Posted on 2014/2/27
先日、文春ジブリ文庫 「ジブリの教科書 5 魔女の宅急便」について、読書感想としてその内容を書きました。
こちら ⇒ Blog. 文春ジブリ文庫 「ジブリの教科書 5 魔女の宅急便」 読書
とても読み応えのある内容で、おそらく誰が読んでも、目からウロコ、新しい発見がある、そんな充実した本です。そして、あまりにもたくさん書いてしまって、肝心の音楽:久石譲のことを触れることができなかったので、あらためて。
映画『魔女の宅急便』が1989年公開ですから、今から約25年前です。
この作品は音楽:久石譲に加えて、注目すべきなのは音楽演出:高畑勲です。宮崎駿監督との間で、この3者による音楽制作が進められていたということです。なので、当時のインタビューも久石譲と高畑勲監督の、それぞれのインタビューが収録されています。
それがすごく興味深かったです。つい昨年2013年に、映画『かぐや姫の物語』で高畑勲×久石譲の初タッグが実現し、それにともなうインタビューや対談はたくさん紹介してきました。
こちら ⇒ Blog. 久石譲 「かぐや姫の物語」 インタビュー 熱風より
※ページ下部に『かぐや姫の物語』関連インタビュー リンクもほぼすべて紹介しています
映画『かぐや姫の物語』の物語に関しては、まだ記憶に新しいのもあり、この「ジブリの教科書 5 魔女の宅急便」を読み進んでいくと、久石譲も高畑勲監督も、お互い言っていることがシンクロするほどだったんです。
1989年の『魔女の宅急便』と2013年の『かぐや姫の物語』約25年の時間の隔たりがあるなか、両者とも映画音楽に求めるものや、その位置づけ、大切にしていることなど、その根幹となるものに対して同じことを言っているんですね。
これにはびっくりしました。
具体的には、高畑勲監督は、映画『かぐや姫の物語』の音楽に対して、こういう要求をしています。
- 一切登場人物の気持ちを表現しないでほしい
- 状況に付けないでほしい
- 観客の気持ちを煽らないでほしい
つまりは「一切感情に訴えかけてはいけない」、引きの音楽、観る人に委ねる音楽、これを久石譲の音楽に求め、見事にその音楽世界は表現されることになりました。
これを念頭に、本書「ジブリの教科書 5 魔女の宅急便」のインタビューを紐解いてみます。一部抜粋して紹介します。
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-今回はヨーロッパが舞台ということで音楽的にもそのへんを意識されたと思うのですが。
久石 「そうですね、架空の国ではあるけれどもヨーロッパ的な雰囲気ということで、いわゆるヨーロッパのエスニック、それも舞曲ふうのものを多用しようということは考えました。」
(中略)
-たしかに、映画を拝見しますと音楽のつけ方がはっきりしていて、今回でいえばキキがつぎの場所へ移動する時の、つなぎの部分に音楽が使われているような印象がありました。
久石 「たとえば悲しいシーンに悲しい曲をつけるとか、アクションシーンに派手な曲をつけるとか、そういうやり方はいっさいしないという前提でやりましたからね。ある意味でそれはすごく徹底していると思います。むしろ感情に訴えかけるよりも、見ている人を心地よくさせるような音楽のつけ方というんですか、そういう点を心がけたということはありますね。わざとらしくない、自然な音楽といいますか…。」
-久石さんが宮崎作品の音楽を創る時にいちばん、心がけることは何ですか。
久石 「まず大きな声で歌えること。変にこまっしゃくれたものではなく、徹底して童心にかえってストレートに作るということですね。そしてヒューマン、人間愛にあふれていること。これに尽きると思います。」
(中略)
-今回の音楽の特徴は、どういうところですか。
高畑 「この作品はいわゆるファンタジーではありません。『トトロ』もそうでしたが、大きな意味ではファンタジーに属するものでしょうが、もっと現実に近い物語であると宮さんは考えてつくった。たとえばキキは空を飛びますけど、それはカッコよく飛ぶのとはちがうし、ふつうの女の子の日常的な描写や気持ちが中心になっているんですね。ですから音楽が担当する部分も、世界の異質さとか戦闘の激しさとかを担当するわけではない。むしろふつうの劇映画のような考え方をして、しかもヨーロッパ的ふんいきをもった舞台にふさわしいローカルカラーをうち出そうということだったんです。それと、つらいところ悲しいところに音楽はつけない、とか、歌とは別にメインテーマの曲を設定して、あのワルツですが、あれをキキの気持ちがしだいにひろがっていくところにくりかえし使うとかが、音楽の扱いの上での特徴というえば特徴ではないでしょうか。はじめ、ホウキで空を飛ぶ、というのはスピード感もないし、変な効果音をつけるわけにはいかないので心配だったのですが、久石さんの音楽もユーミンの歌も、いまいったねらいにピッタリだったし、上機嫌な気分が出ていたのでホッとしているところです。」
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いかがでしょうか。
約25年の時空を超えて、考え方や発言がシンクロしていることが、わかってもたえたのではないでしょうか。
それだけスタジオジブリ作品、鈴木敏夫プロデューサーをはじめ、宮崎駿監督、高畑勲監督、それぞれが劇中音楽をいかに大切にしているか、独自の価値観と要求によって、それを見事に久石譲が音楽に昇華しているか、ということがあらためてわかった当時のインタビュー内容でした。
本当に読み応え満点で、思わず映画『魔女の宅急便』がまた観たくなります。実際、この読書をしながら、文章を書きながら、『魔女の宅急便』の音楽を聴いています。
当サイトでは、もちろん『魔女の宅急便』関連CD作品もそれぞれ詳細紹介しています。
- イメージアルバムとサウンドトラックの違いって?
- 同じメロディーの曲なのに曲名がちがう?
- ヴォーカル・アルバムやハイテックシリーズって?
そのあたりも下記CD作品詳細をのぞいてもらえれば、わかると思います。
ほかにも、『魔女の宅急便』の音楽たちは、久石譲作品のいろいろなCDアルバムに収録されています。「メロディフォニー」では、美しいフルオーケストラ組曲として。「空想美術館」では、華麗な弦の響きにて。そのあたりは、いつの日か、特集ページでしっかり掘り下げて紹介したいと思います。
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