Blog. 久石譲 「かぐや姫の物語」 インタビュー キネマ旬報より

Posted on 2014/12/7

2013年公開 映画『かぐや姫の物語』
監督:高畑勲 音楽:久石譲

「キネマ旬報 2013年12月上旬号 No.1651」の巻頭特集は 偉才 高畑勲の到達点 「かぐや姫の物語」 高畑勲監督をはじめこの映画に関わったスタッフたちが、いろいろな角度から映画「かぐや姫の物語」の制作秘話を語っています。

そのなかに、「スタッフの証言(3) 久石譲(音楽) 映画音楽でしか味わえない醍醐味」という久石譲のインタビュー記事が見開き2ページでぎっしり掲載されています。とても興味深い内容です。一言で感想を言うのは難しいですが、久石譲の今が凝縮されているインタビューでした。

 

 

これこそ映画音楽でしか味わえない醍醐味

高畑監督から出された作曲条件

久石譲が「監督:高畑勲」と顔を合わせた。映画『かぐや姫の物語』において、まずこの事実自体が事件だったと言っていい。

久石:
「去年の暮れ、鈴木(敏夫)さんからお話をいただいたときはちょっと驚きましたね。宮崎(駿)さんの作品を担当しているうちはご一緒できると思っていませんでしたから。」

そう、かつて宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』に久石譲を音楽担当に推し、音楽打ち合わせもこなした「プロデューサー・高畑勲」は、久石音楽への評価を高く謳えども、自身の監督作品に作曲者を招くことはなかった。それが急転直下、今回のような形になった背景には、製作の遅れによる宮崎作品『風立ちぬ』との同時劇場公開がなくなったことが一つ。もう一つには、久石が3年前に手がけた『悪人』の仕事を高畑が気に入っていたことが大きかった。

久石:
「ずっと “『悪人』のような距離の取り方で” とおっしゃっていましたね。具体的には “一切、登場人物の気持ちを表現しないでほしい” “状況に付けないでほしい” “観客の気持ちを煽らないでほしい” という3点。つまり “一切、感情に訴えかけてはいけない” というのが高畑さんとの最初の約束でした。『悪人』も登場人物の感情を表現していないでしょう。それと同様に、キャラクターの内面ではなく、そこから引いたところで音楽を付けようということだったんです。」

凡庸の作曲家なら逃げ出したくなるような恐ろしい条件である。しかも、今回は事前にエンディング用の主題歌が決まっており、さらに劇中には作品の鍵ともなる『わらべ唄』まで用意されていた。久石としても「通常ならお断りする仕事」と語る。

久石:
「でも、僕は高畑さんをとても尊敬していたし、高畑さんとご一緒できるならぜひやりたいと。わらべ唄も高畑さん自身が書かれた曲でしたし、その在り方も明瞭な構造を持っていましたから、それなら徹底的にやってみようという気になったんです。」

音楽設計においては「わらべ唄との整合性をとるため、五音音階をベースにしたアプローチをとる」ことから始めたという。

久石:
「ただ、一歩間違えると、五音音階というのは陳腐になりやすい。高畑さんも日本情緒的なものにこだわっていたわけではないので、五音音階を扱いながら、それでいて日本的なものとの差異をどう出していくかに気を遣いました。また、打ち合わせでは曲数が53曲もありましたから、音楽が主張し過ぎず、鳴っていることを意識させない書き方もしなければなりませんでしたね。メロディーもワンフレーズを聴いただけでわかるような、それこそ和音とか一切なくても通用するようなものを作る必要がありました。映像的にも無駄がないですし、効果音も多くない。ですので、全体的には引き算的な発想で作っています。」

例えば、翁が光る竹を発見する際の楽曲などは、音楽と効果音の合体版のような仕掛けが施されている。作曲者はそれに「月の不思議コード」なるニックネームをつけているが、多くの観客が思わず耳をそばだてるのは、天人が姫を迎えに来る際の〈享楽楽曲〉だろう。

久石:
「高畑さんいわく “悩みのない人たちの音楽です。月の世界では皆、幸せに生きているのだから、幸せな音楽でなければいけない” と。最初 “サンバみたいなものを考えているんです” とおっしゃっていたのを聞いた時には本当にすごい方だなと思いましたね。発想が若いといいますか。高畑さん、わらべ唄も初音ミクで作っているんですよ。考えられないですよね。新しいものに貪欲というか、手段にこだわっていないというか。だから、天人の音楽にもそんな発想が持てるんですよ。何においても非常に論理的で明快な方なんですが、論理だけの人ではありません。そこが作家としてずば抜けているところで、山田洋次監督とも共通していますね。」

 

触発し合うことでかなえられた仕事

その山田洋次との新作『小さいおうち』の劇場公開は来年1月に控えているが、音楽録音自体は『かぐや姫の物語』の直前に行われている。その前には『風立ちぬ』もあり、年末を見渡せばベートーヴェンの『交響曲第9番』を指揮する計画もある。また、特別展『京都 – 洛中洛外図と障壁画の美』のテーマソング制作、NHKスペシャル『幻の深海巨大生物』や三谷幸喜のラジオ作品の音楽制作なども今年の仕事であった。その膨大な仕事量だけでも十分、記憶に深い1年だったのではないか。

久石:
「やっぱり長篇アニメーション2本はきついです。監督が考えているものがある意味、実写以上に出ますから。まして、高畑さんと宮崎さんの作品ですし、そこへ山田さんの作品も入ってきましたからね。今年は年始から覚悟していましたよ、大変だぞって(笑)。でも、とてもやりがいがありました。何より嬉しかったのは、70歳を超えたお三方がこれだけの作品を仕上げていらっしゃるのを間近で見られたこと。一所懸命にものを作っていければ70歳を過ぎてもいいものなんだなって、夢を持てましたよね。10年後でももっと別の世界が拓けるんだ、僕はまだヒヨッコだと。それをお三方が身をもって示してくださったんです。」

この『かぐや姫の物語』には従来の久石音楽には希な音楽語法があふれ、その無駄なく、しかし豊かな響きは近年のベストといっていい仕上がりである。管弦楽のサイズも程よく、一方で独奏楽器の音色の際立ちがまたまぶしい。これらの奥義を前にすると、『風立ちぬ』の音楽もさすがに霞む。そんな音楽的な充実だけでも、今年はメモリアル・イヤーになったといっていい。

久石:
「もし音楽で何か新しさが出せているとしたら、高畑さんとの化学反応によって生み出されたものだと思います。高畑さんは本当に素晴らしかった。もの作りをしている人がこの映画を観たら、必ずショックを受けると思います。それほど『かぐや姫の物語』は完成度が高いですし、僕自身にもかなりやれたという自負があります。そこまでできたのは、やはり高畑さんのおかげ。触発し合うことでかなえられた仕事だと思いますし、これこそ映画音楽でしか味わえない醍醐味でしょうね。」

(キネマ旬報 2013年12月上旬号 No.1651 より)

 

 

巻頭特集
偉才 高畑勲の到達点 「かぐや姫の物語」
□ロングインタビュー 高畑勲(原案・脚本・監督) 全スタッフがこの作品をやりとげさせてくれた by 金澤誠
□スタッフの証言1 西村義明(プロデューサー) 集まるべき才能によって産み落とされたアニメーション by イソガイマサト
□スタッフの証言2 男鹿和雄(美術監督) “余白”があるからこそゆるされる美術 by 山下慧
□スタッフの証言3 久石譲(音楽) 映画音楽でしか味わえない醍醐味 by 賀来タクト
□作品評 生命の喜び、真に躍動するもの by 佐藤忠男
□高畑勲を語る1 大塚康生 高畑さんを推し創り上げた「太陽の王子 ホルスの大冒険」 by 山下慧
□高畑勲を語る2 小田部羊一 パクさんは一言が重いんです by 山下慧
□高畑勲を語る3 ユーリ・ノルシュテイン 日本のアニメーションのしるべ by 児島宏子

 

 

おそらくこのインタビュー自体は、「かぐや姫の物語 ビジュアルガイド」に掲載されているものと同じ機会だったのだと思います。内容はほぼ同じですが編集者などの考察もありましたので、そのまま別々のインタビュー記事として紹介しています。

 

 

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