Disc. 久石譲 『奇跡のリンゴ オリジナル・サウンドトラック』

2013年6月5日 CD発売 UMCK-1449

 

2013年公開 映画「奇跡のリンゴ」
監督:中村義洋 音楽:久石譲 出演:阿部サダヲ 菅野美穂 他

 

 

コンセプトは、”津軽のラテン人”でした。

-今回の音楽設計はどのようになされたのですか。

久石:
台本を読んだら、単なるハートウォーミング路線の映画ではなくて、しっかり人間が描かれていました。そこで、まず全体をつなぐメインテーマとして「リンゴのテーマ」のようなものと、夫婦愛が出てくるので愛のテーマが必要だろうと。それを一旦書いたんですけど、青森ロケを見学させていただいたときに幸か不幸か、木村さんにお会いしちゃいまして(笑)。あの天真爛漫さを出すには、もうひとつ別のテーマを作らなければいけないと思ったんです。そこから結構、悩みました。結果としてたどり着いたコンセプトが「津軽のラテン人」(笑)。オーケストラのほかにマンドリンとウクレレ、口琴(ジューズハープ)を使って、なんとか木村さんの陽気さを出せないかと工夫しました。どちらかというとイタリア的なラテン感覚ですね。そんな感じの明るさが音楽で出せたらいいなと。

 

-ご苦労された部分となると、どのあたりでしょうか。

久石:
夫婦愛やリンゴ栽培の難しさを描く部分と、木村さんのキャラクターをどう両立させるか、ですね。ジューズハープって、一歩間違えると漫画チックになってしまうでしょう。あと、山崎努さん演じる父親のラバウルの話をどれだけきっちり書くか、山へ木村さんが自殺を図りに行くくだりの長いシーンをどうするかという配慮は大変でした。何より、エンターテインメントに落とし込まなければいけない作品ですからね。実は観客が一番シビアにご覧になるジャンルです。中途半端なことをやってしまうと一発で見抜かれます。そういう意味では全力、かつ、できるだけ客観的に臨まないといけない作品でした。エンターテインメントは、しっかりした形で作ろうとすると、意外に手間暇がかかりますし、思うほど簡単ではないんです。この映画は、ちょうど昨年の7月からの3~4ヶ月で映画3本を立て続けにやった時期の最後の作品だったんですが、集中していた分、いいものができたのかなとも思っています。少なくとも、あの時点でできることは100%やったという実感は確実にあります。個人的には結婚式のシーンが好きですね。音楽的にもうまくできたと思いますし、とてもいい感じだなと、完成した作品を観て思いました。

Blog. 映画『奇跡のリンゴ』(2013) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより 抜粋)

 

 

「それはいちばん重要なところです。映画を2時間で構成するとなると、どこに音楽を入れ、どこに音楽を入れない箇所を作るかが重要になります。今回は、冒頭はエンターティメントでいかなければいけません。中盤は、(主人公の状況が悪い方向に)落ちていく。ただ、落ちたときに悲しげな音楽を入れてしまうと、その音が救いになってしまいます。だから音楽は抜くことにしました。普通なら「ここに音楽が入るな」という箇所もありましたが、あえて「抜きましょう」という話になって。そういう設計的な部分の考え方に関しては、中村義洋監督とも一致しました。だから、とてもやりやすかったですね。」

Blog. 「東洋経済オンライン」 久石譲 Webインタビュー内容 より抜粋)

 

 

「驚いたことに、『どこに音楽を入れるべきか』という意見が僕と監督でほとんど完璧に一致したんです。映画音楽を深く理解している監督で、一緒に仕事をするのは楽しかった。だから僕も一所懸命にやってしまいましたよ(笑)」

「まず第一は、リンゴのテーマですね。人類が何千年にもわたって苦労して栽培してきた、普遍的な果物としてのリンゴのテーマ音楽。それからもうひとつはこの映画の主題である愛のテーマ。木村さんと奥さんの夫婦の愛、それを包みこむ愛のテーマが必要です。本来ならこのふたつで行きたかったんですが、映画の撮影現場を訪ねた時に、映画のモデルになった木村秋則さんというとんでもなく個性的な方に会ってしまったんです。それですぐに気づいた。この人にリンゴのテーマだけでは太刀打ちできないなと」

「たどりついたのは『津軽のラテン人』というコンセプトでした。マンドリンとウクレレと口琴というあり得ない編成で、木村さんの天真爛漫で明るい雰囲気を出せないかと考えたんです。それでちょっと奇妙でコミカルなテーマ音楽が生まれた。ただ、雰囲気で決めたわけではない。この映画にはどういう音楽が必要なのかを考え抜き、詰め将棋のように緻密に、必要な音楽を作って組み立てる作業のなかで、あのテーマもできあがっている。映画音楽は大変ですから、1本作り上げようとすると、魂を入れるような作業が必要なんです。だから、あまり本数をやるべきじゃないと思っているんですけど(笑)」

Blog. 「GOETHE ゲーテ 2013年7月号」久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

全編において特徴的なのが、その軽快なタッチ。主要な2つのテーマを作曲しながらも、主人公になっている実在の方にお会いしてから、その陽気なキャラクターを表現するために別のテーマ曲も作曲。

コンセプトは「津軽のラテン人」という能天気な明るいイメージから、マンドリン、ウクレレ、口琴などの楽器をオーケストラと合わせる構成になっている。本来ならば「日本 津軽」という舞台にも関わらず、その音楽世界が「異国 南国 ラテン」の香りがするのはそのためだろう。そのギャップが結果として見事に功を奏していると思う。

ちなみに口琴という楽器にだけ触れる。口琴は、原始的な楽器で古くから世界各地に分布。日本では古くから北海道や津軽などでアイヌ民族が好んで用いていた。そのビヨ~ンという独特の音色は、飛び跳ねる動き等を表現する効果音としてもよく使われる。アニメ『ど根性ガエル』の主題歌といえば、一番想像しやすい。

というわけで、マンドリンやウクレレといった「ラテン」を意識しながらもそこに口琴を組み合わせることによって「ラテン+津軽」を、そして「陽気さ 明るい」空気感を演出している妙。いつもの久石メロディーが、よりパッと明るくなっている作品である。

メインテーマ、そしてそれをモチーフとした(1) (6) (9) (13) (21) (23) (25)はまさに自然の音楽。壮大というよりは、空気も水も透きとおるような音楽。日本だけでなくヨーロッパの田園、畑、山脈なども連想できる、心地のよい曲。

モチーフによって、フルート、ホルン、ストリングスなどの楽器が旋律を奏でることからも、そういった連想や世界が広がるのかもしれない。

主人公のテーマ、そしてそれをモチーフとした(2) (4) (10) (12) (14) (27)などは、冒頭に書いた「津軽のラテン人」をコンセプトに、その楽器たちをうまく組み合わせた軽快な曲。マンドリン、ウクレレ、口琴、オーケストラが、モチーフごとにその旋律を軽やかに彩っている。いろんなCMにも使用できそうな、短いメロディーながらもインパクト十分な、陽気な明るい曲。

ラブテーマ、そしてそれをモチーフとした(5) (20) (22)は、ピアノをメインにしたシンプルな旋律。少しメインテーマを垣間みるような音階が特徴的。

そして、最後の(28)にて、ラブテーマ~主人公のテーマ~メインテーマと上の3つのテーマを1曲として繋いで聴くことができる。映画のエンドクレジットに華を添えている、そして余韻が香る。

 

 

 

久石譲 『奇跡のリンゴ オリジナル・サウンドトラック』

1.奇跡のリンゴ
2.運命の始まり
3.母親の言葉
4.東京の空
5.祝言の夜
6.津軽の風物詩
7.安全の代償
8.幸福の訪れ
9.答えへの入口
10.挑戦の始まり
11.試練の訪れ
12.挑戦の決意
13.ラバウルの記憶
14.挑戦の日々
15.悪夢
16.三等分の想い
17.約束の光
18.現実の地獄
19.雛子倒れる
20.薄暮の背中
21.暗闇の出口
22.人間の証
23.挑戦の再開
24.困窮の果て
25.ありがとうの言葉
26.小さな希望
27.挑戦の続き
28.リンゴの軌跡

All Music Compose, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Piano by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi
Performed by Tokyo New City Orchestra
Madolin:Tadashi Aoyama
Guitar & Ukulele:Mikihiko Matsumiya
Jew’s Harp:Ikuo Kakehashi

Recorded at Victor Studio
Mixed at Bunkamura Studio

 

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