Blog. 久石譲 「千と千尋の神隠し」 インタビュー 劇場用パンフレットより

Posted on 2015/11/19

2001年公開 スタジオジブリ作品 映画『千と千尋の神隠し』
監督:宮崎駿 音楽:久石譲

映画公開に合わせて劇場で販売されたパンフレットより、久石譲の音楽制作インタビューです。

 

 

音楽・久石譲

千尋の心情が引き立つように全体を構成

根底にあるのは素朴で懐かしい感じ

-今回の音楽はガムランであったり、沖縄民謡的なものであったり、エスニック的なものなどさまざまなものが使われている中で、メインはフルオーケストラでしっかり押さえているという印象がありますが、映画音楽全体の構成はどのように考えられていたんですか?

久石:
「実はこの作品のテーマを表現するためにオーケストラが必要かどうかっていうのは、よくわからないんですよ。主人公の心情だけを追っていくことを考えたらピアノ一本でも充分なわけだから。だけどあの世界観を表現するにはやはりフルオーケストラぐらいの広がりがないとダメだと思ったんです。それで宮崎さんもすごくその場の空気感を大事にされる方だから、今回はスタジオで収録するのではなくて、コンサートホールでライブで録ったんです。それはすごく成功していると思う。それでエスニックやガムラン、バリ島の音楽、沖縄民謡、中近東やアフリカのものまでいろんなものを使っているんだけど、それらは料理でいう飾りつけみたいなもので、実はそこにはあまり意味がないんです。意味があるとすれば、それは作品自体が限定した空間のリアリティを求めているものじゃないですから、いろんなものを使うことによって閉じた感じをなくしてどんどん広がりを出す。そのための手段として使った。それだけです。

僕がこの作品の音楽をつける時に一番考えたことは、最後まで等身大の十歳の女の子を表現するにはどうしたらいいかということだけでしたから。例えばピアノと弦楽器だけの曲であるとか、単音のピアノでメロディを弾いている曲の持つ静けさを大事にしたつもりです。そしてその千尋のテーマ曲ともいえる曲が静かな分だけ、他の楽曲をやかましくして、千尋の心情が引き立つように全体を構成していったんです」

 

-その辺りについてもう少し伺えますか?

久石:
「映画の後半に千尋が海の上を走る電車に乗って銭婆のところへ向かうシーンがあるんですけど、僕はあのシーンが宮崎さんが今回一番やりたいところだったと思っているんです。それでイメージアルバムの中にある『海』という曲が、そのシーンにすごく合うんですよ。宮崎さんもイメージアルバムを作った時にその曲を真っ先に気に入ってくれたんですけどね。だからそれが千尋のテーマ曲の根底なんです。非常に素朴で懐かしい感じ。ひとりぼっちなのに前向きに生きるひたむきさ。そしてその中にある優しさ。つまりこの映画は誰の中にもあるそういうものを表現した作品なんですよ。それでこれは宮崎さん特有のものだけど、最後に主人公を救っていない。突き放しているんです。つまり宮崎さんは子ども向けの映画の体裁をとっているんだけど、大人も含めたいろんな人に向けて自分のメッセージを発しているんですよ。その根底にあるのが、イメージアルバムの中にある『海』という曲であり、その曲が使われるシーンだと思います」

 

宮崎さんの私的な心情が色濃く出ている作品

-今回の音楽には、湯婆婆やカオナシといったキャラクターのテーマ曲も作られている感じがありますが。

久石:
「僕は登場人物それぞれに音楽をつけるのはあまり好きではないんですけどね。今回は音楽のスタンスをどこにとるかを考えた時に、最初から最後まで千尋に降りかかる災難と彼女の心の動きだけを追っていくにはあまりにエキセントリックにいろんなことが起きすぎていましたからね。彼女の周りで起こる状況にも音楽をつけざるを得なかったんです。そうすると当然、千尋の周りに出てくる個性的なキャラクターの音楽も必要になったわけです。

でもその中で、湯婆婆だけは最後までキャラクターがつかみきれなかったですね。宮崎さんの作品っていうのは複雑で、善人が悪を抱えていたり、クールなキャラクターなのにその裏には優しさがあったり、必ず二律背反している。しかもその両方を宮崎さんは求めますから。そういう意味で湯婆婆のテーマ曲は最後まで手こずりましたね。オーケストラのスコアを書いてる途中で、もう一回ベーシックから全部作り直しましたから。それで結局どういうものにしたのかというと、ピアノの一番高い音と低い音が同時になるような、通常の楽器を使っているのに通常の音がしないような、そんな感じを湯婆婆のキャラクターサウンドにしたんです。個人的には気に入っています」

 

カオナシについてはいかがですか?

久石:
「カオナシは影の主人公ですよね。短く頻繁に登場する。彼の動きをずっと見ていくと、ある意味そのキャラクターは主人公より明解なんですよ。だから逆にカオナシのテーマ曲はかなり真剣に作りました。でもそれがどういうものかというのは、言葉で説明してもしようがないので、映画を見て下さいとしか言えません」

 

-音楽作業をほぼ終えられた今、久石さんのこの作品に対する印象は?

久石:
「根底にあるものはこれまでの作品と一緒だと思うんですけど、宮崎さんの私的な心情が色濃く出ている作品だなって感じます。”豚”が登場していますが、その作品と作家としての宮崎監督の距離が近づいている印象がありますよね。そういう意味ではこの映画には宮崎さん自身が経験したことや体験したことがかなり入っているんじゃないかと思います。だからこそこの映画は宮崎さんの作品の中でも今までにない大傑作になった。そう感じています」

2001年6月6日/スタジオ ワンダーステーションにて

(映画「千と千尋の神隠し」劇場用パンフレット より)

 

 

なお、「ジブリの教科書 12 千と千尋の神隠し」(2016刊)にも再収録されています。

 

 

そのなかには下記のようなエピソードも収録されています。

 

Part 1映画『千と千尋の神隠し』誕生
スタジオジブリ物語 空前のヒット作『千と千尋の神隠し』 項より

主題歌には宮崎作詞、久石譲作曲で『あの日の川へ』という曲が予定されていた。しかし宮崎の作詞作業が難航。二週間かかっても作詞をすることができなかった。そんな折、『いつも何度でも』を思い出した宮崎は、これ以上のものは自分にはできないと、この歌を主題歌にすることを提案し、そのように決まった。

(「ジブリの教科書 12 千と千尋の神隠し」より 一部抜粋)

 

 

千と千尋の神隠し パンフレット

 

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