Blog. 映画『水の旅人 -侍KIDS』(1993) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより

Posted on 2016/2/12

1993年公開 映画「水の旅人」
監督:大林宣彦 音楽:久石譲 出演:山崎努 他

一寸法師を思わせる水の精・墨江少名彦と小学生・悟の友情と冒険を描いた、大林宣彦監督のSFX大作。サントラ演奏を担当したロンドン交響楽団を意識して作曲した大編成の勇壮なテーマ曲は、大河の如く滔々と溢れる数々のメロディと相まって、その後の久石譲の演奏会に欠かせない人気曲のひとつに。

 

 

音楽=久石譲インタビュー
「水の旅人」 音と映像のアンサンブル

-今回の『水の旅人』の映画音楽づくりは、どんなところから始められたんですか?

久石:
今回はまずふたつのポイントがありましてね。ひとつは『タスマニア物語』に続いて手掛けるフジテレビの大作ということで、その風格というか、そういう感覚、スタンスがまずある。もうひとつは、大林さんの映画の音楽をずっとやってきているということ。ここには、はっきりとした大林宣彦の世界があるわけです。フジテレビに大林さん、両方とも自分が関わってきて、それがここで一緒になっちゃったわけですよね。ですから、大作としての風格と大林作品が持っているヒューマンな部分とが、全部生かされるような音楽を一番意図したわけです。

 

-結果としてはいかがでしたか?

久石:
まずメインテーマですが、これはロンドン・シンフォニーオーケストラ85人を使って実に壮大なシンフォニーを作りました。

 

-ロンドン・シンフォニーというと『スター・ウォーズ』などを手掛けたジョン・ウィリアムズもよく使うところですね。

久石:
そうです。ですからメインテーマは男性的なメロディというか、力強いテーマですね。圧倒するぞって感じです(笑)。ロンドン・シンフォニーのメンバーも興奮してたし、喜んでましたよ。ただこうしたスケール感の大きいメロディに対して、やはりみんな久石メロディといったものを望むでしょうから、主題歌のヴォーカルの方は極力心の優しさといったものを出したつもりです。

 

-主題歌は今回中山美穂さんですね。

久石:
ええ。ヴォーカルのレコーディングもロンドンでやりました。これは映画の最後のエンディングロールで流れるんですが、メインテーマと主題歌と、共に映画音楽の顔に当たる曲を自分なりにかなりの完成度で、思い通りに仕上げることができて僕自身は非常に満足しています。

 

 

監督と音楽家の”覚悟”のデュエット

-全編にわたる音づくりの方はどうでしたでしょうか?

久石:
ふつうだとオールラッシュを見て、全体の設計図を引いてから音楽を作り出すんですけど、今回は合成シーンも多いので映像が少しずつしか来ないんです。監督のラブレター付きで(笑)。その点では全体像づくりにちょっと苦労しました。でもその代わりフィルム一巻ずつ音楽を付けていくということは、映画の流れと一緒に作っているわけです。これはまた珍しいやり方で、全編に音楽がぴったりとついている感じになるんです。今回はカット数もたいへん多いけど、同じように音楽もふつうここまで合わせるかという所まで合わせてます。そういう意味えは実にくたびれる作業をしてます(笑)。

 

-時間の制約もありますしね。

久石:
それはもうかかわっている全員が思い切り苦しい状況でしたね。監督とも何本か一緒にやってくると、できるだけ違うことをやろうとするから大変なんですね。でも今回はハナから大変ということで始めてますから、むしろお互い不思議な一致を見ることのほうが多いんです。いろんなところで考え方が一致しちゃうというか、それはすごくうれしいことだと思ってます。また、監督と以前に「才能と覚悟」という話をしたんです。才能だけあってもいいものは作れない。これからの映画づくりや芸術活動には覚悟が必要だと。で、後からまた大林さんから手紙がきまして…。

 

-それには何と?

久石:
「今回は覚悟でいきます」と決意表明があったからこれは困ったなと(笑)。というわけで、もう今回はプロの技術の極致をお互いやろうと決めたんです。大林さんもそういった要求をするし、それならば僕も絶対にそれに応えるしかないんです。だから実際すごい合わせ方ですよ。もうディズニーもメじゃないってくらいです。

 

 

2度3度見て楽しめる『水の旅人』

-久石さんから観客のみなさんに何かメッセージがあればお願いします。

久石:
パワフルで内容も濃く、たいへん実験的な映画にも仕上がっていると思います。音づくりも自分の思い通りやれましたから、是非じっくりと聴いてほしいと思います。それからどうしても『水の旅人』は、2、3回見てほしい。1回目はどうしてもストーリーを追ってしまうけど、2回目以降は映像と音楽の絡み方も含めて、きっと細かい点で別の楽しみ方もできる映画だと思うんです。そうやって見てもらえれば、僕はたいへん幸せですね。

(「水の旅人-侍KIDS」劇場用パンフレットより)

 

 

水の旅人 パンフレット

 

Blog. 映画『タスマニア物語』(1990) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより

Posted on 2016/2/10

1990年公開 映画「タスマニア物語」
監督:降旗康男 音楽:久石譲 出演:田中邦衛 薬師丸ひろ子 他

タスマニアの大自然を舞台にしたファミリー映画。その雄大な大自然と久石譲による壮大なオーケストラによるメインテーマが印象的な作品です。

映画「タスマニア物語」パンフレットより、貴重な制作秘話や映画音楽についてのことなど。今から25年以上前の作品ではありますが、なるほどと唸る箇所もあります。久石譲の一貫した映画音楽に対する姿勢もそうですし、こわだりや論理・技法なども。

「ワンテーマ」で押しとおすことのでき得る、映画音楽メインテーマ曲について。興味深いです。差し引いて見てほしいのですが、ここで語っているのは1990年です。今ならそんなこと当然な手法や、映画音楽の正統な扱いやポジションも、まだ当時はかなり邪険に扱われていた時代です。

いい映画とは?
いい映画音楽とは?

そういった視点で読んでみてもおもしろい内容だと思います。

 

 

これぞ、正統的な映画音楽の王道です。

いろいろと調べてみましたが、バリ島だったらガムラン、インドだったらシタールのように地域差を出すためのエスニックな楽器というものが、オーストラリアにも、タスマニアにもない。オーストラリア民謡ってないんですよ。この音を聞いたら、それだけで、オーストラリアのイメージがパッと浮かんでくるような音がなかったので、ひたすら広大な大陸を連想させる、スケールの大きなシンフォニー・サウンドに徹した方がいいと思いました。

今回の音楽は、とんでもなく手間暇をかけているんですよ。1曲が4分近くあって、長い。本当に画面と、どこまで密接して作るか考えて、洋画に近い作り方をしたなあという気がします。例えばセリフが一言あるとすると、そのセリフによって、音楽が反応する。コンピュータを駆使して、5秒間に14フレーム、ピシッと入れて、4分間連続して音楽が入る。それが全部で20数曲あるという。これ以上はないほど、正統的な映画音楽の王道をゆくものになったと思いますよ。今まで僕が手がけた映画音楽の中では最大規模でやらせてもらいました。

基本的には、メインのワンテーマだけは前面に押し出して作りました。いい映画って、1曲だけで充分なんですよ。だって「ティファニーで朝食を」で、”ムーン・リバー”以外覚えていますか? 「E.T」で、あのメインテーマ以外に覚えてますか? この映画の参考のために、昔の映画を何本か見てみたんですが、みんな緻密に作ってあるんですよ。やはり、お金と時間をかけてキッチリと作っている。「E.T」にしても、あのメインテーマは、映画の3分の1以上進行しないと、出てこないんです。本当に少ない。最初に出てくるのは、自転車が空を飛ぶ場面ですからね。あのテーマは、あれだけみんな覚えているけど、そんなにひんぱんには出てこない。それほど大事に使っている。インパクトのある場面だけに、ちゃんと流すんですよ。メロディが一寸だけずつ流れる。メロディを全部キチンと流しているのは、そんなに多くない。ああいう音楽の設計の仕方、緻密さは最も大事なことです。あそこまでやらないと、映画音楽とはいえない。この映画でも、メインテーマは最初から出てこないんですよ。随所にモチーフが表れるんですが、メロディが有機的にだんだんと展開していく。それを初めて試みることができました。だから、ワンテーマで十分なんです。現在の日本の映画音楽は、みんなそうですが、メロディを4つか5つ用意すれば、3日か4日で映画音楽を作ることはできる。ワンテーマだと、よほど緻密に設計しないと飽きられちゃうんです。

画面を見ていると、これは非常に正統的な映画だと思います。田中邦衛さんの演技は、見ていても泣かせるし、全体的にも決して奇をてらっていない。特にそういう場面を用意することもなく、降旗監督は本当に大人の眼差しで、手堅く作られたという感じで、僕はすごく好きです。音楽も、それに合わせて正統的に、堂々とやりたかった。時間がなくて徹夜続きでしたが。

ただ僕自身のスタイルは全然変わらないし、監督が映画の中で何をやろうとしているのか、それに対して自分の考えを述べるのが、映画音楽のあり方でしょ。この映画の前に「ペエスケ・ガタピシ物語」をやったんですけど、あれは、わらべうたのような単純なメロディに、超アヴァンギャルド・サウンドを乗せました。それはそれで、映画へのひとつのメリハリのつけ方なんです。そういう意味では、今度はジャズ風にとか、ロック風にとか、クラシック風に作ろうとか、あんまり思わないんですよ。自分のスタイルを守りつつ、その中で、この映画だと、今回はベースドラムを入れて、ポップスっぽい扱いを全くするべきじゃない、スタイルとしては完全にフル・オーケストラで、最先端のサンプリング楽器を使って、どっちがどっちか分からないくらいに作るんです。その混ぜ具合が、作品ごとに違う。いいメロディさえ書けば、それで全て用が足りるかというと、それはそうなんですが、やっぱり同時に表現方法として、時代のテクノロジーがあるわけです。それに対して、新しい表現はどんどん出てくるわけですから、ただミュージシャンを大勢集めて、一斉に演奏してもらって、映画音楽を作るやり方には、あまり興味がありません。

(映画「タスマニア物語」 劇場用パンフレットより)

 

タスマニア物語 パンフレット

 

Blog. 映画『ふたり』(1991) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより

Posted on 2016/2/8

1991年公開 映画「ふたり」
監督:大林宣彦 音楽:久石譲 出演:石田ひかり 他

 

曲名「Two of Us」

久石譲の往年の名曲であり、コンサートでも演奏されることの多い楽曲。時にピアノ・ソロで、時にアンサンブルで、時にオーケストラでと、いろいろなバリエーションがあり、CDとしても複数のヴァージョンが残っています。

その原曲にあたるのが、映画『ふたり』主題歌として使用された「草の想い」という楽曲です。なんとも逸話の多い楽曲なのです。

  • デモ制作時点では「愛と哀しみのバラード」という曲名であった。
  • 主題歌を大林宣彦監督と久石譲のデュエット・ソングとして発表した。
  • NHKにて抜粋版放送時、音楽について、だれが歌っているのか、譜面が欲しい、テープが欲しいと、800通もの問い合わせがあった。
  • オリジナル・アルバム『MY LOST CITY』にて「Two of Us」というインストゥルメンタル・バージョンが完成した。
  • 90年代某人気TV番組の「ご対面/再会シーン」で流れる音楽として印象的に使用され続け、その番組のためのオリジナル作品と勘違いする人も多かったほど。

などなど、数々の逸話を残している名曲です。

 

 

映画公開当時、劇場で販売されていた映画パンフレットより、久石譲インタビューを中心にご紹介します。

 

 

音楽監督から 久石譲

ちょっと優しく

大林監督の声はとても魅力的だ。優しくて暖かで、モダンで、そう、男が男らしくいられた時代のカッコ良さがある。大林監督の手はとても大きい。その手でピアノも弾くし作曲もされる。そして驚くほど音楽が好きで信じられないほど音楽について詳しい。

大林監督にお会いしていると本当に楽しい。僕たちはこの都会の大人の社会で生活しているわけで、嫌なことや悲しいことが日々襲ってくる。でもそんなささくれだった心も、大林監督にお会いするとスッと身体の力が抜けて行き、少年の日の心が戻ってくる様な気がする。だから実は毎日でもお会いしたい。そうすればちょっと人に優しくなれるかも知れないから。

ある日、僕達はピアノの前に座っていた。すでにその映画のなかで使用するシューマンとモーツァルトの楽曲は録音を終えていた。そして僕が書いたメインテーマ用のデモテープを1~2回聞いた。ピアノで弾きだそうとした時には、すでに監督は歌い出されていた。それも音程一つ間違えないで。翌日、その歌詞が送られてきた。「昔人の心に、言葉、一つ生まれて……」映画『ふたり』の主題歌『草の想い』が誕生したのだ。

そして僕には歌手、大林宣彦さんのデビューが当然のことに思えた。でもシャイな監督は一人で歌うのを「ウーン…」と首をひねり、問わず語りの眼差しで、僕の方を振り向いたので僕も「ウーン…」と答えた。そこで奥様でありプロデューサーである恭子さんが「ふたり」なのだから「ふたり」で歌えば、という画期的な裁定を下した。大林宣彦&フレンズが歌う『草の想い』はこうして巷間に流れることになった。

映画『ふたり』との出会いはとても幸せだった。すばらしい作品を担当できるなんて音楽家にとって最高の喜びだ。中には8分台の長さの音楽が幾つかあって難しかったのだけれども、そのハードルを越えることにかえって燃えた。

クライマックスの後で、母親が父親に語りかけるシーンがある。「あなた…」「風呂はまだ…」変ロ長調のストリングスの和音が妻であり、母親である一人の女性の台詞と絡みながら徹かに聞こえてくる。静けさと優しさと愛に満ちたシーンだ。

人が人を許しあい、あるいは認めあい、喜びも悲しみも寂しさもすべてそのまま受け入れて生きていく。ほとんど宗教的とも言えるその深さは、この映画が真の傑作であることを決定的なものとしている。

僕はこの映画を3回見る事をお薦めする。1回目は友達と、そうすれば友情の有り難さが分かり、2回目は恋人と、そうすればかけがいのないものが分かり、3回目は父親と、そうすれば誰よりもあなたを愛している人が分かる。

大林監督とお会いしていると本当に楽しい。でも、忙しい監督に毎日お会いするわけにも行かないので僕は大林さんの映画を沢山見ることにした。そうすればちょっと、人に優しくなれるかも知れないから。

(映画「ふたり」劇場用パンフレット より)

 

 

イントロダクション
「ふたり」、映画、この指とまれ。

大林ムービーに欠かせないクラシック音楽の調べ。加えて、今回全編に流れる主題歌”草の想い”は、劇中、石田ひかり、中嶋朋子、島崎和歌子によって唄われ、映画を見終わった後も思わず口ずさんでしまう、美しく、せつないメロディーだが、これが監督自らの歌詞であり、映画のエンディングでも自らメロディーに乗せたナレーションとして唄われているのも話題である。昨秋、テレビヴァージョンがオンエアされるや、この主題歌についてのただならぬ反響が沸き上がり、とうとう映画公開に合わせて大林監督版、中嶋朋子版がそれぞれCDで発売された。本来がアイドル歌手でもある石田ひかり版が無いのは、彼女がこの『ふたり』において女優誕生の責務をきちんと果たしたので、『ふたり』をアイドル映画になどしないという、いわばご褒美として、女優石田ひかりは唄わないことになった。その結果、監督自らが”父親代わり”にこの物語の心の想いを伝える言葉を、語り、唄うことになった。

この一度聴いたら忘れられない魅力的なメロディーの生みの親は、『風の谷のナウシカ』や『となりのトトロ』などの映画音楽で多くのファンの心を掴んだ久石譲。大林監督の前作『北京的西瓜』(89)を映画館で見、その手づくり映画のあり方に感動し「今度、ぜひ大林さんの手づくり映画に手弁当で参加したい」とラブコールを送り、それに監督がさっそく応え、久石氏はそのまま尾道に直行、二百人に及ぶ尾道の女学生の出演者たちのオーディションの審査席に座ってしまった。そして海や山のロケハンに参加、その感動がそのままメロディーとなったもの。こうしてクラインク・イン前にすでに主題曲がつくられていたので、映画本編中いわば唄うダイアローグとして効果的に使用されることになった。全編に渡る映画音楽は、これほど映像と音楽とが幸福に出会えたことはないと思われるほどの出来栄えであるが、これも尾道の空気を共に吸い、味わったことの成果ともいえるだろう。さらに言えば監督版CDでFRIENDとして監督とふたり、陰の声で唄っているのは久石氏である。

中嶋朋子版のCD製作は、この地道に女優の道を歩む一少女への、石田ひかりとは逆の形でのご褒美である。監督はさらに映画では唄われなかった”わたし、いないの”を新たに千津子のイメージ・ソングとして作詞、久石譲のメロディーを添えて中嶋へ『ふたり』の想い出として贈った。

(映画「ふたり」劇場用パンフレット イントロダクションより 抜粋)

 

映画 ふたり パンフレット

 

Blog. 舞台「祝祭音楽劇 トゥーランドット」久石譲 公演パンフレットより

Posted on 2016/1/20

2008年舞台「祝祭音楽劇トゥーランドット」です。舞台やミュージカルの音楽を担当することのない久石譲が、この作品を手がけた理由とその想い、音楽制作過程や主要楽曲の解説まで。

 

公式パンフレットよりご紹介します。

 

舞台「祝祭音楽劇 トゥーランドット」
演出:宮本亜門 音楽:久石譲 作詞:森雪之丞 衣装:ワダエミ
出演:アーメイ、岸谷五朗、早乙女太一、安倍なつみ、中村獅童 他

[公演日程]

東京公演
2008年3月27日~4月27日
赤坂ACTシアター

大阪公演
2008年5月2日~5月9日
梅田芸術劇場メインホール

名古屋公演
2008年5月13日~2008年5月22日
御園座

 

祝祭音楽劇 トゥーランドット Musical Number

【第一幕】
序曲
黄金の都
飢えた満月
トゥーランドットを讃える歌~飢えた満月 Reprise.
トゥーランドットを讃える歌 Reprise.
孤独の旋律 (ハミング)
陛下の気持ちが分からない
何のために生きる?
新たな挑戦者~飢えた満月 Reprise.
血の祝祭
トゥーランドットを讃える歌 Reprise.
三つの謎とその答え
熱燗売りの歌
孤独の旋律~混乱
何のために生きる? Reprise.
愛するための愛
論争!
狂気と美学
炎の花
草の根を分けても
進むべき道

【第二幕】
新たな逃亡者
草の根を分けても Reprise.
月の人
飢えた満月 Reprise.
謎解き、再び。
再び、の謎。
運命は遠い日の約束
光と夢と愛の国
ダンス~光と夢と愛の国

音楽:久石譲

音楽アレンジ:
久石譲
山下康介
宮崎幸子
足本憲治

 

 

INTERVIEW

無謀へのチャレンジ

正直に言うと、僕はミュージカルというものが好きではありません。普通にセリフを話していた人間が急に歌い出す、あの不自然さがどうも苦手で。ですから最初にこの舞台の企画をもらった時も、しばらく躊躇しました。しかも題材は、プッチーニのオペラの印象が強い『トゥーランドット』です。これは無謀以外の何ものでもないな、と。

それでも最終的に引き受けたのは、自分が日本人である以上、日本語をちゃんと使った作品を書いてみたいという思いからです。これまでも、映画で「劇」と「音楽」という仕事はしてきたわけですし、自分なりにチャレンジしてみようと心を決めました。

よかったなと思うのは、早い段階から台本作りに参加させてもらったことです。僕が曲を作る段階では詞がないので、自分である程度イメージを作る必要があるんですが、お陰でかなりイメージが作りやすくなりました。

最初に作ったのは、純粋で素朴で一途で、登場人物の中で最もキャラクターが明快なリューの曲です。(『月の人』)。書き終えて、「あ、これは行ける」と思いました。そんなふうに滑り出しがすごくよかったので、そこから2~3曲書いたところで、早くも全体が見えてきました。11月の末から12月の頭にかけては、実質10日間で14曲のミュージカル・ナンバーを書いたんですよ。あれは本当に嬉しかったですね。自分がやりたいことを奇跡的な勢いで、楽しくストレートに書けました。ビギナーズ・ラックなのかな(笑)。

作曲の際に心がけたのは、トータルなバランスです。例えば、全部メロディアスに作ってしまうと劇にマッチしなくなるし、あまりにオペラ的なものだと一般の人が入って行きづらくなる、とか。あるいは、中国を舞台にした作品ではあるけれども、東洋の匂いだけは残してインターナショナルな感じを出すにはどうしたらいいか、とか。中国的な色を出せば出すほど、それっぽくはなるけれども、結局それで終わってしまいますからね。そのあたりは、一番考えました。

あとはやはり、作るからには後々まで残る完成されたものを作りたい、ということですね。そのためにも、ミュージカルを専門にやってきてはいないメンキャストの皆さんに、曲を合わせ過ぎてはいけないし、かといって、かけ離れても上手くは行かない。悩んだ末に、歌う人のキーや歌唱力を考慮しつつ、一歩ずつステップが高めのものを要求していくのが一番いいと判断しました。ですから、ハードルは全体的に高いと思いますよ。

でもみんな、本当によくやっています。特にコーラスは、グランド・オペラにかけてもいいくらいのレベルのものを、きっちりとやってる。稽古を見ながら、この方向は正しかったと確信しています。間違いなく、今までの日本の創作ミュージカルでは絶対にあり得なかったレベルまで行っている…そんな手応えを感じます。

できたら、何度か観に行きたいですね。映画と違って、舞台は作曲している段階では自分の世界ですが、稽古が始まると演出家のものになって、初日が始まってからは役者のものになる。しかも毎回違うから、飽きることがありません。化学反応を起こしながら日々変わっていく舞台を、今から楽しみにしています。

久石譲

(「祝祭音楽劇 トゥーランドット」舞台公式パンフレット より)

 

久石譲 『祝祭音楽劇 トゥーランドット DVD』

 

《楽曲解説》

本作品の多彩なミュージカル・ナンバーはどのように作られたのか?
作曲者・久石譲が語る楽曲のポイント。

 

飢えた満月
儀式を待ち望む民衆たちが歌うコーラス曲

三番目に書き上がった曲です。プッチーニの名作に自分なりに挑戦するにあたって、ダイナミックな部分を出すにはどうしたらいい?と考えたら、やっぱりコーラスなんですよ。ですから、この曲にかぎらず、コーラスにはかなり凝っています。実は難曲揃いです。

 

二胡の調べ Instrumental
ミンの舞いの伴奏となる二胡の独奏曲

二胡に中国らしい五音階の曲を書いてしまうと、あまりにありきたりになってしまいます。いかにもベタな二胡の曲ではなく、もう少し精神的なものにしたかったので、あえてスコットランドやアイルランドといった、イギリス北部の民謡のような音階で書きました。

 

孤独の旋律
トゥーランドットの内面を表すドラマティックなバラード

特にアーメイさんを意識したわけではなく、主役として歌うなら、こういう世界観をきっちり作って欲しいなと思って書いた曲です。でも結果的に、アーメイさんにすごくハマっている曲だと思いますね。本番では、さらによくなっていくのではと期待しています。

 

何のために生きる?
故国を追われたカラフの心情を歌うソロ

二番目に作った曲です。脚本に書かれたセリフから、カラフの心情を僕なりにイメージしました。この曲に関しては、さらに岸谷さんが歌っているイメージもちょっと加味したところで、メロディが浮かんできました。

 

草の根を分けても
カラフを探すワン将軍と軍人たちの歌

たぶん、これが一番僕っぽい曲じゃないですかね。ちょっとミニマルミュージック的なものがベースになっていて。通常の歌モノとはちょっと違う楽曲も必要なんです。こういう曲がきちんと成功することで、この音楽劇自体が立体的になっていきます。

 

月の人
森に逃れたリューが月に歌うソロ

最初に作った曲です。メインテーマ曲を作る前に、その世界に映えるであろうもう一つの曲を作りたくて、リューを選びました。純粋で素朴なリューは、プッチーニの『トゥーランドット』でも一番オイシイ役。要は、複雑じゃないキャラクターなので、取っ掛かりやすかったんです。

 

運命は遠い日の約束
トゥーランドットとカラフのデュエット

メインテーマ曲です。演出家の意図もあって、「トゥーランドットとカラフのデュエットで、全体のメインテーマになる。しかもラスト近くになって初めて出てくる歌」というコンセプトで書きました。何回か書き直しましたが、比較的早めに出来ました。

 

光と夢と愛の国
物語のラストを飾る盛大なコーラス曲

書き上げて「これが最後が締まる」と思えた曲です。祝祭らしい曲ですが、単純に「めでたし、めでたし」で終わるような音楽は書きたくなかったし、聴く人が聴いた時にそれなりの楽曲の力が残るようにと思って作りました。圧倒的なコーラスの迫力を感じてください。

(「祝祭音楽劇 トゥーランドット」舞台公式パンフレット より)

 

同パンフレットには、メインテーマ曲であるM43「運命は遠い日の約束」のメロディ譜も収められている。メロディ五線譜とコードおよび歌詞が掲載された一段譜である。

 

「運命は遠い日の約束」
TURANDOT M43 “Destiny Is A Promise from the Distant past”
作曲:久石譲 作詞:森雪之丞

微かな 光がある
闇の中に あなたがいる
二人が 抱えてきた
その痛みと 同じ場所で
夢はまた生まれ 輝くから

道を違えた その度
運命に 導かれ

あなたと逢うために 誰よりも
この世界で 孤独だった
人は皆迷子のまま 旅をしてる
遠い日の約束を 果たすために

悲しい 物語を
終らせれば 夜明けは来る
扉を 叩く様な
命の音 聴いていたい
あなたの胸に 抱かれながら

死んで
生まれて
生まれて
幾度も
幾度も
何処かで
めぐり逢い 恋をして

あなたとあたためあう そのために
指はいつも 凍えていた
見つめれば散った花が 宙に止まる
そこに運命の絆が 揺れてるから

 

 

メインテーマ曲「運命は遠い日の約束」について。

2008年11月19日発売 「祝祭音楽劇 トゥーランドット」DVDでは、本舞台公演が収められている。またDVDにてエンドクレジットおよびPRムービー(約1分半)に聴かれるのは、同舞台メインテーマ曲「運命は遠い日の約束」のピアノ・バージョン、デモ音源である。実際に本編で使用されたメロディ旋律と異なる箇所があることから、制作期間の仮音源・デモ音源であることがわかる。

本舞台の音楽はオリジナル・サウンドトラック盤としては発売されていないので、DVDでのみ聴くことができる作品。

 

ただし2点。

DAISHI DANCEのアルバム『WONDER Tourism』にて、「Predestinate」という曲名でカバー収録されている。ヴォーカルは麻衣が担当しており、英語詞による歌唱と、デジタルビートと旋律美の融合が味わえる。

久石譲作品では、『Another Piano Stories ~The End of the World~』にて、「Destiny of Us (from Musical Turandot)」という曲名で収録されている。ピアノ、弦楽、アコースティック・ギターからなる、同楽曲のインストゥルメンタル・ヴァージョンである。

 

 

祝祭音楽劇 トゥーランドット ポスター

 

Blog. 「モーストリー・クラシック 2009年10月号」 久石譲 インタビュー内容

Posted on 2016/1/19

クラシック音楽誌「MOSTLY CLASSICS モーストリー・クラシック 2009年10月号 Vol.149」です。久石譲音楽活動においては、ソロアルバム「ミニマリズム」(2009)を発表した時期になります。「ミニマリズム」を作り終えた直後の作品に対する具体的な話を、当時のクラシック音楽指揮活動もふまえながら語られています。

 

 

STAGE Chapter 02

宮崎駿のアニメ映画作品や北野武の作品、今年話題になった「おくりびと」などの映画音楽を手がけ国際的にも高い評価を得ている。近年は、新日本フィルや関西フィルなどのオーケストラを指揮して、自作の映画音楽とクラシック音楽の指揮も行っている。その実り多い体験を経て、自らの原点であるミニマルミュージックの作曲に再び着手し、CD「ミニマリズム」を発表した。ベートーヴェンなどの古典音楽とミニマルミュージックの共通点を見いだし、新しい音楽の世界を切り開いた。

-2005年の本誌のインタビューで「オーケストラのシンフォニーのような少し大きな作品を体力のあるうちに作りたい」といわれました。

久石:
音楽大学の作曲科に在籍していたころから始まって、卒業後の20歳代は、現代音楽の作品を書いていました。それから、映画やCMなどのエンターテインメントの世界で作曲活動をしてきました。

しかし、最近、また自分自身のための作品を書きたいという気持ちが強くなってきたのです。そこで、大学時代に感化されて、自分の作風としていた、つまり原点にあるミニマルミュージック(最小限の音型を繰り返す音楽、以下ミニマルと表記)をもう一度しっかりやってみたいというのと、自分の中でクラシック音楽がどういったものなのかということを確認しようと思ったんです。

 

-今年1月の新日本フィルとの演奏会で指揮されたチャイコフスキーの交響曲第5番は、特に終楽章の構成が見事で感銘を受けました。

久石:
僕たちが大学に入って作曲をしていた時は、いまも核の部分は変わっていないのかもしれないけど、古典芸能のようなクラシックを「古い音楽」と否定して現代音楽を作りました。その頃は、ベートーヴェンやマーラーを調べてる余裕があるのなら、シュトックハウゼンやクセナキスを勉強して、クラシック音楽の勉強に割く時間も少なく、「こんなもんだ」とわかったような気でいました。

自分が指揮する立場になると、なんでこの音をこういった形で書き、展開させて行ったのかということを考えなければならない。そうしているうちに否定していたはずのクラシック音楽の凄さに気付かされたんです。そういったことは、本来は大学時代にやるべきだったのでしょうが、作曲科にいて新しい曲を求めていたことによって、抜け落ちていたことに気がつき「もう一回、クラシック音楽をちゃんとやろう」という気持ちが強くなってきました。

 

-CDに収録されている作品は、我々が知っているミニマルミュージックとは、かなり違っています。

久石:
それは、作曲の姿勢を、エンターテインメントの要素を取り入れて作曲していた自分の立脚点を、クラシックの方に置きかえてミニマルを作ろうと考えたからです。なぜミニマルかというと、我々が作曲を学んでいた当時は、不協和音をぶつけたり、図形のような譜面を書くなどといった作曲法が全盛で、響きを重視していた一方で、リズムには無関心でした。ポップスが、体に響くリズムを使って、存在感を増していったのに反して、それがない現代音楽は衰退していった。しかし、ミニマルは現代音楽でありながら、リズムと調性が残っていた。そこに共感し、また可能性を見いだし、それ以来、ミニマルの作曲を中心に行っていました。

 

-今回発表された曲は、初期のミニマルとは、核は同じですが音楽がより豊かになっています。ミニマルについての考え方が変わったのでしょうか。

久石:
指揮をやりはじめて、クラシックの曲の構造などをもう一度勉強し直してみると、ベートーヴェンは交響曲第5番で、有名な出だしの4つの音を、至るところにいろんな形で繰り返して使って、大きな構造物を作り上げている。ブラームスにもそういうところがあります。手法は違うのですが、ミニマルに相通ずるところがあるんです。

そこから発想したのが、「シンフォニア」という曲です。交響曲のもとになる言葉なんですが、元来イタリアでは、3部形式からなるディヴェルティメントのようなもっと気楽な管弦楽曲だったんです。室内オーケストラで出来る、古典音楽を素材にしたミニマルを作りました。

 

-クラシック音楽を聴いた人間ですと、第九の断片を聴き取ることは可能です。単なる引用ではなく、展開の仕方も面白く、一筋縄ではいかない曲になっていますね。

久石:
第2楽章では、コード進行と古典的なフーガが続いて現れ、第3楽章では、ティンパニやホルンなどが加わって、和声も4度、5度の進行をベースに作っているので、ベートーヴェンの第九の断片のような音が出てくる部分もあります。

 

-そういった古典音楽の手法が使われていながら、ミニマルの規則的に移り変わって行く音楽の特徴はそのままなので、演奏は至難では。

久石:
それもあって、名手ぞろいのロンドン交響楽団とアビーロード・スタジオで録音しました。アビーロード・スタジオのチーフエンジニアやコンサートマスターのカルミネ・ラウリが参加、最初は映画音楽の録音と思っていたようですが、事務局に曲のことを説明し、譜面も送っていたので、ロンドン響もクラシック音楽を演奏するときの陣容で録音に臨んでくれました。

曲のリハーサルをやっているうちに、ミニマル特有の音型を繰り返す音楽なので、縦の線を合わせるために、クリック(規則正しく繰り返される電子音)をつけてずれないように演奏し、録音もうまく行きました。

彼らはジョン・アダムズなどのミニマルの作曲家の作品も手がけていることもあって、とてもふくよかで豊かな演奏になっています。それに、録音後のマスタリングでも、ポピュラーや映画音楽などはCDのプレイボタンを押すとすぐ音楽が始まるように設定しているんですが、別にこちらからオーダーしたわけではないのですが、クラシック音楽のように、音が出るまで時間をあけてくれたんです。作品を聴いて、彼らがそう感じてくれたのは嬉しかったですね。

(「モーストリー・クラシック 2009.10 Vol.149」より)

 

モーストリー・クラシック 2009.10

 

Blog. 久石譲「Orchestra Concert 2009 Minima_Rhythm tour」コンサート・パンフレットより

久石譲 『ミニマリズム』

Posted on 2016/1/17

久石譲過去のコンサートより、2009年開催「ミニマリズム・ツアー」です。

 

久石譲 Orchestra Concert 2009 ミニマリズム・ツアー

[公演期間]47 久石譲 Orchestra Concert 2009
2009/08/15 – 2009/09/03

[公演回数]
12公演
8/15 神奈川・ミューザ川崎シンフォニーホール A
8/16 東京・すみだトリフォニーホール B
8/18 愛知・愛知県芸術劇場 コンサートホール A
8/19 広島・広島ALSOKホール A
8/20 福岡・福岡シンフォニーホール B
8/22 新潟・新潟市民芸術文化会館 りゅーとぴあ B
8/24 北海道・札幌コンサートホールKitara 大ホール A
8/26 宮城・東京エレクトロンホール宮城 A
8/28 大阪・ザ・シンフォニーホール A
8/30 大阪・河内長野市立文化会館 ラブリーホール B
9/2 東京・サントリーホール A
9/3 東京・サントリーホール B

[編成]
指揮・ピアノ:久石譲
管弦楽:
新日本フィルハーモニー交響楽団
関西フィルハーモニー交響楽団
コーラス(Program B):
栗友会合唱団
九響合唱団、九州大学混声合唱団、福岡教育大学混声合唱団、有志
河内長野ラブリーホール合唱団

[曲目]
【Program A】
Minima_Rhythm
I. Links
II. MKWAJU 1981-2009
III. DA・MA・SHI・絵

Sinfonia for Chamber Orchestra
I. Pulsation
II. Fugue
III. Divertimento

The End of the World
I. Collapse
II. Grace of the St. Paul
III. Beyond the World (without mixed Chorus)

Departures
Prologue~Theme
Prayer
Theme of Departures

Kiki’s Delivery Servise

Water Traveler

—–アンコール—–
Wave
Ponyo on the Cliff by the Sea

【Program B】
Minima_Rhythm
I. Links
II. MKWAJU 1981-2009
III. DA・MA・SHI・絵

Sinfonia for Chamber Orchestra
I. Pulsation
II. Fugue
III. Divertimento

The End of the World
I. Collapse
II. Grace of the St. Paul
III. Beyond the World (with mixed Chorus)

Ponyo on the Cliff by the Sea (with Chorus)
Movement. 1
Movement. 2
Movement. 3
Movement. 4

—–アンコール—–
おくりびと メインテーマ (大阪B)
Wave
風の谷のナウシカ 2009

 

 

2009 久石譲 in London
ABBEY ROAD STUDIOS &LONDON SYMPHONY ORCHESTRA

2009年6月、久石譲の新作アルバム「Minima_Rhythm」のレコーディングがロンドンで行われた。アビー・ロード・スタジオ、ロンドン交響楽団の演奏、このレコーディングには”或るストーリー”があった。

 

-アビー・ロード・スタジオへの想い

久石:
僕がロンドンに住んでいた頃、アビー・ロード・スタジオにマイク・ジャレットというとても親しいチーフエンジニアがいたんです。一緒にレコーディングをすることも多く、本当に信頼の置ける人物だったのですが、惜しいことに若くしてガンで亡くなってしまった。彼の最後のセッションが僕との仕事で、ロンドン交響楽団演奏による『水の旅人』のメイン・テーマのレコーディングだったんです。そのときはエアー・スタジオのリンドハース・ホールで録ったんですが。そしてマイクは亡くなり、僕はロンドンを引き払った。そのあたりのことは『パラダイス・ロスト』という本にかなり詳しく書いています。その後、ロンドンでのレコーディングは何度もしたんだけど、アビー・ロード・スタジオでのレコーディングは避けた。ちょっと行くのがきつかった……。

数年前、『ハウルの動く城』のとき、チェコ・フィルハーモニー交響楽団でレコーディングしたものを、アビー・ロード・スタジオでサイモン・ローズとMixしたんです。それが久しぶりでしたね。そのとき、このスタジオに戻ってきたなぁという感慨があって、スタジオの隅、地下のレストラン、どこもマイクの遺していった匂いのようなものが感じられた。イギリス人独特のユーモアや品の良さ、クリエイティブな匂いとでもいうのかな。

そして今回、僕としては最も大切なレコーディングになるので、それはアビー・ロード・スタジオ、そしてロンドン交響楽団しか考えられなかったのです。マイクの亡き後も、アビー・ロード・スタジオでは伝統がきちんと引き継がれています。マイクのアシスタントだったサイモンは、今はジョン・ウィリアムズ等を録る一流のエンジニアになっているし、今回のエンジニアのピーター・コビンは、マイクの抜けた穴を埋めるべく、オーストラリアのEMIからスカウトされた。高い水準を維持するために。

今回ついたアシスタントも非常に優秀で、何にも指示されなくても動けちゃうんですよ。たぶんまた5年後、10年後になると彼らが素晴らしいチーフエンジニアに成長していくんだろうと、そういう人や技術の継承をとってもても、やっぱりナンバーワンのスタジオですね。

 

-ロンドン交響楽団との再会

久石:
今回で二度目だったんですが、ロンドン交響楽団を指揮するのは、正直とても緊張しました。最近は様々なオーケストラを指揮する機会が増えたとはいえ、今回は言葉の壁もあって、予想以上に大変でしたね。

というのも、実はロンドンに行く直前、夜中の2時か3時くらいまで曲を書いていて、そのまま徹夜で飛行機に飛び乗ってしまったんです。だから、譜面の勉強がまったくできていなくて。要するに、作曲家モードと指揮者モードは別物なんだけど、ギリギリまで作曲家として粘っていたぶん、指揮者への切り替えができていなかった。ロンドンに到着してからも一歩も部屋から出ずにずっと書き込みや譜面の勉強に時間を費やしていたんだけど、全然足りない!レコーディングはできるだけ平静を装っていましたけど、内心は結構きつかったですね(笑)。

(「久石譲 Orchestra Concert 2009 Minima_rhythm tour」コンサート・パンフレット より)

 

f14

 

『Minima_Rhythm tour』
interview ~久石譲~

原点への回帰

-「Links」で与えた現代音楽家・久石譲のインパクト

ロンドン・レコーディングでは、「Links」を初日の1曲目に録ったんですが、それが非常に良かった。どちらかというと僕は映画音楽の作曲家だと認知されていて、ロンドン交響楽団の人たちも「”Spirited Away(『千と千尋の神隠し』” is fantastic!!」などと、僕の映画音楽はたくさん知ってくれていたんです。今回もその延長線上のレコーディングだとイメージして臨んでいたところに、僕は超難度の高いミニマル・ミュージックを引っ提げていったというわけ。この「Links」を振り始めた途端、みんなの目つきが一瞬にして変わって、これは大変だ!となったんです。「この曲はチャレンジだ!新しいオーケストラ曲だ!」とね。ファースト・コンタクトにこの曲をもってきたのは大正解だったと思います。

「Links」は、2007年のCoFesta(JAPAN国際コンテンツフェスティバル)からの委嘱作品なんですが、作品を書きたくなっていた時期にたまたまオファーが来たので、CoFestaのことはほとんど知らないで引き受けたんです(笑)。実は、この「Links」を作る前に「Winter Garden」というヴァイオリンのために書いた曲があって(※ヴァイオリニスト・鈴木理恵子のソロアルバム「Winter Garden」に書き下ろした楽曲)、その作曲で、自分の世界が作れるきっかけを掴めた。「ああ、そうか。こういう形で自分はミニマル・ミュージックに戻れるんだ」と。メロディアスなフレーズを素材に、変拍子などの特殊リズムを加えることで独自の世界を表現するというものだったのですが、それと同じ方法論をさらに発展させてオーケストラ作品にしたものが「Links」です。この「Links」を書いたことによって、徐々に自分の中でミニマル・ミュージックに戻るウォーミング・アップができたわけです。

 

-2009年、ミニマリズム宣言。

ツアータイトルにもなったソロアルバムの「Minima_Rhythm」というタイトルは、ミニマル・ミュージックの「Minimal」とリズムの「Rhythm」を合わせた造語なんですが、リズムを重視したミニマル・ミュージックの作品を作りたいという思いからつけています。

かつて僕が現代音楽の作曲家だった頃、ずっと書いていたのがミニマル・ミュージックだった。そのミニマル・ミュージックにもう一度向き合って、僕自身の中できちんと作品という形にしたい。そんな作家の思いを込めています。僕の大学時代は、現代音楽と言えば不協和音でスコアが真っ黒になるような、半音ずつぶつけたものばかりをみんな書いていたのですが、その当時の現代音楽は、様々な特殊奏法を含めて響きを重視することばかりに偏ってしまったんです。作曲家は自己満足のようにどれだけ緻密なスコアを書くかということに走ってしまい、結果、人間が聴いて理解する範囲を超えてしまう譜面が多くなってしまった。僕もその一人だったんだけれど、いつしかこの方法では何かが違う、自分の目指すものではないと感じ始めていて。そんなときに出会ったのがミニマル・ミュージックでした。

不協和音ばかりに偏重してしまった現代音楽の中でも、ミニマル・ミュージックには、調性もリズムもあった。現代音楽が忘れてしまったものを、ミニマル・ミュージックは持っていたんです。

 

-封印を解き、再びミニマルの世界を志向する

30歳くらいのときに僕は現代音楽を封印し、その後映画音楽やポップス・フィールドで仕事をしてきました。言うまでもなく、ポップスの基本はメロディとリズムにあって、衰退の一途を辿る現代音楽とは対照的にポップスはどんどん隆盛していった。そんな両者を知る僕にとっては、ポップス・フィールドで培ってきた現代的なリズム感やグルーヴ感をきちんと取り入れて両立させ、独自の曲を作れるのではないかと考えたんです。もう一度作品を書きたいという気持ちが強くなったとき、自分の原点であるミニマル・ミュージックに戻ること、それと同時に、新しいリズムの構造を作ることが自分の辿るべき道だと思ったのです。それはごく自然なことでした。

前述した「Winter Garden」や「Links」といった最近の僕の作品には、11拍子や17拍子といった特殊拍子が必ず出てくるのですが、そういう変拍子なのだけれどもグルーヴを感じさせるリズムの使い方が、現在の自分にとって気に入っているパターンです。

 

1981↔2009 久石譲の原点と現在

-「Minima_Rhythm」では、初期のミニマル・ミュージック作品をオーケストラ楽曲として改めて書き直した

その一つが「MKWAJU 1981-2009」です。

東アフリカの草原に、理由もなくポツンと生えているものすごく大きな木、あの木のことをムクワジュと言うんですよ。素材にしたのは、東アフリカの民俗音楽。♪タンタンタカタカタカタカタッタッと、永遠に彼らが繰り返しているその多重的なリズム要素の音型をもとに作品にしたのが「MKWAJU」なんです。

1981年に発表した小編成から、今回のオーケストラ作品に書き直すにあたって、分厚くなりすぎないように清涼感を残す工夫を凝らしています。加えて、発表当時に表現しきれなかった部分をしっかり聴かせられる作品に仕上げられたらと思いますね。個人的なことなんですが、発表当時は素材を上手く使いきれていなくて、色々仕掛けをしていたはずなのにどこかうまくいかない。本当は曲の途中でフレーズが半拍ずつズレていくところを、ちゃんと聴かせるだけの技術力が足りなかったわけです。

ミニマル・ミュージックのような繰り返しの音楽は、実はものすごく難しい。単に同じ素材を繰り返すだけでは当然飽きてしまいますから。だから、微妙にアングルを変えていき、ちょっとずつ変化をさせて、聴いている人には繰り返しているように聴かせることがとても重要。つまりその微細な変化を無意識の世界に訴えかけているんです。二つ目にもっと大事なことは、素材が良いこと。ミニマル・ミュージックが成立するかしないかは、この二点に係ると言ってもいかもしれませんね。

その意味では、この「MKWAJU」は本当に良い音型と出会えて幸運でした。この♪タンタンタカタカタカタカタッタッというフレーズを、オーケストラの人たちがお茶を片手に廊下を歩きながら口ずさんでいるのを聞いたときには、ヤッタ!と思いましたね(笑)。

もう一つが、「DA・MA・SHI・絵」。

これも初期の頃の作品で、コマーシャルのために書いた曲です。日本のCMにミニマル・ミュージックのパターンを導入した初めての楽曲で、15秒、30秒というCM用に書いたキャッチーな素材ですから、十分に楽曲になり得るだけの要素はありました。その音型をもとに作品として再構成したものです。

1985年のアルバム「α-BET-CITY」に収録してから、その後も何度かアンサンブルに編曲しているんですが、今回オーケストラにする段階では、メイン音型と7つから成るフレーズの組み合わせを一新して(オリジナル音型は残したまま)組み替えたので、結局ゼロから作り直したような新しいイメージに仕上がっています。

ミニマル・ミュージックの基本音型というのは、組み合わせ一つでも方法論を変えると、すべて作り直さなくてはいけなくて、一部分だけ直すということはあり得ない。ある日これでいいと思っていても、翌日ここが違うと感じて直しだすと、それ以降全部パターンが変わってしまうんです。要するにいつまでたっても、八割方できた気がしても、ちょっと違うと思って手を入れると、またゼロからの作業になるというその繰り返し。普通、映画作品などの音楽を作曲するときなんかは、時間をかけて作った分だけ必ずレベルがアップして良くなっていく場合が多いのだけれど、ミニマル・ミュージックに関しては、完成に近づくまでの試行錯誤が本当に大変で。真っ暗闇の中で、遠くに見える微かな灯りを目指すように、何かありそうだと思って感覚を頼りに手探りで進んでいくだけなんですが、そのぶん、曲が本来求めている形に出会えたときの嬉しさといったらないですよね。喜怒哀楽って振り子のようなものだと思うのですが、苦しみが大きいぶん、喜びもひとしおなんです。

 

”古典的”と”現代的”を融合させた新しい”スタイル”

-音楽的な構造を突きつめていった機能的な作品「Sinfonia」

「Sinfonia」は、本当に久しぶりに作品を作ると決めたときの出発点と言ったらいいんでしょうか。逆に言うと、30年近い空白を埋めるための個人的に非常に重要な位置づけの作品になります。もちろん今までもコンサート用にミニマル・ミュージックをベースにした曲を作ったりしてきました。が、やはりそれは半分ポップス・フィールドに自分の片足を残して、一般の人に聴いてもらうことが前提となっていた。そのためCDセールスといった制約や妥協しなくてはいけないことが多々発生し、僕の中では完全に作品とは言い切れない部分があったんです。

この「Sinfonia」は、自分の中のクラシック音楽に重点を置いて構築したもので、音楽的な意味での、たとえば複合的なリズムの組み合わせであるとか、冒頭に出てくる四度、五度の要素をどこまで発展させて音楽的な構築物を作るかということを純粋に突きつめていった作品です。”クラシカル・ミニマル・シンフォニー”と副題をつけたいくらいなんですが、それはクラシック音楽が持っている古典的な三和音などの要素をきちんと取り入れたミニマル・ミュージックということ。そのため編成も非常にオーソドックスな2管編成を採用して、クラシカルなニュアンスを出しています。

第1楽章の「Pulsation」という曲は、僕がまだ現代音楽家だったときに最後に書いた「パルゼーション」という曲の構造を発展させたもの。リズムというよりも機械的なパルスの組み合わせで、四分音符、八分音符、三連音符、十六分音符などを複合的に組み合わせ、五度ずつ調を上げて、全部の調に展開していきます。

第2楽章の「Fugue」は、雲のように霞がかったり消えたりするようなコード進行と、いわゆるバッハなどの古典派的なフーガの要素で構成しています。これも第1楽章と同じで五度ずつハーモニーが上昇し、全部の調で演奏されて終わります。

第三楽章の「Divertimento」は、5月のクラシックのコンサート(※2009年5月24日、久石譲Classics vol.1)で初演をしたんですが、そのときは弦楽オーケストラのために作った曲を、今回は管楽器などを加えて書き直しました。ティンパニやホルンなどが入ったおかげで、より一層古典派的なニュアンスが強調され、初演の弦楽オーケストラとは一味違う作品になったかな。

 

-強烈なメッセージ性を込めた情緒的な作品「The End of the World」

僕はどちらかと言うと、音楽は純粋に音楽で表現するべきだと捉えているんですが、この「The End of the World」は社会的なメッセージを込めた数少ない作品の一つです。

その数少ない作品の中でも、1992年に作った「My Lost City」というアルバムがあるんですが、それは1930年代の世界大恐慌のときに、狂乱の日々を送って破壊的な人生を歩んだ米国の作家F・スコット・フィッツジェラルドを題材に、日本のバブルに対する警鐘を鳴らしていた。日本人、こんなに浮かれていたら大変なことになるぞ!と。案の定、バブルは崩壊して日本は本当に漂流を始めてしまったわけですが。

この「The End of the World」は「After 9.11」をテーマに扱った作品です。「9.11 (アメリカ同時多発テロ)」を契機に、世界の価値観は完全に狂っておかしくなってしまった。混沌とした時代の中で人々はどっちに向かえば良いかわからない。指針のない不安な世の中を生き抜くには、自分自身をしっかり見つめて見失わないように生きるしかない。利益追求型の社会システムが崩壊し、そんなことでは人々は幸せになれないとするならば、自らの手で自分自身を、そして周りを変えていく意志を持っていこうと、ある意味では非常にポジティブなメッセージでもあるんです。

前作のアルバム「Another Piano Stories~The End of the World~」では最終楽章にスタンダード・ソングの「The End of the World」という歌曲を入れて全四楽章で発表したんですが、今回は三楽章で成立する交響曲のように作り直そうと考えた。そして、オリジナルの12人のチェロ、ハープ、パーカッション、コントラバスとピアノの小編成だったものからオーケストラに書き直したので、よりイマジネーションが広がり、2年ほど前の構想段階で考えていたコーラスを復活させようと思いついたんです。では、言葉は何にしようか?と考えたときに、ラテン語で「世界は終わる」という単語と、そして「悲しみと危機は愛によって去る」という言葉を歌詞として当てはめたんですが、ロンドン・ヴォイシズのコーラスを聴いたとき、この曲が本来行くべきところにやっと辿り着いたんだという感動が込み上げてきましたね。数年前に作った曲がついに完成したのだと。

 

-言葉をある種記号化させたコーラス譜

実は、僕はコーラス曲を書くのはあまり好きではなかった。というのも、言葉の問題と折り合いをつけることがどうしても難しかったからなのですが。でも、何年か前の「Orbis」(※2007年12月、サントリー1万人の第九の第25回記念序曲としての委嘱作品)でコーラスに取り組み、散文的な幾つかのキーワードを用いることで楽曲として成立させることが可能だとわかった。それからミュージカル『トゥーランドット』を経て、『崖の上のポニョ』でもコーラスを使っています。それと昨年の武道館コンサートでは200名のオーケストラと800名の混声合唱団で全開にしていますし、今では”オーケストラ+コーラス”は僕の定番みたいになっていますね(笑)。

今回の「Beyond the World」では、ロンドン・ヴォイシズからコーラス譜の書き方を誉められたんです。「ジョー、お前はどこで勉強してきたんだ?ジュリアードかパリのコンセルバトワールか?」「いや、ジャスト日本!」「アンビリーバブル!こんなに上手くコーラス譜を書ける奴はいないよ!」と。これはちょっと嬉しかったですね。

 

-新たな作品の誕生とスタート地点

今夏のツアーでは、(Bプロに)コーラスを入れたのも大きな特徴で、『崖の上のポニョ』をコーラス入りのオーケストラ組曲として初披露します。ちょうど北米公開も始まるし(※2009年8月14日公開)、映画の要素を凝縮したオーケストラ・ストーリーとして楽しめると思います(笑)。Aプロでは、米国アカデミー賞外国語映画賞を受賞した『おくりびと(Departures)』を、これもオーケストラは初演となるので、オリジナルのチェロ・アンサンブルとの違いを楽しめるじゃないかな。

そして、A・Bと両プログラムで「Minima_Rhythm」を全曲演奏する。もう本当に全エネルギーを注ぎ込むようなエキサイティングなプログラム。「Minima_Rhythm」の個々の曲は長編で重たい作品なので、1プログラムですべて網羅してしまっていいものかどうか迷ったんですが、やっぱりすべてお客さんに聴いて欲しかった。そのくらい、僕の中で思い入れのある作品となったことは確かです。だからこそこれがすべてであるとはっきり言えるし、また同時に、それは出発点でしかないとも強く思っています。

(「久石譲 Orchestra Concert 2009 Minima_rhythm tour」コンサート・パンフレット より)

 

久石譲 『ミニマリズム』

 

Blog. 「久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ There is the Time」 プログラム・レポート (JOE CLUB 2007.10より)

Posted on 2016/1/15

久石譲の過去コンサートから「久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ There is the Time」(2007)です。

 

プログラムレポート(JOE CLUB 2007.10 より)

 

久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ There is the Time

[公演期間]38 久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
2007/8/2 ~ 2007/8/12

[公演回数]
7公演
8/2 大阪・ザ・シンフォニーホール B
8/3 長野・松本城内特設ステージ A
8/7 東京・すみだトリフォニーホール B
8/8 東京・東京芸術劇場 A
8/10 広島・広島県立文化芸術ホール(旧・広島郵便貯金ホール) A
8/11 愛知・愛知県芸術劇場 B
8/12 福岡・福岡シンフォニーホール A

[編成]
指揮・ピアノ:久石譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
ゲストヴォーカル:林正子

[曲目]
ProgramA
World Dreams
楽劇「ニュルンベルグのマイスタージンガー」序曲 (R.ワーグナー)

[W.D.O.BEST]
パイレーツ・オブ・カリビアン (K.バデルト)
ロシュフォールの恋人たち (M.ルグラン)
24 Theme (S.キャラリー)
Mission Impossible (L.シフリン)

[久石譲 with W.D.O.] 【東京・広島・福岡】
Winter Garden 1st&2nd movement
天空の城ラピュタ
For You (Vo:林正子)
遠い街から (Vo:林正子)
Quartet Main Theme
la pioggia
水の旅人

[久石譲 with W.D.O.] 【長野】
Winter Garden 1st&2nd movement
君をのせて
Asian Dream Song
太王四神記より
Quartet Main Theme
la pioggia
水の旅人

ProgramB
World Dreams
楽劇「ニュルンベルグのマイスタージンガー」序曲 (R.ワーグナー)

[W.D.O.BEST]
パイレーツ・オブ・カリビアン (K.バデルト)
ロシュフォールの恋人たち (M.ルグラン)
シェルブールの雨傘 (M.ルグラン) ※大阪のみ
24 Theme (S.キャラリー)
Mission Impossible (L.シフリン)

[Rock’n roll Wagner]
ツァラトゥストラはかく語りき 〜 We Will Rock You (R.シュトラウス/B.メイ/久石譲編曲)
Smoke on the Water 〜 Burn (ディープパープル)
Stairway to Heaven (J.ペイジ) (Vo:林正子)
Bohemian Rhapsody (F.マーキュリー) (Vo:林正子)
楽劇「ワルキューレ」より ワルキューレの騎行 (ワーグナー)

[久石譲 with W.D.O.]
太王四神記より
Quartet Main Theme
la pioggia
水の旅人

—–アンコール—–
太王四神記より ※東京A・広島・愛知・福岡
Summer ※大阪・東京B
となりのトトロ ※全会場

 

 

プログラムレポート

8月2日、大阪公演から始まったWorld Dream Orchestra 2007。今回のコンサートは「There is the Time」と題し、W.D.O.プロジェクトの今までの集大成となる「W.D.O. Best」、久石のオリジナル楽曲を新日本フィルと共演する「久石譲 with W.D.O.」、そして「Rock’n roll Wagner」コーナー、と2プログラムによる盛り沢山の内容をお届けしました。大阪、松本、東京×2、広島、名古屋、福岡と全国6ヵ所、7公演分のプログラムレポートをお届けします!

2004年『World Dreams』、2005年『12月の恋人たち』、2006年『真夏の夜の悪夢』に続き、World Dream Orchestraのコンサートツアーも今年で4年目。ツアータイトルは『There is the Time』(今がその時)。過去3年間を振り返りつつ、これからのW.D.O.の進むべき路を再び考えてみようという、節目としての意味も込めてのツアータイトルとなりました。

今回はW.D.O.コンサートの序曲となっている「World Dreams」、そしてR.ワーグナー「ニュルンベルグのマイスタージンガー序曲」の2曲が演奏されコンサートが幕を開けるという構成です。プログラムAの構成は”W.D.O. Best”として過去3回のコンサートから選りすぐりの楽曲と今回新たにアレンジした楽曲を演奏。後半は”久石譲 with W.D.O.”として久石のオーケストラ作品を演奏しました。プログラムBでは”W.D.O. Best”のコーナーと”Rock’in roll Wagner”と銘打ってロックの名曲のオーケストラアレンジとワーグナーの楽曲を演奏しました。

プログラムA、Bまとめて楽曲解説をしていきましょう。

W.D.O.コンサートツアーの序曲として定着してきた「World Dreams」。ただ単に祝典序曲としてではなく国歌のようなある種の格調の高さを持ちつつも、どこか懐かしく情感に訴えかけるメロディを持つこの曲はコンサートの幕開けにふさわしい楽曲です。2004年、初めてのW.D.O.のコンサートツアータイトルもこの曲のタイトルから「World Dreams」と名付けられました。「World Dreams」に続き演奏されたのが「ニュルンベルグのマイスタージンガー序曲」。R.ワーグナーが作曲し、自ら台本も手掛けた楽劇「ニュルンベルグのマイスタージンガー」の第1幕への前奏曲でその祝典的な雰囲気から度々演奏会で取り上げられます。楽劇中のライトモチーフと呼ばれる旋律動機が楽曲の進行と共に提示され、最終的に同時進行でモチーフが絡み合う展開は圧巻です。

オープニングの2曲に続いて”W.D.O. Best”のコーナー。まずは「パイレーツ・オブ・カリビアン」。今年第3作目である『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド』が公開され話題になりましたが、第1作目である『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』の中で使用されていたサウンドトラックを組曲にして演奏しました。続いて、「24 Theme」。『24』は日本でも人気になったアメリカのサスペンスアクションドラマ。日本のテレビ局が1週間で24話すべてを放送したため寝不足の人が続出したとのこと。音楽は「pi、pi、pi、」の冒頭で有名ですが、オーケストラアレンジ版では混沌とした雰囲気の中で切迫感を感じさせるような独特の楽曲に仕上がっていました。次はW.D.O.2005『12月の恋人たち』から「ロシュフォールの恋人たち」。冒頭の印象的なウッドベースのソロ、中間部のドラムのソロありと2005年のコンサートでも人気の高かった曲です。ミシェル・ルグランの秀逸なスコアを山下康介さんのアレンジで、よりオーケストラの醍醐味を味わえる作品になりました。同じミシェル・ルグランの作品から「シェルブールの雨傘」。フルートのソロからバロック風に木管楽器が絡んでくる冒頭は他では聴くことのできない久石のアレンジです。1コーラスごとに転調を繰り返し次第に高揚してくる音楽とともにオーケストラも編成を大きくしてゆくその構成はオーケストラの魅力を十二分に楽しませてくれます。続いては「Mission Impossible」。テレビシリーズや映画を観たことがなくてもこの曲を知らない人はいないのではないでしょうか。

プログラムBの”Rock’n roll Wagner”のコーナーの始まりはR.シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」とQueenの「We Will Rock You」の融合です。有名な「ツァラトゥストラはかく語りき」の序曲が流れ、次第に「We Will Rock You」のリズムが現れます。合間にワーグナーの「マイスタージンガー」序曲のメロディが現れるなど、とてもコミカルな一方、力強さも感じられるアレンジです。こういった他では聴くことができない久石のアレンジ作品を聴けるのもファンにとってはW.D.O.コンサートだけなのではないでしょうか。続いて、ディープ・パープル「Smoke on the Water~Burn」。多くの人にとってロックの曲といえば!?な楽曲の2曲のメドレーを山下康介さんのアレンジで演奏しました。エレキギターの高速パッセージを弦楽器が演奏する様子は見ていても楽しめたのではないでしょうか。そして、レッド・ツェッペリンの「Stairway to Heaven(天国への階段)」。アコースティックギターから始める哀しげなフレーズが印象的なこの曲。ロック史上最高の名曲の1つを宮野幸子さんのアレンジ、林正子さんのヴォーカルで演奏しました。さらにはQueenからもう1曲「Bohemian Rhapsody」。Queenの楽曲といえばこの曲といえるほど有名かつ印象的な楽曲です。ハードロックとオペラが融合したこの曲をオーケストラの演奏と林正子さんのヴォーカルで演奏してみると、原曲のもつ世界観とはまた違った魅力が感じられたのではないでしょうか。コーナーを締めくくるのはワーグナー「ワルキューレの騎行」です。ワーグナーのオペラ「ニーベルングの指輪」の「ラインの黄金」「ワルキューレ」「ジークフリート」「神々の黄昏」の四部作の中の「ワルキューレ」の第3幕への前奏曲にあたるこの曲は、単独で演奏会で演奏されることも多く、知っている方も多いと思います。今回は林正子さんのヴォーカルパートも加わり盛大にコーナーを締め括りました。

プログラムBでは”Rock’in roll Wagner”のコーナーの後に”久石譲 with W.D.O.”として4曲演奏しました。まずは『太王四神記』。韓国で制作されているペ・ヨンジュン主演の歴史ドラマであるこの作品は、久石が音楽を担当し日本でも放送予定です。その太王四神記BGMから1曲、今回のコンサートで世界初演となる楽曲を演奏しました。ドラマが持つ壮大なテーマと叙情性を存分に感じさせてくれる演奏で、これから始まるドラマを大いに盛り上げてくれそうです。そして、「Quartet」。久石の監督作品『Quartet カルテット』のメインテーマを今回のコンサートのために3管編成のオーケストラにアレンジしました。映画の中では、カルテットを組んでいる若者4人が再起を期してコンクールで演奏する弦楽四重奏曲です。3管編成版ではオーケストラの持つ力強さを実感していただけたのではないでしょうか。続いて「la pioggia」。イタリア語の”雨”と題されたこの曲は映画『時雨の記』に使用されました。スタティックで非常にノスタルジックなメロディに感銘を受けた人も多かったと思います。コーナーの最後は、コンサートの定番曲としてかなり定着してきた感のある「水の旅人」。ホルン6本のこの楽曲はコンサートを締め括るにはうってつけの曲でした。

プログラムAの”久石譲 with W.D.O.”では久石の昨今の作品と共に、ソリストに焦点を当てプログラムが構成されました。まずは「Winter Garden 1st&2nd movement」。ミニマル指向が強く技術的にも非常に難解なこの楽曲をヴァイオリニストの豊嶋泰嗣さんが力強く演奏してくれました。変拍子のため合わせるのがとても難しかったのですがリハーサルの回数を重ねるごとに徐々にオーケストラとも息が合ってゆき、最終的にはとても素晴らしいものが出来上がりました。そして、コンサートでのリクエストがとても多い「天空の城ラピュタ」。2004年のコンサートの時にはゲスト・トランペッターのティム・モリソンさんが素晴らしい演奏を披露しました。今回は新日本フィルの服部孝也さんのソロでトランペットの素晴らしい音色を聴かせてくれました。さらにゲストヴォーカルの林正子さんは「For You」「遠い街から」の2曲を歌いました。「For You」は映画『水の旅人-侍KIDS-』の主題歌で中山美穂さんが歌っていた楽曲です。楽曲はオーケストラ版やヴァイオリンソロ版もあり、その印象的なメロディは林正子さんの歌声でさらに魅力的に響きました。「遠い街から」は今井美樹さんのアルバム『flow into space』に収められている久石の楽曲です。新日本フィルと久石本人によるピアノ伴奏、ヴォーカル林正子さんという今回のコンサートでなければまず聴くことのできないコラボレーションでお届けしました。今井美樹さんのバージョンとはまたひと味違った魅力を醸し出していました。

長野県の松本城特設ステージでの演奏では他の会場ではなかった地元有志のコーラス隊が加わり、『天空の城ラピュタ』から「君をのせて」と、長野パラリンピックテーマ曲「Asian Dream Song」とをオーケストラをバックに合唱しました。当日は強風でスコアのページが勝手にめくれてしまうので団員の方が指揮者用スコアを指揮台の裏から押さえなければいけないという状況にも関わらず、大盛況の野外ステージとなりました。

アンコールは会場によって多少の違いはありましたがプログラムA、B共に2曲ほど演奏しました。「summer」「となりのトトロ」、そして「太王四神記」です。「summer」はもちろん北野武監督作品『菊次郎の夏』のテーマ曲。今回の演奏はアルバム『空想美術館』に収められているバージョンで演奏しました。「となりのトトロ」は演奏が始めると観客の皆さんも演奏する新日本フィルの皆さんも、そして久石自身も自然と笑顔になって本当に楽しそうな演奏でした。

今回はW.D.O.コンサートツアー4年目の年ということもあり、節目という意味で”W.D.O. Best”として過去のアレンジ作品、そして”久石譲 with W.D.O.”として久石の楽曲を多く取り上げました。”Rock’n roll Wagner”のコーナーでは、言葉が重要な意味を持つ”ロック音楽”とワーグナーの楽劇という言葉に重点をおいた”オペラ”が、双方に併せ持つ劇的要素が共通しているという観点のもと、試行錯誤してプログラムを練り上げました。劇的というのは音量が大きいダイナミック(動的)な音楽ということだけを表しているのではなく、スタティック(静的)な音楽、今回のプログラムでいえば「天国への階段」、ワーグナーの作品でいえば今回は演奏されませんでしたが「トリスタンとイゾルデ」の様な作品にも相通じる劇的な要素を感じることができるのではないでしょうか。音楽と言葉の関係性をこのコンサートであらためて考えてみようと”歌”にも注目しソプラノの林正子さんをゲストに久石のヴォーカル作品もいくつか取り上げ、プログラムとしてはクラシック、ロック、ポップス、映画音楽とかなりバラエティに富んでいて飽きさせないプログラムになったのではないかと思います。

さて、今年で4度のコンサートツアーを終え、来年はどうなってゆくのでしょうか!?

実はスタッフもまだまだ先は見えていないのです。毎回毎回コンサートのプログラムに四苦八苦し、意義のあるコンサートにしようと久石、新日本フィルの皆様、そしてスタッフと頭を悩ませるわけです。現段階でいくつかテーマがあがってきておりますが、来年のテーマはいかに???乞うご期待!!!

(久石譲ファンクラブ会報 JOE CLUB 2007.10 より)

 

 

Blog. 「久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ There is the Time」 コンサート・パンフレットより 2

Posted on 2016/1/14

久石譲の過去コンサートから「久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ There is the Time」(2007)です。

 

Part.2 久石譲インタビュー

 

久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ There is the Time

[公演期間]38 久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
2007/08/02 – 2007/08/12

[公演回数]
7公演
8/2 大阪・ザ・シンフォニーホール B
8/3 長野・松本城内特設ステージ A
8/7 東京・すみだトリフォニーホール B
8/8 東京・東京芸術劇場 A
8/10 広島・広島県立文化芸術ホール(旧・広島郵便貯金ホール) A
8/11 愛知・愛知県芸術劇場 B
8/12 福岡・福岡シンフォニーホール A

[編成]
指揮・ピアノ:久石譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
ゲストヴォーカル:林正子

[曲目]
【Program A】
World Dreams
楽劇「ニュルンベルグのマイスタージンガー」序曲 (R.ワーグナー)

[W.D.O.BEST]
パイレーツ・オブ・カリビアン (K.バデルト)
ロシュフォールの恋人たち (M.ルグラン)
24 Theme (S.キャラリー)
Mission Impossible (L.シフリン)

[久石譲 with W.D.O.] (東京・広島・福岡)
Winter Garden 1st&2nd movement
天空の城ラピュタ
For You (Vo:林正子)
遠い街から (Vo:林正子)
Quartet Main Theme
la pioggia
水の旅人

[久石譲 with W.D.O.] (長野)
Winter Garden 1st&2nd movement
君をのせて (with Chorus)
Asian Dream Song (with Chorus)
太王四神記より
Quartet Main Theme
la pioggia
水の旅人

【Program B】
World Dreams
楽劇「ニュルンベルグのマイスタージンガー」序曲 (R.ワーグナー)

[W.D.O.BEST]
パイレーツ・オブ・カリビアン (K.バデルト)
ロシュフォールの恋人たち (M.ルグラン)
シェルブールの雨傘 (M.ルグラン) ※大阪のみ
24 Theme (S.キャラリー)
Mission Impossible (L.シフリン)

[Rock’n roll Wagner]
ツァラトゥストラはかく語りき 〜 We Will Rock You (R.シュトラウス/B.メイ/久石譲編曲)
Smoke on the Water 〜 Burn (ディープパープル)
Stairway to Heaven (J.ペイジ) (Vo:林正子)
Bohemian Rhapsody (F.マーキュリー) (Vo:林正子)
楽劇「ワルキューレ」より ワルキューレの騎行 (ワーグナー)

[久石譲 with W.D.O.]
太王四神記より
Quartet Main Theme
la pioggia
水の旅人

—–アンコール—–
太王四神記より (東京A・広島・愛知・福岡)
Summer (大阪・東京B)
となりのトトロ (全会場)

 

 

ワールド・ドリーム・オーケストラの”4 Movement” (4つの動き)

1st Movement
「Duet -久石譲と新日本フィルの一期一会」

-ショスタコーヴィチの「Waltz II」やプロコフィエフの「ロミオとジュリエット」を堂々と奏でる一方で「The Pink Panther」を嬉々として演奏してしまう、意表を突いたプログラミングとしなやかな柔軟性。2004年、久石譲と新日本フィルがスタートさせたワールド・ドリーム・オーケストラは、既存の”ポップス・オーケストラ”とは明らかに一線を画していた。

久石:
作曲家である自分が関わる以上、ボストン・ポップスのような”ポップス・オーケストラ”にするのかどうするのか、まずは性格的な位置づけを明確にしたかったんです。単に”新日本フィル”でも”久石譲”でもない、ワールド・ドリーム・オーケストラという一アーティストが存在する。それをできるだけ早く世の中に伝えるためには、どうすべきか。”アーティスト”である以上、コンサートだけでなく、レコーディングもきちんと行ってCDも作りたい。そこで初めて、すべてが戦略的に新しいアーティストが誕生し得る。ワールド・ドリーム・オーケストラは、まずそういうコンセプトから始まったわけです。

 

-名は体を表すと言うが、”ワールド・ドリーム・オーケストラ”という名称そのものに、すでに深い想いが込められている。

久石:
個人的な流れになりますが、以前「Asian Dream Song」を作曲した時は、まだ世界が”世界(ワールド)”として形を成していた。それが冷戦構造という形であれ、何であれね。ところが9・11以後、”ワールド”ということがローカルになってしまった。”ワールド”の実体が無くなって、みんなが”違い”だけを主張し始め、民族紛争だけになってしまった。その一方、音楽の最大の良さというのは、みんながひとつの共通項に共感し、賛同できるということです。”違い”は認めた上で、みんなが一緒に道を歩むところ。コンサートなどは、まさにそうですよね。ある場所に2時間いて体験したことを、みんなで共有する。音楽が人を幸せにできる最大の部分は、実はそうした人間同士の”つながり”だと思うんです。

 

-その人間同士の”つながり”をメタフォリカルに示しているのが、実は”オーケストラ”に他ならない。

久石:
オーケストラには、ソリストとしても独り立ちできるような、プロフェッショナルで非常に個性的な人が大勢いる。ところがいざ演奏になると、それぞれの個性の違いや、音楽性の違いはお互い認めた上で、みんなある規律に基づいてひとつの音に集中する。それは”生きる”ということと同じだな、と思うんです。

 

-つまりオーケストラは”世界の理想的な縮図”(ワールド・ドリーム・オーケストラ)なのだ。

久石:
それは強く感じます。ワールド・ドリーム・オーケストラって、実はそういうことをやりたかったんだなって、すごく思いましたね。

 

-その意味では”久石譲”と”新日本フィル”という、それぞれに個性を持ったアーティストが出会い”つながり”を持つことができた、一期一会の運の良さも見過ごすことができない。

久石:
最初にワールド・ドリーム・オーケストラのコンサートを開くずっと以前から新日本フィルさんと共演させていただき、本当にいろいろ勉強させてもらいました。”オーケストラが並んだ時に響く音”というのは、僕の中では新日本フィルが基準なんですね。「太王四神記」の音楽を書いた時ですが、譜面を渡すと、あとはこちらが何を言わなくても、みんな弾くんですよ。ガッガッガッ…と。もう「Madness」を弾くのと同じ感じで、みんな弾いちゃうわけ。”こう来たら、こう行く”という流れを説明しなくても、弾いてもらえる。今年3月のコンサートの時も、これまで何度も演奏している「Kids Return」のような曲は、後半になると「みんな行けーっ!」という感じで弾くんですよ、こちらが何を言わなくても。そばで聴いていて、もはや自分が書いた音楽という次元を通り超え、”彼らの音楽”になっていると感じました。それは作曲家として、すごく幸せなことなんです。

 

-では、指揮者としての久石の目には、新日本フィルはどう映っているのだろうか。

久石:
去年の秋、アジアでいくつかのオーケストラを指揮しましたが、いろいろな要求をこなすことに(オーケストラ側が)慣れていないから、16ビートの、少しノリを要求されるような曲になると、やっぱり対応がすごく難しい。ところが、新日本フィルさんはこちらが要求すると、すぐに納得し対応していただける。これは驚きました。幅の広さというか、対応の早さ。そうした機能性も含め、やっぱりすごいオーケストラだと思いましたね。

 

-先ごろのワーグナーの「ローエングリン」の演奏で”ドイツ風の音”を出したかと思えば、久石の映画音楽録音を見事にこなし、ディープ・パープルとも共演してしまう新日本フィル。これほど引き出しの多いオーケストラは、おそらく日本中探しても皆無ではないか。

久石:
例えばヨーヨー・マにしても、タンゴを弾いたり、エンニオ・モリコーネのCDを出したり、「新シルクロード」を演奏したりするでしょう。そうした間口が広いほうが、もう一回クラシックに戻った時に冷静に演奏できるんですよ。”幼い時からクラシックだけ”というのは、いわば世間を全く知らないで育ったようなもの。だけど、いろいろやってみた上で、ベートーヴェンに戻った時に「やっぱり、いいなあ」と思える、間口の広さ……。新日本フィルさんというのは、そういうオーケストラだと思います。

 

 

2nd Movement
「3つのvariation (プログラム) -作曲家が振るオケ、パリへの憧れ、宗教的なるもの」

-かくして2004年夏、ワールド・ドリーム・オーケストラ(以下、W.D.O.)は「Hard Boiled Orchestra」というテーマを引っさげ、華々しくデビューを飾ることになる。

久石:
「Hard Boiled Orchestra」というテーマを思いついたのは良かったんですが、その段階ではまだ、あまりコンセプトがよく見えていなくて。「Mission Impossible」や「007 Rhapsody」をはじめ、いろいろな曲をアレンジしてみたんですが、今ひとつ納得できないところがあった。そもそも僕は作曲家だから、他人の曲のアレンジにそんな興味ないんですよ。ですから、作曲という観点からコンセプトを明快にして、楽曲を組み合わせ、流れを作ってみても、それでもまだ納得できない。いろいろ悩んでいた結果、辿り着いたのは、クラシックの定期演奏会に乗る曲以外にも、世界中にはいい音楽がたくさんある。南米にも、アフリカにも、日本にも、しかし、それはオーケストラが簡単に演奏できる形を取っていない。ですから、そういう楽曲を増やしていくことで、W.D.O.独自のカラーが出てくるのではないかと。もうひとつは、9・11テロの後だったこともありますが、単に他人の曲をいろいろ演奏するだけでなく、自分で作曲しないと気が済まないこともあって、「World Dreams」という、どちらかというと国歌のように朗々と響く曲を作ろうと。祝典序曲のように単に感情を盛り上げるのではなく、できるだけシンプルなもの、何か”品格”のようなものが必要だと。

 

-作曲家・久石譲が振るオーケストラ。W.D.O.のユニークな点のひとつが、実はそこにある。

久石:
作曲家というスタンスから言えば、実はそんなに他人のスコアを見ることはないんです。見ても、通りいっぺんに「なるほど」と済ませてしまう。だけど、いったんそれを演奏する身になると、ものすごく丁寧に見なければならない。ヴィオラのパートの書き方ひとつをとってみても、ざっと見るのとは違って、しっかり見る。そうすると「ああ、なるほどな」と思う部分と、世間一般に”名曲”と呼ばれている曲でも「これ、ちょっとよくないんじゃないの?」と思う部分が出てくる。指揮をするようになって、一番変わってきたのはそこですね。ですから「スター・ウォーズ」を振ってみて、楽しかったですよ。譜面見ながら「やっぱりよくかけているな…」と。クラシックも、とりあえずは立派なもので”お勉強”の対象でしかなかったものが、いったん演奏する側になると”どうするか”という問題が出てくる。そうすると、見方が変わるんです。そんな変化が生まれてきたのは、W.D.O.のおかげですね。

 

-翌2005年冬、W.D.O.は「American in Paris」というテーマに挑む。

久石:
苦労したのは、いくつかの相容れない要素を、相当大きなコンセプトで組み立てようとしたこと。一番やりたかったのは「シェルブールの雨傘」や「白い恋人たち」のようなフレンチムービーで、冬場に外に出たら雪が降っていてほしい、そういう状況をまず最初に考えました。ところがコール・ポーターの「ビギン・ザ・ビギン」や「ソー・イン・ラヴ」も、自分が好きで入れてしまった。これは完全に”アメリカン”なんですよ。”アメリカン”なんだけれども、片方に”フレンチ”もある。そうすると単に前半、後半で分ければいい、という問題では済まされなくなる。そこで共通項を突き詰めていった時に、昔のアメリカ人、つまり1920年代や30年代のアメリカ人というのは、お金ができて成功すると「パリに住みたい、行ってみたい」とみんな思ったわけです。つまり”人間の憧れ(ドリーム)”の現れ方が、実はパリなんだと。ところが、パリはそういうアメリカ人を受け入れたのかというと、容易に受け入れない。要するに、アメリカ人はオノボリさんにしかなれないわけです。憧れて憧れてパリに行って、お金さえあれば、そこで面白おかしく日々過ごすことはできるけど、結果的にパリに受け入れてもらえない自分というものも感じて、みんな傷ついてしまう。(作家の)フィッツジェラルドがそうだった。たぶんコール・ポーターもそうだったのかもしれません。あるいはピアソラなんかも(高名な音楽教師の)ナディア・ブーランジェに教えを請いにパリに行くが、断られてしまうのです。

 

-かつて「パリのアメリカ人」を書いたガーシュウィンが、弟子入りを希望したラヴェルに「君は”二流のラヴェル”になる必要はない」と断られた逸話も、そこに繋がってくる。

久石:
ピアソラにしてもガーシュウィンにしても、ブーランジェやラヴェルからの断られ方が非常に深い。つまり「クラシックのメソッドに則ってきている人ならば、その人が良くなるために教えることはできるけれども、ガーシュウィンやピアソラのような、ハナから個性の強い人をもう一回理論でがんじがらめにしてダメにするよりは、このまま自分の音楽を極めたほうがいい」という、ブーランジェなりラヴェルなりの思慮深い判断なんですね。それはそれで先見の明があったわけですが、ピアソラやガーシュウィンからしてみると、ある意味で”夢”がいったん潰れたわけですよ。だから、スティングに「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」があるとするならば、ずっと何かを望んで、追っかけて、結果が得られるかどうかはわからないけど…という意味での”人間の夢(ドリーム)”を「American in Paris」というタイトルに象徴させることで、ようやく自分の中で腑に落ちた。それでコール・ポーターとフレンチムービーを合体させることができたし、ラヴェルの「ボレロ」やガーシュウィンの「パリのアメリカ人」も演奏することができた。最初から、ものすごくうまく考え抜いて作っていたように思えるかもしれませんが、実際は、やりながらだんだん見つけていく感じでしたね。ただし、出だしで直感はあった。何かわからないけど、理由はわからない、頭で考えたところではわからない部分で「コール・ポーターである、フレンチムービーである」というのはもう決めていた。「きっとこっちに行ったら、何か見えるかもしれない」という直感はあったんですね。ただ、それを理論武装するのにはちょっと時間がかかる。いつものことですが(笑)。

 

-そして2006年夏、第3回のテーマはがらりと趣を変え、「Psycho Horror Night」と銘打った。

久石:
もともとサイコホラーの音楽って、譜面がきっちり書けているんですよ。メロディがあって伴奏があって、という単純なものでなく、不協和音を使うためには、オーケストラがちゃんと書けていないといけない。なので、サイコホラー系の音楽は想像以上にスコアがしっかりしている。埋もれさせておくには惜しい。出発点となったのは、実はハワード・ショアの「セブン」だったんですが、スコアの都合で実現できなくて。「セブン」の音楽って、映画の本編で聴くと、ほとんど聴こえるか聴こえないかぐらいに音量のレベルが下げられているから、あんまりわからないんですよ。たまたま僕はそのCDで聴いて「うまいっ!いい音楽だ」と思って。だから、そういうものをきちんと出そうと。それから「サイコ」を書いたバーナード・ハーマン、あれは古典中の古典ですよね。あの辺もキチッと演奏したいと。

 

-そうしたサイコホラーのスコアの中に、ヴェルディの「怒りの日」やオルフの「カルミナ・ブラーナ」が入ってくるところが、W.D.O.のユニークなところでもある。

久石:
サイコホラーのすごくいい点は、個人の人間的な感情の恨みつらみで…という話にならないこと。どちらかというと、人類が残した宗教がかったものを扱うことですね。つまりキリスト教的な要素。クラシック音楽の歴史から見ても、キリスト教はどうしても切り離せない。映画の場合でも、”絶対的なもの”に疑問を投げかけるときの手法として、サイコホラーはすごくいいんですよ。僕はホラーというものは”究極のラブロマンス”だと思っているんです。現世で叶えられない想いを、あの世からまだ未練たらしく引きずっているわけですから(笑)。

 

-考えてみれば「チューブラー・ベルズ」が使われた「エクソシスト」にしても、その根底にはキリスト教的な”神”の問題がある。

久石:
例えばニーチェにしても”神は死んだ”と言い切ってしまう哲学がありますね。それは(神のような)絶対的な存在があるために、みんな自分が見えなくなってしまうという状況に対して「”神は死んだ”ということを一回は言っておかないと」ということなんですね。僕らは幸いなことに八百万の神だから、宗教問題でそんなに悩むことはないですが。ただ、宗教というのは、そういう”絶対的な”枠組みで人間をある程度規制しないといけない。モーゼの十戒にしろ、仏教にしろ、真っ先に出てくる教えは単純に”殺すな”ということですね。決して”救う”ということではない。どちらかというと”やってはいけない”ということから入る。そうでないと、今の世界みたいに、連日すさまじい事件が起こってしまうわけですよ。そういう意味で、人間の側面で絶対に宗教が必要な部分があるのはわかる。僕自身は無宗教ですが、そこらじゅうでタガが外れ始めてしまうと、「ああ、これはやっぱりもう一回宗教的な力でも借りないと、本当に厳しくなるな」って思いますよね。

 

-W.D.O.設立当初の”9・11以後”という問題意識に対する、ひとつの解答。「Psycho Horror Night」の最後にカッチーニの「アヴェ・マリア」を演奏した必然性は、そこにある。

久石:
あれはうまく行きましたね、自分で言うのもナンですけど(笑)。作り上げるまでは大変でしたが、演奏も一回きりでしたから、逆に”一回性の良さ”というものを発揮したかった。この時しかない、というもの。それを実現させるためにはオルフの「カルミナ・ブラーナ」でコーラスも100人以上入れて、どこまでも…という形が取れたので、すごく満足できましたね。

 

-結果として「Psycho Horror Night」はクラシック色が強いプログラムになったが、サイコホラーという入口から始めてクラシックを楽しむ、という聴き方にも、実は大きな意義があった。

久石:
W.D.O.には、必ずそういう側面もあるんです。ある意味では挑戦的なプログラムを作っているけれども、これをきっかけにして、クラシックを含めた音楽全体を、もっと楽しんでいただきたい、自分の生活の中にもっと取り入れていただきたい、という気持ちは凄くあるわけです。クラシックは、実はほとんどの人が食わず嫌いだと思うんです。人間って自分から努力をしないと、その良さはやっぱりわからない。良さがわかってくると、もっと知りたくなりますが、そこまで行くのがなかなか大変だから、W.D.O.がきっかけとなって「ちょっとマーラー聴いてみようかな」とか「クラシックのコンサート行こうかな」とか。そういうことだけでも、僕はとっても価値があると思っています。

 

3rd Movement
「Aria (言葉との格闘) -Rock’n roll Wagner」

-そして4年目を迎える今年、W.D.O.は”Rock’n roll Wagner”というテーマを打ち出した。

久石:
今年は「久石譲 35mm日記」(宝島社刊)という本を出すこともあって、”言葉”と日々格闘しているんです。”言葉”と響き合うメロディをどう書くか、という課題は自分としてはこれまで避けてきたテーマなんですが、今後、その課題と向き合わなければならないプロジェクトも控えている、それも踏まえて、今年のW.D.O.のテーマは”歌”だ、と。ワーグナーを取り上げたくなった理由のひとつは、そこにあります。

 

-改めて説明するまでもなく、ワーグナーはオペラの作曲にあたり、自ら台本を執筆し、時には独自の歌詞の韻律まで考案して”言葉”と格闘した作曲家である。

久石:
ワーグナーの”言葉”は日本語ではありませんが、彼が格闘した”言葉”と、そこから彼が引き出した劇的な要素のメロディ。それを自分自身で体感してみたい。単にワーグナーの譜面を見てCDを聴くだけでなく、実際に指揮してみることで感じる何か。それを今の自分がいちばん欲しているんです。だから、どうしてもそれをやってみたい。結局、自分がしてみたいと思うことをすることが、ものすごく大事。そうでないと、こちらの熱意も伝わりませんし、お客さんを喜ばせることもできませんから。ですから、今回「タンホイザー」と「ニュルンベルグのマイスタージンガー」を振ることは、今からすごく楽しみにしているんです。

 

-ワーグナーは自ら作曲したオペラを楽劇(ムジークドラマ)と呼んだ。ワーグナーの楽劇が本質的に内包している”ドラマ性”。今回、久石はそれと正面切って向き合おうとしている。

久石:
モーツァルトのような作曲家は、みんなオペラを書いていますね。オペラを書いたら”劇的”だと。ただ、そこで勘違いしやすいのは、すごくダイナミックで激しいものが”劇的”だ、ということではない。たとえスタティックな音楽の中にも”ドラマ性”というものがある。そういう意味での”劇的”なんですね。”ドラマ性”というものは、音楽の中でとても重要な要素だと思うんです。例えば第1主題が現れ、関連調で第2主題が現れ、再現部で原調に戻って…というソナタ形式のようなフォーマットがある時は、そのフォーマットに則ってある程度作曲していくことはできる。モーツァルトがたくさん書いたようにね。ところがフォーマットが明確になりすぎると、何を書いても同じになってしまう危険が出てくる。そうすると、作曲家はみな独自性を求めるわけです。その中で「モルダウ」や「フィンランディア」のような交響詩や、あるいはシェーンベルクがリヒャルト・デーメルの詩の情景をイメージした「浄夜」のような作品が生まれてくる。マーラーの交響曲もそうですね。子供の時に彼が聴いていた歌が、突然回想のように出てくる。決して論理的な構造を持っていない。つまり、ある種の”ドラマ性”に則って、形式から脱出するわけです。そういうものを、僕はまとめて”劇的”あるいは”ドラマ性”と呼んでいる。その”劇的”な要素が一番明快に現れているのが、ワーグナーなんですね。「トリスタンとイゾルデ」などを聴いていつも思うのは、ワーグナーのメロディの裏にある、複雑な対旋律の凄さ。3つも4つも旋律が絡んでいるのに、どうして混乱しないんだろうと…。だからといって、ワーグナーが見事な交響曲を書いたのかというと、そういうわけではない。ワーグナーのテクスチュアは、自分の中のエモーショナルな部分、精神的な”ドラマ性”の中から生まれてきているんですね。

 

-そのワーグナーが、なぜロックと結びつくのか?

久石:
ロックというのは大まかに言って、まずリズムがあり、それから言葉が来て、言葉を乗せるためのメロディが来る。例外はありますが、優先順位でいうとそういうことになります。そうすると、単純なフレーズをリズムに乗せて繰り返す時に、言葉の持っている”強さ”が人にインパクトを与えることになる。と同時に、歌手の個性も重要なファクターになってくる。リズムと言葉と歌手。これがロックの場合には、非常に重要です。そこから生まれてくる”強さ”というのは、やはり”ドラマ性”だと思うんですよ。エモーショナルで”強い”もの。ワーグナーとロックが、僕の頭の中で直観的に結びついたのは、おそらくそういうことだったと思うんです。

 

-今回、久石が最終的に選んだ”ロック”は、ディープ・パープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」やクイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」、レッド・ツェッペリンの「天国への階段」など、70年代UKロックを中心としたものだ。

久石:
精神的には”ロックとクラシックの融合”のプログレなんですよ。エマーソン、レイク&パーマーの「展覧会の絵」のような。ロック・ミュージシャンでも、普通にクラシック的な要素を取り入れてしまうところが、UKの凄さ。そのあたりに関しては、日本のロックとの温度差は強烈に感じますね。

 

-ここで興味深いのは、ワーグナーにしろ、クイーンのフレディ・マーキュリーにしろ、ある種の”異邦人”性を自らの内に抱えながら音楽を貫いたミュージシャンだったということ。ドレスデンで革命運動に身を投じ、既成のコースを外れた生き方を貫いたワーグナー。ペルシャ系インド人の血を引き、UKでマイノリティとしての生き方を余儀なくされたフレディ・マーキュリー。そうした”異邦人”性は学生時代、ミニマル・ミュージックに熱狂した久石自身の”異邦人”性にも重なり合ってくるのではないか。

久石:
(音大生の)当時、どこに行っても何をしても歓迎されない、という感じはありましたよ。現代音楽の分野でも、クラスター音がビッシリ埋まった譜面を書くか、1時間同じ音を弾き続けるアイディア勝負のやり方か、どちらかしか道がなくて。両方とも自分には居心地が悪かったし、大学の授業に出ても「お前が出るとうるさい。うるさいから出るな」と言われましたね(笑)。結局「すでに出来た道をうまく歩いていく」というのは、僕の人生じゃない。今までにないことを、必ずやる羽目になる。木で言えば”幹”を作る作業が好きなんです。だけど、人は”幹”を見たって「きれい」とか「美しい」とは言わない。そこに葉が出て、花が咲いて、初めて「きれい」と言うわけです。「きれい」ということをやるためには、ある程度人が通った道を歩んでいくほうが楽ですよ。だけど、自分の人生にはそれがない。W.D.O.も、既存のポップス・オーケストラと違って、きちんとアルバムも発表するし、誰もやっていないことをする。前例があまりないものだから、すごく苦しむことなる。そういう気持ちが何か嗅覚のように働いて、ワーグナーやフレディ・マーキュリーに惹かれるのかもしれません。

-Rock’n Roll Wagner、それは音楽家としての久石自身の姿勢でもあるのだ。

 

 

4th Movement
「Da Capo (W.D.O. ベスト) -そして世界への夢(ワールド・ドリーム)」

久石:
もうひとつ重要なことは、今まで3回のツアーを全部異なるプログラムで演奏してきたので、そろそろ”リピート”をかけないとレパートリーとして定着しない。3回分というのは相当な量ですから、その中で作り上げてきた楽曲、譜面をもう一回きちんと聴いていただく。そういう時期に入ってきたかな、という感じもあって、今回のツアーは”W.D.O. BEST”を組んだんです。

 

-だが、単なる”繰り返し”のベストに終わらないところが、W.D.O.のW.D.O.たる所以でもある。

久石:
「パイレーツ・オブ・カリビアン」、あの第1作のチェロのソロから始まっていく音楽は完成度が高いですよね。今回、それをやるのはちょっと楽しみなんです。それから「24」の音楽、意外にいいんですよ。リズムとメロディがよくわからない、あの感じがすごく気に入っているので、ぜひとも演奏したい。W.D.O.では、やはりアップ・トゥ・デイトな曲目もきちんと組み込んでいかないといけない。最近の映画音楽は、ロックでも何でも既成曲を使う選曲スタイルが主流になっていますから、映画を見終わった後にメロディなり音楽なりが耳に残るケースがどんどん減っている。そうした中で「パイレーツ・オブ・カリビアン」や「24」は、近年の作品としてはきちんとそれを出していますから、W.D.O.の中で演奏すべきだと。

 

-ちなみに「タンホイザー」と「マイスタージンガー」は、共に”歌合戦”をテーマにしたオペラである。

久石:
つまり、もう一度”メロディ”に回帰(ダ・カーポ)する。今年は”歌”が、僕自身のテーマなんです。最終的には”歌”を書きたいし、書くことになる。そうした今の自分を聴いていただくのが自然だと。今回のツアーで演奏する僕の曲も、多くが”歌”の曲。これほど”歌”が入ったプログラムは、W.D.O.では前例がないですね。その意味では、今年はかなり燃えるプログラムになると思います。

 

-では、今後のW.D.O.はどうなるのだろうか?

久石:
今までW.D.O.で4年間続けてきた方法論自体は、間違っていないと思いますから、あと何回かはこのまま続けて完全に身に付けていく必要がある、今回は全国ツアーという形をとりますが、今後は(新日本フィルとフランチャイズを結んでいる)すみだトリフォニーホールで夏にW.D.O.が必ず聴けるというような、いわば根を張る作業が必要になってくると思っています。それともうひとつ。”ワールド・ドリーム・オーケストラ”と称してしながら、なぜ活動が”ドメスティック”だけなのか、ということも頭にあって。このままだと”ドメスティック・ドリーム・オーケストラ”になってしまいますから、それを飛び出したいという気持ちはとても強いです。

 

-そして久石自身は、あくまでも個人的なものと断った上で、こんな”夢(ドリーム)”も持っている。

久石:
W.D.O.で演奏するかどうかは別にして、「運命」「未完成」「新世界より」というプログラムだけで、指揮してみたい。クラシックの入門曲ですが、すでに”入門”になっているということ自体、実は大変な名曲ということなんですよ。”誰でも知っている”ということは、長い時間をかけて淘汰されても残る、わかりやすさがあるということです。それは本当に凄いことなんです。

 

-特に、シューベルトは、久石の最近のお気に入りでもあるという。

久石:
「未完成」、やっぱりいい曲ですよ。1楽章と2楽章だけで、言いたいことを全部言い切っている。構成にこだわらない自由さが、やっぱり凄い。最初は「いやに長いな」と思っていたピアノ・ソナタも、最近とても心地よく感じるんです。要するに、シューベルトは書きたいように書いたから…。「運命」「未完成」「新世界より」を指揮したい、というのはあくまでも個人的な趣味ですが、別の言い方をすれば、クラシックの指揮者が通常のクラシックのオーケストラで演奏するのとは、また違ったニュアンスが出せるかもしれない。そうなったら、すごく楽しいですね。

聞き手 - 前島秀国(サウンド&ヴィジュアル・ライター)
インタビュースチール - 山路ゆか

(久石譲インタビュー ~「久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ There is the Time」コンサート・パンフレット より)

 

 

Related page:

 

WDO There is the time 2

 

Blog. 「久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ There is the Time」 コンサート・パンフレットより 1

Posted on 2016/1/14

久石譲の過去コンサートから「久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ There is the Time」(2007)です。

 

Part.1 楽曲解説

 

久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ There is the Time

[公演期間]38 久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
2007/08/02 – 2007/08/12

[公演回数]
7公演
8/2 大阪・ザ・シンフォニーホール B
8/3 長野・松本城内特設ステージ A
8/7 東京・すみだトリフォニーホール B
8/8 東京・東京芸術劇場 A
8/10 広島・広島県立文化芸術ホール(旧・広島郵便貯金ホール) A
8/11 愛知・愛知県芸術劇場 B
8/12 福岡・福岡シンフォニーホール A

[編成]
指揮・ピアノ:久石譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
ゲストヴォーカル:林正子

[曲目]
【Program A】
World Dreams
楽劇「ニュルンベルグのマイスタージンガー」序曲 (R.ワーグナー)

[W.D.O.BEST]
パイレーツ・オブ・カリビアン (K.バデルト)
ロシュフォールの恋人たち (M.ルグラン)
24 Theme (S.キャラリー)
Mission Impossible (L.シフリン)

[久石譲 with W.D.O.] (東京・広島・福岡)
Winter Garden 1st&2nd movement
天空の城ラピュタ
For You (Vo:林正子)
遠い街から (Vo:林正子)
Quartet Main Theme
la pioggia
水の旅人

[久石譲 with W.D.O.] (長野)
Winter Garden 1st&2nd movement
君をのせて (with Chorus)
Asian Dream Song (with Chorus)
太王四神記より
Quartet Main Theme
la pioggia
水の旅人

【Program B】
World Dreams
楽劇「ニュルンベルグのマイスタージンガー」序曲 (R.ワーグナー)

[W.D.O.BEST]
パイレーツ・オブ・カリビアン (K.バデルト)
ロシュフォールの恋人たち (M.ルグラン)
シェルブールの雨傘 (M.ルグラン) ※大阪のみ
24 Theme (S.キャラリー)
Mission Impossible (L.シフリン)

[Rock’n roll Wagner]
ツァラトゥストラはかく語りき 〜 We Will Rock You (R.シュトラウス/B.メイ/久石譲編曲)
Smoke on the Water 〜 Burn (ディープパープル)
Stairway to Heaven (J.ペイジ) (Vo:林正子)
Bohemian Rhapsody (F.マーキュリー) (Vo:林正子)
楽劇「ワルキューレ」より ワルキューレの騎行 (ワーグナー)

[久石譲 with W.D.O.]
太王四神記より
Quartet Main Theme
la pioggia
水の旅人

—–アンコール—–
太王四神記より (東京A・広島・愛知・福岡)
Summer (大阪・東京B)
となりのトトロ (全会場)

 

【楽曲解説】

[オープニング]

World Dreams (久石譲)
ワールド・ドリーム・オーケストラ(以下W.D.O.)のテーマ曲。2004年、新日本フィルハーモニー交響楽団とのこの共同プロジェクトがスタートするにあたり、久石譲が”祝典序曲”のコンセプトのもと書き下ろしたもの。W.D.O.のファースト・アルバム「WORLD DREAMS」および「W.D.O. BEST」に収録されている。

ニュルンベルグのマイスタージンガー序曲 (R.ワーグナー)
オペラを総合芸術の域に高めたドイツ・ロマン派の作曲家、リヒャルト・ワーグナーの1868年初演作で、壮大で重厚な悲劇が多いワーグナー作品の中では珍しい喜劇。この序曲はワーグナーの楽曲の中でも特に親しまれており、しばしば独立して演奏会や式典で演奏されるほか、CMなどでもたびたび使用されている。

タンホイザー序曲 (R.ワーグナー)
1845年に初演されたリヒャルト・ワーグナー作のオペラ。騎士で恋愛詩人のタンホイザーと、ヴァルトブルクの領主の姪エリーザベトとの壮絶な愛を描く物語で、序曲は管弦楽作品としてしばしば単独で演奏される。

[W.D.O. Best]

パイレーツ・オブ・カリビアン (K.バデルト)
W.D.O.コンサート初演。ジェリー・ブラッカイマー製作、ゴア・ヴァービンスキー監督、ジョニー・デップ、オーランド・ブルーム、キーラ・ナイトレイ主演の2003年アメリカ映画「パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち」交響組曲より。作曲は、「キャットウーマン」「コンスタンティン」などの映画音楽を手がけているクラウス・バデルト。

24 Theme (S.キャラリー)
W.D.O.コンサート初演。〈シーズン6〉に至るも依然人気の衰えないキーファー・サザーランド主演のアメリカのテレビ・シリーズ「24-TWENTY FOUR-」の主題曲。音楽は、「ニキータ」「ミディアム 霊能者アリソン・デュボア」等のテレビ・シリーズを手がけているショーン・キャラリー。

Mission Impossible (L.シフリン)
1966年から1973年にかけて放映され、絶大な人気を博したアメリカのテレビ・シリーズ「スパイ大作戦」のテーマ曲。後にトム・クルーズ主演で「ミッション:インポッシブル」としてシリーズ映画化されている。作曲を手がけたラロ・シフリンは、「ダーティハリー」シリーズや「燃えよドラゴン」等の映画音楽での名高い。

シェルブールの雨傘 (M.ルグラン)
監督ジャック・ドゥミ、音楽ミシェル・ルグラン、主演カトリーヌ・ドヌーヴのゴールデン・トリオが生んだ、フランス・ミュージカル映画の最高傑作で、1964年度カンヌ映画祭でパルムドールを受賞している。セリフもすべて歌いあげる手法も大いに話題を呼んだ作品のメイン・テーマ。

ロシュフォールの恋人たち (M.ルグラン)
監督ジャック・ドゥミ、音楽ミシェル・ルグラン、主演カトリーヌ・ドヌーヴのゴールデン・トリオが生み出した、傑作フランス・ミュージカル映画の主題曲。この1967年作品で、ドヌーヴは実の姉フランソワーズ・ドルレアックと、夢に恋に生きる双子の姉妹役で生涯唯一の共演を果たした。ジョージ・チャキリス、ジーン・ケリー等、共演者も豪華。

風のささやき (M.ルグラン)
映画「華麗なる賭け」のテーマ曲。有名な2小節のフレーズがほとんど変わらずに続くこの曲は、機能的でかつ情緒に流されない。フランス人のミシェル・ルグランがハリウッド・デビューした1968年の作品。アレンジに際し、木管と弦のみの非常にシンプルな形態をとっているが、予想外なコード進行により苦労した作品でもある。

[久石譲 with W.D.O.]

Winter Garden 1st & 2nd movement
作品性を重視し、”ミニマル・ミュージック”のスタイルに戻って書いた2006年の作品。この曲は8分の15拍子の軽快なリズムをもった第1楽章、そして特徴あるリズムの継続と官能的なヴァイオリンのメロディによる第2楽章とで構成されている。ヴァイオリニスト鈴木理恵子のアルバム「Winter Garden」収録曲。

For You
身長17センチの水の精霊と少年との交流を描く1993年の大林宣彦監督のファンタジー映画「水の旅人 -侍KIDS」で、中山美穂が「あなたになら…」のタイトルで主題歌として歌った曲。

Quartet Main Theme
久石が映画監督デビューを飾った2001年作品「Quartet」のメイン・テーマ。袴田吉彦、桜井幸子、大森南朋、久木田薫を主演に、カルテットを組んだ若者たちの姿を描く青春ドラマで、モントリオール映画祭ワールドシネマ部門正式招待作品。

夢の星空
~”キラキラ光る夜空の星。大きな月に照らされて僕は砂漠を歩いている”~(アルバム「Etude」ライナーノートより)
”3度のエチュード”と題され、2003年発表の「Etude」に収録。演奏が難しいとされる3度の連続的なパッセージを主題にした作品。技術習得のための練習曲を意味するエチュードだが、単なる練習曲としての範疇にとどまることなく、幻想的な夜空を彷彿される表情豊かな楽曲として仕上がっている。

天空の城ラピュタ
1986年のスタジオジブリ製作、宮崎駿監督の劇場用アニメ作品のメイン・テーマ。19世紀のヨーロッパの架空世界を舞台に少年少女の友情を描くこの冒険活劇は、日本国内で幅広い支持を受けただけでなく、後にイギリスやアメリカ、フランスにも紹介された。

遠い街から
今井美樹の1992年アルバム「flow into space」収録曲。久石はこのアルバムのプロデュースと編曲のほとんどを手がけ、この曲を楽曲提供している。

la pioggia
pioggiaとはイタリア語で”雨”の意。吉永小百合と渡哲也の共演が話題になった映画「時雨の記」に使用され、大人の愛の物語を彩る印象的なシーンと共に記憶に残るノスタルジックな作品。ピアノのシンプルなイントロに続き、すすり泣くようなメロディが続く荘重なアダージォ楽曲。1998年のアルバム「Nostalgia」に収録。

水の旅人
身長17センチの水の精霊と少年の交流を描く1993年の大林宣彦監督のファンタジー映画「水の旅人 -侍KIDS」のメイン・テーマ。

[Rock’n roll Wagner]

ツァラトゥストラはかく語りき ~ We Will Rock You (R.シュトラウス/B.メイ)
ドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェの著作にインスピレーションを得て、後期ロマン派の作曲家リヒャルト・シュトラウスが1896年に作曲した交響曲「ツァラトゥストラはかく語りき」は、映画「2001年宇宙の旅」に使用された第一曲「序奏」があまりにも有名。一方の「We Will Rock You」は、70年代初期から90年代にかけて一世を風靡し、現在も根強い人気を誇るイギリスのロック・バンド、クイーンの代表作の一つで、彼らの楽曲を使用して作られたロンドン・ミュージカルのタイトルともなった曲。世界のスポーツ・イベントで頻繁に流れる他、日本でもドラマやCMなどでたびたび使用されている。今回は、「We Will Rock You」のリズムに「ツァラトゥストラはかく語りき」のメロディが流れるオリジナル・バージョンをお届けする。

Stairway to Heaven 「天国への階段」 (J.ペイジ)
1970年代に世界的人気を誇ったイギリスのロック・バンド、レッド・ツェッペリンが1971年に発表した楽曲。彼らの代表作であるだけでなく、ロック史上最高の名曲の一つとして名高く、”帝王”ヘルベルト・フォン・カラヤンがそのアレンジを絶賛したとのエピソードも広く知られている。

Bohemian Rhapsody (F.マーキュリー)
イギリスのロック・バンド、クイーンの代表作の一つで、イギリス史上最高のシングル曲との誉れも高い1975年作品。約6分間にも及ぶこの大作は、ハード・ロックとオペラを融合させた楽曲としても知られ、世界初のプロモーション・ビデオが作られたことでも歴史に名を残している。日本でもドラマやCMなどで繰り返し使用されている人気曲。

Smoke on the Water ~ Burn (ディープ・パープル)
1968年に結成され、一時の中断を経て現在も活動を続けるイギリスのロック・バンド、ディープ・パープルの代表作「スモーク・オン・ザ・ウォーター」と「紫の炎」をメドレーでお送りする。日本ではレッド・ツェッペリンと並んで人気を博したハード・ロック・バンドで、彼らに影響を受けてギターを弾き始めたロック少年は数知れない。

ワルキューレの騎行 (R.ワーグナー)
オペラ史上最大スケールを誇るリヒャルト・ワーグナーの「ニーベルングの指輪」は、「ラインの黄金」、「ワルキューレ」、「ジークフリート」、「神々の黄昏」から成る四部作。「ワルキューレの騎行」は、そのうちの「ワルキューレ」の第三幕への前奏曲で、1979年のフランシス・F・コッポラ監督作品「地獄の黙示録」のテーマ音楽として使用され、広く一般に知れ渡ることとなった。

 

[長野公演]

Asian Dream Song
1998年長野パラリンピック冬季競技大会テーマ曲。久石の1999年のアルバム「WORKS II」に収録されている。久石がTHE BOOMの宮沢和史と共に歌唱を担当したヴォーカル・バージョン「旅立ちの時~Asian Dream Song」は、長野パラリンピック支援アルバム「HOPE」で聴くことができる。

君をのせて
1986年のスタジオジブリ製作、宮崎駿監督の劇場用アニメ作品「天空の城ラピュタ」の主題歌で、オリジナルは井上あずみが歌唱を担当。2002年、作品がDVD化された際に、石井竜也が続編「君をつれて」を歌うと同時に、この曲もカヴァーした。現在では合唱曲、卒業式の定番曲としても名高い。

(【楽曲解説】 ~「久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ There is the Time」コンサート・パンフレット より)

※【楽曲解説】にある「タンホイザー序曲」「風のささやき」はプログラムの都合上、本公演では演奏されていない

 

 

Related page:

 

WDO There is the time 2

 

Blog. 久石譲「Piano Stories 2006 Asian X.T.C.」コンサート・パンフレットより

久石譲 『 Asian X.T.C.』

Posted on 2016/1/9

過去の久石譲コンサートから「Pianos Stories 2006 Joe Hisaishi Asian X.T.C.」コンサートツアーです。

1998年の初共演以来、意気投合し、複数のアルバム制作にもかかわった弦楽四重奏団バラネスク・カルテットを迎えての全国12公演でのツアー開催。バラネスク・カルテットとのCD制作やコンサート履歴は、また別の機会でスポットを当てて特集したいです。

 

 

Piano Stories 2006 Joe Hisaishi Asian X.T.C.

[公演期間]36 Piano Stories 2006 Joe Hisaishi Asian X.T.C.
2006/10/03 – 2006/10/26

[公演回数]
12公演
10/3 新潟・りゅーとぴあ コンサートホール
10/5 札幌・札幌コンサートホールKitara
10/7 富山・オーバードホール
10/9 福井・ハーモニーホールふくい
10/10 東京・東京芸術劇場
10/12 神奈川・ミューザ川崎 シンフォニーホール
10/13 東京・Bunkamuraオーチャードホール
10/17 岡山・倉敷市民会館
10/18 広島・広島厚生年金会館
10/19 福岡・福岡シンフォニーホール
10/24 大阪・ザ・シンフォニーホール
10/26 名古屋・愛知県芸術劇場

[編成]
ピアノ:久石譲
弦楽:バラネスク・カルテット
二胡:ジャン・リーチュン
古筝:ジャン・シャオチン
マリンバ:神谷百子
パーカッション:ヤヒロトモヒロ、今福健司
ベース:竹下欣伸
サクソフォーン:林田和之、西尾貴浩

[曲目]
[Ensemble]
794BDH
MKWAJU
DEAD 〜愛の歌〜
Tango X.T.C.

East (Balanescu Quartet)

[PIANO Solo +]
あの夏へ
Summer
Zai-Jian

Asian X.T.C.
A Chinese Tall Story
Venuses

[Asian X.T.C.]
Dawn of Asia
Hurly-Burly
Monkey Forest
Asian Crisis

もののけ姫
HANA-BI
Madness
Kid’s Return

—–アンコール—–
風のとおり道
Oriental Wind
アシタカとサン (Pf.solo)

 

補足)
パンフレットに掲載されていた演奏プログラム予定とは大きく異なっている。曲順や演目に変更が生じている。準備段階からリハーサルを経ての事前修正、さらには、ツアー開催期間中もプログラム変更が多少発生していると思われる。

上記セットリストは、いち会場で当日配布されたプログラム紙記録である。他会場では一部曲順の変更や曲の差し替えもあるかもしれないが、おそらく総合的には上記とほぼ差異はない。

 

 

官能的かつ魅惑的なステージで独特な雰囲気を演出した同コンサートの公式ツアー・パンフレットより。

 

 

アジア趣向の中にきらめく新たな「久石譲」のかたち
~New Album「Asian X.T.C.」をめぐって~

アジアをテーマに制作した最新アルバム「Asian X.T.C.」は、単にアジア風味が効いたポップス作品集に終わらず、そのままズバリ、久石譲という作曲家の現在を映す鏡となった。その一つの証左となるのがミニマル技法への回帰である。毅然と「今の僕は過渡期だ」と言い切るその表情には、作曲家として完成すること=巨匠への道を避け、新たな可能性を追い求める最前線の戦士としてのさわやかな野心がみなぎる。

「リセットしたというのかな。原点に戻るというよりも、らせんのように描いていって、その先でもう一回遭遇したような感じだね。ミニマルをベースにやってきた経験とポップスをやって培ったリズム感、単純にいうならノリ、グルーヴ感。それが両方きちんと息づいたところでの自分にしかできない曲。それを書いていこうと決心がついた最初のアルバムが『Asian X.T.C.』なんです」

アジアというテーマも伊達ではない。「美しく官能的でポップなアジア」と銘打たれたそこには、同時に深遠な東洋思想への共鳴があった。

「アジアって善と悪が共存していて、悪はダメっていう発想がない。人間が持っている二面性も決めなくていい、両方持っているのが自分なんだと。この考えにたどり着いたとき、やっとアルバムの方向が見えたんだね」

その「決心」はアルバム構成に具体的に集約された。映画やCM曲の楽曲群(陽サイド)と、ミニマル・ベースの楽曲群(陰サイド)がそれぞれ別個に固められて前後に並んでいる。まるでLPレコードの表裏を連想させる「二面性」をあえて1枚のディスクの中で訴えているのだ。統合性や平衡感覚に囚われず、はっきり違ったものがザクっと並んでいてもいいではないか。そんな力強い作曲者の声が、手に取るように伝わる。

「曲を書き終えたあとに初めて構成が決められたんです。とりあえず今、自分がやれることはこれなんだと。その決断ですね」

アルバムの詳細に今少し踏み込むなら、全11曲を収めたアルバムには、韓国映画「トンマッコルへようこそ」、中国映画「叔母さんのポストモダン生活」、香港映画「A Chinese Tall Story」の主題曲が盛り込まれており、最近目覚ましいアジア圏での作曲者の活動が簡潔に伝えられている。ピアノは久石自身が担当し、ゲストにバラネスク・カルテット、ギター・デュオのDEPAPEPEが連なり、二胡、古箏などの中国楽器も加わる。テーマに掲げられた「ポップ」とは要は「かっこいいこと」に通じ、「官能的」とはバリ島で刺激を受けたという闇、その体験談に顕著な「神秘性=ゾクゾク感」という表現に換言することができるだろう。音色といい、発想といい、整然とした世界がそこに広がる。

「僕は論理性を重んじて曲を書いています。でも、音楽ってそれだけでは通じない。直接脳に行っちゃう良さが歴然とあるわけだし、それは大事にしないといけない。そこまで行かないと作品にはならないね」

これまた今回のテーマを地でいく声として注目してよく、要するに感性と論理性の拮抗こそが作曲家・久石譲の本質であり、この二面性を正面から引き受けなければいけないという意識において、実のところ従来と変わらぬ野心と探究心の表れでもあろう。

アジアへの展望を通して、久石譲は新たな出発ちのときを迎えた。

取材・文=賀来タクト

 

Searching for ASIAN X.T.C.

アジアでの仕事をしているうちに、アジアをテーマにしたアルバムを作りたいと漠然と思った。でも、漠然としたイメージしかなくて、アジアの貧困や自然とか政治的要素とかそういうものを題材にするより、ポジティブな視線から、アジアの内に秘めた魅了するものを表現したいと思った。…そして、行き着いたのが「人」だった。アジア人の美しさ、魅力、かっこよさを、アジアのもっている、時間を超越した官能性みたいなものをテーマにして表そうと「Asian X.T.C.」というタイトルをつけた。でも、アジアのことを知ろうとすればするほど、わからなくなる。それは自分もアジア人であり、日本にいるから。外からアジアをみて、客観的になろうと。そして、ヨーロッパへ旅立った。ロンドンで、バラネスク・カルテットとレコーディングをしていくなかで、僕が作った音で彼らが東洋をどう感じるかということを大事にした。二胡、古箏などの伝統楽器は、リズムの出し方、音域などが限られていて、西洋楽器のようには融通がきかない。でも、アジアの楽器を軽くスパイスでというふうな使い方をしたくなかった。西洋と東洋の融合を目指した。僕の原点であるミニマルミュージックも今回は演奏するが、アジアとミニマルの組み合わせを一番効果的に表現できる、弦楽四重奏、コントラバス、二胡、古箏、サックス、マリンバ、パーカッションという編成にした。今回のツアーでは、西洋と東洋の情熱的なぶつかり合いをみなさんいも生で感じてもらえるのではないかと思う。僕自身も未知なる世界を開拓し、挑戦することに非常にワクワクしている。

久石譲

in BEIJIN アジアを探しに… 3.24~3.27
in LONDON レコーディング&TD 7.28~7.31 & 8.18~8.23

(「Piano Stories 2006 Joe Hisaishi Asian X.T.C.」コンサート・パンフレット より)

 

久石譲 『 Asian X.T.C.』