Blog. 久石譲 「もののけ姫」 インタビュー ロマンアルバムより

Posted on 2014/11/9

1997年公開 スタジオジブリ作品 映画『もののけ姫』
監督:宮崎駿 音楽:久石譲

映画公開と同年に発売された「ロマンアルバム」です。インタビュー集イメージスケッチなど、映画をより深く読み解くためのジブリ公式ガイドブックです。最近ではさらに新しい解説も織り交ぜた「ジブリの教科書」シリーズとしても再編集され刊行されています。(※2014.11現在「もののけ姫」は未刊行 2015年以降予定)

今回はその原本ともいえる「ロマンアルバム」より、もちろん1997年制作当時の音楽:久石譲の貴重なインタビューです。

 

 

「こんなに全身全霊をかけて理解しようとしていて、まだどこか判っていないような感覚がつきまとう仕事というのは初めてですよ。」

「宮崎さんとは、めぐりあわせ、のようなものを感じますよ」と久石譲さんは言った。『風の谷のナウシカ』(84年)、『天空の城ラピュタ』(86年)、『となりのトトロ』(88年)、『魔女の宅急便』(89年)、『紅の豚』(92年)、そして『もののけ姫』。久石さんが宮崎駿監督作品の音楽を手掛けるのは、これで6作目となるのだが、どんな”めぐりあわせ”が…!?そして、実は同じ頃、宮崎監督も、「これはもう、さだめですね」と言っていたのである──。

 

宮崎さんの精神世界と登場人物の気持ちを表現した

スタジオジブリ作品では、劇場公開の約1年前に、「イメージアルバム」が作られる。『もののけ姫』も96年7月、久石さん作曲、プロデュースにより発表された。しかし、それと実際に映画の中で使われた音楽とでは、ずいぶん異なっているようだが。

久石 「今までの作品は、イメージアルバムの段階で既に、作品のテーマが出ていたと思うんです。でも、今回は全然別ですね。イメージアルバムから残っている曲は、重要なやつを数曲…メインテーマの『もののけ姫』と『アシタカせっ記』、エンディングシーンに使う『アシタカとサン』。それ以外はほとんど変わりました。イメージアルバムというのは、絵がない状態で作品の世界を表現しようとしますよね。『もののけ姫』は、ストーリーがあまりにも劇的で強烈じゃないですか。だから、それを音楽で表現してしまったところがある。大作映画の力感のようなものを主眼において作ったわけです。ところが、実際に映画のなかで使う音楽を作ろうとしたときに、そういう部分は映像で十分表現されているから、登場人物の気持ちや宮崎さんの精神世界を表現しようと思ったんです」

『もののけ姫』の場合、映像と音楽の関係が、今までの作品とは特に異なるということなのだろうか。

久石 「たとえば、映像では戦闘シーンをやっていたとしても、登場人物たちの気持ちとしては、実は止むに止まれぬことがあるとか、押し殺している感情があるとしたら、そっちの気持ちを表現していくのが今回の音楽では最も重要だと思ったんです。でも、こういうスタンスって、『もののけ姫』だったからとしか言いようがないね」

確かに今回の物語は、葛藤や思惑…登場人物のの感情がとても複雑である。そして、沈黙も多い。

久石 「そういう精神的なことというのは、セリフでいちいち説明するものじゃないでしょう。”私はこんなに大変なんです”なんて言えない。でも、そこに音楽が流れることによって、その人物の複雑な気持ちというものが表現できるんですよ。そういう意味でいうと、今回の音楽は、『もののけ姫』に託した宮崎さんの思いに寄って作っているという感じなんでしょうね。だから今までの作品とはアプローチが変わったという気がします」

そしてもう一つ、今回特に気をつかったことがあるという。

久石 「実は、映画に一番近い構造を持っているのは音楽なんです。どちらも、時間の軸の上に作る建築物である、と。似ているために、僕らはどうしてもすべてを音で表現したくなっちゃって、つけすぎてしまうという危険があるんです。たとえば、ふっと誰かの表情が変わったりとか、映像がそういう繊細な動きをしている時に、音楽がドーンといってしまうと、単に”活劇”みたいな感じで一気に先に行ってしまう。映像と音楽が似ているがために生じる”音楽が持っている怖さ”ですね」

音楽が持っている怖さ。「登場人物の気持ちや宮崎さんの精神世界を表現しようと思った」という今回は、いつにも増して、その部分が出ないように気をつかったのだそうだ。

久石 「だいたい、日常生活の中で音楽なんて鳴らないでしょう。誰かが冗談言ったら、チャチャチャとか音楽が鳴るわけじゃないし(笑)。それがとたえ映画の中であっても、音楽が鳴るというのは本当は不自然なんですよ。すごく不自然だと、いつも思ってる。でもそれを、不自然じゃないところできちんとして、しかも、控えめにやるというのではなく、別の意味でのリアリティを映画の中で構築したいと思っているんです」

 

宮崎さんとの不思議なめぐりあわせ

今回、久石さんは、ラッシュフィルムに一度音楽をつけたものを宮崎監督とのディスカッションの場に出している。その話に触れると、「あれはミスッたね(笑)。やるんじゃなかった」と言って、ちょっと苦笑い。

久石 「今までは、オーケストラを録る時に来てもらって、”これでどうだ”っていう感じでやっていたんです。でも今回は、効果音も何も入っていない状態で音楽だけかぶせたビデオを作ってわたしたんですよ。そんなものを何度も聴いていたら、宮崎さんとしてはいろいろ変更したくなるじゃないですか。戦法としてはしくじったなと思っているんですけど(笑)。」

しかしそれは、映像と音楽をうまく調和させるための、より慎重な方法論をとった、その一つであるようだ。

久石 「今回の作品は、今まで自分がやってきた音楽の作り方や考え方ではやり切れないだろうという予感があったので、やり方を全部変えちゃったんです。そうしないと、もう一つ上にいけそうにない気がして…。なんてバカな真似をしたんだろうと思うんですけど(笑)。でも、そのチャレンジがあったから、今までとは違う表現になれたような気がするところがありますね」

一般に”久石節”といわれるようなものを破ろうという気持ちもあったのだろうか。

久石 「(笑)。いや、でもね、確実に変わりましたよ。去年、パラリンピックのメインテーマを作った頃から、日本的なものとか、五音音階の音の響きをものすごく意識していて、それがここ2~3年の僕の最大のテーマなんです。『もののけ姫』は、それに見事に乗った。なんか宮崎さんとは”めぐりあわせ”というのがあって、『紅の豚』の時もそうだったんですが、やろうとしていることが不思議なくらい似てくるんですよねぇ。」

久石さんが言う”めぐりあわせ”、宮崎監督が言っていた”さだめ”とは、こういうことだったのだ。

久石 「この時代に自分が曲を作っていくときに、単にきれいなメロディを書こうとか、そんな意識はあまりないんですね。何が今、自分にとって課題なのかということが肝心なのであって。そういう僕自身の節目節目に、宮崎さんはなぜかいつもいて、僕が自分なりの音楽活動をやってきていても、宮崎さんとやるときに、その節目ですごく苦しむわけ。でも、それが終わった瞬間、二つぐらい音楽的なハードルをちゃんと越えられるんですよね。そのときに、自分が今の時代を歩んで、自分なりの課題を追求していなかったら、絶対に応えられないじゃないですか。それから、変な話なんですが、『もののけ姫』で6作目なんだけど、まるで初めてやるような感じがするんですよね。こんなに全身全霊をかけて理解しようとしていて、まだどこかわかっていないような感覚がつきまとう仕事というのは、初めてですよ。腹八分目でこなそうなんて真似は絶対にできない。そういう作品でしたね」

(もののけ姫 ロマンアルバム より)

 

 

本格的なオーケストラ曲を書くことになった本作品は、久石譲の音楽活動・作曲活動において大転換点と言われています。フルオーケストラによる作品がこれ以降増えていくことになります。

同時に作曲に際して、クラシックのスコアを改めて学びだしたきっかけであり、後に指揮活動、そしてクラシック音楽のコンサート活動などへと発展していきます。

2014年現在の久石譲の音楽活動スタイルとなっている”作曲家”というもっとも大切にしている肩書きがあるうえでの『オーケストラ 指揮者 クラシック』というキーワードは、実はこの1997年の『もののけ姫』という作品によって進化していった延長線上です。

 

このことについては、こじつけでもなく、2014年2月発売「クラシックプレミアム 2」内のエッセイでも久石譲自身が語っています。

最後にこれを紹介します。

 

クラシック音楽を指揮するようになるまで

「映画音楽を書きだすと、はじめはシンセサイザーを使っていたのだが、だんだん、弦楽器やオーケストラなど生の楽器を使う機会が増えてきた。特に『もののけ姫』(1997年公開)のころから、フルオーケストラで映画音楽を書くようになった。フルオーケストラの見本はクラシック音楽にたくさんあった。多くの作曲家が命をかけて作った交響曲など、長い年月のなか生き残ってきた名曲が山ほどある。そこにはオーケストラ曲を書くためのコツ、秘密が満載されていたのだ。大学時代にクラシックをもっと勉強しておけばよかったと、つくづく後悔したものだ。」

「スコア(総譜)をながめるだけでも、その秘密は探れる。だが、ほんとうに自分の血となり肉となるには、みずからその作品を指揮するのが一番だと思う。自分でオーケストラに指示し、音を出させるのだから。これが、僕がクラシック音楽を指揮してみようとしたきっかけだった。あくまで、自分の作曲活動の役に立つと思って始めたのだ。でも、そこから僕のクラシック音楽との新たな関係が生まれることになっていくのだった。」

(CD付マガジン「クラシックプレミアム 2 ~モーツァルト1~」 久石譲の音楽的日乗 より)

 

 

-追記-

『もののけ姫』の音楽を語るにあたって、その逸話は豊富です。

  • 「アシタカのサン」の音楽について宮崎監督が語ったこと
  • 映画エンドロールに絵がなくクレジットと音楽だけが流れる宮崎監督の想い
  • 映画冒頭のアシタカ旅立ちの音楽制作秘話

などなど、書ききれないほどの貴重は秘話は、
下記リンクをご参照ください。

 

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