Posted on 2015/9/5
2013年公開 映画『かぐや姫の物語』スタジオジブリ作品宮崎駿監督の全作品を手がけた久石譲が、初めて高畑勲監督とタッグを組むことになった作品です。
2013年12月6日 22:00-【前編】
2013年12月13日 22:00-【後編】
WOWOW ドキュメンタリー番組 ノンフィクションW
「高畑勲、「かぐや姫の物語」をつくる。 ジブリ第7スタジオ、933日の伝説」
この番組にて映画制作現場が特集放送されました。そして、2014年12月には、映像を大幅に付け加えて再編集した新しい作品として『高畑勲、『かぐや姫の物語』をつくる。~ジブリ第7スタジオ、933日の伝説~』がブルーレイ/DVD化されています。
タイトルの「第7スタジオ」は、今作のために新設されたスタジオ、「933日」は、現場にカメラが入った2011年5月5日から公開日までの日数です。その2年半にわたる制作過程がなんと200分にも及ぶドキュメンタリーとなっています。
WOWOW放送時にはあまり登場しなかった久石譲も、この映像作品では計40分以上特集されているところがポイントです。
この映画に関わった多くの関係者が登場します。そしてリアルな現場、ものごとが決まる瞬間、白熱したバトルなど、、いろいろな貴重な映像が収められています。映画『かぐや姫の物語』を深く読み解くうえで、その密着取材は渾身の記録だと思います。そんな歴史を刻んだドキュメンタリー映像から、久石譲に焦点をあててご紹介していきます。
【音楽:久石譲になるまで】 (チャプター:二〇一三年 一月)
高畑:
「悪人」の音楽は成功したと思っている。(以後、その説明)そういうものを要求するんだったら、新しい境地を拓くことができると思う。ドドーンとひとつやってくださいというね。
僕は久石さんについては、同じジブリでやってるのにね、宮さんとのコンビが確立されている以上、久石一色にするのはあまり良くないんじゃないか、やっぱりどんなに優れていてもコンビがあるなら違うほうがいいんじゃないかなって思うんだよね。ジブリにとってもそうじゃないかなって。
スタッフ:
そこで選択肢がせばまるのはあまりよくないんじゃないかと…
高畑:
難しいんですよ
悩んだ末、2012年暮れ久石譲に音楽をお願いすること決断、2013年1月4日、スタジオジブリにて高畑勲と久石譲の最初の打ち合わせ。
ここで挨拶と、映画『悪人』での音楽の話、そして『かぐや姫の物語』でどういう音楽が必要かという話など。
イメージをつかむためにその時点で出来ている映像を試写。(主に予告編で使われていたシーンなど)試写後の談話中、ここで「天人の音楽」の構想が高畑勲監督から飛び出す。
補足)
このエピソードに関しては数多くのインタビューでも久石譲から語られています。興味のある方はご参照ください。
- Blog. 久石譲 「かぐや姫の物語」 インタビュー ロマンアルバムより
- Blog. 久石譲 「かぐや姫の物語」 インタビュー ビジュアルガイドより
- Blog. 久石譲 「かぐや姫の物語」 インタビュー 熱風より
打ち合わせ後、高畑勲監督は映画『風立ちぬ』制作現場の宮崎駿監督を訪ね、「久石さんに音楽をお願いすることにしました」と一言伝える。
このあたりがお二人の監督の親密な関係性と、かつ尊重と礼儀を重んじると感じる瞬間でした。
劇中でかぐや姫で琴を奏でるシーンは、音に絵を合わせる必要があるため、まずはその楽曲からの音楽制作および収録という流れに。
高畑監督のオーダーは、古い中国楽器「古琴(こきん)」で、それよりも新しい「古箏(こそう)」とどちらなのかなど確認する電話場面も。ただ「古琴」で実際に録音しようとすると困難や制約も多く、一般の人も知らないので音は「古箏」を使ってもいいのではと高畑監督。
そして楽曲収録。
「古箏」を使うことになったが、金属の弦を使った古箏では音が響きすぎることが問題に。タオルを数箇所につめ残響を減らす効果や、演奏用爪を外し、音を柔らかく近づける。
そういった試行錯誤から実際の楽曲録音までが一部始終収録されているかなり貴重なレコーディング風景、まさにその瞬間をとらえた内容です。
ここまで約20分間
【音楽:久石譲】 (チャプター:同)
最初の打ち合わせから半年、再び音楽打ち合わせが始まる。
ピアノスケッチをもとに、実際このシーンにどうかなと想定した場面にデモ音源を流していく。すべての楽曲が貴重なピアノスケッチであるということ、そして制作過程なので、実際に映画では使用されなかった、そんな幻の楽曲も登場します。
例えば、都にやってきたかぐや姫がうれしさのあまりはしゃぐシーン。当初、かぐや姫の感情の高ぶりを軽快な音楽で表現したピアノスケッチが流れます。
これに対して高畑監督は、「この子が喜んでる感じもほしいけれど、同時にそれを外から見ている感じがあったほうが…多分ふさわしいんだろうなって。運命というか一体どうなるのかなという感じがつきまとったほうがいいなと。この子に(音楽を)付けないで。その方が必要なんだという感じがしてたんです。」と。
これをうけてその場ですぐ久石譲が、準備してきたものからチョイスした別の楽曲(ピアノスケッチ)をあててみます。満場一致でその楽曲に決定する瞬間が収められています。
映画終盤、かぐや姫と幼なじみ捨丸が再会し飛翔するシーン。
このシーンにつける音楽がとりわけ難航します。
久石譲の事務所スタジオに高畑監督やプロデューサーが訪ねて、打ち合わせや映像と音楽を合わせながら検討するという場面です。
久石譲の心臓部ともいえる事務所スタジオが登場するのもかなり希少です。どんな部屋模様なのか、どんな機材が設けられているのか、はたまた本棚に並んでいる本は、壁に飾ってある額は、そんなところにまでつい目をこらしてしまいます。 (余談でした)
ここでは最終形であるオーケストラを想定して、ピアノスケッチで決定した楽曲素材たちが、シンセサイザーによる肉付け、アレンジされたデモ音源となっています。少しですがそういったシンセ版かぐや姫の音源も聴くことができるシーンです。
この密着取材シーンはキャプチャはおやすみするとして、そのやりとりが忠実に再現されている小冊子「熱風」での久石譲インタビューから。このエピソードにおける制作過程の四苦八苦、長時間に及ぶ紆余曲折とその結末、久石譲自身によって語られています。
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(中略)高畑さんに事務所まで来てもらったんです。そのとき、7時間半かけて全曲手直ししてやっと見えたので心底ほっとしました。そして、「ちょっとここは後で直して欲しい」という曲があったので翌日直しを送ったんです。そしたら、その翌日の夜11時に高畑さんが飛んで来て「やっぱりあそこの音楽は、ああ言っちゃいましたけどほかの曲か前に出ているテーマのほうが」って(笑)。
「来たーー!」って、「おとといの7時間半はなんだったんだ」って。ゼロからつくり直しですよ、そのときだけは、さすがに僕もムッとしましたね(笑)。ただあのときは、高畑さんも作画チェックを全部やっていて、効果音もまだ決まっていない状態で、監督って基本的に決定することが一日に何百ってあるんです。そのすさまじい量をこなしていた最中でしたから。一番大変な時期だったのではないかなと思います。
(Blog. 久石譲 「かぐや姫の物語」 インタビュー 熱風より 抜粋)
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この対談でも語られていました。よっぽど印象的な音楽制作エピソードとなったのでしょう。
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高畑:
むしろ難しかったのは、捨丸とかぐや姫が再会する場面の曲です。それまで出てくる生きる喜びのテーマより、もうひとつ別のテーマが必要だと思ったんです。命を燃やすことの象徴として男女の結びつきを描いているので、幼少期の生きる喜びのテーマとは違う喜びがそこに必要ではないかと。それで別のテーマを依頼して書いていただいたのですが、やっぱり違うと思ってしまった。それで元に戻って、再び生きる喜びのテーマをここで高鳴らした方がいいと久石さんにお伝えしたら「最初からそう言ってましたよ」って(笑)。
久石:
直後に天人の音楽という今までの流れとはまったく違うテーマが出てきますからね。捨丸との再会シーンで切り口を替えちゃうと、ちょっと過剰になるんじゃないかという印象を持っていました。それで元通りでいきましょうということになったら、逆にものすごい勢いの曲が生まれましたよね。
(Blog. 久石譲 「かぐや姫の物語」 インタビュー ロマンアルバムより 抜粋)
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たしかに久石譲は”最初からそう言っていた”ことが、このドキュメンタリー映像で記録として証拠として残っていたりします。
ドキュメンタリーからかいつまんで経緯を説明すると、
このシーンに思い入れの強かった高畑勲監督は、制作期間を経るにつけて、ここには既成の主要テーマ曲からの変奏ではなく、新しいメロディーが必要だ、このシーンのためだけのラブテーマがほしいとオーダー。
それをうけて久石譲はこれまで当てていた仮音源から、新しい楽曲をつくることに。
数日後。
久石:
47 48(飛翔の曲)非常に困ってまして。というのは、新曲を書こうということにこの前なったんですが…。ラブテーマ的な要素もあるという話もあったんだけれど…僕はちょっと、かぐや姫は捨丸を好きだったんだけれど、恋愛対象と思ってたのかどうか…自分のすごくいい時だった象徴として捨丸がいるとすると、何か泣かせてもあまり意味ないねという感じになっちゃうと…じゃあ楽しくてかつていい時代だったら、前の”歓びの音楽”の延長にも近くなってくる…。その辺を高畑監督と相談してから書いたほうがいいんじゃないかと。
ここで久石譲が迷いながらも提案した音楽は、新たなメロディで感情の高ぶりを表すのではなく、場面全体を包み込むような音楽だったようです。
(ここでの幻の楽曲たちは流れません)
それからまた数日が経過し、楽曲の直しを聴いた高畑監督は、前回糸口が見えたはずの音楽にまた違和感を覚えてしまう。
要は包みこむような音楽だとムードミュージックになってしまって、やはりここには湧き立つようなメロディが必要だと、考えが二転三転して……。
この後、久石譲のもとへ直接お詫びと話をしに行ったようです。「直接行って話をしないと悪いでしょう。いろいろな意味で。」と深くつぶやく監督。
2013年10月8日 音楽レコーディング風景
東京交響楽団によるホール録音の模様から、上述「飛翔」シーンの音楽レコーディングを1曲まるまる聴くことができます。
ナレーション:
物語の前半、里山での暮らしの豊かさを表す音楽、久石が奏でたのはそれをアレンジしたメロディだった。幼いかぐや姫がなにげない日常のなかで抱いていた幸福感、クライマックスの”生きる喜び”につながった。
ここまで約20分間
最後に、2013年10月30日初号試写の模様が収められています。久石譲も同席した初号試写では、試写後のふたりの会話も少し収録されています。
高畑:
聴いてても本当によかった。何回聴いてもいいですから。
久石:
共同でやってるから。
と笑顔で握手をかわす二人の巨匠。
スタジオジブリ映画は、最新作公開ごとに、ドキュメンタリーも制作され、TV放送などもされていますが、ここまで久石譲にスポットを当てて、かつ記録として公開(作品化)されたのは、映画『もののけ姫』のドキュメンタリー以来ではないかというくらいの充実ぶりです。
宮崎駿監督との全10作品でも、このくらい久石譲音楽制作現場が映像記録として見ることができると、ファンとしてはありがたい限りなのですが。ドキュメント・フィルムは残っているとは思うのですが、世に出ることはないのでしょうね、残念です。
とはいえ、このドキュメンタリー映像作品は、このように久石譲音楽が誕生するまでの軌跡が刻まれています。
世に送り出された完成品がすべて、多くを語らず、それでももちろよいとは思うのです。でもこのような制作過程や記録を見ると、やはり完成版の作品への受け止め方や聴き方がかわってきます。記録として残すにふさわしい、残されるべき、そんな映画『かぐや姫の物語』にまつわるドキュメンタリーでした。このドキュメンタリー映像の活字版ともいえる、久石譲インタビューや高畑勲監督との対談も下記ご参照ください。
『高畑勲、『かぐや姫の物語』をつくる。~ジブリ第7スタジオ、933日の伝説~』
【チャプター】
- この映画は声から始まった
- 十四年の理由
- 天才と職人と演出家
- 高畑勲という現場
- 二〇一二年 十二月
- 二〇一三年 一月 (久石譲登場)
- 主題歌、二階堂和美
- プロデューサー、西村義明
- 映画監督、宮崎駿
- 音楽、久石譲 (久石譲登場)
- 二〇一三年 十月 (久石譲登場)
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