Posted on 2015/10/17
久石譲の過去のコンサートから。「PIANO STORIES ’98 Orchestra Night」のコンサート・パンフレットにて特集された、「NOSTALGIA ~PIANO STORIES III~」のレコーディング日誌。
Making in Italy 「Nostalgia」
インストゥルメンタルでありがなら『唄』を表現できるオーケストラが欲しい。だからこそ、新譜「Nostalgia」のレコーディングにはイタリアの地が選ばれた。おおらかにメロディを唄うオケの魅力を最大限に引き出しながら収録は進んだ。
9月7日
成田から16時間、やっとボローニャに到着。出発の前日に、京都・醍醐寺の「音舞台」コンサートから戻ったばかりという強行軍の上に、イタリアでは荷物が行方不明になる不運のおまけつき。
空港から40分ほどで目的地モデナに着く。リハーサルのDATを聴いた久石さんは、「おぉっ!イタリアだぁ!」と大感激。イメージ通りの音だったに違いない。日本人が海外のオーケストラ・レコーディングでイタリアを選ぶのは、おそらく稀なことだろう。
9月8日
レコーディング初日。収録するストロキホールはホテルから歩いて5分ほどのところにある。今日は東京の紀尾井ホールで録ったピアノにオケを合わせる形で録音していく。オーケストラはフェラーラという街の名前のついたフェラーラ・オーケストラで、指揮はイタリア人のレナート・セリオ氏。レコーディング・エンジニアにはドイツ人のステファン・フロック氏が加わった。「Nostalgia」と「Cinema Nostalgia」を録って1セッション目を終了。オケもしだいに調子を上げてはいるが、盛り上がりはいまひとつだ。2セッション目は「バビロンの丘」から「il porco rosso」へ。イタリアのエスプリあふれる仕上がりとなった。
9月9日
もう少しオーケストラをピアノで動かすという意味で、急きょ久石さんのピアノを同時録音することになる。連日のスコア書きと醍醐寺のコンサートで腕はかなり疲労している。その最悪な状況を知っているだけに心配ではあるが、止むを得ない状況だ。
まず「HANA-BI」から。ピアノがぐいぐいとオケをひっぱり、迫力が増していくのがわかる。次に映画「時雨の記」(今秋公開)のテーマ、「la pioggia」。オケもさらに充実した音を出してきて、雰囲気の高まりが感じられる。ここで午前のセッション終了。
午後から最後のセッションで「旅情」を録る。これは紀尾井ホールで録ってあったピアノに合わせてオケを録る。オケも慣れてきて順調に進行した。その後編集作業へ。
9月10日
午前中にイタリア各紙の新聞の取材を受ける。今回のレコーディングを多くの新聞が取り上げており、両手に抱えるほどの掲載記事を見せてもらった。日本での作業に入るため、早くも美しいモデナの街をあとにして帰国。
(久石譲 PIANO STORIES ’98 Orchestra Night コンサート・パンフレットより)
レコーディング方式を、急きょピアノとの同時録音に切り替えた経緯は、同コンサート・パンフレットでのインタビューでも語られている。
Blog. 「久石譲 PIANO STORIES ’98 Orchestra Night」 コンサート・パンフレットより