Blog. 「モーストリー・クラシック 2009年10月号」 久石譲 インタビュー内容

Posted on 2016/1/19

クラシック音楽誌「MOSTLY CLASSICS モーストリー・クラシック 2009年10月号 Vol.149」です。久石譲音楽活動においては、ソロアルバム「ミニマリズム」(2009)を発表した時期になります。「ミニマリズム」を作り終えた直後の作品に対する具体的な話を、当時のクラシック音楽指揮活動もふまえながら語られています。

 

 

STAGE Chapter 02

宮崎駿のアニメ映画作品や北野武の作品、今年話題になった「おくりびと」などの映画音楽を手がけ国際的にも高い評価を得ている。近年は、新日本フィルや関西フィルなどのオーケストラを指揮して、自作の映画音楽とクラシック音楽の指揮も行っている。その実り多い体験を経て、自らの原点であるミニマルミュージックの作曲に再び着手し、CD「ミニマリズム」を発表した。ベートーヴェンなどの古典音楽とミニマルミュージックの共通点を見いだし、新しい音楽の世界を切り開いた。

-2005年の本誌のインタビューで「オーケストラのシンフォニーのような少し大きな作品を体力のあるうちに作りたい」といわれました。

久石:
音楽大学の作曲科に在籍していたころから始まって、卒業後の20歳代は、現代音楽の作品を書いていました。それから、映画やCMなどのエンターテインメントの世界で作曲活動をしてきました。

しかし、最近、また自分自身のための作品を書きたいという気持ちが強くなってきたのです。そこで、大学時代に感化されて、自分の作風としていた、つまり原点にあるミニマルミュージック(最小限の音型を繰り返す音楽、以下ミニマルと表記)をもう一度しっかりやってみたいというのと、自分の中でクラシック音楽がどういったものなのかということを確認しようと思ったんです。

 

-今年1月の新日本フィルとの演奏会で指揮されたチャイコフスキーの交響曲第5番は、特に終楽章の構成が見事で感銘を受けました。

久石:
僕たちが大学に入って作曲をしていた時は、いまも核の部分は変わっていないのかもしれないけど、古典芸能のようなクラシックを「古い音楽」と否定して現代音楽を作りました。その頃は、ベートーヴェンやマーラーを調べてる余裕があるのなら、シュトックハウゼンやクセナキスを勉強して、クラシック音楽の勉強に割く時間も少なく、「こんなもんだ」とわかったような気でいました。

自分が指揮する立場になると、なんでこの音をこういった形で書き、展開させて行ったのかということを考えなければならない。そうしているうちに否定していたはずのクラシック音楽の凄さに気付かされたんです。そういったことは、本来は大学時代にやるべきだったのでしょうが、作曲科にいて新しい曲を求めていたことによって、抜け落ちていたことに気がつき「もう一回、クラシック音楽をちゃんとやろう」という気持ちが強くなってきました。

 

-CDに収録されている作品は、我々が知っているミニマルミュージックとは、かなり違っています。

久石:
それは、作曲の姿勢を、エンターテインメントの要素を取り入れて作曲していた自分の立脚点を、クラシックの方に置きかえてミニマルを作ろうと考えたからです。なぜミニマルかというと、我々が作曲を学んでいた当時は、不協和音をぶつけたり、図形のような譜面を書くなどといった作曲法が全盛で、響きを重視していた一方で、リズムには無関心でした。ポップスが、体に響くリズムを使って、存在感を増していったのに反して、それがない現代音楽は衰退していった。しかし、ミニマルは現代音楽でありながら、リズムと調性が残っていた。そこに共感し、また可能性を見いだし、それ以来、ミニマルの作曲を中心に行っていました。

 

-今回発表された曲は、初期のミニマルとは、核は同じですが音楽がより豊かになっています。ミニマルについての考え方が変わったのでしょうか。

久石:
指揮をやりはじめて、クラシックの曲の構造などをもう一度勉強し直してみると、ベートーヴェンは交響曲第5番で、有名な出だしの4つの音を、至るところにいろんな形で繰り返して使って、大きな構造物を作り上げている。ブラームスにもそういうところがあります。手法は違うのですが、ミニマルに相通ずるところがあるんです。

そこから発想したのが、「シンフォニア」という曲です。交響曲のもとになる言葉なんですが、元来イタリアでは、3部形式からなるディヴェルティメントのようなもっと気楽な管弦楽曲だったんです。室内オーケストラで出来る、古典音楽を素材にしたミニマルを作りました。

 

-クラシック音楽を聴いた人間ですと、第九の断片を聴き取ることは可能です。単なる引用ではなく、展開の仕方も面白く、一筋縄ではいかない曲になっていますね。

久石:
第2楽章では、コード進行と古典的なフーガが続いて現れ、第3楽章では、ティンパニやホルンなどが加わって、和声も4度、5度の進行をベースに作っているので、ベートーヴェンの第九の断片のような音が出てくる部分もあります。

 

-そういった古典音楽の手法が使われていながら、ミニマルの規則的に移り変わって行く音楽の特徴はそのままなので、演奏は至難では。

久石:
それもあって、名手ぞろいのロンドン交響楽団とアビーロード・スタジオで録音しました。アビーロード・スタジオのチーフエンジニアやコンサートマスターのカルミネ・ラウリが参加、最初は映画音楽の録音と思っていたようですが、事務局に曲のことを説明し、譜面も送っていたので、ロンドン響もクラシック音楽を演奏するときの陣容で録音に臨んでくれました。

曲のリハーサルをやっているうちに、ミニマル特有の音型を繰り返す音楽なので、縦の線を合わせるために、クリック(規則正しく繰り返される電子音)をつけてずれないように演奏し、録音もうまく行きました。

彼らはジョン・アダムズなどのミニマルの作曲家の作品も手がけていることもあって、とてもふくよかで豊かな演奏になっています。それに、録音後のマスタリングでも、ポピュラーや映画音楽などはCDのプレイボタンを押すとすぐ音楽が始まるように設定しているんですが、別にこちらからオーダーしたわけではないのですが、クラシック音楽のように、音が出るまで時間をあけてくれたんです。作品を聴いて、彼らがそう感じてくれたのは嬉しかったですね。

(「モーストリー・クラシック 2009.10 Vol.149」より)

 

モーストリー・クラシック 2009.10

 

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