Blog. 「LUCi ルーシィ 2007年4月号」久石譲×SHIHO 対談内容

Posted on 2021年8月31日

雑誌「LUCi ルーシィ 2007年4月号」に掲載された久石譲対談です。「SHIHOのドキドキ♥対談」コーナーです。当時発売されたアルバム『Asian X.T.C.』などのエピソードを中心に話は進みます。

 

 

SHIHOのドキドキ♥対談

今回のゲスト
音楽家 久石譲

宮崎駿監督の映画音楽をはじめ、CM音楽、コンサート活動などでも活躍する久石譲さんが今月のゲスト。有名な曲をつくった時の裏話や久石さんの人となりなど、じっくりとうかがってきました。

SHIHO:
はじめまして。今日はよろしくお願いします。

久石:
こちらこそ。もうこの対談はずいぶん長くやっているんですか?

SHIHO:
4年近くになります。

久石:
いいですね。素敵な人ばかりにお会いできて。なぜ僕が呼ばれたのかは、よくわからないけど(笑)。

SHIHO:
何をおっしゃいますか(笑)。私、テレビはほとんど見ないのに、最近テレビをつけると必ず久石さんの音楽が目や耳に入ってくるんです。本屋に行っても久石さんの記事に目がいったり。とにかくすごいです!

久石:
そうかな。そんなに仕事してないと思うけど(苦笑)。

SHIHO:
宮崎駿監督や、北野武監督の映画音楽を手がけていたり。絶対に誰もが耳にしたことのある音楽ですよね。

久石:
ありがとうございます。

SHIHO:
仕事のペースは、あまり変わらないんですか?

久石:
そうですね。1年を通して映画を何本かと、自分のアルバムをつくって、それを持ってツアーを回る。あと、最近は新日本フィルとやっている「新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ」の音楽監督もやっているから、それでコンサートを回ったり。コンサートの量は確かに増えていますね。

 

完成図が見えていたら、モノづくりは面白くない

SHIHO:
人の心に残る仕事って、簡単にできることじゃないと思うんですが、どうしてできるんですか?

久石:
どうして…って(笑)。たまたま目の前にある仕事を一生懸命やったら、その結果としてついてきたという感じかな。

SHIHO:
今あることを…ですね。

久石:
自分が書いたものをいちばん最初に聴くのは、自分ですよね。だから、まず自分が喜べる、興奮できるものを書こうということはいつも考えていますね。自分が興奮できれば、周りにもその気持ちが伝わるし、ひいては観客にも伝わる。

SHIHO:
何もないところから、どうやってつくり始めるんですか? たとえば、昨年出されたアルバム『Asian X.T.C.』もすごくよかったです。

久石:
自分のアルバムは、ほぼ毎年出しているんだけど、毎回、”自分にとっての次の大事なテーマは何か?”を考えるんです。このアルバムをつくる前は、韓国映画の『トンマッコルへようこそ』や、中国映画、香港映画の依頼が同時に来たんですね。その時に「あれ?」と思って。

SHIHO:
アジアが来てる、と(笑)。

久石:
うん。前にスケジュールが合わなくてお断りしたものもあるけど、今回は3本同時に来ちゃった。じゃ、3本まとめてやろう。アジアの風が吹いたぞと。

SHIHO:
流れに乗ったんですね。

久石:
そう! 僕、「流れ」はすごく大事にするから。次の自分のアルバムはアジアをテーマにするべきだと思ったの。

SHIHO:
そういう流れなんだ、と。

久石:
うん。でも考えたら、僕がやっているピアノとかオーケストラって、ヨーロッパのもので、アジアのことはビックリするぐらい何も知らなかった。そこで、ヨーロッパとアジアとの違いはなんだろうと考えた時に、考え方だと思ったのね。

SHIHO:
はい。

久石:
キリスト教もしかりだと思うけど、ヨーロッパの文化では、善はいいもので悪は悪いもの。排他的な発想なのね。でも日本の仏教は、南無阿弥陀仏と唱えれば、誰でも救われるとされる。バリ島のケチャダンスにいい神と悪い神が出てくるのも、悪いものがなければ世界は成立しないという考え方だからなんですね。

SHIHO:
表があれば裏がある。光があるから陰がある。陰陽ですね。

久石:
そうそう。それはヨーロッパ的ではないから、そこをテーマにしたらつくれるなと思って。で、アルバムの前半は明るい陽サイド。後半は陰サイドとして、明確に分けちゃった。これでアジアの二面性みたいなものが出ればいいなと。

SHIHO:
そう! 後半ちょっと怖い感じになるんですよね(笑)。そういうテーマって、どの作品にもあるんですか?

久石:
やりながら…。

SHIHO:
できていく…?

久石:
そう。地図が全部見えていたら、ものってつくれないと思うんです。つまり、すべてが見えていたら面白くない。こっちに行ったら何かあるんじゃないかなと思って進むうちにだんんだん見えてきて、「そういうことだったんだ!」と、最後にやっと到達するというのかな。

SHIHO:
絵描きがキャンバスに向かって絵を描きながら方向を定めていくような感じなんですね。

久石:
そう。で、終わったあとにたくさんインタビューを受けると、最初からそう考えていたような気持ちになると(笑)。話をするうちに、自分のなかの考えがまとまっていくことは多いですから。だから、よどみなく話している時は、なんだかインチキ臭いぞ、答えが定型化されているなと思ってください(笑)。

SHIHO:
アハハハ。じゃ、実際の「つくり始め」は、ピアノに向かってとにかく弾いてみることから始めるんですか?

久石:
そうですね。弾きながら、こういうフレーズがいいなと思う時もあるし…。コマーシャルの時などは、イメージがあるだけでもいいです。「ほんわかしているけど、尖った感じのアプローチ」とか、輪郭だけでも見えるともう大丈夫。

SHIHO:
へえ。本木雅弘さんと宮沢りえさんが出ているサントリーの有名な「伊右衛門」のCM音楽の時は?

久石:
あれは、中国で言えば黄河のような、すごく大きな河がとうとうと流れているような音楽をつくろうと。商品と絵コンテだけだったけど、それを見ていたら、たっぷり水があって、ゆったりと流れる大河のような浪浪としたメロディーを、大人数のストリングオーケストラが全員で演奏するというアイディアがひらめいて。そこに、画面に寄り添うような静かなピアノの旋律を乗せようと考えたのね。

SHIHO:
あぁ、今すぐあのCMを見て、大河の流れを感じたい!(笑)

久石:
アハハハ。

SHIHO:
でも、すごく漠然としたイメージからつくり始めるんですね。

久石:
刺しゅうをやる時って、最初に柄の中心から針を入れていくんだって。それを仕事に置き換えると、映画を1本やる場合、30曲とかすごい量の曲を作るんですね。でも、ただ雑多に書いていってはダメで、中心となる顔の部分をきちんと決めないと、全体がよくならない。映画で言うなら、メインテーマですよね。

SHIHO:
あ! いちばん表現したいことは何か?ということですね。

久石:
うん。「この映画なら、これ」みたいなもの。アルバムでも、中心になる曲があるわけです。でも、その曲がアルバムのメインの曲だとは限らないのね。『Asian X.T.C.』で言うと…。

SHIHO:
ど、ど、どれですかっ?

久石:
(笑)最後に入っている「Dawn of Asia」ができた時に、「このアルバムがつくれるぞ」という確信がもてたんですね。で、結果的にこのアルバムのなかでいちばん実験して、最も大切にしているのが「Monkey Forest」という曲かな。

SHIHO:
いつ頃できたんですか?

久石:
「Dawn of Asia」が最初にできて、「Monkey Forest」が…最後のほうかな。

SHIHO:
へえ…。曲順は「Monkey Forest」のほうが先だけど、このアルバムは「Dawn of Asia」に始まり、「Monkey Forest」に終わるんですね(笑)。

久石:
そう。

SHIHO:
よく聞かれることかもしれませんが、創作のアイディアがなくなるかもしれない不安って、久石さんんいも浮かんだりしますか?

久石:
しょっちゅう(笑)。あ、もう今日これで終わりかなって。1時間に1回は考えますよ。もうダメだぁって(笑)。

SHIHO:
い、1時間に1回? 1日に何度も感じるっていうことですか?

久石:
そういうこともありますね。曲をつくっている時じゃなくても。でも、ちょっといいのが浮かんで、バッと書けるじゃない。そうすると「すごい…。やっぱりおれって天才」って(笑)。

SHIHO:
極端ですね。そんなものなんですかね(笑)。

久石:
そんなものだと思います(笑)。最近、インプットする時間があまり多くないんですよ。アウトプット、つまり出しっぱなしだから(笑)。少し気になるよね。

SHIHO:
久石さんにとっての、ベストなインプットの方法って?

久石:
暇なこと(笑)。年に1か月とか2か月とか、暇な時間があったほうがいい。

SHIHO:
へえ。

久石:
仕事がないと焦るじゃない。おれはこのまま終わっちゃうんじゃないかって。それで2か月ぐらい暮らしてごらん。人生変わりますよ。真剣になる。

 

「久石譲」の名前をもらったのは…!?

SHIHO:
でも…ここ最近、暇な時なんてありました?

久石:
去年の1、2月は入っていた映画が飛んだので、2か月間、毎日CD聴いて、本読んで、映画見て…。仕事ばかりで切れてしまっていた友達を片っ端から誘って、飲んで、友達活動にいそしむと(笑)。そうしているうちに、やらないといけないことが見えてくるの。だから、何もしない1か月ってあったほうがいいと思う。ヨーロッパの人たちが…。

SHIHO:
あ、休暇に1か月ぐらい行きますよね。

久石:
ね。あれってすごく大事だと思う。休みなんて、取ることないでしょ?

SHIHO:
私、結構取りますよ。週に1日半と、2か月に1回は1週間休むようにしているんです。

久石:
あ、いいなぁ(笑)。

SHIHO:
でも…その時間をボーッと過ごすのか、目的をもって過ごすかで違ってきませんか?

久石:
いや…。ボーッと…。

SHIHO:
するのもいいのかなぁ。私あんまりボーッとできない性分なんです。

久石:
あ、そういうタイプ?(笑)

SHIHO:
ハイ、まさに(笑)。オフの日でもスケジュールはすごいですよ。午前中は何をして、お昼は何をして、午後は誰に会って何をする、みたいな。1分1秒も無駄にしない(笑)。

久石:
アハハハ。それじゃ全然オフにならないじゃない(笑)。

SHIHO:
それを最近やっと変えたんです。1日中家にいることが、やっとできるようになって、悪くはないな、と(笑)。本を読んだり、料理をしてみたり。

久石:
料理はいいですよね。僕はあまりやらないけど、曲ってああいう瞬間に浮かびやすいんです。

SHIHO:
料理をやらない久石さんは、どういう時に曲が浮かぶんですか?

久石:
トイレ、風呂場、ベッドの上(笑)。起き抜けや、夜寝ようとしている時とか。「つくろう、つくろう」としている時っよりも、フッとした時に浮かぶんです。いちばん多いのは、仕事場に行くまでの車の中ですね。そのへんの紙やメモ帳にバッと五線を引いて、頭の中に浮かんだ2小節とかを音符で残す。これがいちばん曲になりやすいんだよね。

SHIHO:
そういえば…久石さんのお茶目な話を聞きました。音楽で表舞台に立つなら、名前をそれなりのものにしないといけないって…。クインシー・ジョーンズをもじったんですって?

久石:
くいし・じょー、久石譲(笑)。スタジオのバイトをしている時に、尺八吹いてる友人と名前を変えようかなぁって飲み屋で話してて(笑)。そいつが「映画音楽とかやってる好きな作曲家、いない?」って言うから、『スパイ大作戦』の音楽をやってたラロ・シフリンって言ったの。それを漢字に当てはめたら、「裸」に風呂の「呂」…。語呂が悪いからこれはやめよう!って(笑)。

SHIHO:
アハハハ。

久石:
で、結局さほど心酔していたわけではないけれど、ブラックコンテンポラリーでは気に入っていたクインシー・ジョーンズになって。で、久石譲。「いいんじゃない? これで!」って(笑)。音大3年生の時に、友達と飲みながらいい名前はないかあなとノリで決めたんです(笑)。

SHIHO:
カンタ~ン(笑)。

久石:
ね(笑)。

SHIHO:
子供の頃からクラシック音楽を聴いていたんですか?

久石:
子供の頃は、なんでも聴きました。絶えず歌っているか、楽器を弾いている子供だったので、「職業」として音楽を選んだつもりはなく、やるのが当たり前だと思っていましたね。それ以外のことは考えたことがないぐらい。

SHIHO:
親の職業とは関係なく?

久石:
まったく。父親は高校の化学の教師でしたから。

SHIHO:
やっぱり好きなことを伸ばしてあげたほうがいいんですね。

久石:
大学を卒業してからは、24歳から33歳ぐらいまで、仕事はなんでもやりましたよ。テレビや記録映画の音楽、レコーディングのアレンジ…。アレンジはすごい量をやりましたね。あまり知られていないけど、「ダンスはうまく踊れない」「飾りじゃないのよ涙は」が入ってる井上陽水さんのアルバム『9.5カラット』は、僕がアレンジしているんです。

SHIHO:
でも、その後、幅広いお仕事のオファーが来るようになって…。それがすごいですよね。すべて自分からアプローチして勝ち取ったんですか?

久石:
いや。この仕事は絶対に取るぞと決めると、来るの。なんの根拠もないのに、友人とかんいは次はこれをやる!とは言いますよね。だから、自分で「こうなりたい」と思ったら、口に出して言ったほうがいいって。

SHIHO:
ホントですね。そういえば、また映画音楽をやられているとか…?

久石:
中国の有名な役者さんで、監督もやってるチャン・ウェンという人の映画音楽を手がけています。あと、ペ・ヨンジュさんが出る韓国ドラマの音楽をやるので、韓国に打ち合わせに行ったり。

SHIHO:
「アジアの風が吹いてる」って予測したとおり、ビュービューに吹いてますねぇ(笑)。

久石:
映画でもなんでも、いい作品に出合うには自分のテリトリーを広げないと。

SHIHO:
そっか…。私も頑張ります。今日はどうもありがとうございました!

久石:
こちらこそ、楽しかったです。

(「LUCi ルーシィ 2007年4月号」より)

 

 

 

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