Blog. 「クラシック プレミアム 33 ~エルガー/ホルスト~」(CDマガジン) レビュー

Posted on 2015/4/5

クラシックプレミアム第33巻は、エルガーとホルストです。

どちらもイギリスを代表する作曲家で、それぞれ代表曲の「威風堂々」と「組曲 惑星」が特集されています。

 

【収録曲】
エルガー
行進曲 《威風堂々》 作品39
アンドレ・プレヴィン指揮
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
録音/1985年

ホルスト
組曲 《惑星》 作品32
ジョン・エリオット・ガーディナー指揮
フィルハーモニア管弦楽団
モンテヴェルディ合唱団女声コーラス
録音/1994年

 

 

「久石譲の音楽的日乗」第32回は、
オーケストラに何をどのように伝えるか

今号でも、指揮者としてのあれこれが、興味深く語られています。

一部抜粋してご紹介します。

 

「音楽が音楽になる瞬間のことについて、前回書いた。指揮者はその瞬間のために、何をどのようにオーケストラに伝えたらいいのか、さらに考えてみたい。」

「まずは、伝える手段である言葉について。僕は、アジア・ツアーなどで海外のオーケストラを振ることもあるが、そんな時、音楽用語と片言の英語でほぼ伝わる。「モア・ピアノ(もっと弱く)」「ユー・ラッシュ(あなた、走っているよ)」……。カルロス・クライバーは《こうもり》序曲を指揮したとき、ある箇所でオーケストラに「この8分音符にはニコチンが足りない。タールや毒が必要だ」と言ったそうだが、クライバーのように文学的な人は話したほうがいいのだろう。僕の場合はとてもシンプルだ。」

「「これはこうで……」と、長いセンテンスで言葉を投げかけるのではなく、具体的な指示をする。作曲家としてクラシック音楽に向かって指揮をするので、その観点から端的に伝えていく。例えばメロディーラインのほかに、第2ヴァイオリンやヴィオラにこまかい音符が書いてあると、せっかく作曲家がここまで書いたのだから大切にしよう、立体的に作ろうと考える。だから多くの場合、メロディーを振るよりも内声部やリズムを整えるほうに神経を使う。」

「でも、こんなこともあった。僕の《World Dreams》という曲がある。朗々とメロディーが歌う曲だ。これを新日本フィルハーモニー交響楽団と録音していた時のこと。いい演奏だったのだが、もっとぐっと迫ってきてほしかった。そこでなぜこの曲を作ったのかという話をした。作曲当時、僕が脳裏に描いていたのは、2001年の9.11、飛行機が突っ込んだ世界貿易センタービルの映像と、戦争に巻き込まれた子供たちの飢えて泣いている顔だった。そうした悲惨な映像しか浮かんでこなかった。それをイメージしながら、いつか平和という「世界の夢」が果たせればという気持ちで作った曲だと話した。すると、オーケストラの音がまったく変わった。たしかに言葉は有効なのだ。」

「今度、久しぶりに、ショスタコーヴィチの交響曲第5番を指揮する。そこで、いろいろ勉強している最中なのだが、オーケストラに強弱やテンポのことばかり言っていると、音楽としていったい何をやりたいのかが伝わらないだろうなと痛感している。単純に強弱やテンポについてなら、楽譜にしっかり書いてあるわけだから、それを繰り返して指示したって「そんなことは言われなくてもわかっている」ということになる。しかも、第5番でいえば、金管楽器が全奏するある箇所で、全体としては大音量になるのだけれど、じつは各楽器で強弱記号が微妙に違っていたりする。そこで指揮者は、その楽譜の微妙な違いをきちんと把握したうえで、実際のオーケストラから出てくる音を冷静に聴きわけ、さらにオーケストラにどのような音楽を作っていきたいのかを示さなければならないのだ。ところが、どうしても即物的に、そこは抑えて、ここはもっと出して……となりがちだ。そうなると、音楽が伝わらない。ピアノの箇所で、いくら「ピアノで」と言ったところで何も伝わらない。ところが、「ここは甘い音ではないのです。ピアノでも、ロシアの厳しい大地のようにすべて冷たく」と言えば、オーケストラも、ああ、そういう音がほしいのかとなる。」

「この曲で何をしたいのかを伝えられずに、こまかいことだけを指示していくと、オーケストラは守りに入る。言われたとおりに、間違えないように……。そうなると音楽が音楽になる瞬間には辿りつけない。だからといって、こまかいことは一切言わなくていいというわけでもない。」

「例えば、ベートーヴェンの交響曲第9番第1楽章の冒頭。多くの指揮者の場合、ピアニッシモで抑えに抑えて、深淵から音が現れるように演奏するが、僕は第2ヴァイオリンとチェロが6連符を刻み続けるリズムを大事にしたいので、あまり弱くはしない。第2主題になるとだいたい遅くなるのだが、そこはどうしてもリズムをキープしたい、ソリッドな構造が見えるベートーヴェンにしたい。それは最初の練習の時にはっきり伝える。そうすると、オーケストラの奏者も、この指揮者は全体を通して何をやるたいのかが見えてくる。2日か3日のリハーサルしかない中で、極論すれば、指揮者は自分のやりたいことを最初の10分で伝えなければならない。」

「ところで、最近、指揮をするのが、ほんの少々だがつらくもなってきた。なぜなら、同じ曲でも初めてのときと2回目、3回目では出来上がりが全然違うのだ。1回目よりも2回目、2回目よりも3回目とよくなっていく。新たな発見もある。つまり、もっともっと膨大な時間が必要だと思い知ってしまったからだ!」

 

 

クラシックプレミアム 33 エルガー ホルスト

 

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