

—発売が当初予定されていた10月から延期になりましたが。

「今年は一つずつのプロジェクトに時間をかけて取り組みたいね」と語る久石

久石 簡単に言うと、曲が書けなかったんだよね。政治的でない、個人的な心の自由を追い求めるというテーマは決まっていたんだけど、それをどうやって曲に反映させるかという段階で、行き詰ってしまった。さらに、前作「ETUDE」あたりから引きずっている「このままじゃまずいんじゃないか」という葛藤もあって、思うように曲作りが進まなくなったんだ。

—葛藤?

久石 もっとポップにならなきゃいけないんじゃないか、ということ。このところ以前やっていた現代音楽に戻りつつあったりして、それでいいのか悩んでいた。結論がまとまらないまま見切り発車していたんだ。だから、何曲かは混乱がそのまま出ていると思うよ。

—例えばどの曲ですか。

久石 一番出ているのは「Ikaros」かな。分かりやすいメロディーでありながら、編曲はかなり複雑なものになっている。

—「混乱」をあえて世に出した理由は。

久石 悩みが一回りして、結局それがこのアルバムのテーマだと思ったんだ。何かを捨てるということではなく、まずありのままの自分を受け入れないと、束縛からいつまでたっても解放されないし、自由を手にできないんじゃないかと。だから、今自分が出すべきアルバムとしてはもっとも適切なものになったと思う。

—転機が近づいているのでしょうか。

久石 そうかも知れないね。思い返してみると、10年単位で少しずつ変化しているんだ。20代の現代音楽、ポップを意識した30代、映画監督をやったりした拡大路線の40代、そして50代になって、また変わろうとしている。だから、今は過渡期。でも、それがいいことだと思える。この時期ならではの良さが出たんじゃないかな。

—多くの曲がアンジェル・デュボー&ラ・ピエタとの共演ですが。

久石 テレビでたまたま見かけたのが、彼女たちとの出会いのきっかけだったから、きちんと演奏を聴くまでは、正直不安だったよ。実際、初めて生で耳にした時は、弾いている姿こそ迫力があったものの、そのあまりに「クラシック的」な演奏に、どうしようかと頭を抱える部分もあった。僕が求めていたのは、もっと前衛的で攻撃的な演奏だったからね。でも、アルバム録音前に一緒にツアーを回ったことで、彼女たちは新しいことに挑戦してくれるようになった。最終的には、とても満足して帰って行ったよ。

—彼女たちの演奏以外に、ツアーが先行したことによる影響は。

久石 新潟公演(昨年11月6日)をやったことはとても大きかった。新潟県中越地震があった直後だったから、コンサートをやるのがふさわしいのだろうかという気持ちもあったけど、チケットを買った方から「楽しみにしています」という手紙やメールをたくさんもらったことで、こんな時だからこそやらなきゃ、と思えた。演奏もすごく燃えたし、お客さんもとても熱かった。結局、自分が音楽家としてできることがどういうことかが、とてもよく分かったよ。

—アルバムを象徴する曲を1曲挙げるとすれば。

久石 「Ikaros」も思い入れが強いけど、やっぱり、「ハウル」のテーマ曲「人生のメリーゴーランド」ということになると思う。ワルツという形式を借りたことで、自分の音楽性とじっくり向かい合えた。昨年は他にもたくさん曲を作ったけど、後で思い返した時には、「『人生のメリーゴーランド』を作った年」として思い出すはず。それぐらいの曲になったと思うよ。

(2005年2月1日  読売新聞)

 

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