Blog. 映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説(8)~追憶・陽動 ほか~

Posted on 2024/08/18

つづけて、アルバムを聴いてみましょう。

 

Track.
4. 追憶
9.静寂

および

Track.
24. 陽動

28. 巣穴
31. 隠密
32. 大王の行進

前島:

「実はこれら6つの楽曲に、本作の謎めいた象徴表現を読み解く重要な鍵が隠されていると、筆者は考えている。便宜的にa.とb.のふたつのグループに分けて分析していくと、まずa.の《追憶》と《静寂》は、いずれも眞人が自室のベッドで横たわっているシーンで流れてくる楽曲。2曲とも、同音反復を特徴とするミニマルなモティーフと静かな和音が交互に登場する形で始まる。物語の状況に沿って聴くならば、ミニマルなモティーフは外から眞人の様子を伺っている青サギの気配を、静かな和音は眞人の孤独な心情を代弁していると言えるかもしれない。そして、ミニマルなモティーフと和音が繰り返された後、ピアノがリズミカルなモティーフを新たに導入する。そのモティーフが何を意味するのか、《追憶》と《静寂》が流れてくる時点ではわからない。しかし物語が後半部に入ると、このリズミカルなモティーフはb.のグループ《陽動》《巣穴》《隠密》《大王の行進》の4曲において、全く予想外の形で再登場する。b.の4曲は、「下の世界」にあふれかえったインコのテーマとして書かれているが、その楽想は弦楽器がピツィカートで演奏するユーモラスなモティーフ──ここでは仮にインコのモティーフと呼んでおく──を中心にして構成されている。そのピツィカートのモティーフ、すなわちインコのモティーフこそ、実はa.の2曲に出てきたリズミカルなモティーフにほかならない。なぜ、インコのモティーフが、物語前半部の眞人のシーンの音楽にも登場するのか? 作曲者の久石がインコのモティーフをa.の楽曲の中に意識的に仕込んだことは間違いないが、その真の理由は、作曲者以外に誰もわからないし、おそらく本人もそれを明かすことはないだろう。答えは観客ひとりひとりの解釈に委ねられている。」

 

 

前島氏が指摘したこの箇所は、当時久石譲ファンのブログでも解釈や考察がなされていました。他にも気づいていた人はいたのかもしれません。その時自分は同じ旋律が隠れていることに気づけていなかったので、はっと驚いたことを覚えています。

「SWITCH VOL.41 NO.9 ジブリをめぐる冒険」(2023.8)の中で、鈴木敏夫プロデューサーはこんな発言をしています。【宮さんは「インコ大王は自分だ」と言う。そして「なりたかったもうひとりの自分が眞人だ」と言っていました】。真実は神のみぞ知るですが、そういう視点で映画をまた観ると面白いです。大伯父との会話や並んで歩く姿、積み木を崩し終焉へと導いたインコ大王。さておき、前島氏が言うように久石譲が意識的に仕込んだことは間違いないと思います。たまたまの可能性は極めて低い、久石譲の音楽設計において、宮﨑駿作品はなおさらのこと。

 

「追憶」ではピアノで「静寂」ではハープで、どちらも曲の約1分過ぎあたりから聴けるモチーフです。

 

 

「陽動」のイントロから、こんぺいとうのようにパステルにカラフルなインコたち、音色も色彩感いっぱいに魔法をかけられています。鳥の鳴き声や群集を思わせるウッドパーカッションも効果的です。曲ごとに同じモチーフを使いながら、高い音から低い音まで鳥の大きさの変化に合わせてバリエーション豊かに並んでいます。

『紅の豚』(1992)の「セリビア行進曲」、『ハウルの動く城』(2004)の「陽気な軽騎兵」、『風立ちぬ』(2013)の「カプローニ(設計家の夢),(幻の巨大機)」や「ユンカース」など、久石譲の行進曲はパレード的な賑やかな描写にとどまらない、そこに国が築かれていることやそこが活気に満ち繫栄しているであろう世界観までも立ち上げてくれます。

 

Scene 01:44:30 / There is no music in this cut.

 

 

次回は、つづけてアルバムを聴いてみましょう。

 

 

映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説

(1)イントロダクション
(2)方法論
(3)方法論 継
(4)Ask me why
(5)白壁・聖域・祈りのうた
(6)青サギ・黄昏の羽根 ほか
(7)ワラワラ・炎の少女 ほか
(8)追憶・陽動 ほか
(9)眞人とヒミ・大伯父 ほか
(10)ネクストアップ

 

 

引用元:

  • 久石譲「宮﨑さんが行こうと思っているんだったら僕もそこに行く。こんなの見たことないよねということを、一緒にやると決めたんです」スタジオジブリ『熱風2023年10月号』
  • 久石譲「宮﨑さんのすべてがつまった映画」東宝『君たちはどう生きるか ガイドブック』
  • 前島秀国 ライナーノーツ 徳間ジャパン『君たちはどう生きるか サウンドトラック』アナログ盤
  • スタジオジブリ作品静止画『君たちはどう生きるか』場面写真 STUDIO GHIBLI

そのほかの引用については個々に注釈をつけています

 

 

映画『君たちはどう生きるか』
The Boy and the Heron

原作・脚本・監督:宮﨑駿
プロデューサー:鈴木敏夫
制作:スタジオジブリ ⋅ 星野康二 ⋅ 宮崎吾朗 ⋅ 中島清文
音楽:久石譲
主題歌:米津玄師

上映時間:約124分
配給:東宝
公開日:2023.7.14(金)

 

(関連リンクはこちらにまとめています)

 

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