Posted on 2016/2/12
1993年公開 映画「水の旅人」
監督:大林宣彦 音楽:久石譲 出演:山崎努 他
一寸法師を思わせる水の精・墨江少名彦と小学生・悟の友情と冒険を描いた、大林宣彦監督のSFX大作。サントラ演奏を担当したロンドン交響楽団を意識して作曲した大編成の勇壮なテーマ曲は、大河の如く滔々と溢れる数々のメロディと相まって、その後の久石譲の演奏会に欠かせない人気曲のひとつに。
音楽=久石譲インタビュー
「水の旅人」 音と映像のアンサンブル
-今回の『水の旅人』の映画音楽づくりは、どんなところから始められたんですか?
久石:
今回はまずふたつのポイントがありましてね。ひとつは『タスマニア物語』に続いて手掛けるフジテレビの大作ということで、その風格というか、そういう感覚、スタンスがまずある。もうひとつは、大林さんの映画の音楽をずっとやってきているということ。ここには、はっきりとした大林宣彦の世界があるわけです。フジテレビに大林さん、両方とも自分が関わってきて、それがここで一緒になっちゃったわけですよね。ですから、大作としての風格と大林作品が持っているヒューマンな部分とが、全部生かされるような音楽を一番意図したわけです。
-結果としてはいかがでしたか?
久石:
まずメインテーマですが、これはロンドン・シンフォニーオーケストラ85人を使って実に壮大なシンフォニーを作りました。
-ロンドン・シンフォニーというと『スター・ウォーズ』などを手掛けたジョン・ウィリアムズもよく使うところですね。
久石:
そうです。ですからメインテーマは男性的なメロディというか、力強いテーマですね。圧倒するぞって感じです(笑)。ロンドン・シンフォニーのメンバーも興奮してたし、喜んでましたよ。ただこうしたスケール感の大きいメロディに対して、やはりみんな久石メロディといったものを望むでしょうから、主題歌のヴォーカルの方は極力心の優しさといったものを出したつもりです。
-主題歌は今回中山美穂さんですね。
久石:
ええ。ヴォーカルのレコーディングもロンドンでやりました。これは映画の最後のエンディングロールで流れるんですが、メインテーマと主題歌と、共に映画音楽の顔に当たる曲を自分なりにかなりの完成度で、思い通りに仕上げることができて僕自身は非常に満足しています。
監督と音楽家の”覚悟”のデュエット
-全編にわたる音づくりの方はどうでしたでしょうか?
久石:
ふつうだとオールラッシュを見て、全体の設計図を引いてから音楽を作り出すんですけど、今回は合成シーンも多いので映像が少しずつしか来ないんです。監督のラブレター付きで(笑)。その点では全体像づくりにちょっと苦労しました。でもその代わりフィルム一巻ずつ音楽を付けていくということは、映画の流れと一緒に作っているわけです。これはまた珍しいやり方で、全編に音楽がぴったりとついている感じになるんです。今回はカット数もたいへん多いけど、同じように音楽もふつうここまで合わせるかという所まで合わせてます。そういう意味えは実にくたびれる作業をしてます(笑)。
-時間の制約もありますしね。
久石:
それはもうかかわっている全員が思い切り苦しい状況でしたね。監督とも何本か一緒にやってくると、できるだけ違うことをやろうとするから大変なんですね。でも今回はハナから大変ということで始めてますから、むしろお互い不思議な一致を見ることのほうが多いんです。いろんなところで考え方が一致しちゃうというか、それはすごくうれしいことだと思ってます。また、監督と以前に「才能と覚悟」という話をしたんです。才能だけあってもいいものは作れない。これからの映画づくりや芸術活動には覚悟が必要だと。で、後からまた大林さんから手紙がきまして…。
-それには何と?
久石:
「今回は覚悟でいきます」と決意表明があったからこれは困ったなと(笑)。というわけで、もう今回はプロの技術の極致をお互いやろうと決めたんです。大林さんもそういった要求をするし、それならば僕も絶対にそれに応えるしかないんです。だから実際すごい合わせ方ですよ。もうディズニーもメじゃないってくらいです。
2度3度見て楽しめる『水の旅人』
-久石さんから観客のみなさんに何かメッセージがあればお願いします。
久石:
パワフルで内容も濃く、たいへん実験的な映画にも仕上がっていると思います。音づくりも自分の思い通りやれましたから、是非じっくりと聴いてほしいと思います。それからどうしても『水の旅人』は、2、3回見てほしい。1回目はどうしてもストーリーを追ってしまうけど、2回目以降は映像と音楽の絡み方も含めて、きっと細かい点で別の楽しみ方もできる映画だと思うんです。そうやって見てもらえれば、僕はたいへん幸せですね。
(「水の旅人-侍KIDS」劇場用パンフレットより)