Blog. 久石譲 「崖の上のポニョ」 インタビュー ロマンアルバムより

Posted on 2014/11/30

2008年公開 スタジオジブリ作品 映画『崖の上のポニョ』
監督:宮崎駿 音楽:久石譲

映画公開と同年に発売された「ロマンアルバム」です。インタビュー集イメージスケッチなど、映画をより深く読み解くためのジブリ公式ガイドブックです。

最近ではさらに新しい解説も織り交ぜた「ジブリの教科書」シリーズとしても再編集され刊行されています。(※2014.12現在「崖の上のポニョ」は未刊行 2016年以降予定)

今回はその原典ともいえる「ロマンアルバム」より、もちろん2008年制作当時の音楽:久石譲の貴重なインタビューです。

 

 

「宮崎駿監督 『崖の上のポニョ』を語る」

主題歌発表とされながらも、実質的には『ポニョ』という作品そのものの初お披露目となったこの会見。宮崎監督が公の場に、しかも作品の製作中に姿を現したのも久々ということもあり、大きな話題となった。また、この時まだ明らかにされていなかったポニョのビジュアルが、ハンドパペットという形でさり気なく披露されていたことに、果たしてどれだけの人が気づいたであろうか!?

 

宮崎駿 × 久石譲 × 大橋のぞみと藤岡藤巻

2007年12月3日
『崖の上のポニョ』主題歌 発表記者会見 於:スタジオジブリ

 

藤巻「全国のジブリファンに謝りたいです(笑)」

司会:
それでは会見の方を始めさせていただきます。最初に映画『崖の上のポニョ』原作・脚本・監督、そして主題歌では補作詞も担当されておられます宮崎駿監督から一言ご挨拶を頂きたいと思います。

宮崎:
仕事中で抜けてきたものですから、こんな格好(=エプロン姿)をしております(笑)。とても良い歌ができて良かったと思っています。この歌に負けないようなちゃんとしたハッピーエンドに辿り着かなきゃいけないと思ってるんですけど、まだ絵コンテが残っておりまして、ハッピーエンドになるかならないかというところでございます。

司会:
それでは続きまして、映画『崖の上のポニョ』では音楽を担当、また主題歌で作曲と編曲を担当されました久石譲さん、宜しくお願いします。

久石:
4年ぶりの『ハウル(の動く城)』以来の作品で、今回音楽をやるのにとても緊張していたんですが、絵コンテのA・Bパートを見せてもらった段階で、最初の打ち合わせの時にもうこのテーマのサビが浮かんできました。あまりにもシンプルで単純なものですから、これはちょっと笑われちゃうかなと思って、2~3ヶ月くらい寝かしたんですけど、やはりそのメロディーが良いなと思って、思い切って宮崎さんに聴いてもらったところ、「このシンプルさが一番いいんじゃないですか」ということで。けっこう、出足は非常にスムースです。「出足は」ということろを強調している理由ですが(笑)、来年の8月までまだまだ時間があって、3つか4つくらい山がくるだろうと思いつつ、今のところ年は越せそうだと思っています。そういう状況です。

~中略~

 

久石「宮崎さんは最高の作詞家です。」

司会:
皆様の質疑応答をお受けする前に、私の方からいくつか主題歌の制作に関しての代表した質問をさせて頂きますので、よろしくお願い致します。まず宮崎監督にお聞きしたいのですが、久石さんにどのような作品のイメージをお伝えしたのでしょうか。

宮崎:
さっきこういう質問をするというのを貰ったんですが……(と、ポケットから紙を出す)。久石さんにメモを渡したような気がするんですが、忘れちゃいました(一同笑)。久石さんが覚えているかもしれない(笑)。

久石:
強力なラブレターのような手紙を頂きまして……いや、作品に関してのラブレターですよ?(笑)我々が理解しやすいようにストーリーと現実の世界に関するいろいろなメモを頂きました。おそらく作家の方って最初に全て見えてて始まるのではなくて、歩みながら「ああ、そうだったんだ!」とすごく大事なものを生きてるように掴んでいく、そういう作業の一環として書かれたんじゃないかな、と僕は思うんですが。その中に「海のおかあさん」とか「ポニョ来る」とか、色々と散文詩的、あるいはメモ的なものが今回いつもより非常に長くて、十何ページありました。実際イメージアルバムを作っていた時にも……覚えていませんか?(と、宮崎監督を見る。宮崎監督は首をかしげ、(一同笑) 全てはそこ(=メモ)から出発して、そこに戻って……そういう作業を繰り返しました。そこに宮崎さんは歌になるとは思っていない、いくつかの詩があります。ただし、これは『ラピュタ』以来だと思いますが、『(天空の城)ラピュタ』の時もそういうのを貰いまして。僕としては宮崎さんは最高の作詞家と思っていまして、いわゆるプロの作詞家が書いた詩ではないんですけれども、宮崎さんから頂く詩っていうのは、何故かこうメロディーが浮かんでしまうものですから、先週完成したイメージアルバムでは結局歌が6曲入っています。これは全部宮崎さんの詩から作りました。結局、考え方としてはいつも宮崎さんの詩からスタートする、そういうことでした。

司会:
ありがとうございました。監督、それで宜しいですか?

宮崎:
私の隣で仕事をしてます近藤勝也という作画監督ですがね、ちょうどまだ3歳にならないかの子を横にしながら、子育てに悲鳴を上げつつ、この映画に関わっているんですが、(その状況が)映画の内容に非常にリンクしていたんですね。それで「詞をやらないか?」と言ったら「やりたい」と言うものですから。(僕は)補作詞ということになっていますが、焚き付けただけで「これはお前さんがやった方がいい」ということになりまして、主題歌は近藤勝也が作詞をしました。本人はもの凄く儲かるんじゃないかと思っているんですが(一同笑)、そこは何も言わないようにしていますけど。そういう訳で、これは近藤勝也という人間が自分の子供を思い浮かべながらやったものです。とても面白いですね。

~中略~

藤巻:
補足説明させて頂きます。ポニョの歌は童謡みたいに可愛い曲なのに、『フジモトのテーマ』は非常に暗い曲で「どうして2曲カップリングなんですか?」とプロデューサーの鈴木敏夫さんに伺ったところ、「お父さんが会社から帰って、お風呂に入って、その後フト独りになった時の歌が『フジモトのテーマ』なんだ」と。「両方ともお父さんを貫くテーマなんだ」という話でした。

宮崎:
フジモトっていうのは、ポニョっていう……(と、後ろに貼ってあるキービジュアルを指して)ここに絵がありますけど、その人間の父親なんですよ。話をするとややこしいので省きますけど、作詞をした近藤勝也はまさにフジモトそのままなんです。日本のお父さんの非常に大きな部分を象徴しているようなキャラクターなんです。フジモト、フジモトって言ってるんですが、実はポニョの父親なんです。

司会:
(『ポニョ』主題歌は)「お父さんと娘が一緒にお風呂に入って歌うイメージだ」という話がありましたが、そのようなイメージをお持ちですか?

宮崎:
いや、それは久石さんの曲ができて、それにあてて作詞をしようとした時に、当然のように湧いて出てきたものです。小さい子というのは身体性というか、心の問題ではなく、とても物理的というか、肉体的なものですから、そういう気分を歌の中に盛り込めたらいいな、と。そのためにはこの曲は幼稚園や保育園のお遊戯のようでとても良いんじゃないか……「お遊戯のような」というのは久石さん自ら最初に言ったんですが(笑)、僕も「そうだなぁ、これはいいや」と思いました。

 

宮崎「この主題歌は幸せな曲です」

~中略~

質疑:
とっても楽しいリズミカルな曲ですが、今、監督の中でこの曲はオープニングなんでしょうか、それともエンディングなんでしょうか?

宮崎:
いや、最終決定はまだしてませんけど、オープニングでこれを流すと、その後は皆でピクニックに行って、楽しい映画にしかならないような気がするので(一同笑)、どちらかといったらエンディングだと思うんですけど。この曲がエンディングに流れて、気持ちにギャップが生まれないような映画を作ることが、久石さんからこの曲を渡された、のぞみちゃんが歌ってくれた歌に対するこちらの責任だと思います。

~中略~

質疑:
3人で歌っている声を聴いて久石さんの率直な感想をお聞かせください。また、苦労した点もお聞かせください。

久石:
(苦笑しながら)何と答えたらいいんですかね……最初にこの3人で行くと聞いた時は「……本気?」と思ってました(一同笑)。やはりプロではないので、それはやっぱり色々問題はあるんですが、考えてみるとこの曲のコンセプトは「子供たちが幼稚園で歌ったりできる曲」ということで考えたメロディーなので、その時に「プロの人や売れてる歌手が歌ったら成立するのか?」といったら、逆にそれはおかしいと思ったんですね。藤岡藤巻さんとのぞみちゃんが歌うということは、イコール一般の代表者──誰でも歌えるというコンセプトで理解しました……ああ、上手く言えて良かった(一同笑)。

~中略~

 

宮崎「映画と主題歌の基盤は共通している」

~中略~

質疑:
今までのジブリ作品の主題歌は、もはや世代を越えたスタンダードナンバーとなっていますが、そういった状況をどのようにお考えでしょうか?

久石:
歌というのは、どうしてもメロディーだけではなくて言葉と一緒になって響きますよね。プラスそこに映像が加わることで、頭で理解するよりも(心で)感じてしまう世界がありますよね。それって多分宮崎さんが作られた映像と言葉、メロディーがすごく幸せに今まで上手くいっていたから、皆さんに届いていると僕個人は思っています。

宮崎:
『(となりの)トトロ』の時も「歌を作って子供たちに歌ってもらおう」とイメージアルバムを作る段階でハッキリ方針を立てていたんです。色々な幼稚園で歌ったり、使ってくれているんですけど、なんか作曲家の方には全然お金が入らないようなので(一同笑)、気の毒だな、と少し思っています。

久石:
いえ、大丈夫です(笑)。

(崖の上のポニョ ロマンアルバム より)

 

 

掲載収録されているのは、主題歌発表記者会見であり、インタビューも複数人数です。ここではあえて、「崖の上のポニョ」の音楽に関する、主に久石譲にフォーカスしたインタビュー箇所のみを抜粋しています。予めご了承ください。

 

なお「ジブリの教科書 15 崖の上のポニョ」(2017刊)にも同内容が再収録されています。

 

 

そのなかに本書のために語り下ろし、鈴木敏夫プロデューサーによる映画『崖の上のポニョ』当時を振り返ったインタビュー。主題歌エピソードも必見です。

 

 

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