Posted on 2020/01/20
映画『千と千尋の神隠し』公開にあわせて出版された特集本です。映画の見どころ解説から、宮崎駿監督・鈴木敏夫プロデューサーのインタビューはもちろん、声を担当したキャストインタビューも収められています。またスタッフインタビューでは、音楽を担当した久石譲はじめ、作画・美術・音響スタッフなどのインタビューもたっぷり収録されています。
「毎回、挑戦の連続です」
音楽 久石譲
『風の谷のナウシカ』以来、宮崎作品の音楽を一貫して担当。北野武監督らの映画にも音楽監督として参加する。
ートラックダウン作業中だそうですが、今、作業されていたのは、どんな場面ですか?
久石:
映画の冒頭に近い、人気のない街を千尋がさまようシーンで流れる曲です。
ーずっと同じフレーズが流れているようんですが。どういう作業なんでしょう。
久石:
その一つ一つが微妙に違うんですが、わかりますか?
ー実はあまりよくわからなかったんですが(笑)。
久石:
木管楽器の音をほんのわずかだけ出し入れしていたんです。今回はコンサート用のホールで、管楽器も弦楽器もそれぞれにマイクを立てて、同時に演奏して収録したんですが、管楽器のマイクにも弦楽器の音がわずかに漏れて入っている。そのために、例えば木管楽器の音を大きくすると、別の楽器の音も若干大きくなってしまう。だから、微妙な調整でベストのバランスを探していたんです。
ー全部の楽器を別々に録音しておけば、そうならないわけですね。
久石:
でもそうすると、ホールの音の響きの良さが失われてしまう。今回は響きの良さを選択したわけです。なんとなく聞いているだけでは、気が付かないことですが、こうしたことの積み重ねが、最終的な音楽の仕上がりを決定するんです。
ー宮崎監督とのコンビはこれで7作目。
久石:
毎回、挑戦の連続です。今回は、ガムランやエスニックな打楽器など、とてもオーケストラといっしょに奏でるようには思えない楽器を大胆に使っています。それに6.1チャンネルのドルビーサラウンドという、従来の5.1チャンネルよりもさらに進歩した、アニメ映画では初めての試みにも挑戦しているんです。
ー昨年、音楽映画『Quartet/カルテット』で、監督を経験されましたね。
久石:
実は何年も前から映画制作のオファーはあったんですが、中途半端なものを作ることはできないと思い、ずっと躊躇していたんです。でも、音楽だけでは表現しきれないものを自分の中に抱えていた。それが’98年に長野パラリンピック開会式を演出したことなどで、演出という仕事に手ごたえを感じるようになり、監督をやることになりました。
ー監督という仕事を経験したことは、その後の映画音楽作りに影響しましたか?
久石:
何よりも、監督という立場の気持ちがすごくよくわかるようになった。『千と千尋』でも、このシーンからこのシーンまで音楽が入るという指示があるとしますね。これまではその中で、いかに映像と音楽がカッコよく結びついているかという見方だった。それがこのカメラアングルが意味するものは、とは、なぜ人物がこの方向から入ってくるのかといった意図が、とても良くわかるようになったんです。そうなると、このシーンでは監督の意図を妨げないように、曲想を押さえ気味にしようとか、ここはさらに盛り上げようとか、そういう、より繊細な映画のための曲作りができる。監督を経験したことは、音楽家としてとてもプラスになったと思います。
ー『千と千尋』の作業の後は何を?
久石:
福島で7月20日から開催される「うつくしま未来博」で、大スクリーンを使って上映される、日本初フルデジタル撮影の実写映画『4 MOVEMENT』の公開準備に入ります。
(千と千尋の神隠し 徹底攻略ガイド 千尋と不思議の町 より)
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