Blog. 「クラシック プレミアム 30 ~ストラヴィンスキー / プロコフィエフ~」(CDマガジン) レビュー

Posted on 2015/2/28

クラシックプレミアム第30巻は、ストラヴィンスキーとプロコフィエフです。

クラシック音楽のなかでも近代にあたる20世紀を代表する新しい響きとリズムによる名作です。よりストーリー性をもち、劇的でドラマティックな構成と編成。現代音楽にも近く、また古典的な格式も継承しつつ。今聴いていても、さながら映画音楽を聴いているような、時代差をあまり感じない音楽といいますか、はっきりとしたストーリー性、起承転結な音楽だなと思います。

 

【収録曲】
ストラヴィンスキー
バレエ音楽 《春の祭典》
-2部からなるロシアの異教徒の情景
ピエール・ブーレーズ指揮
クリーヴランド管弦楽団
録音/1991年

プロコフィエフ
バレエ音楽 《ロメオとジュリエット》 作品64より
前奏曲
第1幕 街の目覚め / 朝の踊り / 少女ジュリエット / 客人たちの登場 / 仮面 / 騎士たちの踊り / マドリガル
第2幕 マキューシオの死
第3幕 ロメオとジュリエットの別れ / 朝の歌
第4幕 ジュリエットの死
ワレリー・ゲルギエフ指揮
マリインスキー劇場管弦楽団
録音/1990年

 

 

「久石譲の音楽的日乗」第29回は、
音楽を構成する3要素を座標軸で考えると

直近のテーマで数号にわたって展開されてきた視覚と聴覚の締めくくりとなっています。それもさることながら、年末年始にかけての久石譲のお仕事、コンサートから今年2015年に発表されたふたつの作品のこと「かぐや姫の物語 ~女声三部合唱のための」「Single Track Music 1」バンド維新2015委嘱作品 吹奏楽(制作時期が2014年の秋以降だった模様)

さらには、作品化されていないシリーズ!?ジブリ美術館用館内BGMのことまで。今後の予定にも光の射す一文が。いろいろな意味で、旬な久石譲がわかる、しかも本人直々に語られるというオフィシャルな近況報告、読み応え満点な内容になっています。

一部抜粋してご紹介します。

 

「新しい年を迎えた。1月4日にピアノ曲を作曲し、翌日の5日に録音した。曲名は《祈りのうた》で僕自身初のホーリー・ミニマリズムのようなシンプルな三和音を使った楽曲になった。さっそく宮崎駿さんのもとに届けた。これは恒例化した新春の儀式のようなもので、ジブリ美術館で流れる音楽を作曲して以来、毎年ではないけれどもなんとか作っては届けている。去年サボったら年間通して作曲の調子が悪かったので、今年はなんとしても作るという決意を持って臨んだので、正月も緊張したまま過ごしたせいか疲れが残っている。」

「まあ考えてみたら、12月31日に大阪でジルベスターコンサートを行ったこともあり、まったく休んではいない。おまけに2日目のリハーサル(30日)の後、風邪が悪化して熱も出て救急病院に行ったりで体調も悪かったのだから仕方がない。このときは《Winter Garden》という22分くらいのヴァイオリンとオーケストラの曲の改訂初演を行った。関西フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスター岩谷祐之さんの素晴らしい力演もあって成功した。その第1楽章は8分の15拍子という変拍子で2・2・3・2・3・3と分けてリズムを取るというまことに厄介な曲で、かなり肉体的練習をしないと体に入らないので苦労した。”久石さん”の曲はどれも面倒な曲ばかりなので指揮者としてはできるだけ演奏をしないで済ませたい。」

「そう思ったせいか深秋から暮れにかけて書いたウィンド・オーケストラのための《Single Track Music 1》は長年の知り合いである作曲家の北爪道夫氏が振り、次いで書いた女声三部合唱のための《かぐや姫の物語》は東京混声合唱団の指揮者山田茂氏にお願いした。両方ともレコーディングだったので僕はディレクションに専念できて良かったのだが、実は肩の調子が凄く悪くて手が挙がらない状態だったこともある。その状態で暮れに先ほどの変拍子を振り続けなければならなかったのは(しかもテンポが速い)かなり酷だった。だが、人間やればできる!風邪薬を飲んで14~15時間寝たらすっきり、頭もはっきりで、こんなに音楽がクリアに見えたことがないほど調子が良かった。人間やはり寝て休むことが大切だと思い知ったのだが、きっと長くは続かない、たぶん。」

「ついでに言うと救急病院に行くほど風邪がひどかったのでタバコも吸えなかった。翌日、本番が終わり1本吸ったがおいしくなくそれでお終い。1月1日も1本だけ、このまま止められるかな、と思ったら2日は3本、3日は6本、作曲に集中した4日には10本を超え、5日のレコーディングでは、ほぼいつもの状態に戻ってしまった、やれやれ。」

「去年の正月はこの連載などで文章ばかり書いていた気がする。それはそれで言葉に置き換えることによって、頭の中を整理することができてよかったのだが、作曲家はやはり音符を書かないと話にならない。今年は依頼された楽曲も多いので気を引き締めてとにかくたくさん書こうと思っている。」

「やっと本題、視覚と聴覚について書いてきたのだが、その中で聴覚を重視する宗教としてユダヤ教を取り上げ、ユダヤ的なるものを考えることでこの日本で生きること、あるいは日本人であることを考察してきた。そろそろ締めくくろう。」

「視覚と聴覚から入る情報のズレを埋めるために人は言葉を持ち、時空という概念を手に入れた。この時空という概念はそのまま音楽の概念でもある。」

「音楽を構成する要素は小学校で習ったとおり、メロディー(旋律)、ハーモニー(和音)、リズムの3要素だ。座標軸で考えるととてもわかりやすいのだが、横のラインが時間軸、縦のラインが空間軸となる。リズムというのは刻んでいくので時間の上で成り立ち、ハーモニーは響きなのでそれぞれの瞬間を輪切りで捉える、いわば空間把握だ。そしてメロディーはと言えば時間軸と空間軸の中で作られたものの記憶装置である。時間軸上の産物であるリズムと空間の産物であるハーモニー、それを一致させるための認識経路として、メロディーという記憶装置があるわけだ。そしてこれはあらゆる音楽に適合する。例えばあの難解な現代音楽にも当てはまる。不協和音や特殊奏法も響きとしての空間処理であるし、十何連音符のような細かいパッセージも聴き取りやすいリズムではないが時間軸上でのことであるし、覚えやすいメロディーではないとしても基本の音形や何がしかの手がかりがあるし、セリー(十二音列)などでもやはり時間と空間軸の上での記憶装置にはなっている(もちろんわかりにくいが)。そして多くの現代音楽が脳化社会のように込み入ってしまって、本来メロディーが持つ説得力やリズムの力強さ、心に染み入るハーモニーなどを捨て去ったために、力を失ったことは歴史が証明している。今こそ音楽の原点を見直し、多くの人たちに聴いてもらえる「現代の音楽」を必要とする時がきたのである。」

 

 

ということで、読み流せないキーワード満載でした。キーワードごとにチョイスして補足します。

【ジルベスターコンサート 2014】
3年ぶりの復活。久石譲作品の豪華オンパレード。
こちら ⇒ Blog. 「久石譲 ジルベスター・コンサート 2014」(大阪) コンサート・レポート

【ジブリ美術館音楽】
1月5日の宮崎駿誕生日に合わせて、ジブリ美術館用館内BGMを献呈。過去の献呈曲などは下記。
こちら ⇒ Disc. 久石譲 三鷹の森ジブリ美術館 展示室音楽 *Unreleased

今年献呈された楽曲は「シンプルな三和音」のホーリー・ミニマリズムのような曲。ホーリー・ミニマリズムは、作曲家アルヴォ・ペルトなども作品を残しています。

【かぐや姫の物語 ~女声三部合唱のための~】
こちら ⇒ Disc. 久石譲・高畑勲 『かぐや姫の物語 ~女声三部合唱のための~』

【Single Track Music 1】
久石譲最新作品(2015.2現在)にして、吹奏楽第2作目。
こちら ⇒ Disc. VA. 『バンド維新 2015』 (演奏:航空自衛隊 航空中央音楽隊)

【現代の音楽】
久石譲が語る、「現代音楽」ではない「現代の音楽」とは。
こちら ⇒ Blog. 久石譲 新作『WORKS IV』ができてから -方向性-

 

【今年は依頼された楽曲も多いので気を引き締めてとにかくたくさん書こうと思っている。】楽しみでなりません。作曲期間からお披露目されるまでのたっぷりとした時間を考えても…今年どれだけの新曲が聴けるのか。待つのみです。

 

クラシックプレミアム 30 ストラヴィンスキー

 

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