Posted on 2016/2/28
2013年公開 映画「奇跡のリンゴ」
監督:中村義洋 音楽:久石譲 出演:阿部サダヲ 菅野美穂 他
映画公開にあわせて、映画館等で販売された公式パンフレットより、久石譲インタビューをご紹介します。
コンセプトは、”津軽のラテン人”でした。
-今回の音楽設計はどのようになされたのですか。
久石:
台本を読んだら、単なるハートウォーミング路線の映画ではなくて、しっかり人間が描かれていました。そこで、まず全体をつなぐメインテーマとして「リンゴのテーマ」のようなものと、夫婦愛が出てくるので愛のテーマが必要だろうと。それを一旦書いたんですけど、青森ロケを見学させていただいたときに幸か不幸か、木村さんにお会いしちゃいまして(笑)。あの天真爛漫さを出すには、もうひとつ別のテーマを作らなければいけないと思ったんです。そこから結構、悩みました。結果としてたどり着いたコンセプトが「津軽のラテン人」(笑)。オーケストラのほかにマンドリンとウクレレ、口琴(ジューズハープ)を使って、なんとか木村さんの陽気さを出せないかと工夫しました。どちらかというとイタリア的なラテン感覚ですね。そんな感じの明るさが音楽で出せたらいいなと。
-中村監督とのお仕事はいかがでしたか。
久石:
ノー・ストレスでした。最初に話し合いをさせていただいたときに、音楽の考え方の基本ラインがほぼ同じだったので、監督がどう音楽を扱おうとしているかについて悩むことはありませんでした。中村監督はご自身で脚本を書かれますから、全体の設計が明快なんです。多くの映画の場合、導入部でキャラクターや映画のトーンを語るのに30分くらいかかるものなんですけど、中村監督は十数分でやってしまわれる。そういう歯切れの良さ、語り口の潔さは台本の段階から感じましたね。これは見事だなぁと。ですから、これはいける、という手応えが最初から感じられましたし、音楽的にも入りやすかったですね。
-ご苦労された部分となると、どのあたりでしょうか。
久石:
夫婦愛やリンゴ栽培の難しさを描く部分と、木村さんのキャラクターをどう両立させるか、ですね。ジューズハープって、一歩間違えると漫画チックになってしまうでしょう。あと、山崎努さん演じる父親のラバウルの話をどれだけきっちり書くか、山へ木村さんが自殺を図りに行くくだりの長いシーンをどうするかという配慮は大変でした。何より、エンターテインメントに落とし込まなければいけない作品ですからね。実は観客が一番シビアにご覧になるジャンルです。中途半端なことをやってしまうと一発で見抜かれます。そういう意味では全力、かつ、できるだけ客観的に臨まないといけない作品でした。エンターテインメントは、しっかりした形で作ろうとすると、意外に手間暇がかかりますし、思うほど簡単ではないんです。この映画は、ちょうど昨年の7月からの3~4ヶ月で映画3本を立て続けにやった時期の最後の作品だったんですが、集中していた分、いいものができたのかなとも思っています。少なくとも、あの時点でできることは100%やったという実感は確実にあります。個人的には結婚式のシーンが好きですね。音楽的にもうまくできたと思いますし、とてもいい感じだなと、完成した作品を観て思いました。
(映画「奇跡のリンゴ」劇場用パンフレット より)