Blog. 久石譲 「風立ちぬ」 インタビュー 月刊ピアノ2013年8月号より

Posted on 2014/12/2

2013年公開 スタジオジブリ作品 映画『風立ちぬ』
監督:宮崎駿 音楽:久石譲

「月刊ピアノ 2013年8月号」に久石譲インタビューが掲載されています。

 

 

今はまだ『風立ちぬ』のことはうまく話せないんです

『風立ちぬ』の音楽について聞くべく訪ねたのは、つい1週間前に、その音楽制作が終わったばかりの久石譲。インタビュー開始直後の第一声は、「今はまだ話せないんですよ」。語れるほどの整理がついていないと言う。この音楽制作にはかなり悩み、長い月日を費やした。最後には、映画の世界から抜け出せなくなるくらい作品と同化した。「だからすぐには冷静には振り返れない」。作品と真剣に向き合う作曲家の生の声が聞けた。

 

映画と同化するくらい、真剣に書いている

-『風立ちぬ』の音楽はどんな思いで書かれたのですか?

久石 「うーん……難しいな。ついこのあいだまで作っていたから、まだ客観的に振り返ることができない状態なんですよ。あまりにも大変だったから(笑)。もう少したったら、冷静に話せるのかもしれないですけどね。ひとつの作品にこれだけ長く時間をかけたのは初めてだし、一番苦しんだ作品かもしれない。終わったらボロボロになっちゃって、じつはまだ抜けきれていないんですよ。最近は”映画1本作るって、こんなに難しいことなのか”と思うようになりましたね」

-それはどうしてですか?

久石 「自分と映画が同化するくらい真剣になって書くようになったんですよね。音楽家として映画に携わったというスタンスよりも、自分が映画の一員になり、監督の分身になるくらいに入り込む。以前は音楽家としての野心みたいなものも強かったけれど、『悪人』(2010年)以降かな、引くことを覚えた。映画と音楽が一体化したとき、どう観客に訴えかけるか、どう伝えるかを中心に考えるようになったんです。音楽はドレミファソラシドと半音を足して、12個の音の組み合わせでしかない。それにリズムとハーモニーでしょ。しかも映画音楽では調性やメインテーマが求められるわけだし、映像やセリフ、効果音などとのバランスや制約もある。やれる範疇が決まってるんです。非常に限定されているなかでオリジナリティを出すのは、本当に大変な作業なんですよ」

-『風立ちぬ』のサントラは、映画の世界観、テーマに同化していることはもちろん、ひとつの音楽作品としても成り立っていますよね。

久石 「自分ではわからないけど、結果として、そうなっているといいなとは思いますね。『奇跡のリンゴ』(2013年)までは二管編成のフルオケで書くことが多かったんですよ。今回もそれで臨む予定だったんだけど、途中で宮崎監督から”小編成がいい”という話があって、急遽変更したんです。小オーケストラというのかな、その小さくした感じはうまく出せましたね。今回の特徴でいうと、ロシアのバラライカやバヤンという民族楽器、ギターなどをオーケストラと対等になるほど重要なところに入れていること。そういう意味ではオープニングが勝負だったんですよ」

 

『風立ちぬ』はオープニングが勝負だった

-オープニングで流れる「旅路」がポイントだった、と。

久石 「そう、(飛行機が)飛び立つまでは民族楽器だけなんです。あとはピアノが少し入るだけで、そのあと、弦が入ってくる。『風立ちぬ』のような大作だと、頭でドーンと派手にいきたくなるんだけど、今回はグッとこらえているんです。結果としては、それが功を奏したんじゃないかなと思っています。そこはね、宮崎監督の指示も非常に明快だったんですよ。”空を飛んだりするけれど、すべては主人公、二郎の夢のなかの話。夢の思いで統一する、それはイコール、空を飛んだからといって、派手な音楽になるわけではない”っていう」

-なるほど。

久石 「おそらく、観客をあそこでつかんじゃうんじゃないかと思うんですよね。もうひとつ、今回はモノラルだったんですよ。ステレオの場合、あのオープニングはバヤンのメロディとギターが聴こえていえればOKなんだけど、モノラルだと(音が聴こえてくる場所が)1ヵ所しかないでしょ?そうすると、全体のバランスを細部にわたって楽器ごとに直していかなくてはいけないんです。通常よりも細かい作業が必要で、それは本当に大変でした。ただ、それがうまくいくと、空間が広がっていくんですよね。レコーディングの基本はモノラルにあるんだなということを再認識したし、とてもいい経験になりました」

-最後に今後の活動予定について教えてもらえますか?

久石 「自分のベーシックなスタンスをクラシックに戻すつもりでいます。もともとは現代音楽の作曲家でスタートしているからね」

-映画音楽家としての活動は…?

久石 「そちらをやめると言ってるわけではないよ。”久石に音楽を書いてほしい”と望まれるのは、作家として最高の喜びですから。そのときは全力を傾けて、映画と同化するくらいの気持ちで作る…そのスタンスは変えないです」

(月刊ピアノ 2013年8月号 より)

 

 

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