Blog. 「NHKウィークリーステラ 2008年5/3~5/9号」キム・ジョンハク×久石譲 対談内容

Posted on 2021/07/21

テレビ情報誌「NHKウィークリーステラ 2008年5/3~5/9号」に収録された対談です。韓国ドラマ「太王四神記」特別企画としてカラー3ページになります。

 

 

《太王四神記》特別企画
豪華!韓日巨匠対談
監督 キム・ジョンハン × 音楽 久石譲

都内の完成な住宅街にあるレストラン・高矢禮(ゴシレ)。ペ・ヨンジュンがプロデュースするこの落ち着いたお店の一室で、韓日を代表する巨匠の対談が実現した。〈太王四神記〉の壮大な映像を創り出したキム・ジョンハン監督と壮大な音楽を紡ぎ出した久石譲。本作で出会い、深い絆を結んだという2人の、撮影後初再会という貴重な場に同席したステラが、取材に成功。2人の〈太王四神記〉への思いを聞いた。

 

1年ぶりの再会!

久石:
会いたかった~!(両手を広げて)

キム:
私もとても!(がっちり抱き合う)

久石:
けがをしたと聞いて心配でした。具合はどうですか?

キム:
一度手術(※1)をして、すぐに撮影に戻り、2か月後、再手術をしました。一歩まちがえると、死ぬところでした。久石さんのお顔も見られないところだった。

久石:
僕は、日本で状況がわからなくて、すっごく心配だった。

キム:
お花を届けてくださってありがとうございました。これから久石さんと一緒にやりたい仕事がたくさんあるから、死ぬわけにはいきませんでしたよ(笑)。

久石:
とにかく安心しました。

キム:
はい。

久石:
僕はね、今、字幕版の放送を毎週、見ているんです。

キム:
ということは、まだ最終回まではご覧になっていないんですね。

久石:
はい。音楽を手がけたドラマを毎週楽しみにしてるなんて(笑)。自分で録画予約するのも初めて。

キム:
(笑)感想はどうですか?

久石:
最近、作曲漬けで大変なんですけれども、週に1回の放送が唯一の楽しみになっています。

キム:
久石さんが作ってくださった最高の音楽に見合う作品になっているのか不安に思っていました。

久石:
いや。脚本に苦しんだと聞いていましたけど、人間関係がしかり描かれているし、本当にすばらしい作品。ヨン様もすてきだしね。

キム:
(笑)今回、久石さんにお会いすると話したら、ヨン様、イ・ジア、ユン・テヨン、ほかの俳優たちもうらやましがっていました。みんな、すてきな音楽を作ってくださった久石さんに感謝しているんです。

久石:
そうかぁ。うれしいですね。

キム:
特にヨン様は、自分のテーマ曲をチェロの演奏にしてほしいと言ったんですよね。久石さんはその要望どおりに作ってくださいました。とても喜んでいましたよ。

 

監督念願の久石音楽

久石:
それにしても、ほんとに迫力があって、一話一話が映画みたい。完成して心からおめでとうございますって言いたいです。

キム:
アリガトウゴザイマス(日本語)。苦労もたくさんしましたし、疲れ果てて、もう辞めたいと思ったこともありましたが、そんなときには、いつも、視聴者の方と久石さんの顔を思い浮かべましたよ(笑)。

久石:
(大爆笑)いちばん大変だったことって何ですか?

キム:
台本が遅れてしまい、時間に追われる形になったことです。それから、ヨン様がケガをしてしまったので、終盤は、かなりタイトなスケジュールでした。

久石:
そうか。なるほど……。もう1年前のことになるんですね。ちょうど去年の3月ぐらいにオーケストラを録ったんです。自分でも納得できるいい感じに仕上がってね。あまりに早くできたから、その後、何をしたらいいか考えてしまいました(笑)。音楽はどうでしたか?

キム:
私は、もともと久石さんの作ったアニメ映画の音楽が好きで、よく聴いていたんです。『ハウルの動く城』『となりのトトロ』、それから『千と千尋の神隠し』も好きですね。この作品では、日韓最高の作曲家にお願いしたかった。それで、久石さんに正式に依頼をしたのですが、お忙しい方ですから、まさかOKしてくださるとは思いませんでした。引き受けていただいたときは、天にも昇るような気持ちでした。

 

ぴたりと合った波長

キム:
お会いするまでは、気難しい方だったらどうしようと心配したのですが、すぐに友達になれて、とても心地よく一緒に作業をしていくことができました。2人の少年が出会ったようでしたね。とても幸せでした。

久石:
ほんとですね。やはり韓国の歴史上の人物の作品を日本人の僕が作るということで、できるだけスケール感のあるものをと考えました。同時にラブストーリーでもあるので、そこにいちばん、神経を使いましたね。

キム:
初めて聴いたとき、とても感動したんです。撮影中は、いつも頭の中に音楽を思い浮かべていました。それにしても、久石さんはセットしかご覧になっていない段階で、なぜ、あんなに映像とぴったりな音楽を作れたんでしょうか。一度聞いてみたかったんです。

久石:
(笑)

キム:
私は、2人の間に見えないけれども通じ合うインスピレーションがあったのではないかと思っています。

久石:
ほんと、そうですね。僕もこの曲は、こういう使い方をしてほしいなというのが、そのとおりになっていてね。音楽を生かしてもらったなあって、すごく感謝しています。これはね、多分に生理的に近いところがあって、監督が撮ったリズムと波長が一致していたんでしょうね。それと、監督の演出をちらっと見たときに、その一つ一つのやり方とかテンポに、優しさと激しさが同居していて、これが監督そのものだなと思ったんです。それは自分が持っている体質でもあるから、そのへんのところが合ったんじゃないかな。

キム:
久石さんは、一見、叙情的で穏やかな音楽を作りそうですが、スペクタクルを感じさせるテンションの高い音楽も作られるので、見た目とは違って意外に思いました(笑)。

久石:
そうですか(笑)。

キム:
私は、今回ご迷惑をかけてしまったので、次にご一緒するときは、事前に完成映像をお見せできるようにします。

久石:
でも、事前にキムさんとたくさん話をしたので、意外に早くその世界をつかむことができたんです。自分でも驚くくらいの集中力で、たくさんの曲ができて(※3)。すごくうれしかった。そういえば、去年、コンサートで、〈太王四神記〉のテーマをオーケストラでやったんですけど、お客さんがとても喜んでくださいました。地上波で吹き替え版の放送が始まったから、もっとたくさんの方が見てくださるんじゃないですか。

キム:
韓国では、時代劇は中高年の女性に人気なのですが、この作品は、10代20代が熱狂的に支持してくださいました。彼らは、やはり音楽にも注目しますので、モバイルダウンロードで1位になったんです。久石さんの音楽が韓国の若者に浸透するのに一役買うことができたと思います。久石さん、ますます有名になっていますよ。

久石:
それはうれしいですね(笑)。

 

2人の絆を結んだ1曲

久石:
僕はね、スジニのテーマが印象に残っているんです。あの曲は、実は、ちょっと冒険だったんです。それまでは、僕自身、歴史スペクタクルというとらえ方が強かったかもしれないんだけど、でも、監督はすごく気に入ってくださって。で、そのときにね、あっ、なるほどと思ったんです。このドラマは本当はラブストーリーでもあるんだなって実感したんですよね。わりと早い段階で、監督の目指すところが見えてね。だからとても印象に残っています。

キム:
そうなんです。久石さんが、済州島(チェジュド)にデモテープを持っていらっしゃって、そのとき、私がスジニのテーマを聴いて、「これは、私が考えている雰囲気そのものだ」と思ったんです。100回話し合って、説明するよりも、実際に音楽を聴き、セットや映像を見て、2人の考えが一つになって、あのときがスタートになったと思います。

久石:
うん。あの曲は、戦闘シーンでも使われているしね、自分でも満足していますね。

キム:
ベスト!

久石:
(大爆笑)

キム:
久石さんの音楽は迫力があるので、戦闘シーンでは、エキストラ1万人分ほどの効果があります。エキストラ代を節約してくれてありがとう。

ーここでSSDのスタッフより、「国際映画音楽批評家協会賞・オリジナル作曲賞」を受賞したと韓国からメールが入ったことが告げられるー

(一同拍手喝采)

久石:
ほんとに? すばらしい!

キム:
MBCの演技大賞では、ヨン様の大賞受賞をはじめ、私たちが全体の賞の3分の1を受賞しました。そのときに、ヨン様が久石さんをご招待して、パーティーを開こうと言っていたんです。スケジュールが合わずに実現しなかったのが残念です。

久石:
ぜひぜひやってください。いつでも行きますから!

 

ステラ読者へメッセージ

久石:
キム監督と出会えて、僕自身、一生懸命音楽を書き、今は、一視聴者として毎週放送を見ています。本当にわくわくする内容で、そういう気持ちになるというのは、作品が間違いなくいいという証拠。世界中に共通する、人間のスペクタクルとして、本当に楽しんでもらえると思う作品です。音楽も映像に負けないように一生懸命書いたので、注目してください。

キム:
アジアで最高の作曲家である久石さんと作りました。ペ・ヨンジュンさんのファンの方々、寒い冬も暑い夏も、いつも声援を送ってくださった日本の方々に対して、ありがたい気持ちでいっぱいです。この作品は韓国の物語ですが、韓国ドラマではなく、日本のドラマであると言っても過言ではありません。ぜひ、ご覧いただければうれしいです。可能であれば、一度見て、2度見て、3度見て……いただければ、作品のおもしろさ、そして、音楽の奥深さをさらに感じていただけると思います。ぜひ最後までご覧いただければと思います。

久石:
われわれの3年間のね、努力の結晶ですから。

キム:
その中の90㌫は久石さんの力。

久石:
いえいえ。また済州島に一緒に行きたいですね。

キム:
俳優たちも久石さんいごあいさつできればと思っていますし、仕事抜きで韓国にいらっしゃってください。私も俳優たちを連れて日本に来ます。ベストフレンド! アリガトウゴザイマス!

久石:
今度ゆっくりお酒を飲みましょう。きょうはありがとうございました。

 

※1:監督は、クランクアップの数か月前に、国内を車で移動中、交通事故に巻き込まれ内臓破裂という重症を負った。

※3:久石さんは〈太王四神記〉用に約60曲のオリジナル曲を作った。

(「NHKウィークリーステラ 2008年5/3~5/9号」より)

 

 

太王四神記 オリジナル・サウンドトラック vol.1

 

久石譲 『太王四神記 オリジナル・サウンドトラック 2 』

 

 

 

 

カテゴリーBlog

コメントする/To Comment