Posted on 2014/2/1
文藝春秋 2014年2月号 にてスタジオジブリを代表する三人の鼎談(ていだん)が掲載されています。スタジオジブリ創設から今日までを担ってきた、高畑勲監督、宮崎駿監督、鈴木敏夫プロデューサーです。「スタジオジブリ 30年目の初鼎談」と題する内容です。
2013年の映画「風立ちぬ」(宮崎駿監督)、映画「かぐや姫の物語」(高畑勲監督)の公開、そして宮崎駿監督の引退宣言。二人の巨匠と名プロデューサーが三時間にわたって語り合った作品のこと、この国のこと。こういった見出しで始まります。
そもそも「鼎談」という言葉が読めなかったのですが…「鼎談」とは「ていだん」と読みます。その意味は「三人で語り合うこと」をさすようです。
とてもおもしろい内容でした。
宮崎駿監督が、高畑勲監督の「かぐや姫の物語」のことを、高畑勲監督が、宮崎駿監督の「風立ちぬ」のことを、それぞれ鋭い視点と、お互いを熟知しているからこそ本音を語っているわけです。
「そういうところを見ているのか」と、その細やかな着眼点にただただ驚かされます。お互いの作品を批判する、口を出す、というよりも、尊重したうえで、自分の意見や疑問点をぶつけるといった内容でした。
宮崎駿監督、高畑勲監督のそれぞれの個性や特長、仕事の進め方や考え方の違いが、お互いが話すからこそ見えてきて、とてもおもしろかったです。
また昔のディズニー映画黄金期と言われる頃の(『101匹わんちゃん』や『風車小屋』という作品が登場します)ディズニー作品に受けた衝撃を、とてもリアルに語り合っています。
様々な革新的な試みが行われていた、鉛筆線をペンでトレースする方法から、ゼロックスによるコピーに切り替えた、マルチプレーンカメラという奥行きの出るカメラで撮影して、独特の効果を出している、
などなど、専門分野以外の人にはなかばちんぷんかんぷんな内容ですが、語り合っている熱は感じることができました。
そうやってディズニーは革新的な方法をまずは短編映画で実験し、そのあとに長編映画で使うという手法をとっていたようです。
そのやり方は、宮崎駿監督にも言えることで、三鷹の森ジブリ美術館で上映される短編映画では、いろいろな実験的な試みをしているようです。そういえば、映画「風立ちぬ」の効果音は、「人の声」ということで話題になりましたが、それも2006年の短編映画「やどさがし」ですでに試みて実験しています。当時、三鷹の森ジブリ美術館に行ったときに、この作品を見たのですが、タモリさんと矢野顕子さんが、その効果音をされていたのを覚えています。
話は、その効果音のことから、映画「風立ちぬ」での話題になります。ここに久石譲さんも関連しますので、少し本文を抜粋紹介します。
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高畑 「『風立ちぬ』では零戦のプロペラ、機関車の蒸気、車のエンジンの音を、声で表現していましたね。」
宮崎 「今、零戦のエンジンを録ろうと思っても、音がないんです。今の飛行機を使っても、昔のエンジン音ではないし、ロクなものが録れない。再現するのは無理だから諦めて、声でやってしまおうという発想でした。マイクとスピーカーを上手く使えば相当色んな音が出るし、そっちのほうがいいと思ったんです。」
高畑 「あれは聞いていて面白かった。単なる音じゃないんですね。やっぱりそこに人間味が感じられるんですよ。特に効果的だったのは、エンジンの爆音や関東大震災の地響きの音。「鳴る」という言葉には、神の怒りに通じるものを感じるけれど、そういうものは人間の声を通すことによって、非常に効果的に表現できていたと思う。」
鈴木 「興味深かったのは音楽を担当した久石譲さんの指摘でした。効果音は音楽の邪魔にならないけど、人間の声でやると音楽でぶつかる、というんです。つまり、声で入れた効果音って一種の音楽でもあるんですね。」
宮崎 「あれは鋭い指摘でしたね。だから音楽とぶつからないよう、タイミングをずらしたり、音量を調整したり。『風立ちぬ』で関東大震災を描いたのですが、地響きの音って何だろうと。東日本大震災が起きたとき、自分のアトリエで、じっとどういう音が聞こえるのかと耳を澄ませていたのですが、戸棚から物が落ちる音だけがやたら響くだけで、すごく静かだった印象があるんです。」
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とても興味深い、制作秘話です。
ほかにもこの鼎談では、高畑勲監督と宮崎駿監督が関わった『赤毛のアン』や(新世紀エヴァンゲリオンシリーズ監督の)庵野秀明監督が熱望している『風の谷のナウシカ』続編構想、このふたつの作品から、なんの話を力説しているかといえば、「アニメーションの線、線の力、線の存在感や生かし方」、そんなディープな話が繰り広げられています。
最後に鈴木敏夫プロデューサーから巨匠ふたりへのとっておきの質問が。以下そのまま引用します。
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鈴木 「最後に聞いてしまいますが、お二人は、お互いの作品で何が一番好きなんですか?」
高畑 「僕は『となりのトトロ』が一番好きですね。」
宮崎 「『アルプスの少女ハイジ』ですね。僕も参加したし、他のスタッフも努力したけれど、やはりあれは高畑勲が作り上げたものですよ。もっとちゃんと評価されてしかるべきものなのに誰も評価していないから、頭に来ているんですよ。」
高畑 「僕のことはどうでもいいんだけど、『ハイジ』は「天の時、地の利、人の和」、この三つがすべて揃った。」
宮崎 「一生涯に一度あるかないかのことですよ。でもスケジュールはむちゃくちゃで、今日、外注の仕事を回収しなければ間に合わないという日に大雪が降った。タイヤのチェーンが買えない、どうしようと大騒ぎしたこともありました。でもああいう作品に出会えてよかったですね。」
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さすがスタジオジブリを支えてきた三人の贅沢な鼎談です。11ページにも及ぶお三方の話は各界から注目されているだろうな、と思います。まだまだ現在進行形な創作意欲をこのお三方から感じるのは、私だけでしょうか。
この鼎談をじっくり読んだ方なら誰しも、その「創作意欲の貪欲さと若さ」に圧倒されると思います。ぜひ2013年の “ジブリ・メモリアル・イヤー” を総括、振り返る意味でも、興味のある方は「文藝春秋 2014年2月号」を手にとってみてください。またジブリ作品が観たくなる、そんな内容になっています。