Blog. 「ゾラ ZOLA 1998年2月号」 久石譲 インタビュー内容

Posted on 2018/01/17

雑誌「ゾラ ZOLA 1998年2月号」に収められた久石譲インタビューです。当時は、映画「HANA-BI」が日本だけでなく世界中を席巻した時期です。

 

 

「北野映画に限らず『沈黙』をつくることも、音楽監督の仕事です」

第54回ベネツィア国際映画祭で、映画『HANA-BI』が金獅子賞(グランプリ)を獲得したニュースは、97年中でも一・二を争うほどの心から喜べる出来事のひとつだった。この快挙は、どこか異端児扱いだった”映画監督 北野武”だけでなく、彼の映画に欠かせない協力者としての”音楽監督 久石譲”の存在感を世界の内外にアピールしたのではないだろうか?

実際、たびたびテレビでも流れた映画祭会場での映像で、北野監督の傍らに付き添う久石譲の姿を目に焼き付けた方も多いだろう。映画の評判が現地で高まるにつれ、会場での彼への取材が殺到し、日本では尋ねられないような、鋭い質問に驚いたという。

「『日本的な音楽ですね』って言われると思ってたら、『とてもイタリア的ですね』という感想を突きつけられた。だから『僕にはイタリア人の血が流れてるんです』と答えると、横で北野監督は呆れたって顔してる(笑)」

音楽監督の存在は、日本の映画界では影に隠れがちだ。しかし、20世紀が生んだ「総合芸術」としての映画の中では、映像・演技・脚本に負けず劣らず、「音の設計」が重要な役割を果たす。だからこそ、北野作品および大ヒットした『もののけ姫』をはじめとする宮崎駿作品での、久石音楽の多大な貢献ぶりがもっと注目され、正当に評価されてもいいと思う。

「映画音楽は映像と対等であるべきだと思うんです。単に絵をなぞるような、付属品にしたくない。中には、あらかじめ監督に『どんな感じがいいですか』って、お伺いをたてる人がいるけれど、僕は絶対にやらない。音楽に関しては監督から、対等なくらい任されてますから」

ある事件をきっかけに警察を辞めた主人公と不治の病に侵された妻が二人きりで出発する途方のない旅……。鮮烈な暴力描写を散りばめながらも、今までの北野作品にはない形で、東洋的な家族観そして死生観が浮かび上がる映画『HANA-BI』。どんなコンセプトに基づいて今回、久石音楽は作られたのだろうか?

「生のストリングスなどを使って、アコースティックな音に仕上げたいと考えたんです。きれいな音をつけてあげたい。かわりに暴力シーンには音楽はいらない。主人公と奥さんの関係、そして銃で撃たれて車椅子生活をおくっている主人公の同僚、その2つの関係を中心に音楽をつくっていこうと。全体的にあまりムーディーにならないようには心がけました。本当のメインテーマは最後の方に出てくる。音を抜くときいは思いっきり抜くことで次第に、後半に行くに従って情感が増してくるんです。この作品に限らず、沈黙をつくるのも、映画音楽の大事な仕事です」

 

誰がつくったか知らないけれど、何処かで聴いたことのある旋律

久石譲は音大生のころから現代音楽の作曲家として、活動を開始していた。当時、最も影響を受けたのがテリー・ライリーやスティーヴ・ライヒらによる、いわゆるミニマル・ミュージック。無駄な装飾を削ぎ落とし、音の反復を基調とするその手法は、どこか北野監督の映画づくりに似たところがあると、彼は以前語ったことがある。

「今でも根本的なところは継承していると思います。『省略』が最も重要な点、できるだけシンプルな形態を目指すこと。そしてもちろん、映画の中ではミニマルだけではやっていけないので、何か象徴的なメインテーマが必要になる。『風の谷のナウシカ』の時にメインテーマのためにオルガンを弾きたおした後でようやく『ああ、これはテリー・ライリー的だな』と気づかされることもありました」

映画音楽の世界でこれだけの実績を重ねた彼が、ふたたび現代音楽の世界に戻ることはあるのだろうか?

「現代音楽をやっていた当時、ふと隣をみると、ブライアン・イーノが『ミュージック・フォー・エアポート』をやっていたりだとか、むしろロック・フィールドにいた人たちの方が自由にミニマルを使いまわしてたりしていて、そっちの方が面白いや、と感じたんです。20代の後半のころに『(芸術)作品』をつくるのをやめました。『作品』を残すことよりも、エンタテイメントのためにポップス・フィールドへと移る決意をしたんです。作曲家として名前を残すことよりも、誰が作ったか知らないけれど、このメロディーは何処かで聴いたことがある、というような『無名性』の方がよほど大事だと考えています──名前よりも音楽を覚えていてくれることこそが、ある意味、作曲家の理想でしょ?」

(ゾラ ZOLA 1998年2月号 より)

 

 

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