Blog. 「CM NOW 1988年 冬号 VOL.19」久石譲インタビュー内容

Posted on 2022/01/24

CM情報誌「CM NOW 1988年 冬号」に掲載された久石譲インタビューです。放映中のCMや出演俳優・アイドルにスポットを当てた雑誌らしい、当時CM音楽を数多く手がけ『α-BET-CITY』や『CURVED MUSIC』にその楽曲たちが収録された久石譲です。CM音楽にフォーカスした貴重な内容になっています。

ただし、話題に上がっている多くのCM楽曲は音源化されていないものもあります。

 

 

最初に画面を見た時のインパクトで音楽全体の70%が決まる
久石譲

リズムにこだわった、音楽作りをしています。

久石さんの手掛けたCM音楽は多く、カネボウ「ザナックス」シリーズ、ゴクミの「スコッチEG」シリーズ、日本生命「ジャスト&ビッグユー(菊池桃子)」、エスノラップの大韓航空、桂三枝がシリアスに決める「ミツカン味ぽん」など、いずれも話題になったものばかり。他にも「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」「Wの悲劇」「漂流教室」「この愛の物語」他の話題の映画音楽や、菊池桃子・井上陽水らの曲のアレンジ等活動範囲は広い。

ー久石さんの音楽、特にCM音楽は、リズムに、特徴がありますね。

久石
「僕はずっと「ミニマル・ミュージック」をやっていた関係で、作曲法も自然にリズムにこだわるようになっていて、普通によくあるリズムでなく、特にCM音楽では「かつて誰も考えつかなかった」新しいリズムパターンを作ってやろうと思い、流行のリズムなどは、できるだけ意識して、使わないようにしてます。

ーCM音楽はどうやって作りますか?

久石
「できあがってきたフィルムを見て、そこに音楽をつけていくやり方が多いです。僕の場合は、画面を見た時のインパクトで、音も70%ぐらい決まります。最初見た時にこのCMは何を伝えようとしているのかということを読みとり、どういう音楽をつければ、それが見ているほうにうまく伝わるかを大事に考えます。

スタジオへ入ると大体5~6時間ぐらいで完成しますね。長くて30秒か60秒の短い時間の音楽を、長い時間試行錯誤して作っても良いものができるとは思わない。特に僕の場合、見る人を画面に引きつけるための、インパクトを大事にしています。インパクトという一瞬の力は、一瞬の集中力で作るべきだと、僕は思いますね。」

ーシンセサイザーをよく使われていますね。

久石
「そうですね。僕は今、フェアライトII、IIIという2台のサンプリング楽器を使ってますが、しょせん音素材にすぎないと思っています。自分の頭の中にある音をうまく伝えることができるので、シンセをよく使っているだけで、例えば自分のイメージにオーケストラが合うと思うと、そちらを使います。とにかく自分が頭の中に描いた音のイメージが最も重要な事だと思います。」

ーアイドルCMも、かなり手掛けてますね。

久石
「そうですね。後藤久美子さんは、最初見た時、すでに彼女が独特の世界を持っていることに驚きましたね。スコッチEGは、白い服と黒い服を着た2種類のCMがあって、普通音楽をつける時トーンと色の関係で、白い服には高いトーンのヴァイオリン、黒い服には低いトーンのチェロを組み合わせるんですが、彼女の持つ異質な雰囲気に合わせて、楽器を逆にしてみたら、成功しました。その時、普通のアイドルとは違うなあと感じました。

菊池桃子さんの場合は、また違ったキャラクターの持ち主で、遠くを見る眼差が印象的でした。その視点もニューヨークなどの大都会じゃなく、遠くのエスニックな世界を見ているようなイメージを受けました。それで、あのエスニックな感覚の音楽を作りました。」

 

過激に時代を超越するような音楽を作りたい。

ー一番印象深いCM音楽はなんでしょう。

久石
「カネボウの「ザナックス」のCMですね。これは、今までに3本シリーズで作っていて、全部メロディーは同じなんですけどアレンジを商品に応じて少しずつ変えています。最初にゆっくりとした部分があって、途中から、ティンパニが鋭角的なリズムを刻んでゆくという展開になっています。

このCM音楽の発想は、郷ひろみさんのかっこよさが、まずインパクトとしてあって、あとザナックスのロゴは、角張った文字で構成されてるんだけれど「その角張ったイメージを音で表現できないか」というディレクターの注文の2つの要素でできています。」

ーこれからの活動の予定は

久石
「実は夏頃からCMの仕事は減っています。映画等の大作モノを何本か並行して受けてしまって、時間がなかったのと、もう一つは、今のCMがあまりおもしろい状況ではなかったということです。

休みたいという理由は、現在のCM音楽の傾向は保守化してて商品も高級化志向が強く、車でも「ビッグオーナーカー」と呼ばれるものが出てきた。そういう商品に、過激な時代を超越するような音楽は必要なくてクラシックやきれいな音の方が好まれるんです。僕はそういう音楽は作りたくないので休んでいましたが、また少しずつ時代の流れも変わってきたという感じなので、11月から再び積極的にCMの仕事もやりだしています。

あと、チェリストの藤原真理さんと、「風の谷のナウシカ」の映画音楽をチェロとピアノ用に編曲した「ナウシカ組曲」やパブロ・カルザス作曲「鳥の歌」のピアノパートを作曲し直した作品を収めたレコードをリリースする予定です。クラシックのスタンダードを作ろうとする試みの第一弾です。」

(「CM NOW ’88 WINTER」より)

 

 

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