Posted on 2019/06/02
雑誌「週刊アスキー 2010年11月16日号」に掲載された久石譲インタビューです。『Melodyphony メロディフォニー』(2010)を中心に2号連続インタビューになっています。
無から何かをつくり出しているんだという感動
「100人が真剣にぶつかった音」
ー今作はオーケストラで収録。指揮の際、意識することは?
久石:
「この曲をどうしたいのかを明確に伝えることですね。クラシックを振るときも同じなんですが、指揮者が迷うとオーケストラは100人もいるのでどこを向いていいのかがわからなくなるんです。どれだけ明確に、手短にコンセプトを言葉で、もしくは指揮棒の振り方で伝えるかを絶えず考えてますね。イコールそれは曲について自分できちんとイメージをもっていないといけないってことなんです。」
-その中で大変だからこそ、生み出せるものとは何でしょう。
久石:
「100人の意識が同じ方向に向いたときのパワーは、それは本当にすごいです。電気で機械的に増幅した音とはまるで違う。100人が真剣にぶつかった音なんですよ。それがオケの魅力。会場で聴いてもCDで聴いても100人のエネルギー。それを集結させたときの歓びってすごいんです。ところが裏を返すと全員が育ちも生まれも違う。個性的で、みんな訓練を積んでいるからそれぞれの思いがある。だからこそ迷うことなくディレクションすることが大切なんだと痛感していますね。」
「本当の音楽って理屈じゃない」
-ところで多くの作品を生んでいますが制作の原動力とは?
久石:
「音楽が好きだからでしょうね。世界で何よりも好きで、しんどいのが作曲なんです。僕にとっていちばん達成感があって、メタメタに自分が落とされるもので。すべてが名作になるとは限らないけど、なにもないところから何かができる。こんな素晴らしいことないんですよ。”無から何かをつくり出しているんだという感動”それです。」
-その感動が制作の源だと。
久石:
「どこに音楽の神がいるのかはわからないし、たんなる音の羅列なのか、本当に音楽になっているのかもわからない。それにすごい量の作品が日々つくられるけど長い年月でほとんどが消えていく。最後に何十年も経って聴かれる音楽。それが唯一の本当の音楽だというならば、それをいつか自分で1曲でも書けたらという念は常にあります。」
-本当の音楽ですか。
久石:
「”本当の音楽って理屈じゃない、いい部分を絶えずもっているもの”だと思うんです。これは深淵なテーマで、芸術的な側面と大衆性。その両方をもっているものなんだと。今回そして前作、海外で一流の方々と仕事をして、今自分のつくっている音楽が世界の中でどのレベルなのかがわかった。自分の方向性は正しいこれでいいんだと確かめられたんです。それが本当に良かったと思っていますね。」
(週刊アスキー 2010年11月16日号 より)
今週のプレイリスト
my favorite!
選曲:久石譲
前回の続きでラジオでかけている曲。あの番組ではミニマル・ミュージックだとか、びっくりするくらい自分の趣味でしか選曲していません(笑)。
1曲目
PASCAL ROGE『3つの小品』(アルバム『POULENC PIANO WORKS』収録)
プーランクのアルバムはどれも素晴らしいですから。メロディーメーカーとして最高の方。曲のもっているエスプリ、洒落た感じ、気品。彼の小品は自分がいつか書きたいと思う憧れですね。
2曲目
Donald Fagen『Ruby Baby』(アルバム『The Nightfly』収録)
つぶれたような独特のハーモニー感、音楽性の高さ、あとレコーディングテクニックの高さ。Steely Danもしくは彼のアルバムはレファレンスとして、いつもレコーディングのときにもっていました。それくらい完璧。
3&4曲目
Brahms『交響曲第1番ハ短調op.68』 Mozart『交響曲第40番ト短調K.550』(アルバム『ブラームス:交響曲第1番、モーツァルト:交響曲第40番 久石譲&東京フィルハーモニー交響楽団』収録)
交響曲の1番、これはなんといっても最高です。ブラームスは大学で学んだ原点であるクラシックにもう一度真剣に立ち向かおうと思って取り組みました。今の段階で自分の考えるクラシックを実現できたのがこの2曲。
(週刊アスキー 2010年11月16日号 より)
2号連続前半