Posted on 2014/12/2
2013年公開 映画『風立ちぬ』
監督:宮崎駿 音楽:久石譲
連動企画として2013年8月2日スポーツ報知「『風立ちぬ』公開記念 スタジオジブリ特別号」が主要コンビニ、駅売店、一部地域を除くYC(読売新聞販売店)、映画館で発売されました。
主題歌「ひこうき雲」を歌う松任谷由実をはじめ、庵野秀明氏、瀧本美織らのロングインタビューを収録。「永遠の0」の百田尚樹氏、直木賞作家の朝井リョウ氏らが、その魅力を語っています。「風の谷のナウシカ」から足かけ30年のスタジオジブリの歴史をスポーツ報知の紙面で振り返るなど永久保存版です。
そこに収められた久石譲のインタビュー内容です。
ナウシカから全作タッグ30年 毎回、これが最後という思い
現代を代表する作曲家の久石譲さんは映画音楽家としてのデビュー作となった「風の谷のナウシカ」(1984年)以降、すべての宮崎監督作品を担当している。「振り返ってみれば、そうなっていたというだけ。毎回、これが最後という思いです。クリエイティブなことでの真剣に向き合った結果がこうなったのは、本当に奇跡的」と話した。
宮崎監督の徹底した音へのこだわりを受け、久石さんも真骨頂で応えた。宮崎監督から出たのは「モノラル録音」と「効果音は人間の声で」ということだった。イメージアルバムを作らなかったのも異例だ。
宮崎さんは「音楽はできるだけ、そぎ落としたシンプルなものを」と
久石:
「モノラル?『なんで?』って思いましたね。そのうち考えが変わるだろうと思ったけれども、変わらなかった(笑)。5.1チャンネルとかサラウンドだと何でも詰め込めちゃうんですよ。それがモノラルだと、スピーカー1個。そこにセリフも効果音もすべて入る。宮崎さんは最初から『音楽はできるだけ、そぎ落としたシンプルなものを』とおっしゃっていた。僕の方もそれがいいと思っていた」
絵コンテを見て、イメージを膨らませ、いつも以上に打ち合わせを重ねた。
久石:
「結構苦しみましたし、大変でした。というのも、今までのファンタジーとは違って、今回は実写に近い。そういう場合、テーマ曲はどうあるべきなのかをつかむまでに時間がかかった」
そのテーマ曲はロシアの代表的な弦楽器「バラライカ」が切なくも美しい主旋律を奏で、ロシアのアコーディオン「バヤン」がもり立てるエスニック風の組み立て。映像に寄り添い、あまり主張しない音楽を心がけたという。
久石:
「宮崎さんの作品は世界中の人が待っていますからね。音楽にも格が必要だと思っていたので、今回もですが、ホール録音が多いんです。でも、『今回は大きくない編成がいいんだ』というので、そのスタイルを切り替えた。これはかなり難しかった。オーケストラにはないものをフィーチャーし、結果的に一番小さい編成になった。今までとは違う世界観を持ち込んだつもり」
元来、映画好き。自身も監督経験があるだけに、映像の視点でも作品を見ている。
久石:
「主人公が設計士だと、本人があまり動かない。観客は感情を乗せにくいが、大丈夫なのかなと思いました。こういう設定はものすごく難しい。映像にしづらいものなのかもしれない。だとすると、このクオリティーで、新しい地平線を切り開くような作品を、しかもこれだけ力強く描いた宮崎さんはすごい。今でも新たな道を進もうとしている宮崎さんを心から尊敬します」
ずっと背中を追っかけている
宮崎監督とのタッグは約30年。
久石:
「たまたま続いているだけ。毎回、これが最後という思いでやっています。宮崎さんが好きなんです。少年の気持ちをそのまま持っている人で、すごく周りに気を使う。僕にとっては人生のお兄さんみたいなものです。ずっと宮崎さんの背中を追っかけている。迷った時に、宮崎さんなら、どういうふうに結論を出すんだろうと思うんです。」
2008年8月には「久石譲 in 武道館 -宮崎アニメと共に歩んだ25年間-」と題した記念公演も行ったが、好きな作品は?と聞くと、「ナウシカ!」と即答。最初の作品だけに思い入れがあるという。
久石:
「普段、昔のことは考えない。『代表作は何ですか?』と聞かれて、『次回作』と言うのが一番答えとして正しいと思う。そんな気概がなかったら、いいものは作れない。作るときは全精力を傾けている。『ポニョ』を作った頃の自分と今の自分はまったく違うし、『ナウシカ』の時とも違う。人間は変わっていく。とどまっていたら、ダメですからね」
宮崎アニメを手がけることは他の作品にも作用している。
久石:
「作曲というのは点ではなく線。一つの仕事をすると、必ずやりきれなかったことや反省が出てくる。弦の使い方が良くなかったなとか、ちょっとうるさく書きすぎた、とか。それを次の作品でクリアしていく。クリアしても、次の問題が出てくる。宮崎さんの作品はほぼ4年に1度。オリンピックのようなもの。節目節目でクリアしなければいけない課題が出てくるんです」
最近は「東京家族」で山田洋次監督、「奇跡のリンゴ」で中村義洋監督と組み、ますます幅を広げている。
久石:
「以前は音楽家である自分の方が大事だったから、音楽として評価されたいとも思ってしまっていたが、今は映像と一体化する、映像用でしか書けないものを、と徹底するようになった。映画音楽として極めたい」
目下、高畑勲監督の「かぐや姫の物語」(2013年)、山田洋次監督の「小さいおうち」(2014年)など巨匠の新作を作曲し、夜はクラシックを学ぶ多忙な日々だ。
久石:
「宮崎さんは72歳、高畑さんは77歳、山田監督は81歳。ちゃんと生きている人はすごい。創作意欲は衰えず、むしろ強くなる。『年を取るって悪くないな』と本当に思いました。この組は助かるんですよ。(62歳の)自分は若手になるから(笑)。ものを作るって、簡単にはいきません。高畑さんは10年くらい『かぐや姫の物語』をやっている。そんな長い期間、ずっと集中し続けられるって、とんでもないことですよね。そういう人が心血を注いで、一つの作品を作っている。そのそばにいて、音楽を提供していく責任と、その人たちに育てられながら、ここまできたんだなと思います」
(スポーツ報知「『風立ちぬ』公開記念 スタジオジブリ特別号」 より)
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