Blog. 映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説(7)~ワラワラ・炎の少女 ほか~

Posted on 2024/08/17

つづけて、アルバムを聴いてみましょう。

 

Track.
16. 箱船

神秘的な世界への場面転換をシンセサイザーやエスニックなパーカッションを導入することで演出しています。久石譲らしい音色パレットはファンタジーらしさいっぱいです。

『千と千尋の神隠し』(2001)の「神さま達」で船に乗って登場するシーンにもボーンと響く打楽器が鳴っていました。

 

 

Track.
17. ワラワラ

前島:

「本作のスコアの中でもとりわけユーモラスな音楽として書かれた、ワラワラのテーマ。日本の観客ならば、メロディの曲調から日本の伝統的な「わらべ歌」を即座に連想するであろう。宮﨑監督がワラワラというキャラクター名を「わらべ」から発想したと仮定するならば、久石がそのテーマとして一種の「わらべ歌」を作曲したのは、非常に納得がいく。メロディの合間に聞こえてくるサンプリング・ヴォイスの掛け声も、おそらくはこの曲の「わらべ歌」な性格を強調するための隠し味であろう。ベートーヴェンの《月光ソナタ》を思わせるアルペッジョで始まる《転生》は、《ワラワラ》と全く異なる詩情豊かな音楽として書かれているが、熟したワラワラたちが夜空に飛び始めると、ワラワラのテーマが断片的に聴こえてくる。」

 

 

楽しいわらべ歌のような曲想がキャラクターに愛らしさを与えている一曲です。神秘的なオリエンタリズムに溢れていますが、本作で聴くことができるミニマルは西洋的なものから日本的なものまであります。ことオリエンタルなミニマリズムでいうと、久石譲は先駆者の一人として常に進化を続けてきました。日本を代表するミニマル作家は今さらに世界へ発信しています。

『となりのトトロ』(1987)の「メイとすすわたり」はピグミー族の声をエディットしたものです。『もののけ姫』(1997)の「黄泉の世界」、『千と千尋の神隠し』(2001)の「神さま達」、『ハウルの動く城』(2004)の「サリマンの魔法陣」、『かぐや姫の物語』(2013)の「天人の音楽」、久石譲がそれぞれに多彩なサンプリングボイスを込めた曲たちです。そこには神聖なもの霊的なものが表現されていると感じています。生命、魂を宿しているものたち。ワラワラのサンプリングボイスはどこからきたのでしょうか。

 

Scene 01:00:55 / Track 17. ワラワラ

 

 

Track.
18. 転生

シンセストリングスも融合しながら紡ぐピアノは、暖かくやわらかい響きに包まれています。繊細な音の強弱やテンポの揺らぎからくる久石譲らしいピアノのニュアンスとたゆたう調べは、生まれる前から知っていた心地よさに安らぎを憶えます。ストリングスの下から上への二音の繰り返しは、高く高く昇っていくことを誘導しているようです。ワラワラのモチーフも登場し、ここまでの三曲は神秘的なシーンを印象づけています。

 

Scene 01:07:00 / Track 18. 転生

 

 

Track.
19. 火の雨
25. 炎の少女
27. 回廊の扉

久石:

「やっぱり人の声を使うとより観る人に強く響く。なので、たくさん使うんではなく効果的なところに使いたい。今回の場合はヒミというキャラクターがとても重要で、そんなにたくさん出てくるわけではないんだけども、とても特別な部分を占めてると思ったので。ここにコーラス、それも女声コーラスを使う。わりと感覚的にそれがフィットするだろうと使いました。」(出典:2024年1月30日公開/DVD映像特典収録 久石譲インタビュー動画より)

 

前島:

「ヒミのテーマに基づく音楽だが、女声コーラスの歌声(歌唱は麻衣&リトルキャロル)が端的に示しているように、母性そのものを象徴した音楽と捉えるのが自然である。」

 

 

変幻自在な変拍子です。「火の雨」では、ストリングスの旋律の動きに合わせてスネアが重ねられています。音楽的に分厚くならなくても迫力や立体感を与える久石譲音楽の一手です。「炎の少女」では、メロディを歌うコーラスの3拍子とバックのオーケストラは4拍子という巧みなポリリズムを聴かせています。ものすごく複雑なことが起こっています。ミニマルはリズムもズレたり変化したりと、どこに集中して聴くかでがらっと表情が変わります。火を操るほどのリズムトリックは、聴くたびに面白い躍動感が迫ってきます。

 

Scene 01:08:35 / Track 19. 火の雨

 

Scene 01:23:55 / Track 25. 炎の少女

 

Scene 01:28:45 / Track 27. 回廊の扉

 

 

Track.
20. 呪われた海

本作サウンドトラックで唯一本編と差異のある一曲です。老ペリカンのシーンに使われているのは曲冒頭から約1分半まで、そして音楽無しでカットは少し進んで飛んで曲終部が使われています。サウンドトラックの中間部は本編未使用です。もともと一曲として出来上がっていてそのまま収録したのか真意は謎ですが、呪われた海を表現するのに充実した収録です。

 

Scene 01:10:40 / Track 20. 呪われた海

 

 

次回は、つづけてアルバムを聴いてみましょう。

 

 

映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説

(1)イントロダクション
(2)方法論
(3)方法論 継
(4)Ask me why
(5)白壁・聖域・祈りのうた
(6)青サギ・黄昏の羽根 ほか
(7)ワラワラ・炎の少女 ほか
(8)追憶・陽動 ほか
(9)眞人とヒミ・大伯父 ほか
(10)ネクストアップ

 

 

引用元:

  • 久石譲「宮﨑さんが行こうと思っているんだったら僕もそこに行く。こんなの見たことないよねということを、一緒にやると決めたんです」スタジオジブリ『熱風2023年10月号』
  • 久石譲「宮﨑さんのすべてがつまった映画」東宝『君たちはどう生きるか ガイドブック』
  • 前島秀国 ライナーノーツ 徳間ジャパン『君たちはどう生きるか サウンドトラック』アナログ盤
  • スタジオジブリ作品静止画『君たちはどう生きるか』場面写真 STUDIO GHIBLI

そのほかの引用については個々に注釈をつけています

 

 

映画『君たちはどう生きるか』
The Boy and the Heron

原作・脚本・監督:宮﨑駿
プロデューサー:鈴木敏夫
制作:スタジオジブリ ⋅ 星野康二 ⋅ 宮崎吾朗 ⋅ 中島清文
音楽:久石譲
主題歌:米津玄師

上映時間:約124分
配給:東宝
公開日:2023.7.14(金)

 

(関連リンクはこちらにまとめています)

 

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